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ぼくの「しんこきゅう展 in la galerie」 1


正直、今回の大阪個展には関わりたくない思いでいた。

点描画家hiromiの過去を扱うのはあまりにも苦しい。

逃げ出したかった。

全部放り出してしまいたかった。

それでも、彼女の過去と最後まで向き合ってよかったと心から思えるのは、

彼女が創り出す空間が、ぼくが求めていたものだったと氣がついたからに他ならない。




点描画家hiromiのお手伝いは、彼女が点描画家hiromiと名乗る前からさせてもらっている。

渋谷個展が開催された年、2021年の4月。

彼女の「作品集を作りたい」という一言から、それは始まった。

まだ「しんこきゅう展」という個展を考えてもいないころ、彼女はぼくに声をかけてくれた。

これまで描いてきた絵をまとめて、一つの作品集にしたい。

けれど、作り方がわからない。

彼女がそういうものだから、

兼ねてより漫画制作に取り組んでいて、原稿のデータ化を経験しているぼくは、軽い氣持ちで了承した。

このお手伝いがまさか、彼女の、今ほど大規模な画家活動に繋がるなるなんて、このときは微塵も感じていなかった。

彼女はぼくによく話をしてしてくれる。

おそらく、他人には言えないであろう悩みも、「かいちさんだから」と、当時からよく話してくれていた。

これまでも何度か、人から相談ごとを受けることはあった。「話しやすい」とよく言われる。

だから、彼女もそうなのだと、このときはまだ軽い氣持ちで、彼女の心が少しでも楽になるならと、彼女の話を聴いていた。

大阪個展の開催費用を集めるためのクラウドファンディング本文には、点描画家hiromiが経験した、幼い頃の苦しい家庭環境の話が綴られている。

ぼくはこの話を事前に聴いていた。

最初の「しんこきゅう展」、渋谷個展が終わったあたりから、部分的にではあるが、彼女はぼくに口を開いてくれていた。

そのときも、彼女が苦しそうに話していたことは感じていた。

決して多くは語らず、言葉に詰まることも、涙ぐむこともあった。

思い出すだけでも辛いのだろう。

彼女のそんな様子を、何度も目にしてはいたのだが、ぼくは阿呆な人間だ。

この話のことで、ぼくは彼女をさらに苦しめてしまうことになる。






渋谷個展のときから、クラウドファンディングページの編集はぼくの役割だ。

彼女曰く、ぼくは文章を書くのが上手らしい。

ぼくの撮る写真も、彼女は点描画家hiromiを名乗る前から氣に入ってくれている。

加えて過去にクラウドファンディング達成の実績もあったので(現在は非公開)、

本文作成、写真撮影、トップページや各リターンに使用するサムネイルの作成等々、

クラウドファンディングも全面的にぼくがサポートする形となった。

点描画家hiromi は人を頼るのが上手である。


彼女は文章で伝えるのが上手ではない。

しかし、対面で話す力は人一倍強い。

なので、点描画家hiromiのクラウドファンディングページを作るときは、ぼくが彼女から話を聴き、彼女の言葉を極力崩さず文にまとめている。

大阪個展のクラウドファンディングページも、そうやって一緒に作っていた。


そのときは電話での打ち合わせ。

当初の予定では、大阪個展のクラウドファンディングの内容は、あっさりとさせる予定だった。

現ページに記載されているような、彼女の幼少期の家庭環境は触れず、

“生まれ育った大阪で、思い入れのあるla galerieで、母に個展を見てもらいたい”と、

それだけを伝えて資金調達をしようとしていた。

彼女の過去の断片はこれまで聴いてきたが、

やはり、過去を全て晒すのは、彼女にはできなかったらしい。

それはそうだ。

ぼくに少し口を開くだけでも苦しいのに、不特定多数の方に公表するのはさぞ勇氣が要ることだろう。

だから、渋谷個展のクラウドファンディングよりもむしろ小規模に、こじんまりとやるつもりと、彼女は話していた。

でもぼくは、そのことについて納得がいかなかった。

当たり障りない内容で資金調達をするのであれば、クラウドファンディングをする意味がない。

やりたいことのために“想い”を伝えるのがクラウドファンディングだ。

想いが人に届き、お金が動く、それがクラウドファンディングだと思っていた。

だから、「なぜそれをやりたいのか」をきちんと伝えなければ、うまく資金は集まらないと、ぼくは確信していた。

ぼくは彼女にその旨を伝え、大阪個展にまつわる彼女の過去の全貌を聞き出そうとした。


どんな言葉で彼女に伝えたか、今となっては覚えていないが、

全てを曝け出すことを怖がっている彼女に対して、

「ぼくがまとめるから、全部を聴かせてほしい」

とでも言っただろうか。

なんとしても語って欲しかったから、

「過去の話が本になったら読んでみたい」

というような言葉も口にしたと思う。

気づけば、電話越しの声は詰まっていた。


鼻を啜る音が聞こえたあと、ガラガラの涙声で、彼女はぼくにこういった。

「どうしてそんなに簡単に言えるの?」


やってしまった。

心が痛む。

泣き止まない彼女の声を聴きながら、ぼくは自分を責めた。

思い出すだけでも辛い記憶。

口にするのはさぞ辛い。

そんなことはわかっていたのに、

ぼくが無神経で、愚かだった。

彼女の繊細な心についた傷跡に、無神経に触れてしまったことをひどく後悔した。

彼女がそれほどまでに苦しむくらいなら、予定通りあっさりとした内容でページを作ってしまおう。

そう思ったのだが、

後日、彼女の意見が改まった。

お互い言いたいことをぶつけ合ったからか、ぼくが色々考えたように、彼女も色々考えてくれたのだろう。


「やっぱり、大阪個展を語るには、過去を全て話さなきゃいけないと思う」


そう、ぼくに伝えてくれた。

どうやら覚悟を決めてくれたようだ。

斯くして、点描画家hiromiの幼少期の家庭環境の全貌を、ぼくは聴くことになるのだが、

このことが、今度はぼくをひどく苦しめることになった。









(続きはこちらです▼)




読んでくださってありがとうございます。

兼ねてより活動をサポートさせていただいている点描画家hiromiの個展の感想を、ぼくが感じた「しんこきゅう展 in la galerie」を綴っていきます。

点描画家hiromiから直直にお願いされたので、書くことにしました。

いちばん近くで見ていたぼくに書いてほしいとのことです。

感じたことをまま書くのはとっても恥ずかしいのですが、純粋無垢な彼女にお願いされては仕方がありません。

ぼくの「しんこきゅう展 in la galerie」を語るには、ここから始めなければならないもので、

あまりにも長くなるので連載形式で投稿していくことにしました。

続きも楽しみにしてくださったら幸いです。




点描画家hiromi

0.3ミリのハイテックのペンで、そのときの感情をイメージした点描画を制作。幼い頃から、感情をイメージして絵を描いてきた。複雑な家庭環境の元で育ち、幾多の苦しみを経験。絵を描くことで苦しみから逃れたり、時には癒されたりもしてきた。

2021年に、自身初となる個展「しんこきゅう展 in zakura」を渋谷で開催。

2022年には大阪で、二度目の個展「しんこきゅう展 in la galerie」を開催。過去を曝け出した内容のクラウドファンディングが話題となり、朝日新聞に記事が掲載。個展では200人以上の方が来場し、大盛況に終わる。

「しんこきゅう展」に来てくださった方が笑顔になってくれたらという想いで、点描画家として活動中。

4/28〜4/30に静岡個展「しんこきゅう展 in Wazo」の開催が決定。現在、静岡個展の開催費用を募集中(3/31まで)。




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