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『東京卍リベンジャーズ』における、ヤンキー精神と半グレ精神

※2021年9月17日に配信したメールマガジンに掲載したテキストです

東京卍リベンジャーズ』には、ヤンキー的な存在と半グレ的な存在が登場する。その違いは、どちらも暴力衝動が根底にあるというのは大前提として、そこから分岐する時、活動の実態というよりも行動理念から考えることもできるように思う。

ヤンキーはメンツや絆を大事にする、生き様としてツッパる。ナメられるのが何より嫌いだ。

半グレは、生きる手段、仕事として犯罪や非道行為に手を染める。彼らもメンツにもこだわるがそれは思想ではなく、仕事柄ナメられたらおまんま食い上げだからだ。

そもそもヤンキー漫画には不釣り合いな「タイムリープ」という突飛なギミックを『東京卍リベンジャーズ』が持ち込んだ必然性は、物語において半グレの存在が主流になった現代において「ヤンキー」の復興を掲げたからだ。

漫画の中では、その点が象徴的に描かれている。

共に日本最大のコリアタウンを擁する大阪・生野区で生まれ育ったラッパーのJin DoggREAL-Tへの取材で、思いがけない話が出てきた。

2020年、生命身体加害略取・逮捕監禁・傷害で逮捕されたREAL-T。彼は、近年存在感を強めるいわゆる「半グレラップ」の潮流と見なされる一人で、事実、事件の際は「半グレの自称ラッパーら逮捕」と報道された。

彼自身は「半グレ」と呼ばれることを明確に否定した上で、世間では「半グレ」と呼ばれるような不良という生き方をなぜ選んでしまったのか。ストレートな疑問をぶつけた時、彼はこう口にした。

「それがカッコいいと思ってたから。昔はワルもんと戦うことがカッコいいと思ってた」

『街風』吹き荒れる生野区 Jin DoggとREAL-T、10年前の邂逅

自分には意外だった。直接会って取材をするまで、私自身、生きる手段として彼は「半グレ」を選んだとばかり思い込んでいた。

Jin Doggが言葉を継ぐ形で「それしか(生きる術が)なかったからっていうのもある」と言い、REAL-Tもそれに賛同を示したが、真っ先に彼から出てきた言葉が理念についてだったことは強く印象に残っている。

REAL-Tは取材を通して、何度も「仲間」「絆」という言葉を口にした。それはマインドとしての「不良」にとって何より大事なものだ。

例えば舐達麻は、かつて犯罪行為に手を染めていた理由を聞くと「金のためだ」と即答した。「金のための犯罪しかしてない」と言い切った。

生き様としての行為、生きる手段としての行為。そのコントラストが浮き彫りになっている。(これは決して舐達麻が半グレ的だということではなく、現実はもっと複雑で一義的に定義することはできない)

東京卍リベンジャーズ』では、こうした精神性がせめぎ合う物語が展開されている。

在りし日の不良を体現する象徴として、大切な人を傷つけられたパーちんが仇討ちとして相手を刺すという凶行に及び、彼は逮捕されて物語からしばしフェードアウトした。

そこでは、半グレは合理主義的な行動理念を持っていて、自分たちの得にならないような無謀なことはしないという側面もあるように描かれている。ヤンキーはむしろ、後先考えずにツッパって無茶することがある。

東京卍リベンジャーズ』で、千冬という人物が「これはガキの喧嘩なんだ」と、殺し合いじゃなくて見栄の張り合いなんだと叫ぶシーンがある。この作品がそれに成功しているかどうかは置いておいて、「“ヤンキーの時代”を取り戻したい」というテーマは見え隠れしている。

生きるための犯罪、生き様のための犯罪。

これらはすべて、物語にどう描かれているかという表象の話であって、繰り返しになるけど、現実はもちろんそんな単純に解釈することはできない。罪が起こる背景はとても複雑で、学問として向き合ってる人がいるくらいだ。時代背景や現代における貧困の問題も大きい。

実際、REAL-Tが起こした事件の詳細や背景も非常に複雑で、彼はそれについては堅く口を閉ざした。どうあれ事件は起こり、被害者も現実に存在する。ただ、語られなかったそれらについて、ことあるごとに思い出してしまう自分もいる。


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