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「おでん」をあきらめて見つけた「えでん」のレシピ

うちのおでんは、しょぼい。

おいしいのだけれど、なんかしょぼい。

だから、何も言わずお客さんにふるまうと、おでんだと気づかれない。「今夜はおでんだよ」と家族を呼ぶ声も、どこか自信なさげだ。

おでんと聞いて、どんなイメージが浮かぶだろう。素材サイト写真ACで「おでん」と検索すると、こんな写真がヒットした。

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そうそう、これがいわゆるおでんです。

でも、うちのおでんはいつもこんな感じ。

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具の種類が少ない上に、1つ1つの具の数も少ない。

できるだけ写真ACに近づけるようにがんばるのだけれど。いつも何かが足りない。

理由は簡単で、うちが2人暮らしだから。

2人暮らしだと、約10種類も具の入ったおでんをつくっても、けっきょく食べきれないまま、大根が煮崩れ、卵の黄身がこぼれてしまう。

このおでん問題を、おでんをもっとも食べる気分になれない夏のはじまりに考えてみる。図書館でおでんのルーツを調べてみると、今から1200年前、竹串に刺した豆腐からはじまったらしい。

何種類もの具を煮込むスタイルが定着したのは、明治時代に入ってから。おでんがこれほど広がった理由は、なんといっても「具の種類」にあると思う。

たくさんの種類の中から、選べることの楽しさ。みんなで、大きな鍋をつつけるうれしさ。土門拳さんが1955年に撮影した「おでん屋 江東」からは、「早く大人になって、一番に具を選べるようになりたい」とか「弟に好きな具を先に選ばせてあげよう」とか、いろんな声が聞こえてくる。

おでんは、人口が増えていく時代のシンボルだったんじゃないか、と思う。

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でも、日本の胃袋は縮小している。

家庭でつくるおでんは、もう少し小さくてもいいんじゃないかな、と思う。

小さい家族の救世主は、早くも1984年に登場している。コンビニおでんだ。味つけもわるくないし、いつだってちょうど良いしみ加減。具の種類にいたっては、ファミリーマートで24種類、ローソンで32種類、セブンイレブンで36種類ぐらい。

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ほんとうによくできていたけれど、コロナ禍は、コンビニおでんの姿を変えた。

人口減少時代のおでん

人口増加時代のおでんが「たくさんの種類を選べる」消費的な豊かさに価値があるとしたら。人口減少時代のおでんは「1つのものをていねいにつくる」生産的な豊かさに価値がある気がする。

つまり具の種類は、少なめでもいい。でも、出汁はこだわりたい。できたら、自分でとりたい。ほどほどの期待値で、ほどほどの手間で、ちゃんとおいしくて、ちゃんと満足できる。そんな人口減少時代のおでん。

名前も変えたほうがいいんだろうな。「今夜は○○○だよ」と胸を張って言えるように。

あたらしい名前を考えていた時、漁師さんから魚をいただいた。

三重県尾鷲市の早田町でとれた、ワラサの切り身だった。

さかなは成長する。おでんも成長する

ワラサとは、わかいブリのこと。出世魚と呼ばれるブリは、一生のうちに4〜6回も名前を変えるらしい。

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いただいたワラサについて、インターネットで調べてみる。すると、その評価は、決して高いものばかりではなかった。

「ブリに似た味わいを堪能できます」「また日本各地で多量に漁獲されるので、ブリよりも手頃な価格で手に入るのも魅力です」

つまり、未完成のブリという位置付けなのだけれど、この時いただいたワラサはめちゃくちゃにおいしかった。今まで食べたどのブリよりも、おいしかった。

おまけに、1日ごとに味が熟成されていく。あまりにおいしかったので、朝は刺身を塩で、昼は漬けを、夜はタタキ、翌朝は塩焼き・・・ 2キロほどのワラサを、二日にわけて一人で食べきるほど。

このワラサとの出会いが、大きなヒントになる。出世魚という考え方をおでんにあてはめたらどうなるのだろう。

「ブリがおでんだとしたら、ワラサは…えでん?」

人口減少時代のおでんが、誕生した瞬間だった。

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とくに「あでん」にいたっては、どう見てもおでんじゃない。具は卵、スジ、平天の3種類で、煮込みは2時間ほど。あっさりとした「あでん」がするする胃にしみこんでいった。

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実は、おでんの具の種類を増やすことはそんなにむずかしくない。

スーパーマーケットに並ぶ「おでんセット」を買えばよいのだから。でも、セットの具は、こんにゃくが小さかったり、練りものから出るうまみが物足りなかったりする。

家族のおいしい顔が見たいから、単品のタネを選んでいる。そんな自分を認めてやりたい。

そして今日は、いつもよりも自信ありげに、声をかける。

「えでん、煮えたよ」

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