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カイガラムシよこんにちは

自分とすらわかりあえない

元旦、お腹に禁煙をたすけてくれるニコチンパッチを貼った。
冬にベランダでタバコを吸うと寒いので、禁煙をしようと思ったからだ。

1時間もせずにガマンできなくなって剥がしてしまった。
身体を震わせながら吸ったタバコは別においしくもないのに。
どうやら私はタバコをやめたくなかったらしい。

恋愛ドラマは男女がお互いの気持を汲み取れずにすれ違い、最終的には理解し合うところが醍醐味だが、そもそも自分の気持を正しく理解することすらなかなかできない。

101回目の自分探し

タバコを吸って自室に戻る。

部屋にあるモノはすべて私が選んだ。伊勢丹で買った洋服、難しそうな本、一眼レフカメラ、盆栽……。
蟻が巣に餌や巣の材料をせっせと運び込むように、街やインターネットで出会ったモノをマンションの一室にせっせと運び、貯め込んでいる。

どれも気に入っているが、どれも自分らしくないことに気づいた。
いつぞや話の流れで「部屋のなかで一番自分らしいモノってなんですか?」と訊かれたときのことだ。

考えてみれば伊勢丹で買った洋服が似合うようなシャレた人間でもないし、難しい本は読もうと思えば読めるが、内容はよくわからない(「表層批評宣言」は10ページで挫折した)。カメラだってホコリを被っているし、盆栽だって似合うほどダンディでは"まだ"ない。

自分らしさバグ

ではいったい自分らしさは何なのだろうか? という逡巡を、思春期に嫌というほど繰り返した結果私がたどり着いたのは、「ストレスなく選んでいるモノや行動」である。

例をだすと、映画を観に行く動機。
「さて、今日はやることがないから映画でも行くか」はストレスなく選んでいるので、「自分らしい」といえるだろう。
一方で「センスのいい人はみんなこの映画を観に行っているみたいだから、私も観ておこう」であれば、「なりたい自分」をいわば演じているといえるだろう。

だいたいにおいて人間の自己認知は曖昧なので、素の自分はどちらなのか、恋愛ドラマの男女のように、バグりやすい。
少なくとも私はバグる。

このバグは大変こまったもので、仕事選びも部屋選びも一挙手一投足の行動にも影響するので、正しく理解しないと生活がどんどん辛くなる。
「自分はこういう映画が好きなハズなのに、観に行くことが億劫になる」といった具合に。

たまごっちと盆栽は似ている

「自分らしさ」は小学生の頃に流行ったデジモンやたまごっちが良いリトマス試験紙になっていたのではないだろうか。
どんな姿にしたいかといった要望ではなく、育て方が成長した姿に反映されるからだ。
そこで無理にマメな育て方をすると育てるのがツラくなるし遊びが楽しくなくなる(ような遠い記憶がある)。

そんな10代のときと同じ逡巡を巡らせて、懲りずにベランダに出てタバコを吸おうと身体を震わせると、盆栽の幹に変な模様があることに気づいた。

調べると、カイガラムシという害虫がついているようだ。木を弱らせる迷惑な虫に吸われた幹はただれていて、それまでのダンディな姿からちょっと痛々しくなってしまった。まるで疲れたサラリーマンのおじさんのように。

途端に私らしいなとおもった。


※害虫に食われた写真は見て気持ち良いものではないので自粛しました


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