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memento moriとcarpe diem、からのvanitas、そしてtempus fugit

お久しぶりな投稿です。


今夏はあれこれ怒涛の毎日でした。このクッソ暑い最中に毎日よくがんばった、私。


まあまだ無茶苦茶暑いというか湿度高くてうんざりしていますが、朝晩は少し秋めいてきていますし、


虫の音がお盆過ぎたあたりから聞こえるようになったのが(ホント生命ってスゴく不思議)、今はずいぶん大きく聞こえるようになりましたし、


空も高くなってきたし、雲も秋のそれになってきているしで、


確実に近づいてきている秋を感じる今日この頃です。缶チューハイの梨味が美味しいし。って言うか梨が美味しい。


そんな最近はタイトルのように、「死」に囚われているかのようです。


ずっと前に、ローマ市中であちこちにある飲み水スポットに、なぜか骸骨のレリーフが飾られていたのを不思議に思ったら、


友人イタリア人が、「これは"memento mori"でもあり、"carpe diem"でもあるのです。」と教えてくれました。


死を思え、いつかは皆死ぬ、それは明日かもしれない……だから、今を楽しめと、古代ローマの人々はそれを忘れぬように水飲み場にも飾ったのだ、と。


そして今、私もすっかり"memento mori"。

ほぼ19世紀に活躍したアルノルト・ベックリンの「死の島」。20世紀に大人氣に。

死、がテーマになった作品はもちろんいろいろありますが、私がひたすら観たのは事件とか戦争とかの作品ではなく、


個人的な、哀しみに包まれたもの。

熊谷守一「陽の死んだ日」。熊谷守一と言えば映画「モリのいる場所」でその名を知った人も多いのでは。陽は彼の次男。4歳で亡くなりました。

この荒々しいタッチ、哀しみを絵筆にぶつけているかのようです。子煩悩だったそうですから、


その哀しみたるや、いかばかりだったことでしょう……切なさ、やりきれなさなどなど、哀しみと共に観ているこちらの心も苦しくなってきます。

フランシスコ・プラディーリャ「狂女ファナ」。ファナは15〜16世紀に生きた人で、結婚相手と結婚当時はラブラブでしたが、程なくして夫は彼女に見向きもしなくなり、浮氣しまくり。彼女のメンタルは徐々におかしくなり、彼が早逝したことでメンタル崩壊。数年間夫の棺と共に国内を旅したのです。その後彼女は何と40年以上も幽閉されて亡くなりました。哀しい……

狂女ファナという異名を持つ、女王ファナ。彼女を題材にした作品もたくさんあります。


それだけ、彼女の生涯を想えばその苦しみを描かずにはいられなくなった画家が多いのでしょう。


夫となったフィリップ端麗公(肖像画観る限り、大変申し訳ないが「え、当時のイケメンとは?」と思っちゃった……)はいささか知性に欠けていたというか、リーダーの素質はなかったみたいだし、その上浮氣者。


熱心なカトリック信者で真面目だった彼女にとって、それはそれは苦しい日々だったに違いありません。でも夫が好き……ああ切ない。苦しい。


メンタル崩壊して彼の死が受け入れられずに埋葬拒否からの旅。彼女はその数年間、何を想い、彼の亡骸と旅をしたのでしょう。


家臣は間違いなく大変だったと思いますが。

ギュスターヴ・モロー「オルフェウスの首を持つトラキアの娘」。オルフェウスは吟遊詩人。イザナギ、イザナミの伝説同様、愛した妻が死に、彼女を生き返らせたくて黄泉の国まで行くものの、振り返っちゃって妻は連れ戻され……その後彼は女性からの愛を拒み続けた結果、ディオニソス神を信奉する女性たちに八つ裂きにされてしまいました。その彼の首と竪琴を拾って悼む少女の絵です。

物哀しくも、どことなく穏やかで、哀れみを感じさせます。もしかしたら、彼女もまた、オルフェウスを好ましく想っていたのかもしれません。


彼の人生は哀しみに包まれていたのだろう……と思う一方で、今度こそエウリュディケ(妻)とやっと一緒になったんだなとも思えて、哀しくも切なくもなります。

アンドレア・マンテーニャ「死せるキリスト」。哀しみも感じるんですが、このアングルに感動したりも。

傷が痛々しいキリスト。けれど彼は光の方を向いて横たわっています。


そこに救済を感じるのは私だけでしょうか。彼の傍では哀しむ聖母マリア(めっちゃ描き込まれてます)と、マグダラのマリア、聖ヨハネがいますが、


聖ヨハネの扱いちょっと雑じゃね?と感じるのは私だけでしょうか。

ハンス・ホルバイン「大使たち」。手前、何か、「何これ」って感じのものが描かれているでしょう?作品を傾けて観ると……

"memento mori"をパッと見わからなくしているこちらの作品、左は領主さま(29歳)、右は司教さま(25歳)。


置かれている物から、彼らが知性と教養に富んだ若者ということがわかりますが、


手前のアレ……死はどんな身分だろうが、何歳であろうが関係なく、いつやってきてもおかしくないことを、この絵画は伝えてくれます。


だからこその"carpe diem"なんでしょう。ホルバインさん、「死の舞踏」をテーマにした版画も多数残しています。

いかにも身分高そうな人のところへやって来る骸骨。死はどんな身分だろうが平等に訪れます。
えーやだー!やめてくれーーー!という叫びが聞こえてきそうですが、あははははー、さあ行こうねー!と容赦ない笑いも聞こえてきそうです。

「死の舞踏」は、ペストや百年戦争などで死者大量発生で、その結果集団ヒステリー的に民衆が踊り狂う事態になったというのが、その作品誕生のきっかけだそう。


死の恐怖がヨーロッパ全土を覆い尽くし、誰でも彼でもいつ死ぬかわからないという死生観が人々を狂わせてしまったのでしょう。虚しさ、やりきれなさ、やり場のない怒り……当時のヨーロッパの、


夢も希望もありゃしない的状況、生きていたらそりゃあ誰でも心穏やかではいられなかったことでしょう。

バーント・ノトケ「死の舞踏」。どんなに高い身分だろうが、骸骨に捕まっております。
エゴン・シーレ「死と乙女」。シューベルトの歌曲にも同題のものがありますが、絵画にもこのテーマの作品は多いですね。

若くして死んでしまう運命の乙女に、死神が「あなたを苦しめるためではなく、安らぎを与えるためにやって来た」と告げる……


このうら若き女性と死神という組み合わせ、どことなくエロティシズムも感じさせます。何て言いますか、あやうさを感じると言いますか……


このテーマでは美醜や年齢は死を前にしたら関係ない、ということも伝えています。

グスタフ・クリムト「死と生」。ほぼ全員が目を閉じている、顔を伏せている中、1人だけパッチリ目を開けているのが氣になります。

明るい色調で描かれる人々。その一方で、暗い色合いで十字架だらけの死。

こちらは1910年に描かれたオリジナル。でも1915年に新たに描かれた先の方が、生がイキイキしているように感じます。

棍棒持って忍び寄るものの、生のパワーにイマイチ踏み込みにくそうな死。生に近寄れそうにありません。


ほぼ全員、すやすや寝ている感じで、死への恐怖は感じられません。安らぎの中にいて、死がつけ入る隙がない様子。生の何と美しく、パワフルなことよ。

ポール・セザンヌ「頭蓋骨のある静物画」。
エドワールト・コリール「ヴァニタス」。右側よーく見ると……

ヴァニタスは「人生の虚しさ」の寓意画。朽ちていくもの、たとえば果物や花などと共に骸骨が描かれたり、


豊かさや名誉とかステイタスを示すようなものと共に骸骨が描かれることで、


この世の虚しさ、人生の空虚さを描くと同時に、"memento mori"を伝えてきます。


人生は儚い……絵画を通して「そんなことして何になる?」と作者から諭されているようです。

日時計。今を大切にしろ、人生は有限と言われているようです。

キリスト教が広まってからは、「人生は儚い、いつ死んじゃうかわからない。だから天国で安らかにあることを思いましょう、そうなるように生きましょう」的な感じになったようですが、


本来は、どうやらこの世の虚しさを強調するよりも、「人生はいつ終わるかわからない、それに身分なんかは関係ない。だからこそ今このときを楽しもう」と、


生きていることを大切にしよう、時間を無駄にしないようにしよう、人生を楽しもう(これは享楽的な意味合いではないと思われます)と伝えています。


死について考え、この世で為すこと全てに何の意味があるのだろうと苦しくなっていたのですが、


たくさんの作品を観れば観るほど、それでいいわけないじゃん!がんばれ!生ききってみせろ!と逆に応援されているような感じがしてくるから不思議です。


古代の人から現代まで、多くの人が「人はいつどうなってもおかしくないのだから、だからこそ生きている時間を大切に」と全力で背中を押してくれている……


美術って本当に、ありがたいものです。そこに作者の苦難や哀しみ、絶望を乗り越えて、


祈りや応援、励ましが込められていて、私も少しずつではありますが、前へ進むパワーが湧いてきました。


時間は有限です。いつ終わるかは誰もわかりません。


死は平等に訪れます。不死な人はいません。いつ来るかは人によりけりだけれど。だからこそ、一瞬一瞬大切にしないと。


"tempus fugit"、光陰矢の如しです。


さあがんばろう。


まだ氣持ちはブレブレだし、ひどく虚しくなるときもあるし、


絶望感いっぱいに逆戻りするときもあるけれど、きっと前へ前へと動いていけるはず。


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