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第6話 都市伝説『世界車』(BJ・お題「車」)

https://youtu.be/TSeqQaRlIQE


これはこの数年、東京で数名のUberEeatsの配達の人から報告があった、配達先で見たというものの話です。
報告者ごとにその場所は異なるのですが、その配達先が、古い、使われていないはずのマンションの暗い一室であり、注文内容があるお寿司屋さんのお寿司であることが共通しています。チャイムのボタンを押しても鳴る気配がないので、配達した人は最初、悪いいたずらか、霊のせいか?などと心配するそうですが、インターネットでUberに登録されているわけですから、あまりその手のことはありえないと思われます。実際行ってみると、普通に老いた男性が出てきて、お寿司を受け取るそうです。
それでも充分に奇妙な話ではありますから、廃墟と思われていたマンションから注文が来る、という噂が一部の配達人の間では広まっていました。

そのうち、ある好奇心旺盛な方が、そんな配達先に行く機会に恵まれました。行く前から、「おそらくあの噂の配達だろう」と見当がついたそうです。
マンションにたどり着き、部屋の扉をノックをすると返答があり、中から大柄の老人が出てきました。着物を着た男性であったそうです。
UberEeatsでは普通ならお金の受け取りもありませんから、食事を渡して一瞬でやりとりは終わります。ですが彼は自分の判断で、「ぜひこれをどうぞ」とクーポン券を老人に渡しました。老人はことのほか喜び、「いいのかな?」「ええ、ぜひ。かなりお得なことになっていますので」などと少し話し込むことができました。
その時中を見ると、玄関と部屋の仕切りもなく、暗い空間が広がっていたそうです。
そこでは、ランタンを灯して人が作業をしていました。
玄関に現れた人を入れ、合計五人。みな大柄な老人でした。卓に向かい、ある者は算盤をはじいてひたすら紙に数字を書き、ある者は輪のようなものが描かれた図を針のようなものでいじり、ある者は天井を見上げ、ある者はひたすら水晶を見つめていました。また、卓の上にはたくさんのカードが並べられていました。
皆大変に忙しそうでした。

ところが、出迎えた老人が、「寿司が届いたぞ」と中の者たちに向かって言うと、「おおー届いたか」と喜んだそうです。
「しかも割引券までいただいた」「それはありがたいな」という感じで、配達員はとても感謝されました。

そのとき配達員は「いえ、いつもお世話になっていますから」と答えたそうです。
すると老人たちは急に静まり、出迎えた老人が「私たちは、利用したことなんかないけれど」と明らかにとぼけたそうです。
「いや、初めての方だと、新規限定で1000円引きになるものですから、それがないということは、いつもご贔屓いただいているのかと勝手に思いまして。どうも失礼しました」と配達員はごまかしましたが、なにやら様子が変でした。
「新規じゃないと、知れてしまうのか」
「まさかそんなところからねえ」
「誰だい、クレジットで支払うから問題ないと言ったのは」
「じゃあ世界車は今すぐ回すことにして、この青年を巻き込むというのもありかな」
そこで
「いやいや、滅多なことを。クーポンまでいただいたというのに」
と言ったのは出迎えた老人でした。彼は卓に向かい、慌てて一枚のカードを取り上げました」
「うむ。確かに悪いな。次は逆位置だし。それに、もう一度寿司を喰いたい」
「56年ぶりだしのう」

彼は「あの、そろそろ行きますね。どうも失礼しました」と言って部屋を出ることにしました。その時、「やはり、世界車は回してしまおう」と聞こえたそうです
その怪しげな言葉の意味を考えながら彼はそのマンションを後にしました。
翌日も同じマンションから寿司の注文があったらしいのですが、彼は遠くで自転車を走らせており、あのマンションに配達するのはべつの配達人になりました。後で彼はその配達人に、老人たちと何か話をしたかと聞きました。すると
「みんな外国語を話していたからまったく分からない。英語じゃなかった。たぶんフランス語だと思う」と言うのです。

その後、この手の注文は途絶えたそうです。

だからこの話をもう新たに聞くことはないのかと思っていましたが、ひょんな機会に、また聞くことができました。

この話を、老人たちが配達を頼んだお寿司屋さんでしたときのことでした。店に顔を出していた、もう80歳になる先代の大将が、慌てて
「そのマンションはどこですか」
と言ったのです。
「おいお前、急いで特上を五人前作れ」と大将である息子さんにも言いました。
それから先代自らが寿司桶を持って、そのマンションに向かったのです。

ですが残念ながら、そのマンションにはもう誰もいなかったということでした。帰ってきた先代のオヤジさんに、なにがあったのかを聞きましたが残念がるばかりで、それ以上は何も教えてくれませんでした。

その後大将から聞いたのですが、先代はぼそりと「世界車は、回っちまったな」と言い、まもなく他界されたそうです。

世界車って、なんのことなんでしょうね。

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