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プラハ(チェコ)~クラカフ(ポーランド)<旅日記 第31回 Oct.1995>


もうすぐ長い冬が来る。早いところポーランドへ。


 中欧の都、プラハ。

 落ち葉が増え、秋の深まりを感じる。もうすぐに長い冬がやってくるだろう。中欧の都市に“雪の女王”がやってこないうちに東欧圏を抜け出ておいたほうがよさそうだ。

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 よし、早いところ、ポーランドに行くことにしよう。

プラハのポーランド領事館 

 ポーランドの領事館は、プラハの駅から歩いて行ける場所にあった。ポーランドのビザの発給申請のため窓口に行く。

 「一週間かかる。それとも、エキスプレス(特急)にする?」。

 特急なら、明日の朝、発給してくれるという。ただし、支払いは、米ドルで60を要求されてしまった。ヨーロッパに居るのに米ドルはいらないだろうから、用意はしていない。両替して目減りするうえ、60ドルもかかるなんて。60ドルもあれば安ホテルなら10日も泊まれる。暴利だ。国家が暴利で外貨を稼ぐなんて許し難い。

 チェコに入るときも、ウイーンのチェコ領事館でやられたが、今度は ポーランド領事館が米ドル指定でくるとは。想定外だった。

 まあ、しょうがない。米ドルを持って出直すか。

 ビザを押してもらったパスポート。これを持って、プラハ中央駅から夜行の国際列車に乗る。上の階は到着専用、下の階は出発専用のフロア。案内板にモスクワ行きやパリ行き、フランクフルト行きなどと行き先が表示されるあたりは、ハブの国際空港並みだ。

古都クラカフ

 ポーランドでは首都ワルシャワより先に、チェコに近い南部にあるポーランドの古都クラカフに行くことにした。

 『シンドラーのリスト』という映画をご存じだろう。冒頭のシーンに登場するのがクラカフの駅だ。

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クラカフはポーランドの中でもっとも美しい中世の町並みが残る都市であると同時に、ナチス・ドイツが造った強制収容所「アウシュビッツ」に最も近い都市でもある。

ヨーロッパに来て以来、オランダのアムステルダムではアンネ・フランクの隠れ家を訪れたし、プラハではユダヤ人街を歩いたりした。「アウシュビッツ」へは行っておかなければなるまい。

クラカフという都市を知るよりも先に、アウシュビッツへのゲートウエイ・シティとして、そこを選んだ。

凍てついた風景の中に真っ赤な太陽の夜明け

 夜、プラハを出れば、早朝、クラカフに着く。夜明け前、目が覚めた。車窓から日の出を楽しもうと、デッキに向かった。黒い森が見える。凍てついた風景だ。おしゃれな男が一人いた。パリに住むフランス人だ。ワルシャワにいるポーランド人女性に会いに行くのだという。

「ポーランド人女性はきれいだよ」。

そんな話をしていた。「フランスに来るのだったら、電話をくれ」と、メモをくれた。

真っ黒い森と森のあいだの凍てついた土に覆われた大地に真っ赤な太陽が姿を見せた。

パリ男にはあまり興味のそそられない風景だったらしいが、わたしには最高の風景だった。

思えば、遠くに来たものだ。
                                                            (1995年10月26日〜28日)

「てらこや新聞」114号 2014年 10月 13日

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