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介護の日本語を教える前に~声掛け~


1.声掛けとその根拠

 声掛けをおこなうには必ずその根拠があります。

 食後の歯磨き、どうして声掛けを?
 なかなか自ら磨こうとする人は少ないです。食堂併設の洗面台があって、そこに口腔ケアセットを置いてあることが多いです。部屋に戻る前に磨いてくれるといいのですが・・・。そのままお部屋へ戻ろうとします。
 移動介助が必要なかたはこちらのタイミングで口腔ケアの声掛けをし、誘導します。

 口腔内のトラブル予防としてのケアも大事ですが、それ以外の根拠もあります。少しでも食物残渣(食べかす)が残っていると誤嚥を起こしてしまう可能性があるからです。息を吸った瞬間に器官に入ってしまうことも。非常に危険なので食後すぐに必ず口腔ケアをおこないます。その人の症状によっては洗口液を薄めたものをスポンジブラシにつけてケアしたり、義歯をはずして洗ったり、歯磨きおしぼりで拭いたり、歯間ブラシも使ってしっかりケアしたり、うがいのみ、とさまざまです。
 食べかすを残さない、誤嚥防止、これが口腔ケアの声掛けの根拠です。
 お手伝いするときは「お手伝いしますね」「少しお手伝いしてもよろしいでしょうか」など許可をもらうための一言をそえます。

 排泄介助において、大人ですから「オムツ」ではなく「おしも」「下着」などが使われていました。スタッフ間での指示・連携では「オムツ交換」「オムツ汚れている」など「オムツ」を使っていました。
 介助前に体調確認することは非常に大事です。ご気分だけでなく、介護士から見て様子がおかしかったり、皮膚の色に変化があったりしたらすぐに看護師やリーダーなどに報告します。介助前ならそれ以前に起こったこと、早期発見、対処で悪化を防ぎます。何も報告しないまま介助を始めると、状態が悪化するだけではなく自分自身が疑われることにもつながります。

 準備をするとき「新しいパット、(棚から)ご用意しますね」「(清拭)おかせてくださいね」など利用者様から見えない様子を口頭で説明します。
 見えないと不安になられますので極力視界に入るようにするのがいいのですが、なかなか状況によっては難しかったりします。手慣れた人や時間がない場合や行動を優先し、声掛けは最小限になることもあります。

【実際の会話】
「〇〇さん、失礼します。入りますよ~」
「体調はどうですか。」「下着交換してもよろしいでしょうか。/ 下着交換しますね。」「カーテンしめますね」「ちょっと準備しますね」

「体調確認」「介助の説明」「同意を得る」など実際にお持ちのテキストで確認してみてください。なければ追加導入していただきたいです。

2.介護施設での1日の流れ

 1日のほとんどの時間、指示・連携・誘導をしています。

1)1日の流れ

 上の段は利用者様におこなっていただく1日の行動です。入浴は曜日によって入る利用者が決まっていることがほとんどです。下の段は受けていただくサービスで介護士が行います。

 スタッフの人数もそんなに多くはありませんから1日中動き回っています。利用者様と話したくてもなかなかそのような時間は満足にとれないのが現状です。

 日々の介助において、どの利用者さんを介助するか担当は特に決まっていません。その日に勤務した人全員でおこないます。フロアやある程度決められている役割はあります。お茶配や配膳、面会の誘導、入浴、体操、、、。
 食席表は食事介助が必要な利用者様を1つか2つのテーブルにかためています。食事開始時は介助対象者1~数名(施設・人数によっても異なる)を職員1名で介助することが多いです。

 早番・遅番・夜勤それぞれの流れはあるていど決まっていますが、空いてる人がフォローにまわることもあります。例えば「遅番がきてすぐの時間に早番の排泄介助が終わっていなかったら残りを手伝う」などです。
 「〇〇さん、右回り、私左回りでオムツ交換していくから」「〇〇さん、315からお願い、私330から行くから」というように連携して介助を少しでも早く終わらせます。

3.指示・連携

 挨拶や指示に対する返事などどんなに忙しくても声が飛び交っているのはいい(安全な)職場だと感じました。人間関係がいいほどやりとりは積極的におこなわれていました。人間関係によっては返事がなく雰囲気が悪かったり、やってくれたのかどうかも分からなかったり、言葉数が少なかったりする職場もあるそうです。私は幸い人間関係のよい職場だったので、その微妙な雰囲気は聞いた話と想像でしかありません。

 介護現場では介護士間の連携が非常に大事です。その際の指示をしっかり聴き取り、行動しなければなりません。
 個人が勝手なことをする場ではなく、仕事の流れのナミに乗らなければなりません。その流れをスムーズにおこなうことが安全につながります。その連携の日本語は利用者様の命にかかわることなのでとても大事です。

4.誘導(+依頼・指示)

 介護士は常に時間を意識しながら動いていかねばなりません。その時間にどんなサービスを提供しているのか、それに対して必要な介助をおこないます。認知症や耳の遠い方など状態はさまざまですが、利用者様の介助や依頼の際はまず一番伝えなければならないことを1秒以内でお伝えすることが安全につながると現場で感じました。
 日本語研修では動作(動詞)をまず伝えることを意識した会話練習がよろしいかと思います。

 こんなことがありました。トイレ介助の際「立ちますよ」「立ってください」「立って」「立つ!」など相手の伝わる音を探します。伝わるように短いフレーズにしていくと、丁寧度合いは下がりますが伝わることを優先します。
 「ゆっくり頭を下げながらお立ちいただけますか」というと「は?なに?きこえない?何言ってんの?わかんない」と怒られました。次にどうすればいいか不安な気持ち、思うように体が動かないという不安、自分がトイレも一人でできないのかという自信喪失、悲観的な感情などが怒りに変わることもあります。
 「立つ!」と耳元で大きくいうとやっと伝わったようで「あぁ、立つ、ね。はいはい」といって立ってくれました。
 そのあとはお礼を言ったり労いや敬意を行動・言動で示し、利用者様は笑顔になられました。
 認知症や耳の遠い方に限らず、概ねそのように指示や依頼を伝えることが多いです。

5.その日の業務はその日のみんなで

 介護の仕事は介助だけはない。例えば認知症の方に寄り添い、問題行動に向き合い、職員で一緒に解決策を相談しあう。外国人介護士がどこまで携われるか、期待されているかは施設ごとに異なる。

 介護士としての働き方でなかなか慣れなかったのが、
  ・人の途中の仕事をそのまま許可なくやること
  ・全フロアの利用者様をその日の出勤スタッフ全員で担当するということ。担当の利用者様が決まっているわけでもその人だけを介助していればいいというわけでもない。その日の業務はシフトで決まる
  ・その日の出勤者で1日の介護サービスがまわるように手が空いたら手伝うこと

 他のクラスの日誌を書いたり、ヘルプで違うクラスに入ったりというのと同様でしょうか。日本語講師は人のやりかけのものには許可なく手を出さないし、担当クラスや業務も決まっています。介護現場を見ていると競争しているかのようにいつもバタバタしていて、一息つけるのは午後のレク時間ぐらいでしょうか。それもトイレ誘導など気は抜けませんが。



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