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ぼくの「しんこきゅう展 in la galerie」 3


クラウドファンディングページの制作が終わったあとも、彼女のお手伝いは続くはずだった。

次は、個展に向けての準備を…、

けれどぼくは、お手伝いから手を離した。

自分の時間が欲しいことを言い訳に。



辛かった。

これ以上、心をざわつかせたくなかった。

彼女と連絡を取ることも、次第に億劫になっていった。

このまま彼女のサポートを降りようか…。

そんなことを考えてしまうほど、彼女との距離間に悩んでいた。




前年の渋谷個展が終わった後。

『しんこきゅう展 in zakura』に感極まったぼくは、彼女に「次の個展も全力で支える」と約束していた。

にも関わらず、ぼくはその約束を、破ろうとしていた。

月日は、大阪個展に向かって進んでいく。





ぼくは彼女を、無意識のうちに遠ざけていた。

彼女がどんなふうに個展の準備を進めているのかも、個展に向けてどう動いているのかも、

連絡は度々来ていたのに、一切頭に入っていなかった。



個展まであと1ヶ月と迫った9月。

氣がつけば、彼女の周りにはたくさんの応援者さんがいた。

渋谷個展のときより遥かに多い数の、ものすごい熱量で応援してくれる人たち…。

本当に知らぬ間に、彼女はぼくの見知らぬたくさんの人に囲まれていた。



彼女はたくさん動いていたのだ。

この数ヶ月、幾つもの人の集まる場に、足を運んでいたのだ。

赴いた場所、出逢った人、

彼女からの連絡を遡ると、確かに連絡は来ていたのに、ぼくはそんなこと、知る由もなかった。



たくさんの人に応援される彼女を見て思った。






もう、ぼくは必要ない。






熱烈に応援してくれる人が、今はたくさんいる。

指示をしなくても動いてくれるような人たちがたくさん。



よかったじゃないか。

これでぼくも、心置きなく離れられる。

きっと、ぼくより上手に彼女をサポートできる人はいる。

彼女の想いを記事にまとめて、諸々の画像データも作って、写真も撮って、

あれだけの応援者さんがいればきっと、ぼくの代わりは誰かしらに務まるだろう。



なんてことを、本氣で思っていた。

ぼくは本当に、彼女のサポートを降りようとしていた。
































渋谷個展、4日目。

ぼくはわけもわからず号泣した。

お客さんが抜けて、いっとき静かになったタイミング。

ずっと堪えていたものが溢れてきた。



渋谷個展は、スタッフとして全日お手伝いをしていた。

意図したわけではなかったが、成り行きで、7日間ある個展を、7日間お手伝いすることに。

あのときは、点描画家hiromiの「しんこきゅう展」を、誰よりも近くで感じていたと思う。



個展1日目から、ぼくの心はなにかをひたすらに感じていた。

その“なにか”は、自分でもよくわからなかったが、

今まで感じたことの無い、正体不明の感情を、ひたすらに感じていた。



壁に飾られた作品を見て、配置された装飾や小物を見て、空間の静けさに耳を澄ませて、

お客さんのあたたかさに触れて、彼女のあたたかさに触れて、あたたかい言葉が飛び交う空間を感じて、

ぼくの心に、なにかが溜まっていった。






溜まっていったなにかが、4日目に溢れてしまった。






なぜ涙が出るのか、自分でもわからなかった。

堪えられなかった。堪えたくもなかった。




ぼくはひたすらに、心の内に溜まった“なにか”を、止めどなく流し続けた。



























10月のアタマ、

大阪個展に向けてカメラを買った。

Canonの EOS RPという機種。



大阪個展の期間中、ぼくは彼女にカメラマンを努めるようお願いされていた。

渋谷個展のとき同様、個展の様子を収めた写真集を作りたいのだと。



出逢った頃から、彼女はぼくの撮る写真を氣に入ってくれている。

写真の勉強をしたことも、努力をしたこともない、iPhoneで撮るぼくの写真を、なぜか氣に入ってくれていた。

前年の渋谷個展でも、ぼくが好き勝手に撮った写真を使って、写真集を作ってくれた。



大阪個展では、iPhoneではなく、ちゃんとしたカメラで撮ってほしいとのことだったのだが、

ぼくはずっと、カメラを買うのを拒んでいた。




ここでカメラを買ってしまったら、ぼくは正式に、彼女のカメラマンになってしまう氣がしていた。

この先もずっと、彼女の活動から離れられない氣がしていた。



その打ち合わせは、増上寺近くのBARで。

ぼくは、撮影は前回の個展同様、iPhoneで十分だと主張する。

ちゃんとしたカメラの方が、画質がいいことは分かりきっているはずなのに…。

最近のiPhoneは画質も上がっているし、などと、それっぽい言い回しで、カメラの購入を回避しようとしていた。



そんな、フワついたぼくの主張を、彼女は真っ直ぐに断ってくる。





「大阪個展の写真集は、画質のいい写真で作りたい」

「紙に印刷しても綺麗な写りになるように」


何度やんわり断っても、「でも、」、「でも、」と真っ直ぐに。


おそらく彼女も、ぼくの熱量が以前と違うことに氣づいていた。

氣づいていながらも、彼女はぼくから目を逸らしてくれない。


「約束してくれたから」


何かの折に、彼女はそう溢した。

渋谷個展のあとにぼくがした約束を、彼女は忘れていなかった。






敵わない。

彼女はいつだって真っ直ぐだ。

いつだって真っ直ぐな目で、ぼくのことを見つめてくる。

ぼくはそんなに、綺麗な人間じゃないのに。






ぼくは渋々、カメラを買った。







まだ、心の迷いが消えないまま、

ぼくは購入したカメラを片手に、大阪個展へ向かうための、迎えの車に乗り込んだ。








(続きはこちらです▼)




読んでくださってありがとうございます。

当記事は、ぼくが兼ねてより活動をサポートさせていただいている点描画家hiromiの、個展の感想記事の第三部になります。

一部はこちら。


大阪個展に至るまでのぼくの内側を書きました。

大阪個展が終わったあと、ひろみさんのファンの方に、「かいちさんのポジションはもう誰もできない」と言われましたが、当時の心境としてはこんな感じでした。

自分のことを綴るのはとてもとても恥ずかしいですが、ここで逃げてはいけないと思い、結構勇氣を出して書いています。

次回はようやく、大阪個展当時に感じたを綴っていきます。

楽しみにしていただけたら幸いです。


点描画家hiromi

0.3ミリのハイテックのペンで、そのときの感情をイメージした点描画を制作。幼い頃から、感情をイメージして絵を描いてきた。複雑な家庭環境の元で育ち、幾多の苦しみを経験。絵を描くことで苦しみから逃れたり、時には癒されたりもしてきた。

2021年に、自身初となる個展「しんこきゅう展 in zakura」を渋谷で開催。

2022年には大阪で、二度目の個展「しんこきゅう展 in la galerie」を開催。過去を曝け出した内容のクラウドファンディングが話題となり、朝日新聞に記事が掲載。個展では200人以上の方が来場し、大盛況に終わる。

「しんこきゅう展」に来てくださった方が笑顔になってくれたらという想いで、点描画家として活動中。

4/28〜4/30に静岡個展「しんこきゅう展 in Wazo」の開催が決定。

【しんこきゅう展 in Wazo】
会期:4/28〜4/30
時間:11時〜17時
会場:space Wazo
住所:静岡県富士宮市野中855-1
   (JR富士宮駅より徒歩18分)


「しんこきゅう展 in la galerie」のダイジェスト動画▼


「しんこきゅう展 in la galerie」の写真集▼


点描画家hiromiについて▼

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