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会員制クラブの着ぐるみステージ

ここはお金持ちのための会員制クラブだ。
特殊な嗜好を持っている人が集まるところで、はじめてきたときは映画みたいなところが本当にあるんだと驚いたものだ。

もちろん僕はお金持ちではない。
ここで働いている。

 クラブは奥の方に吹き抜けの空間があり、真ん中に円形で一階低いフロアがある。
上の階が上等なカーペットが敷き詰められ豪華な装飾が施された空間に対して、下の階は無機質な石造りの空間で対角線上に一対の鉄格子の扉がある。

クラブに調子の良いMCが響き、続いて拍手がなるり、鉄格子の扉が開いた。
片方からドラゴン、もう片方からワーウルフが現れた。

もちろんどちらも実在の生き物ではない。
出来のいい着ぐるみだ。
ドラゴンのほうが僕、闘技場でモンスター同士の殺し合いの見世物をするのが仕事だ。

ワーウルフが突進してきたのをドラゴンが腕の一振りで弾き飛ばす。
転がったワーウルフをドラゴンが踏みつける。

一進一退の攻防が続くが、ドラゴンの大ぶりの攻撃の隙をついて、ワーウルフがドラゴンの肩の上に飛び乗った。
ドラゴンは暴れてワーウルフを振り落とそうとするが、ワーウルフはドラゴンの首にしがみついた。

ワーウルフは大きな爪のついた腕を、ドラゴンの頸に突き立てた。
何回も何回も頸に爪を突き立てられながら、ドラゴンは苦しみ暴れまわった。
暴れまわるドラゴンに振り落とされないようしがみつきながら、ワーウルフは力任せにドラゴンの頸を引きちぎった。

頭部を失ったドラゴンは、ふらふらと数歩歩いてうつ伏せに倒れた。
ワーウルフは、ドラゴンが倒れるときに肩からひょいと飛び下りた。

ワーウルフはドラゴンの首を観客に向けて掲げると、その首を投げ捨て手足をバタバタさせもがいているドラゴンにまたがった。
ワーウルフは首の断面をつかみ、ドラゴンの首持ち上げては床に叩きつけ、また持ち上げてはたたきつけるのを繰り返した。
ドラゴンは叩きつけられるたびに、意志のある抵抗というよりは神経の反射のような動きでヒクヒク奇妙で無様な姿をさらした。

場内、拍手と歓声で割れんばかりだ。
もっとやれなんで野次も聞こえた。

ワーウルフはまだ息があるのかもわからないドラゴンを足でひっくり返すと、壁にかけてあった槍をとった。
ワーウルフは、その槍をドラゴンの肛門に刺した。
ワーウルフはなおも力を入れて、どんどん槍を深く押し込んでいった。

やがて、ドラゴンの首の断面がむにっと盛り上がると、槍の先端があらわれた。
ドラゴンは肛門から喉にかけて串刺しにされてしまった。
これはドラゴンの着ぐるみが大きくて、ギリギリ槍が通せる種もくそもない見世物だったが、場内は大いに盛り上がった。

ワーウルフは槍ごとドラゴンの身体を持ち上げ、地面に突き立てると、鉄格子の扉に戻っていった。
串刺しになってもなおヒクヒク痙攣してるドラゴンの死骸は、ズルズルと槍をすべってずり落ちた。

場内はものすごい歓声だ。
ドラゴンの死体は清掃係が出てきて片付けた。

ドラゴンの着ぐるみを脱いで楽屋で休んでいると、客がドラゴンで遊びたいらしく、また出れるかスタッフが聞きに来た。

今度は上の階のちょっとしたスペースに連れてこられた。
ドラゴンの着ぐるみは頸はつながって戻してあるが、肘と膝のところで四肢を切断してある。

MCが趣向の説明をする。
プレイヤー役のお客さん二人が交互にドラゴンにナイフを突き刺す、黒ひげ危機一髪のようなことをするらしい。
ドラゴンに致命傷を与えてしまった方の負けということだ。
もちろんすべてごっこ遊びなので、致命傷をどのタイミングで負うかはドラゴンに任された。

まず一回目、ドラゴンの腹の右側にナイフが突き刺された。
ドラゴンはふぐっとうめくが致命傷ではなさそうだ。
二回目、三回目とナイフが刺さっていくが、いずれも致命傷ではない。
十回もすると、ドラゴンは十本のナイフが身体に突き立てられてるかなり哀れな姿になってきた。

十一回目、背中の真ん中を刺された。
ドラゴンはその途端、激しく身体を痙攣させて暴れ出した。
MCが致命傷を与えてしまったのでゲームの勝敗が決したと解説した。
ドラゴンがのたうち回ってる前で、勝者と敗者を祝福した。

MCは、悶え苦しんでるドラゴンに再び注目を集めると、敗者の人は責任をもってドラゴンを楽にしてくださいと斧を渡した。

MCはドラゴンを起こして座らせると、お客さんは斧でドラゴンの頸をはね飛ばした。
頸にあらかじめ仕込んであったチューブとポンプで首から血しぶきが吹き出すと、会場は大いに盛り上がった。

ドラゴンは後ろ向きにゆっくり倒れ、なんどか身体をのけぞらせると絶命した。
プレイヤーのお客さんたちは、血のりで汚れるのを気にせず、ドラゴンの死体にギュッと抱きついた。
小声ですごい興奮したと礼をいいながら、勃起した股間を押し付けてきた。

ウェイターたちが、ドラゴンの死体を掃除する係だ。
ドラゴンの身体は死体袋に入れられ、店の奥に運ばれ、そこでようやく着ぐるみから出られた。

この仕事、イレギュラーなことが起こりまくるが、それが楽しいとも言える。
お客さんたちは、性的指向はネジ曲がっているが、みんな一定の線は超えてこないので、慣れると安心して仕事ができる。

また明日もここで仕事だ。
明日はどんな役をやらされるか楽しみだ。


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