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Nさんの思い

突然、学生時代の後輩のことを思い出した。

いつも自信がなさそうにしていた彼を、5つ以上も歳が上のNさんは傍に置いていた。
傍に置いていた、というか、傍に居たいだけ居させていたのだと思う。
後輩はNさんの家で寝泊まりすることも少なくなかったようだった。
とにかく、その二人がセットになった光景は、いつの間にか日常になっていた。

Nさんは私にとって部活の先輩で、留年していたといっても年齢にしては随分大人びた雰囲気の人だった。
背の高い男性で、グループの中で中心的な存在だったということもあり、周りの学生(みんな後輩)から一目置かれていた。
周りの人は、後輩がNさんに可愛がられているのを知り、「何故?こいつが?」というような反応をした。

なぜ今、思い出したのかわからないが、当時から私は、自信無げな後輩を傍に置いているNさんの思いを感覚的にわかっていた。

Nさんは一度だけ、子どもの頃、いじめられていたことを私を含めた数人に話したことがあった。
それを聞いていたから、自信なさげな後輩を無下に扱わないことが理解できた。

でも、どうしてそうしたのだろう?とは考えなかった。
Nさんにとっては単なる気まぐれだったのかもしれないが、今になって私はそういうことが気になってきた。
二人でどういう会話をしているのかを注意深く聞いたこともないし、時間がたった今となっては同じ光景を見ることもないだろう。

Nさんは後輩をどうもしなかったのではないだろうか。
勇気づけようとか、強い人間にしようとか、そういう風には見えなかった。
だから、背の高いNさんの隣に、小さな後輩がチョコンと立っているのを見ると、いつもどこか不均衡な感じがして少し可笑しさを感じていた。
いつ見ても同じ光景を、同じように受け入れた。
私は、それを思い出して懐かしくもあり、彼らによく話を聞いてみたくなっている。

ただ傍にいる、ということは、優しさでもあり、だけど本当のところはどういうことだったんだろうか。

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