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#2023年の本ベスト約10冊

今年に読んだなかで読んでよかった、出会えてよかったと思うベスト10冊を、日本各地の小さな素敵な本屋さんのリンクとともに記し書き。個人書店のオンラインリンクが見つからなかった本はamazonリンクをつけています。

リバーワールド / 川合大祐
ことばとことばが川合の手でめぐり合うその瞬間のビッグバンを刮目せよ。
ことばが宇宙をひらく、出来たてほやほやの世界が既存の日常へ鮮やかに転回し、とめどなく横溢する。


海の仙人・雉始雊 / 絲山秋子
宝くじに当たり、ひとり海辺の街の空き家に越してしずかに暮らす河野の前に、突然役立たずの神様ファンタジーが現れる。ファンタジーはある人には決してみえず、ある人にはふとみえる。人にはみえない自分の人生があり、心を交わす喜びがあり、ただひとり流れてゆく時間もある。人間がそれぞれ生きるということを希望も悲観も振りかけず実直に表すことにおいて、絲山秋子の物語の右に出るものはない。


恋するザムザ / 村上春樹
「目を覚ましたとき、自分がベッドの上でグレゴール・ザムザに変身していることを彼は発見した。」
カフカ『変身』をオマージュした掌篇。単行がないため知る人が少ないものの、普遍的なラブストーリーとして逸品。フランス漫画(バンドデシネ)で村上作品を読める「HARUKI MURAKAMI 9 STORIES」の1つとして出会った。シリーズ丸ごとおすすめ。映画『ドライブ・マイ・カー』作中のやつめうなぎの話「シェエラザード」も読めます。ザムザを小説で読みたい方は村上春樹が訳した海外恋愛小説作品集『恋しくて』(中公文庫)を。


感情の哲学 / 西村清和

客観的な合理性を追求する分析哲学が個人的で現象学的な感情経験を扱うときに生じる問題とその解決を明らかにすることで、感情の原理論の構築をめざす論文。感情は、わたしたち個々人がまちがいなく感じているにもかかわらず、いざそれを説明しようとすると論理や客観的思考の手をすり抜けていってしまうような不思議さがある。その実体を追いかけるための哲学本。


オサム / 谷川俊太郎
夏に東京で開催された谷川俊太郎の絵本の仕事を総集する展覧会「谷川俊太郎 絵本★百貨展」にてあべ弘士さんの原画をみて、オサムの生きた表情と情景の濃密さに心奪われた。なんて心地よさそうな森なんだろう。きっと森もオサムがいてくれて気分がいいのだろうなあ。私も大きくなったらオサムになりたい。


ふつうの相談 / 東畑開人

タイトルや装丁がのんびりとしているけれど、中身は臨床心理の専門家による本格的な対人支援論。対人支援の仕事をするプロ、ケアにまつわる学問研究者に宛てた専門論文だが、それだけでなく、日々の生活でケアしたりケアされたりして暮らす我々にも宛てられたものでもある。ふつうの相談は、わたしたちの雑談にあふれている。知識がなくてもたのしく分かりやすく読み進められる文章と骨太な内容とを両立させられる東畑さんの言語表現の豊かさにあっぱれ。


わたしを束ねないで / 新川和江

20世紀半ばの詩人。茨木のり子、石垣りん、吉原幸子など同時代の女性詩人作家がいる中でも、みずみずしい比喩で愛や精神の自由を問う詩歌が代表的。表題の「わたしを束ねないで」より始まるこの作品集は「結婚」「赤ちゃんに寄す」「せり なずな……」など新川個人の一生に直結したテーマが多分でありながらも、人間にとって普遍的な感情が新鮮な感覚で読まれている。まるで私が経験したことであると錯覚させられるほど精彩。


生まれてきたあなたは縦単線の先にいる / Joyce Lam ジョイス・ラム

映像作品やレクチャーパフォーマンスの制作を通して家族の定義を捉え直す台湾出身の研究者ジョイス・ラムによるエクササイズブック。頁をめくり書かれた文章を追うことにより生まれる自分の感覚から、自分にとっての家族像が浮かび上がる。

まんが パレスチナ問題 / 山井俊雄
『続・まんがパレスチナ問題』までの2巻シリーズ。昨今の深刻な情勢をニュースで窺い知りながらも今なぜそんな事態になっているのか分かっておらず人のすすめで手に取った。まんがイラストによってイメージ記憶を助けられながら不勉強な私でも重要な歴史の流れを理解できた。最後まで読むとなぜ「まんが」解説なのか、そこに込められた意味を知り、より知見を深められる。

語りかける身体 / 西村ユミ
一般的に植物状態と呼ばれ、通常他者とのコミュニケーションが不可能であると考えられている遷延性意識障害の患者さんと看護師さんとのコミュニケーションの可能性について、現象学的な方法論をもちいながら看護師へのインタビューや参加観察をもとに考察した研究論文。
わたしたちが人の心の正体を掴むその瞬間には「身体的共存」の地平が必要なのではないかと改めて気付かされた。言葉や表情だけでなく、ただ共にいることがひらく世界がある。