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出口クリスタ(CAN)VS シジケ(FRA)戦 パリオリンピック伝説の試合

#パリ五輪 #柔道女子 #57キロ級 #出口クリスタ #伝説 #試合
#嘉納治五郎 #精力善用 #自他共栄

パリ五輪、柔道女子57㎏級は、サッカーW杯ふうに表現するなら「死の組」でした。

トーナメント表のそこらじゅうに、五輪や世界選手権・グランドスラム・世界ジュニアの覇者・入賞者。顔なじみのつわもの達が、試合というより苛烈な削り合いを存分に披露。

とくに、準決勝の出口クリスタ(CAN)VS シジケ(FRA)戦。
パリ・オリンピック伝説の試合として、永く語り継がれる歴史的な名勝負になったと思います。

出口は日本生まれの日本育ち、松商学園出身で世界選手権優勝2回の世界ランク1位(2016まで全日本強化選手)。シジケは準々決勝で国内無敵の船久保遥香(富士学苑出身)をわずか9秒で一蹴した東京2020銀メダリスト。

激しい組み手争いから次々と繰り出される、密度が高くスキのない攻撃防御。あとほんのちょっと重心が動くだけで瞬時に相手が裏返る破壊力の高い技と返し技の応酬は、観ている者を唸らせました。

拮抗ゆえ技の派手さがなく均衡を保つだけの試合に見えながら、玄人受けする攻防に感動。道着の下で悲鳴を上げながら瞬発と持久に耐える彼女たちの体躯・筋肉がいったいどんなものなのか…
この試合の激しさは、検索して出てくる出口クリスタ選手の筋肉を見たらもっと身近に感じ取れるかもしれません。

3位入賞の船久保遥香選手も栄誉賞モノの大活躍。
1回戦世界ランク12位(イタリア)、2回戦東京五輪3位(ウクライナ)、準々決勝東京五輪2位シジケ(フランス)、敗者復活戦2020欧州ジュニア王者ペリシッチ(セルビア)、3位決定戦はリオ1位のシルバ(ブラジル)…
これでもかと次々に現れるつわもの達を相手にタフな試合を繰り返し、なんでこんな レッドオーシャン に臨むの?と思っていたら「この階級で戦うのが孤高と矜持」という本人の意気込みが実況で紹介され、なるほどと共感しました。

それにしても、フランスの観衆は目利きが多く観戦クオリティーの高さは見上げたもの。柔道の人気と競技人口がその証です。

柔道競技人口 世界ランキング
1位 ブラジル 200万人
2位 フランス  56万人
3位 ドイツ   15万人

ブラジルは桁違いとして、フランスは人口が日本の半分なのに柔道競技人口が5倍。欧州旧ソ連勢の強豪ひしめく大陸のJUDO王国として世界を率いてきました。

彼らは日本よりも柔道の本質をよく知っていて、嘉納治五郎師範遺訓が示す「精力善用」「自他共栄」も日常の中に取り入れています。
その遺訓に「試合で勝つ」という文言は一切なく「世を補益するが究竟(きゅうきょう) の目的」と謳っています。

52㎏2回戦で敗れ泣き崩れ進行を止めた阿部詩選手。スタンドの観衆を「ウタ、ウタ」と励ましのコールに駆り立てたのは、シニア国際大会やジュニア・カデ世界選手権やグランドスラムほか、フランス近隣の国際大会で活躍する詩選手を、2017年の国際大会デビューからずっと見守ってきた確かな慧眼。

柔道発祥の地である日本の観衆がそこまで選手をしっかり観ているかといえば、そうではないらしい。
腰砕けのメディアが選手の倫理観に悪影響を与え、スポーツを批判すべきじゃないと声高に叫び、大衆の軽薄なスタンスや忖度を増長させているという議論に発展。

そして競技人口の問題。
これまでの日本柔道界は、五輪代表の1人に対して以下のヒエラルキーで成り立ってきました。

代表が1人いると、
その双璧と呼ばれるもう1人の俊傑がいて(A強化)
その双璧にあと一歩及ばない8人がいて(B強化)
その8人にあと一歩及ばない16人がいて(C強化)…
さらにその16人に及ばない32人を合わせた58人が「代表の取り巻き」としてひしめき合ってきたのだけれど…。

昨今の人材不足は柔道界でも否めず、これまでの構図が崩れてきました。男子66㎏級(丸山城四郎選手)以外すべての階級で、代表の双璧となる選手がいないんです。

2連覇を果たし「妹の分も頑張った」とインタビューに答えた兄・一二三選手もはっきりと競技人口の懸念に触れていました。

12万人の競技人口でニッポン柔道はよく頑張っています。
ダンス人口は野球やサッカーを超えて600万人になったというのに、
柔道の底辺が広がらないのはなぜだろうか…

日本が一番元気だった昭和末期まで、柔道競技の現役選手を続けていました。女子48㎏級を制した角田夏実選手の「キツいことばかりだから、もう戻りたくない」という言葉通り、試合を迎えるまでの期間も試合当日も、たしかに身体精神はキツい。

だけれど、試合場に立ち相手と対峙するときの感動は忘れられない。

名前をコールされ、身魂にまとわりつく大きな不安と恐れを振り切って試合場中央に歩を進め、もはや頼れるのは自分しかいない舞台の深淵に身を投じる、かけがえのない感激と緊張感を…。



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