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『事実を集めて「噓」を書く 心を揺さぶるスポーツライティングの教室』

 もう21年も前のことですが、知り合いからスポーツライター講座の講師を頼まれたことがありました。記者歴6年目。今よりもっと未熟で、人に教えるなどとんでもない。丁重にお断りしましたが、即座に「あの人なら間違いない」という人物として、浮かんだ代役が、藤島大さんでした。

 その時は藤島さんを口説き切れなかったのですが、その4年後には結局、別のところからの同じような依頼を引き受けていたようです。新刊『事実を集めて「噓」を書く 心を揺さぶるスポーツライティングの教室』(エクスナレッジ)の「はじめに」を読んで知りました。大昔にそんな経緯があったので、三谷悠さんというライターが、藤島さんからの聞き書きで、この1冊を形にしたことには、すぐに合点がいきました。

 私が欠かさず読んでいたのは東京新聞夕刊に藤島さんが連載していた「スポーツが呼んでいる」。ラグビー、サッカー、ボクシング、たまに大相撲…。その種目は多様ですが、この名文家の手にかかると、つい読み入ってしまう。「こんな風に書けたら」とは、よく思ったものですが(今でも思っている)、真似をすれば必ず陳腐になってしまうのです。

 この本は、藤島さんが初めてその手の内を明かしたもの。若い記者にも、是非読んで欲しいと思います。私もできることなら20年以上前の自分に読ませたい。

 インターネットの時代になり、記者も名文の書き手よりも、速報に対応できる能力の持ち主のほうが重宝されるようになって来ました。今後もその傾向は強まっていくでしょう。

 しかし、だからこそ、今の時代にスポーツを書き、読者の心を揺さぶるという喜びをもう一度かみしめるべきなのではないでしょうか。

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