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連続事例検討会:第7回「ゴミ屋敷」

はじめに

介護のオンラインコミュニティSPACE内で行われる「おとぎ塾」は、気軽にアクセスできる“沼”である。
お悩み相談がたまたま流れていたから聞いてみよう!→興味深いじゃん!自分も混ざりたい!→どっぷりハマる!!
……そんな、武士道不覚悟な状態からも道を極めていける“ポテンシャル”を秘めている。はずだ。

参考図書はこちら

さて、今回の事例は“ゴミ屋敷”である。
屋敷という単語に着目したい。
“お屋敷”のイメージは、しっかりとした造りの一軒家である。と思う。
しかし、“ゴミ屋敷”“猫屋敷”とすれば、途端に特殊物件だ。
この“屋敷”というタームの二面性。共通項は、【視野に収まる規格外】ということだろうか?
……夜と独りは、余計な事を考えるのに格別なスパイスである。

事例の詳細

閑話休題、事例の詳細はこうだ。
公営団地で一人暮らしの男性、Gさん。
上り框での寝食が常態化。周囲に異臭が漂う。
片づけを頼んでも、「何も困ってない」と取りつく島もない。
積年の思いのある近隣住民から「なんとかしてくれ」「どこかに入れてほしい」との訴えが噴出。
妻を亡くした7年前からこうした状態が続いている。元は“ヨロズうけたまわり”の小さな電気屋さんだった。
……敢えて文章化するならば、Gさんが爺さんであるという事実が、こうした書籍で実現されていることに喝采を捧げたい。

こんなメンバーが参加した

今回の初参加メンバーとしては、重度障害者訪問介護の職員さんと、小規模多機能型居宅介護とNPOのサポートを兼務している方が来てくれた。
お二人とも、お身内にこうしたトラブルを抱えたことがある、若しくは現在進行中であるとのこと。
そう、“ゴミ屋敷事例”は、刺さる人には深く刺さる【沼ハマ案件】といえるのである。

参加者一覧
社会福祉士(地域包括支援センター)/重度障害者訪問介護士/障害者施設介護士/介護士(小規模多機能型居宅介護、訪問介護、特別養護老人ホーム、通所介護事業所)/特別養護老人ホーム施設長/介護人材関連会社起業/看護師/認知症専門の医師 等

メンバー×ゴミ屋敷

そして、参加者からの実体験が出るわ出るわ。
印象に残ったものを列挙していく。
・書類がたくさんあって捨てられない身内は、ある日火事を出したが、車中泊だったため助かった。
・ゴミにつまずいて骨折し入院した親族は、猫を飼っていた。猫が餌のある場所までたどり着けない様子をボランティアの人が発見し、支援につながることができたという、猫がボランティアとのつながりを作ったというエピソード。
・親族が昨年遠方で孤独死し、片付けを手伝った。他人に同じ思いをさせたくないと考えている。何十年も前にもらった幼少期の手紙や、昭和の給与袋などが残っていた。
・元々住んでいたところがゴミ屋敷だったが、健康上の理由で施設入所となった人がいた。その人は1日で退所し、自分で住まいを確保。ケアマネの力を借りて新居にオープンラックをつけ、すべての持ち物を見える化したら、ものすごく改善した。
・戸建て住まいで独居、80代の女性。歩行不安定。かつて弟さんと二人暮らしだったが、先立たれた。他に頼れる人はいない。「弟のものは何一つ片付けられない踏ん切りがつかないので、いつか片付けられる覚悟ができるまで、待ってほしい」と言われたことがある。
外で出会うと、身なりはシュッとして小綺麗なのに、訪問して玄関開けたら2秒で「うわぁあああ!」ってなる人がちょくちょくいらっしゃる。
・マンションに暮らしていた“元女優”の方がいた。衣類に溢れかえり、お宅をカニ歩きで移動。物盗られ妄想があり、しばらくして「ヘルパーもう来なくていい」と断られた。
・有料老人ホームや養護老人ホームに入所後も、ゴミ屋敷化することがある。

蓋し、名言である

さらに、各人から名言の数々が飛び出すこと!
>「片付けられない要因にはいくつかある。
 発達障害・認知症・物が多すぎる・パートナーの死別・鬱でゴミを捨てる気力がない・思い出との結びつきが強すぎる・どう捨てたらいいか分からずスタックしてしまう、など」
>「思いが断ち切れず、物で自分を囲っているのではないだろうか?」
>「〈あなたが言うなら片付けるわ〉となるような専門職との関係づくりが必要」
>「〈部屋をきれいにしようと思ったら、人を招きなさい〉と言われているように、インフォーマルな繋がりづくりが重要ではないか?」
>「ゴミを見る前に、その人自身を見ることが、ゴミ屋敷のゴミを目の前にして見られるか?
>「ゴミ屋敷は、困難ケースの中でもボス戦ではない。なぜならば、大多数は長期で関われることと、意思疎通がしっかりできるから。時間をかけて寄り添う大切さを知った」
>「物を捨てるのは過去の整理、新しい生き方探し
>「室内の荒れ方は、孤立の表れ」

岩間先生の解説

著者・岩間先生が、事例の根底に流れる考え方を我々に与えてくれる時間。
いつも話が熱くなりすぎて、終わりの23時を超えてからになる。それでも、聞き入るチームメンバーたち。
解説をざっくりまとめると以下のとおりである。

・ゴミ屋敷はシンボリックな困難事例だが、ゴミ屋敷事例を十把一絡げにしないことが大切。
・物を捨てられないのは、過去の清算ができていないことの証左である。
・ゴミが堆積していくと、一人ではどうにもならなくなり、そして思考停止となる(閉ざされた要塞の形成)。
・支援者の働きかけとしては、ゴミが持つ意味を深掘りしていく。ゴミを片づけることそのものが、援助のゴールとはならない。
 ①引っかかりに対応することは、人生における変化を支える援助である。
 ②身近な「気がかり」から始め、本人の意識化を助ける。
 ③その気になるタイミングを積極的に待つために、小さな変化も見逃さない。
・これまでもこれからも、自分は価値があると心から思えることを支える。

個人の尊厳と世間との折り合いの狭間で

ゴミ屋敷は、しがらみがなくても生きていける現代社会が原因なのかもしれない。
村八分を受けても生きていけるが、その代償としてそこかしこで顕在化したものと言えるのではないだろうか?

奇しくも初参加のメンバーからこんな意見が出た。
ゴミ屋敷、という言葉自体も、その人の境遇を正確に表していないのかもしれない」
私たちは“ゴミ屋敷”という用語の中にさえ、潜在的な隔離の意識を持っているのではないか?
まずは、そこに気づくことから始めなくてはならない。
社会の問題を自分事として捉えるきっかけとなるように。

今後の予定

介護のオンラインコミュニティ「SPACE」について

「SPACE」は、“介護”に関心を持った仲間が集うオンラインコミュニティです。組織や地域を越え、前を向く活力が得られる仲間とのつながりや、 自分の視点をアップデートできる新たな情報や学びの機会を通じて、 一人ひとりの一歩を応援できるコミュニティを目指しています。入会できるタイミングは、毎月1日と15日の2回です。詳しくは以下をご覧ください。

書いた人
もっちぁん
現場で働きつづける介護福祉士。特別養護老人ホーム勤務(グループリーダー)、他に介護支援専門員と社会福祉士を名乗れる。

※おとぎ塾では、『支援困難事例と向き合う』(中央法規)に掲載された18事例を元に、オンラインコミュニティ“かいスペ”の有志メンバーが意見を出し合う検討会を開催。本記事はその様子をレポートしています。

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