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はじめての選挙漫遊 ‐2023足立区議会議員選挙を漫遊して‐


はじめての選挙漫遊


 「選挙漫遊」。
 選挙期間中に候補者に会いながら、その地のおいしい料理を食べたり観光をしたりして漫遊気分で選挙ウォッチをすること。
 私が初めて候補者に会いに行ったのは統一地方選挙前半戦、地元から選出される県議会議員の候補者2人に会いに行き質問をした。
 直接会って話をしてみようと思ったのは、選挙告示日2日前に見たある映画。その名も「劇場版センキョナンデス」
時事芸人のプチ鹿島さんとラッパーのダースレイダーさんが、衆議院選挙と参議院選挙をお祭り気分で漫遊する様子をドキュメントした映画だ。
 映画を見た私は、
 「選挙早よ!!」
という選挙漫遊をしたい気持ちでいっぱいになった。自分もたくさんの候補者の人たちに会って話してみたい。
 そんな中、4月の統一地方選挙は告示日を迎え、高揚した気分で、自分の住む地域から選出される県議会議員候補者2人に会いに行った。
 2回目に候補者に会いに行ったのは、統一地方選挙後半戦。私の家から電車で3駅の近隣の市で市議会議員選挙が行われており、そこで候補者8人に会って話を聞いた。
 そして、3回目となる今回。選挙漫遊の地として訪れたのは、5月14日告示・21日投開票の足立区議会議員選挙。
 

いや遠いよッ!
 


 足立区議会議員選挙を選んだ理由は、その『近さ』にあった。
 統一地方選挙が終わった時
『今度は街頭演説の動画を撮影してYouTubeに投稿するなど発信もしてみたい。』
 そう思った私は、まず「選挙ドットコム」というサイトで選挙スケジュールを調べることにした。
 私は静岡県在住なので、そこから距離が近く、また、4月の統一地方選挙後から日にちも近い5月はじめに行われる選挙が狙い目。
 4月30日に福岡で福智町選挙と町議会議員選挙、5月14日北海道で石狩市長選挙と市議会議員選挙、岐阜県で輪之内町長選挙と町議会議員選挙……いや遠いよッ!!
 日にち的には大丈夫なのだが、距離が遠すぎる。
 岐阜はいちばん近いけど往復で1万円以上かかるし、福岡は片道だけで2万円。北海道なんて行こうもんなら片道3万円もかかる。
『やべぇ、そんなに金かけらんねぇよぉ…。宿泊費とか食費、現地で移動するための交通費とかもあるんだぞ…。』
出端をくじかれながら、選挙スケジュールのページをスクロールした時だった。
『5月21日足立区長選挙・足立区議会議員選挙』  
 これは…!
 東京都足立区。東京23区の最北端に位置する区で、人口は69万4588人。
ウィキペディア 足立区

 今回の足立区議会議員選挙は、4月の統一地方選挙から3週間後の5月14日から行われた。このずれは、区長の任期満了が6月19日で、臨時特例法の統一地方選挙対象期間から外れており、その区長選に合わせるためだった。
足立区のホームページには、さらに詳しく区長選挙と区議会議員選挙の同時開催の理由が書かれていた。
『区議会議員は5月17日が任期満了となるため、統一地方選挙と同一日程にできますが、区長の任期満了は6月19日で、この(筆者註・臨時)特例法の範囲外なのです。それでは、「対象の区議会議員だけでも選挙をすれば」と思われるかもしれませんが、区議会議員選挙と区長選挙を別々に行うとなると、8千万円程度余分に経費がかかることになり、このことも同一日程を決める大きな判断材料と聞いています。―中略―経費削減ということで、ご理解いただければと思います。』
足立区ホームページ・なぜ足立区は統一地方選挙と同時にできないのですか?
 
 話を、私が足立区議会議員選挙を選んだ理由に戻そう。
東京都なら鈍行列車で片道五千円以下で行ける。公共交通機関も充実しているし、免許を持っていない私でも現地での移動に困らない。勝った。
 
 

スッカスカやないかい!


 
 そうして謎に勝ちを確信した私は、その日から足立区議会議員選挙に焦点を絞り、そこに向けての準備を始めた。候補者を調べ、リストを作り、連絡先、後援会事務所の有無、SNSのチェックをしていく。

 選挙情報を調べる以外にも、足立区の地図を見て市役所や候補者たちの事務所の場所を確認したり、公共交通機関の利用案内を見たりする。
 演説の撮影をするためのカメラや、映像を保存するためのUSBなどの機材を買いに、いくつかの家電量販店にも足を運んだ。(アクションカメラという小型カメラを買おうと思っていたが、かなり値が張って買うのは断念。結局スマホのカメラで撮影することにして、画面がぶれないようにするための自撮り棒を楽天市場で買った。2000円ちょっとした。)

 そして、モチベーションを上げるためと、選挙漫遊の方法を頭に入れるため、畠山理仁さんの動画を見たり本を読んだりした。
 畠山理仁さん。フリーライターで選挙取材のスペシャリスト。20年以上選挙取材をし続け、開高健ノンフィクション賞を受賞した「黙殺」や、「コロナ時代の選挙漫遊記」という著書がある。
 言い忘れていたが、選挙漫遊という言葉も畠山さんが考えた言葉で、「政治に関心のない人も漫遊気分で選挙に行ってみよう」というメッセージが込められている。
 統一地方選挙後半戦の杉並区議会議員選挙では、選挙期間中の5日間で全候補者69人全員に会い動画を撮影、投票日前にその動画を自身のYouTubeチャンネルに投稿した強者である。まじやばである。

 そんな畠山さんは著書の中で『候補者スタンプ』を作成することをおすすめしていた。      
 横軸に時間、縦軸に候補者名を入れた表をつくり街頭演説の予定をつかんだら、その表に書き込んでいく。畠山さんの選挙取材をドキュメントした『「もう限界…」20年以上選挙取材を続けるライター畠山理仁 候補者34人全員取材の長ハードな18日間』 という動画でも、畠山さんが都庁の立候補受付会場の端に座り込み、エクセルに候補者の街宣予定をタイプする様子が映っていた。
 私はその映像を拡大し
「なるほど、こんな感じのレイアウトにすれば良いのか」
と確認しエクセルでスタンプ帳を作り始めた。

 ところで、私が作ったスタンプ帳には弱点がある。それは、なんといってもその大きさだ。30人くらいの立候補者ならA4用紙2枚に収まり、それを折りたたんで午前と午後で予定を一覧できる。
 しかし、60人以上となるとA4用紙6枚。
 ぱっと見て誰がいつどこにいるかわかるはずなのに、指でいちいちなぞらないとその候補者に対応しているマスがわからない。
『これをみれば、いつでもどこでも予定がまるわかりだ!』
とか思っていたけれど、このスタンプ帳の縦の長さは60㎝で新聞より長く、満員電車で開こうものなら数人から熱い視線を向けられること間違いなしなのである。
 スタンプ帳は、30人以上の候補者には向いていないのか…?それとも私のレイアウトのしかたや活用方法に改善点があるのだろうか。

 何はともあれ、候補者の後援会事務所や候補者本人に送ったメールの返信をもとに表を埋めていく。だがしかし、メールの返信があったのは10人ほど。その中で予定がわかった候補者はほんの数人。やはり選挙前で立候補者の方々は忙しいのだろう。

 選挙に立候補するには、供託金の準備や、事務所の手配、ポスター・政策ビラの作成や各種書類の準備などなどやるべきことが山積みである。初めて立候補する方や、無所属で、選挙活動を手伝う組織などの後ろ盾がない候補者たちは特に。
 本を読むなどして選挙のことを調べるようになる前は、立候補するだけでもそのような大変な準備期間があるということを知らなかった。だから、その時にメールを送って返信がこなかったら
『連絡一つ返せず、失礼だ』
と思っていたかもしれない。

 お忙しい中返信をしてくださった方にお礼メールを送り、「予定が決まり次第連絡する」というメッセージを送ってくださった立候補者の方々に関しては、メモ帳の名前の横に「w」と『waiting(待ち)』の頭文字を記しておいた。

 告示日2日前の金曜日。連絡が取れず予定が全く分からない候補者の数は50人以上。
 さらに、選挙ドットコムで足立区議会議員選挙の情報を確認すると立候補者数はさらに2人増えている。
「60人いたのにまだ増えるのか…」
 追加でメールの送信と、連絡先がわかる候補者に電話をかけまくり、予定を聞いていく。 
 そうしてわかった街頭演説の場所をエクセルに入れ込み、出来上がったスタンプ帳を眺める。
 
「…スッカスカやないかい‼」

私が関西人だったら間違いなくそう叫んでいる。候補者名が書かれた縦軸70マス×8時から20時までの時間が書かれた横軸12マス=840マス中、埋まったマス=14。 

「…スッカスカやないかい‼」

私は関西人ではないがそう叫んでいた。
 告示日二日前にして分かっている予定は14。しかも、同じ時間帯に3,4人が重なっていたり、一時間のずれがあっても、かなりの距離があって到底行くことができないなんてところもあったりする。
 だがあと二日、告示日まではあと二日あった。土曜日には候補者たちが翌日の予定を決め終え、どしどしメールや電話で連絡がもらえるかもしれない。

 土曜日、夜、埋まったマス、+3。

『やばい。かなりやばい。だって62人(土曜日時点)…下手したら68人出るとか言われてるんだよ…全然回れないじゃん…。東京に行くだけで、かかる経費は交通費、食費、宿泊費、諸々合わせて……』
 少ない費用で多くの候補者に会う。理想と現実のギャップが突きつけられる。
 正直、絶望していた。
 だって…だって、畠山さんとか杉並区議会議員選挙で初日に候補者29人と会えてたんだもん。私も、29人とはいかないまでも15から20人くらいに会えるかなーって思うじゃん!そう思うじゃん!
 と、まぁ、嘆いてみたところで候補者の予定がわかるわけでもない。仕方なしに予定がわかる候補者だけで回る順番を考えてみると、確実に会える候補者9人だけで、告示日の行動時間のほとんどが埋まってしまった。
 初めての本格的な選挙漫遊はこんなものなのかも…。募る不安と緊張。目を閉じ、眠りについたのは12時過ぎ。足立区議会議員選挙、告示日だった。


なんか私、選挙漫遊の趣旨をはき違えてる気がする



 選挙漫遊の朝は早い。5時に起床し身支度を整える。まだ食欲がない胃の中に暖かいスープを流し入れ、体を目覚めさせる。気分は最悪である。なにせ、眠っていない。気合の入れすぎと緊張で体調管理を怠ってしまった。

 選挙漫遊はその地の食や名所巡りを楽しみながら、候補者たちに会い政治に触れていく。そうやって、選挙は気軽に楽しめるものなんだということを表す言葉。何か私、選挙漫遊の趣旨をはき違えてる気がする。

 だが、そんな考えで一歩立ち止まる余裕はその時の私にはなかった。
「候補者の方に連絡を取って、返信もしてくださった方々がいる。忙しい選 挙期間中にわざわざ時間を作ってくれるという人もいる。とにかく行かなきゃ。行けば私はなんとかできる。きっとなんとか楽しめる。」
なんだか、半ば自棄になっている感も否めないが、そんな調子で自分にハッパをかけ私は家を出たのだった。

 一応補足をしておくが、選挙漫遊をするための下準備に、私が書いたようなことを全てやる必要はない。候補者のツイッターをフォローしたり、ラインを登録したりするだけでも、当日の演説日程はある程度わかる。
 自分が観光をしたい場所へ行き、もしその近くで選挙演説を行うという通知が届けば、そこへ行ってみる。そのくらいの気楽さで良いのだと思う。なんというか私は、やっぱり趣旨をはき違えて、変に力を入れすぎて空回りしている感じさえする。

 目覚めてきた頭にそんな考えを浮かべながら、乗り込んだ鈍行列車に乗り込み東京へ向けて出発した。
 

『…帰るか』


 
 数回の乗り換えをしながら、9時10分、西日暮里駅に到着。
 少し道に迷いながら200円コインロッカーを発見し、着替えなどが入ったバッグを入れる

 最初に行くのは、舎人で行われるしぶや竜一候補の出陣式。事前に候補者本人(だったと思う)が電話対応してくれ、出陣式はそこでやるから来てくれればよいということだった。

 乗り換え案内を見てみると、西日暮里駅から西日暮里(舎人ライナー)に乗り換えれば良いとのこと。
『舎人ライナー、舎人ライナー…。…ない!』
千代田線と京浜東北線の案内表示はあるのだが、舎人ライナーがどうしてもみつからない。
 グーグルマップを開いて目を凝らすのだが、西日暮里駅はここで間違いないはず。近くに別の西日暮里駅があるわけでもなさそう。
『…帰るか』
とは、さすがにならず駅員さんに道を聞いた。
「日暮里舎人ライナーに乗りたいんですけど」
そういうと、駅員の男性は慣れた様子で
「(駅前を走る都道をみて)そこに救急車が停まっていますよね、そこをまっすぐいって100メートルくらいいったら右手にみえてきます。」
と、道を教えてくれた。きっと私以外にもここで迷う人がいるのだろう。
『なるほど!』と思い、親切な駅員の方にお礼を言って走り出す。
迷っている間にも時間は過ぎ、出陣式が始まる10時まであと30分と時間がないのだ。
 救急車、まっすぐ、100メートル。
 要点を頭の中で繰り返しながら走る。
「はぁ…、はぁ…、あれ…?……え?…100メートル…もっとかな?…はぁ…、いや100メートルは走った。てかここ、え?」
右手には線路、左手にはなんだか大きな建物があり、その先に駅があるかんじはしない。
 どうしようか少し迷って、道を引き返した。
 駅沿いの大通りに出て、グーグルマップとにらめっこする。ん?よく見ると西日暮里駅を出た大通り、都道457号線を北東方向に進んだところ、マクドナルドの近くに西日暮里駅がもうひとつある。
 先ほど駅員さんは
「そこに救急車が停まっていますよね、そこをまっすぐいって100メートルくらいいったら右手にみえてきます。」
と言った。救急車は都道475号線の通りに停まっており、「そこ」はその通りを指していた。  
 私は「475号線沿いにまっすぐ行く」という案内を、救急車が停まっている場所のすぐ横を通る道(ちょうど475号線から垂直に伸びている道)をまっすぐ行くものだと勘違いしていたのだ。それに、よくよく思い出してみると、「そこ(都道)」をどっちの方向にまっすぐ行くかも言っていた気がする。
 周りを見渡す。目印になるのは、マクドナルド…。…わからない。見当たらない。
 駅員さんの次は、自転車に乗り信号待ちをしていた男性に話しかける。
「あの、すみません、ここら辺にマクドナルドってありますかね。」
そう話しかけると、男性は
「ここの通りをまっすぐ行って、そこを右に行くとあるよ」
とこれまた親切に答えてくれた。
 信号が変わり、お礼を言って走り出す。
『まっすぐ、マクドナルド…ここか…?』と角を曲がろうとすると後ろを走っていた先ほどの男性が
「もう一つ向こう」
と指をさして教えてくれた。なんて親切なのだろう。東京の人は冷たいとかいうけれど、あれは嘘だ。温かすぎる。
 ありがとうございます、と言いながら前方へ進むと、マクドナルド、そして西日暮里駅があった。

 やっとのことで駅に着き、実は先ほど最初に着いた西日暮里駅で買っておいた一日乗車券を改札口に入れる。
「この切符は対応していません」
「…」
 パスモを改札口でタッチし、電車に乗る。無人運転の電車だ!地元では見かけることのない電車に若干興奮しながら、外の景色を眺める。少し落ち着こうと空いた席に座る。が、進行方向と逆向きに座ってしまい、さらに電車の揺れもかなりあって気持ち悪くなる。
 座り変えようかな、とも思ったが、めんどくさいしなんだか疲れて動く気になれない。
流れに身を任せ、まぁ、でも気持ち悪いと言ってもそこまでではない、とマインドコントロールをすることにした。
 
 

しぶや竜一 出陣式


 
 そうして舎人駅に到着したのは10時少し前。予定では9時半に到着して近くにある市川おさと候補の事務所によってから、出陣式をみようと思っていたのに。
 そんな時間もなく、駅を出てすぐ走り出す。車内でマインドコントロールの傍ら、道の確認はしっかり行った。今度は大丈夫。
 100メートルほど行くとオレンジの服を着た人たちが出陣式の会場であるガソリンスタンドに集まっていた。ほっと一安心。受付まで歩くと、
「お席にどうぞ」
とスタッフと思われる女性に言われた。そこで
「あの私、しぶやさんの出陣式を動画撮影してYouTubeに投稿しようと考えているんですけど、撮影しても大丈夫ですかね?」
と撮影許可の確認をした。すると女性は、どうすれば良いか少し迷っている様子で、
「あ、ちょっと本人に聞いてきますね。」
と言い残し、本人に確認に行った。私は用意されている席の後ろ側に行って許可が出るのを待っていた。
 見渡すと100席ほどの椅子は大方埋まっており、後ろで立ち見している人もいた。家族連れの人たちも目につく。
 並べられた椅子の前に立ち出陣式の開始時刻を待つしぶや候補本人のほうに目をやると先ほどの女性と話している。なにやら表情が硬い。
「これは…駄目かもしれないな…」
そう思っていると、女性が戻ってきて動画撮影の許可はできないと伝えられる。
すかさず、写真は撮ってもよいか聞くと
「大丈夫です」
とのこと。さらに私は、この選挙漫遊で、何人の候補者に出会えたかを候補者の写真付きでツイートしていこうと思っていたので、
「その写真をツイートするのは大丈夫ですか?」
と聞くと、女性は一瞬止まって
「ちょっと、聞いてきますね。」
とまた、確認のため小走りをして行ってしまった。何度も往復させて申し訳ない。
 でも、写真の投稿ぐらい、一般の方が映りこまなければ全然問題ないと思っていた。

 確認の最中、出陣式は始まっており、衆議院議員の土田しん議員や参議院議員の朝日健太郎議員らが挨拶をしていた。
 後で顔と名前を確認するため写真を撮ったりメモをとったりしていると、何度かスマホの画面越しにしぶや候補と目が合う。
 怖い。写真を撮ること自体は許可されていたから問題ないはずなのだが、なんだか悪いことをしてしまっている気分になってくる。
『だ、大丈夫だよな…』
と不安になりつつ、メモ帳から顔を上げたその時だった。目の前を片山さつき議員が通った。

 片山さつき議員。自民党所属の参議院議員で、私が知っている数少ない国会議員の中の一人。

 『片山さつき議員が目の前に、いる!これはあれだ、世にいう「テレビで見たことある人だー!」ってやつだ!』

 私はこれまで有名人に会ったことはなかったが、実際会うとこんなにも胸が高鳴るものなのか!
 片山さつき議員と言えば、「10メートル歩いたら、山口県の人に出会うわよ」と言ったとされる、あの、片山さつきさんだ。嬉しい。本物だ。
 片山さんは、何人かの人に挨拶をしながら歩いて行き、前方に言って演説を始めた。低めのよく通る声で話す姿は引き込まれるものがある。
「維新と保守系無所属に(筆者註・自民党の)若い人(筆者註・の票)はとられた」
『我々大変な思いをしました、ガーシーさん(筆者註・2022年7月の参議院議員選挙で初当選し議員になるも、国会に一度も出席せず今年3月除名になり議員資格を失った。)のような人に入れても…」 
会場を笑わせながらしぶや候補の応援演説をしていく。
 片山さんの演説が終わった少し後、選挙スタッフと思われる男性が近づいてきた。ツイッターの件だ。
「ツイッターなんですが、ちょっと許可は出せなくて、すみません」
「あ、なんで駄目とか理由があるんですかね」
「まぁ、こういう時代で悪用の恐れがありますので」
「あ、でも、候補者の写真をのせて、何人目に会ったかっていうのと、名前をのせてツイートするだけなんですけど」
「私から許可は出せないということで…」
「じゃあ、次に見かけたときに写真を撮るのは大丈夫ですかね」
「それは、最終的にはその都度本人に確認してということで」
「あ、そうですか。わかりました。」
撮影許可は出ず、幸先の悪いスタートになってしまった。

赤山街道を走れ!


 
 しばらく、演説をきいて、時計を見る。10時30分。
 『あれ…やばくね?』

 この日の私の予定は
 
・10時からしぶや竜一候補の出陣式
・赤山街道沿いに横田ゆう候補の事務所と鯨井実候補の事務所があるので、   そこに寄って演説予定をゲット
・11時から花畑で山中ちえ子候補の街頭演説
 11時40分からはきたがわ秀和候補の街頭演説があるのでどちらか、または二つの演説を訪れる
・お昼ごろには西保木間の佐藤隆候補の事務所でインタビュー
・13時30分からライフ竹ノ塚店前で街頭演説
・14時から江北平成公園で西の原えみ子さんの街頭演説(これはたぶん間に合わないので、予定が早まった場合に限り行く)
・15時から西新井でわたなべ竜二さんの出陣式
・17時から西新井駅でせぬま剛さんの街頭演説
・18時35分からココカラファインハートアイランド店で石毛かずあき候補の街頭演説
 
というものになっていた。

 この日の予定は佐藤隆候補という新人無所属の候補者を軸にして立てた。
というのは、佐藤候補とはラインで連絡をしたときに、演説予定はないが14日なら時間を作って会えると連絡をいただいていたからだ。わざわざ時間をとってもらえるということから、佐藤候補に会う時間と場所を軸に予定を組むことにした。
 待ち合わせの時間は「お昼ごろ」。
 お昼ごろというと一般的には12時から13時ぐらいの間を指すと思う。
 だが、私は前回の統一地方選挙後半戦で候補者を巡った際、お昼ごろに事務所にいると言われて12時に間に合うよう走って到着したら、候補者の方は13時ごろに戻ってくると言われ事務所で一時間待機していた経験がある。その時は事務所にいたスタッフの方とお話をして、結構楽しんで過ごしたのでよかったのだが、今回は後に予定が詰まっている。 
 そして、選挙漫遊初心者ながらも、畠山理仁さんの『5日で69人』に挑もうとしていたのだ。(まあ、候補者数が64人だったので記録を超えることはどうやっても無理だったのだけれど。)
 だから、私は考えた。
 一度11時頃に佐藤候補の事務所に行き、正確な待ち合わせの時間を聞きに行く。もし13時だったら、それまでに山中候補か、きたがわ候補のどちらか、もしくは二人に会い、その後で佐藤候補の事務所にダッシュで行く。
12時だったら山中さんに会った後、佐藤候補の事務所に戻りお会いしてお話をした後、13時30分からのライフ竹ノ塚での演説にダッシュで行く。

 ぐだぐだと書いたが、しぶや竜一候補の出陣式に10時30分の時点でいた私は、そこから赤山街道を竹ノ塚駅まで南下し、途中、候補者の事務所に2件寄り、西保木間の佐藤隆候補の事務所に到着する、というのを30分でやらなければならなかったのだ。
 グーグルマップを見てみるとしぶや候補の出陣式の場所から、佐藤隆候補の事務所までは徒歩50分。
 …とにかく、もう行かなければ。
 そうしてしぶや候補の出陣式を後にして、赤山街道と思われる道を進もうとした。が、いったん立ち止まる。ここで道を間違えるのはまずい。
近くにいた男女二人組に
「ここって赤山街道ですか」
と聞くと男性のほうが
「そうですね」
と答えてくれ、女性はにこやかに頷いた
「ありがとうございます」と言って赤山街道を走り出す。
 
 左右を見ながら、二候補者の事務所を見逃さないようにする。赤信号で呼吸を整えたり歩いたりしながら、地図をチラ見して進んでいる道を確認していく。

 そうして何分かしたところで、一つ目の事務所である横田ゆうさんの事務所が目に入った。あの、のぼり旗とポスターは事務所に間違いない。
 そう思って近づいていくと事務所の外に二人の男性がいた。なにやらビニールシートを畳んでいる。選挙に使うものの準備だろうか。
 こんにちはと声をかけ、事務所の中に入る。中にいた女性に、足立区議会議員選挙の候補者を巡っていることを話し、候補者の写真撮影をしてツイッターにあげてもよいか聞く。
 女性は快く了解してくれ、事務所の奥に迎えてくれた。奥に行くと横田候補本人が書類などの紙の束に囲まれ事務机に向かって座っている。写真撮影をお願いすると、事務所にあったメッセージボードを背に写真を撮らせてくださった。
 政策がわかるビラも手に入れ、スタッフの方や横田さんと、何か話したのだが、私は次の候補者のところに行かなければと気がせっていたのか、会話内容を非常におぼろげにしか覚えていない。
 確か「これからは私たちが変えていかないとね」とスタッフの女性が熱くおっしゃっていたり、私が選挙に関心を持っていることに感心してくださったりとかそんな感じだった気がする。 
 とにかくウェルカムで、温かい雰囲気であったことは覚えている。
 選挙期間中で忙しい日にわざわざ対応してくださったのに、なんたるずさんな記憶力なのかと、書いていると申し訳ない気持ちになってくる。
 だが、そんな申し訳なさを微塵も感じていなかった私は、記念すべき1枚目の候補者の写真を撮りウキウキ気分であった。
 事務所を出たすぐそばの公園で立ち止まり、
「一人目 しぶや竜一候補 #足立区議会議員選挙 #選挙漫遊」
「二人目 横田ゆう候補 #足立区議会議員選挙 #選挙漫遊(写真付き)」とツイート。
「よし」
と気合を入れなおして、再び走りだす。

 数分もしないうちにくじらい実候補の事務所に到着。
 扉を開けると年配の女性が二人と男性が一人いた。くじらい候補本人はいないらしく、私は受付にいた女性に街頭演説の予定を聞く。
「えーっとね、今出陣式をやっているんだけど…」
と言いながら街頭演説の予定を確認してくれた。5月17日と最終日の演説場所が決まっているらしく、その場所を教えてもらった。
『さすがに、その日には静岡に帰っているだろうな』
と思いつつメモを取り、今やっているという出陣式の場所を聞いた。すると、女性は外に出て、開催場所の氷川神社の方向を教えてくれた。今歩いてきた道を引き返すことになる方向だ。さすがに、やめておこうと思い。
「ほかの候補者の方たちに会いに行くので」
と言って事務所をあとにした。出陣式の最中ということもあってか静かな事務所だったが、とても丁寧に対応してくれる優しい3人であった。
 
 赤山街道から、竹ノ塚駅に当たったところで、三人目の候補者と会った。  井前せいら候補だ。竹ノ塚駅前に選挙カーが停めてあり、スタッフの方とともに井前候補はなにやら話をしていた。
 話しかけるタイミングをつかみあぐねていた私は、スタッフの方の近くで上半身をひょこひょこさせながらそのタイミングを窺っていた。
 意を決してスタッフの方に
「街頭演説やるかんじですか」
と話しかけると
「あ、今終わったところです」
と言われた。少し残念な気持ちになりつつ、井前候補の写真を撮れるか聞くとOKが出た。
 次いで井前候補もやってきて、自己紹介すると、
「あ、もしかして、インスタでメッセージくれた方かな?」
と話しかけてくださった。
「あ、そうかもしれません。」
と答え、スマホを出してカメラアプリを開く。
写真を撮ろうとスマホを構えると
「じゃあここで一緒に…」
とツーショット写真を撮ろうとしてくれている。だが、私が欲しいのは候補者本人だけの一枚。
「井前さんだけのを撮りたいんですけど」
「あ、私だけ?」
そう言うと、
「じゃあここがいいかな」
と選挙カーの候補者看板が見える位置に立ち、ポーズをとってくれた。
「ありがとうございます。」
とお礼を言うと
「ツーショットも撮ろうよ」
と言ってくれた。
「自撮りで良いかな?」
と私の横に井前候補が並んで、自撮りに不慣れな私に代わって、スマホを持ちシャッターボタンを押してくれる。嬉しい。楽しい。
 私が候補者巡りをしていることを話すと、井前さんと、井前さんと同年代くらいの女性スタッフが
「すごいね、頑張って」
と言ってくれた。
「頑張ります。ありがとうございます」
と言って駅を後にし佐藤候補の事務所に向かい走り出す。
 

「タバコ吸いますか?」


 
 赤山街道から竹ノ塚駅を経由し佐藤隆候補の事務所に着いたのは11時30分だった。
 事務所前に行くとスーツを着た男性が一服している、もしやと思い話しかけたら佐藤候補本人であった。
「あっ、どうも」
声をかけ、自己紹介をするとこちらに気づき、名刺を渡してくれた。
「タバコを吸いますか?」
と聞かれたが、それはお断りして、よければこの後インタビューなどさせてもらえるか聞くと大丈夫とのことだった。もしかして今からでも始めちゃっていいのかと思い
「インタビューって今からでも…」
と聞くと
「あ、ちょっと…」
と言われる。11時半は「お昼ごろ」というにはまだ早い。
「あ、そうですよね、お昼ごろなのに早く来すぎましたよね。何時くらいがいいですか」
「じゃあ、13時頃だと助かります」
「わかりました。では、13時に」
そんなやり取りをして、13時という情報を得た私は急いで一ツ家センターに向かった。
 

一ツ家センターの罠


 
 11時30分過ぎ。山中候補の演説には間に合わないと判断し、私はきたがわ候補が演説をする一ツ家センターに向かった。
 その道中スーパーの前を通りかかると、一台の街宣車が停まっていた。そこには『新井ひでお』の文字が記されている。
 新井候補とは告示日前に連絡は取れたが、当日その場で街頭演説の開催場所を決めると言っていて、候補者スタンプには入っていなかった候補者だった。
 ラッキー!
 早速、演説をしている本人を街宣車横で見守っているスタッフの女性に声をかける。撮影してよいか尋ねると、女性は車に乗っているもう一人の方に声をかけ、その方が撮影をすんなり快諾。「いいですよ」と笑顔で答えてくれた。
 早速、記念すべき一人目の動画撮影を開始。途中から撮影をしたので三分に満たない時間だったが、ひとまず終了。車に乗りこみ、スーパーを後にしようとする新井候補に
「すいません、新井さんの写真を撮ってツイッターにあげたいんですけど」
というと、カメラ目線でガッツポーズをしてくれ、マスク越しの笑顔の写真が撮れた。お礼を言い街宣車を見送って、いざ目的地の、一ツ家センターへ。

 一ツ家センターへの道中でも、やっぱり少しだけ迷って、
「どこだここ?」
となりながらも、なんとか到着。
 しかし、全く街頭演説を行う兆しが見られない。辺りは人通りが少なく、演説の声も聞こえない。一ツ家センターから出てきた女性に
「ここって、一ツ家センターですか?」
と聞くと
「はい、足立営業所の中に、一ツ家センターも入ってますよ」
と答えてくれた。

そもそも「一ツ家センター」とは何なのかというと、ヤマト運輸の支店の一つ。看板の表示は「足立エリア支店」となっているが、中には一ツ家センターも入っているということらしい。

 答えてくれた女性にお礼を言って見送り、
 『やっぱり、ここだよなぁ』
と告知ツイートに目を落とす。辺りは相変わらず静かなまま。
「道が渋滞していて、遅れてくるのだろうか?」
そう思いながら、一ツ家センター付近をぶらぶらするが、ウグイス嬢の声も聞こえず選挙カーが来る様子もない。
 再び一ツ家センターへ行き、今度は営業所の中に入ってみる。
「すみません、ここって一ツ家センターですよね」
受付にいた男性がこちらを向く。
「はい、足立営業所の中に一ツ家センターも入っています」
「あの、今日ここで街頭演説をする予定ってありますかね。共産党のきたがわ秀和候補っていう方なんですけど」
「いやぁ、聞いていませんね」
「そうですか…」
「よかったら、聞いてきましょうか」
「あ…ありがとうございます。」
ご親切に男性は営業所の奥のほうに入っていって
「街頭演説の予定ってありますか?」
と聞きにいってくれた。
「やっぱり、ないらしいですね。」
戻ってきた男性にそう告げられる。
「そうですか。ありがとうございます。」
 ここではないのか?
 時計の針はもうすぐ12を指そうとしている。ここで確実に一人ゲットしておきたかったのだが。
 
 後で調べたのだが、きたがわ候補と、その日応援演説をしていた吉良よし子参議院議員のツイッターには、演説の様子が写真でアップロードされていた。さらに、竹ノ塚には「地域包括センター竹ノ塚」という足立区から委託を受けた高齢者の相談窓口がある。これらのことから考えてみると、きたがわ候補の街頭演説は、一ツ家センターではなく、地域包括「センター」「一ツ家」で行われていたのだろう。なんたる罠。

ウグイス嬢の幻聴が聞こえる


 
 「きたがわ候補にはここでは、会えなそうだな…」
 そう思ってため息を吐くと、これまで我慢していたのどの渇きがどっと押し寄せてきた。
 この日の東京の最高気温は20.5度。わりかし過ごしやすい気温で朝は肌寒かったが、迷いっぱなし、走りっぱなしの私の服は、汗で濡れてぐしゃぐしゃだ。
 近くにセブンイレブンを見つけ、どの飲み物を買おうか選ぶ。セブンイレブンブランドのお茶は600ミリリットルで108円と、他の商品より、圧倒的に安い。
 そういえば、以前候補者巡りをしたときはファミリーマートでファミマブランドのウーロン茶を買ったが、それも600ミリリットルで108円と安かった。
 今回もそうしようか、と思ったが
『そういえば、600ミリのペットボトルはまぁまぁ大きくて持ちにくかったし、がさばってたよな…』
と思いなおし、細めのボディをしたアクエリアスニューウォーター500ミリリットルを買った。
 支払いを済ませて店の外に出る。蓋を開けて、のどにアクエリを流し込む。
『ごくっ、ごくっ、ごくっ…うまぁ。』
 本当はのどが渇く前に水分補給をするべきなのだが、水筒を持ち歩くと走るのに邪魔になると思って持ってきてはいなかった。
 腕に巻き付ける「ウェットスリーブウォーターボトル」という商品がアマゾンで売られていたが、海外の製品で15000円もしたので購入はしなかった。
 水分補給を済ませると、私は周りを見回し、耳をすませた。

「聞こえる…」

そう、街頭演説の声が。
 実はセブンに入る前からかすかに聞こえていた街頭演説と思われる男性のような声。
 しかし、以前の候補者巡りで、耳を頼りに「こっちだ!」と思って脇道を走っていったら、お店のアナウンスだったことや、誰もいなかったということもあった。
 候補者に会いたいがあまりウグイス嬢の幻聴が聞こえるようになっていた私は、自分の聴覚に疑心暗鬼になっていた。
 だが、やはり聞こえる。
「こっちかな」
小走りで声の聞こえる方に行く。だんだん大きくなる声。
「やっぱり、いる。」
 そう思うが、周りは団地で候補者や街宣車の姿を見つけられない。もしかしたら…。団地のほうに目をやる。
「そうか、団地の中でやっているのか。」
これも以前の話だが、街宣車の声を追いかけていって見失った場所の近くに団地が建っていたということがあった。
 入っても良いかな。立ち入り禁止の表示はなく、大丈夫だと思い歩き出す。100mほど進んだところで大きな広場がみえた。
 「いた!やっぱり!」

 そこにいたのは、くぼた美幸候補。街頭演説は終了し、聴衆らと握手をしてここを立ち去ろうとしている。
 関係者と思われる女性に走り寄り声をかける。
「あの、すいません。私、足立区議会議員選挙で候補者の方に何人会えるかなっていうのをやっていて、静岡から来たんですけど…くぼたさんの写真を撮っても大丈夫ですか?」
「静岡から⁉ちょっと待ってね」
そう言って女性はくぼた候補のほうへ走って行った。
「待ってー!(私のほうを向いて)ちょっと走れる?」『くぼたさん、静岡から来た子がいてー!」
 私も女性のあとを追いかける。車に乗り込もうとしていたくぼた候補が私たちに気づく。
「くぼたさん、静岡からきて、久保田さんの写真を撮りたいって!」
わりと大きい声でそう言った女性の言葉を聞き、周りから「おぉ」という声が聞こえ私に注目が集まる。ちょっと照れる。
「ありがとうございます」
と笑顔で言ったくぼた候補の写真を撮影させてもらうと、スタッフの人が
「写真撮りますね」
と手を差し出して、私のスマホを受け取りツーショット写真も撮ってくれた。
『いや、私が欲しいのは候補者本人が映ったワンショットだけなのだが…。』
 だが、ご厚意をわざわざ無にすることもないと思い写真を撮ってもらった。別れ際に握手もして、くぼた候補を見送った。

 その後で、先ほどの女性が
「静岡ではくぼたを推しているんですか?」と尋ねてきた。
「いや、そういうわけではなく、足立区で選挙があるってことで、いろいろな人を回っているっていう感じで」
「へぇー」
そう言って、私がくぼた候補のこの後の演説予定を聞くと
「14時50分から、一ツ家センターで、そこはわかりにくいかなぁ。16時35分からは竹ノ塚駅の東口で山口さん(公明党党首・山口那津男議員)と」
 場所を丁寧に教えてくださり
「じゃあ、また演説場所であえるかもね」
そう言った女性と、そこにいた数人の方たちに笑顔で見送られ、私は団地を後にした。
 

候補者ポスター掲示板


 
 12時を過ぎ、もう一度一ツ家センターに行ってみたもののきたがわ候補は発見できず、佐藤候補の事務所に行くにもまだ早い。
『竹ノ塚駅周辺で街頭演説とかやってるかなぁ。』
そう思い、グーグルマップで現在地を確認する。ここがどこだかわからない。

 実は私、普段はスマホの位置情報機能をオフにしている。グーグルをはじめとしたGAFAなどの大企業が個人情報を大量に収集していると見聞きしたり、インターネット検索をしていてIPアドレスをもとに自分が今いる場所が表示されたりすると、なんだか、少し体がこわばる感じがしたり、そんな理由からだった。(まぁ、『位置情報なくっても地図が読める私、すごくね!』という意味不明な意地なのか見栄なのか、そういうもののためというのが実はいちばんにあったりするのだが。そのくせたびたび、というかかなりの頻度で迷うのだから、世話がない。)

 グーグルマップと本日3度目ぐらいのにらめっこをしてうろうろしていると、後ろから声をかけられた。
「林さん(筆者名)!」
「あ、どうも!」
 声をかけてきたのは、先ほど演説場所を教えてくれた女性だ。乗っていた自転車を停めて、こちらに来てくれる。
「あの、竹ノ塚駅ってどの方向かわかりますか?」
そう聞くと、女性は丁寧に
「ここを行くと花屋さんがみえてくるのね。そこを曲がって…」
方向だけ聞いたのに目立つ建物の情報を交えて詳しい道順まで教えてくださる。本当に足立区の人たちは温かい。女性に感謝を述べ、竹ノ塚駅のほうへ向かい歩き出す。

 途中、街宣車の声が聞こえ、くるっと方向転換をして音の鳴るほうへ歩いて行ってみた。
 近づいてきたのは、井前さんの街宣車だ。井前さんは先ほど会ったし、街宣中なら停まってお話を聞くというのも出来ないだろう。
 そう思い、再び体を竹ノ塚駅の方向に向け歩き出す。
 バックに井前さん本人と思われる女性の声が聞こえる。道行く人に、選挙カーの中から「そちらのご夫婦!」
などと声をかけながらウグイスをやっているようだ。
 
 竹ノ塚駅までの道は途中から大通りになっていた。飲食店などが立ち並ぶ通りでは家族連れの人たちとすれ違うことが多かった。
『そういえば、お昼どうしようかな。』
と考えながら時計を見ると12時30分。
 佐藤候補の事務所には13時までに行かなければいけない。竹ノ塚駅でお手洗いにも行っておきたいと考えていたので、しかたなしに、また走り出す。
父親とその子供と思われる男の子が目の前で自転車に乗り、ぐんぐん私から離れていく。
 自転車。自転車があれば。でも、知らない街で自転車を運転して、事故を起こしてしまうのも怖い。
 息を切らして歩みを緩める。左側を何気なく向くと区のシンボルマークが描かれた旗と国旗がはためく市役所のような場所がある。そこには候補者のポスターが貼られた掲示板があった。
『ポスター、結構埋まってるな』

 全候補者の選挙ポスターが色とりどりに貼られたポスター掲示板を見たことがある人は多いだろう。だが、この掲示板が一体どれくらい設置されているか知っている人は少ないのではないか。
 今回の足立区長選挙と区議会議員選挙の際の掲示板の数は、なんと全部で617。
 杉浦俊介候補という新人無所属の候補者がツイッターで617か所をグーグルマップでピン付けした写真を投稿していた。その写真を少し離れて見てみると、白の点々模様がついた青い怪物が両手(舎人と北千十に当たる)を横に広げ寝そべっているように見えなくもない。ポスターは役所の職員などが貼ってくれるわけではなく、候補者がそれぞれ貼りに行かなければならない。ボランティアの人に協力してもらったり、業者に頼んだりする人もいる。 
 ここに来るまでにも、そんなポスター貼りの作業をしている人を何人か目にしていた。とにかく、それぐらいポスターを掲示する箇所が多い。
 杉浦さんに街頭演説撮影についてのメールを送ったとき
『街頭演説の様子を撮影いただくのは問題ありませんが、いつ頃になりますでしょうか? 区内616箇所の掲示板に自分でポスター貼りに回るのであまり明確にいつどこで行うというのがお知らせできません。予定が立てられるようになってから開催前日にご連絡でもよろしければまたご連絡させていただけたらと思います。何卒よろしくお願いいたします。」
という返信をしてくださった。私は『15日の予定が知りたい』と返信したが、連絡は返ってきていなかった。
 やはり、617か所を自分で貼りに行くということになると準備も大変だろうし、かなり体力も使うだろう。しかも、杉浦さんのツイートを後からチェックすると
「自転車で回る」
と投稿していた。
「まじか、車使わないのか」
 杉浦さんは「足立区全土を見るために自転車で掲示板616か所を回るのでお声掛けください」という趣旨で各地を回り、そこで目にして気になった防災、建物の問題点や出会った人と話して気づいたことなどをツイートしていた。

 そんなポスター談議と杉浦候補の話で脱線してしまった。
 話を戻そう。
 竹ノ塚駅まで休み休み走り、駅のお手洗いを借りると、佐藤候補の事務所までまた道を引き返していった。

 

「やりたいことは、宴です」


 
 佐藤候補の事務所には13時少し過ぎに到着。チャイムの場所がわからず事務所前をうろうろしたのち、車が停めてあり見えにくくなっていたチャイムを発見しボタンを押した。佐藤候補が玄関から出てきて
「どうも。(撮影は)どうします、外のほうが良いですか?それとも中に入られます?」
「じゃあ、中入っても良いですか?」
「どうぞどうぞ」
 迎え入れられたのは二階建ての一軒家。塾をやっていた場所を事務所として使っているらしかった。中には佐藤候補と、スタッフの方と思われる男性がパソコンに向かって座っていた。
 奥のほうにはホワイトボードが置いてあり、区分けされた足立区の地図が貼ってあった。どうやらポスターの掲示板の場所が記されているらしい。所々にマーカーで印がつけられている。

 佐藤候補はインタビューが始まる前に私の活動のことを尋ね
「やっぱり、党によって対応が違うんですか」
と聞かれた。私は、電話対応で本人が出たり事務所の人が出たりという違いはあるが、「党によってこうだ」ということはないと答えた。
 私が会った候補者は所属で言うと、自民党二人(しぶや竜一候補・新井ひでお候補)、政治家女子48党一人(井前せいら候補)、共産党一人(横田ゆう候補)公明党一人(くぼた美幸候補)だったが、ほとんどの人はウェルカムで写真撮影も快く了解してくれた。
 佐藤候補はほかにも活動に興味を持ってくれ、何人ぐらい回る予定かということや滞在方法などを聞かれた。私が
「ネットカフェみたいなところに泊まる予定ですかね」
と話すと
「あぁ、俺も学生の頃は使ってたわ。…この事務所とか布団もあるしシャワーもあるし…漫画も置いてあるな」
「確かに、漫画ある」
とスタッフの男性も相槌を入れる。
「よかったらここ使います?(笑)」
なんて冗談交じりの提案もしてくださった。
 正直、渡りに船であった。宿泊費節約のためにぜひ使わせてもらいたかったが、さすがにおこがましすぎる。それに、仮にも私は選挙漫遊という名の取材もどきをしている身。特定の候補者にお世話になるわけにはいかない。
 お断りさせていただいて、世間話をした後
「じゃあ、そろそろいいですかね」
とインタビューを始めようとする。
「あ、ちょっと髪整えてきて良いですかね」
 そう言って佐藤候補は洗面所に向かい身なりを整えに行った。
立って待っている私に
「椅子どうぞ」
とスタッフの方が促してくれて、普段佐藤候補がユーチューブを撮っているという場所に置かれた椅子に座った。
 準備を終えた佐藤候補が戻ってくると、いよいよ撮影を始めた。
 
 インタビューを撮る候補者に聞こうと思っていた質問は全部で4つ。
 
・自己紹介
・出馬理由
・当選したらいちばんにやりたいこと
・有権者へのメッセージ
 
の4つだ。
 佐藤候補は笑いを交えながら質問に答えていく。
 三つ目の質問で「当選したら一番にやりたいことは何ですか」と聞くと
「宴です」
と一言。
『宴?』
 足立区で毎日宴会を開催して区民の交流と憩いの場を作ろうという政策だろうか。頭にクエスチョンマークが浮かんだ私は
「というと?」
と先を促した。
「私一人では当選できない。塾をやっていてお世話になった保護者の方や卒業生に手伝ってもらったことは、ひしひしと感じている。そのことを考えるといちばんは宴かなと」
 あぁ、なるほど。宴とは打ち上げのことか。てっきり私は政策のことを話しているのかと思った。
「当選したらいちばんにやりたいことはなんですか。」「宴。」
たしかに質問の答えになっている。だが私は「一番にやりたい政策」のほうを聞きたかった。政策についての質問をすると。ビラを手に訴えたいことを語ってくれた。

 ちなみに、後日選挙関連の規則を調べていると、禁止されている選挙運動の中にこんなものがあった。それは
「選挙後に当選祝賀会、その他の集会を開催すること」

『…あれ、宴はもしかしたら、これに当たるのでは。』

と不安に思って調べてみると、当選したらそのお祝いに当選人へ、物品をもっていくことは可能だが、それは当選人が消費しなければならず、支持者
や同席者にそれらをふるまうことは寄付の禁止に該当し禁止されているらしいことがわかった。そして、集会を開催することは、当選者、落選者、有
権者、そして私のような選挙区外のものも禁止されている。これは事後買収を防ぐ意図がある。
 このことを知ったのはインタビューをした日から1週間後。この文章
を書いている中で、よくわからない選挙運動の規則を調べていた時だった。
「佐藤候補に知らせるべきだろうか…」
迷った私は、足立区の選挙管理委員会に「宴」などの集会に関する選挙規則について質問をするため、電話をかけてみることにした。
 質問に答えてくださるようなら、内容を後で確認できるよう録音しておこうと録音アプリも起動して電話をかけた。
「はい、足立区選挙管理委員会です」
すぐに職員の方が電話に出る。
「あ、あの私、林と申しますが、えっと、選挙制度のことについて質問があるんですけど…」
そういうと職員の方は快く質問に応じてくれ
た。
 その方によると、やはり挨拶を目的とした祝賀会は禁じられている。だが、お疲れ様といった慰労を目的とする場合だと大丈夫なようで内容によって変わってくるらしい。
 宴会のこと以外にも、インターネットからの情報だけではわからないことをいくつか質問すると、職員の方はそのたびに丁寧に答えてくださった。一通り質問を終え
「すいません、ありがとうございました。」
とお礼を伝えると
「あ、こちらこそありがとうございました。また、なにかわからないことありましたらお電話ください。」
と返してくれ電話を終えた。

「ふー。めっちゃ丁寧に答えてくれた!」
ルンルン気分で、『録音しておいてよかったー』
とアプリを確認する。音が入ってない。
「え!?なんで!」
通知を見ると
「録音ができませんでした。ほかのアプリを使っていなかったか確認してください。」
と書いてある。
「え、まさか、電話を使いながらだと録音できないの⁉でも前は電話を使いながら録音した時ちゃんと録音できてたじゃん!なんでぇ?アプデで変更になったとか?え?えー⁉」
あわててメモ帳を取り出し、覚えている内容を書き出していく。職員の方は
『公職選挙法の〇〇〇条には…』
とかちゃんと条文も引用して話してくれてたのに!あぁ、ああ!
「うぅ、録音してると思っててろくにメモなんかとっちゃいなぁかったよぉ、うぅ。どうして、どうしていつもこうなるんだぁ…」

 実は以前の候補者巡りで、候補者の方々に話してもらった内容を後でまとめるため、スマホで録音していた。この時は、容量がいっぱいになり録音が途中で止まってしまったり、そもそも録音をし忘れたりということがあった。

 だから!…だから、今回は準備万端で、容量も確認して電話する前ちゃんと録音が開始されているかの確認もして、して…したのに…。
 まあ、職員の方が一つ一つわかりやすく説明してくれていたことと、話し終わってからすぐに録音ができていないことに気づいてメモを取り始めたことで、とりあえず事なきを得た。
 と、いうことで、佐藤候補の話の内容からすると「宴」はお世話になった方を労うためというニュアンスで使われていた。

 一安心と一つ知識を身に着けたところで、佐藤候補のインタビュー終わりから話を続ける。

 撮影を終え感謝の旨を述べた私を、佐藤候補は玄関まで送り出し
「何か困ったことがあったら連絡ください」
との声もかけてくれた。
 佐藤候補の事務所を出たのは確か、13時40分過ぎ。
 13時30分からのライフ竹ノ塚と14時からの江北平成公園での演説は間に合わないなと考え、15時からのわたなべ竜二候補の出陣式に向かうことにした。
 

『あれをやれってことなのか⁉』



 
わたなべ候補の出陣式は西新井大師西駅近くでで開催予定なので、竹ノ塚駅から歩いていけないこともないが、迷わず電車を使った。もう、歩きたくない。
 竹ノ塚駅から西新井駅で乗り換え、大師前駅まで電車に揺られる。
 実は、この近くには無所属新人のさとうひろき候補の事務所と、参政党の加地まさなお候補の事務所があると踏んでいた。「踏んでいた」という言葉を使ったのは、加地まさなお候補の事務所は場所が公開されていなかったからだ。

 立候補者64人中、告示日までに私が事務所の場所を把握していたのは32人。現職の方は足立区のホームページに住所を記載しているが、事務所ではなく自宅の住所と思われるところを記している方も少なくなかった。また、維新の候補者3名と佐藤あい候補などは地名までは公開しているが番地がわからなかったりと、なかなか事務所の場所を把握するだけでも骨が折れる作業を行っていた。
 そんな中加地まさなお候補も、事務所の住所を公開していない一人だった。(筆者調べ)

 だが、そこで諦める私ではない。
 事務所場所がわからない候補者に対しては、ツイッターのアカウント内検索で「事務所」と打ち込み、ひっかかるツイートがないかしらみつぶしに検索をかけていった。だが、なかなかうまくいかない。
 そんな中、加地まさなお候補のツイッターでこんなツイートが引っ掛かった。
「4/30日事務所前辻立ち 参政党をしっていただくため、辻立ちも行います。」
ボランティアと思われる方たちと並んで撮影した写真と一緒にそう投稿したツイートがあった。
 すかさず証拠写真をスクショ。拡大して加地候補らが立っている後ろの建物を見る。ニヤリ。
「松下胃腸外科」
電柱に少し文字が隠れていたが確かにそう書かれている。明らかに犯罪者のそれと思われるようなにやけを顔にたたえたまま検索エンジンで「足立区 松下胃腸外科」と検索をかける。ヒットした。
 足立区西新井の松下胃腸外科。
 グーグルマップを開きストリートビューモードのオレンジ色の人形をドラッグして、ドロップ。
 
 話はすごく脱線するが、このオレンジ色の人形、名前とかあるのかなと書いている途中で疑問に思い、調べてみると人形には「Pegman(ペグマン)」という名前があることがわかった。 
 グーグルマップのストリートビューを使うときに、ユーザーがどちらの方向を向いているかわかるようにするために作られたそう。
 ペグマンが現在のオレンジ色の人型になるまで、目玉→ペグウーマンと呼ばれた女の子→豆腐マンと変遷があり、民族的な背景がないオレンジ色のシンプルな人型になっていった。開発者は、
「もしペグマンを掴んでぶらぶら揺らすことができたら、神様のまねごとをするようにペグマンを動かせる」
なんてことも思いながらデザインを考えていたらしい。(もっと詳しく知りたい方は下記のURLから記事が読めます
( https://www.buzzfeednews.com/article/justinesharrock/pegman-googles-weird-art-project-hidden-in-plain-sight  )
 
 脱線終了。オレンジ色の人形、もといペグマンをドラッグしてドロップ。
松下胃腸外科の前方、右斜めあたり…。水幸ビルという建物があった。ここだ。ちょうどこのビルの前あたりで写真は撮影された。 
 それに、以前の候補者巡りで参政党の候補者を訪ねたときも、こんな風なビルの一室を選挙事務所にしていた。確信を得るため「足立区 水幸ビル」と検索すると、賃貸情報が出てきた。濃い。かなり濃い。黒に限りなく近い。
 グーグルマップの事務所リストに「たぶん加地まさなお事務所」とメモをつけ保存する。

 そんな現代の技術を活用しまくって目星をつけたのが加地まさなお候補の事務所だった。

 大師前駅から環奈通りという大通りに出て、水幸ビルへ向かって歩き出す。100メートルほど行ったところで、松下胃腸外科がみえてくる。
「そうそう、ここここ。グーグルマップでやったところだ!」
胸の高鳴りを感じながら、水幸ビルまで小走りをし中を見る。

…あれれ…おかしいぞ。

 看板も「事務所」の文字もまるでない。
『ここ…だよな。』
 周りをぐるっと見回してみるが、参政党のイメージカラーであるオレンジも見当たらない。
『なぜッ⁉まさか、こっちのマンションか?』
見上げたのは14階建てのファーストレジデンス西新井というマンション。セキュリティも高そうだ。
『これは、まさかあれか。アニメとかドラマでよく見る、マンション住民がロックを解除して扉を通過するのを待って、空いた扉からさりげなーく中に侵入しちゃうあれをやれってことなのか!?いやいや、さすがにそれはまずいだろう。軽く犯罪だぞ…』
 そんな愚にもつかない考えに思いを巡らせていると、車道に駐車してある車に目が留まった。
『あっ!加地候補の選挙カーだ。』
 誰か乗っていないかなーと思い、窓ガラス越しに中をジーっと見る。が、誰も乗っていない。選挙に使う機材や書類などが見えるだけ。どこかに行っちゃったのだろうか。そう思い諦めて次の候補者の事務所に向かおうとしたとき。
 後ろを振り返ると、水幸ビルの前にオレンジ色のタスキをつけた男性が。加地まさなお候補だ。数人のスタッフと思われる人たちとともにビルの前に立っている。すぐさま駆け寄って、加地候補に話しかける。
「こんにちは。あの私、足立区議会議員選挙でいろんな候補者の方を回っていて、加地さんの写真とってツイッターにあげてもいいですか?」
そう言うと、嬉しそうな表情で撮影に応じてくれた。
 参政党の『さん』を示すのか、三本指でポーズをとり一枚。近くにいたスタッフの方が私と加地候補を入れて撮ってくれるということで、もはや恒例になったツーショット写真も1枚、2枚。
 最後に演説予定を聞くと
「今日のインスタに載せてて、ここですね。明日も、遅くなっちゃうかもしれませんが載せると思います。」
と答えてくれた。別れ際に握手もしたような気がする。(候補者に会えると、やはり次の候補者に意識がいって、記憶が曖昧になってしまうらしい。気を付けたい。)

「静岡から記者の方が来ていてね」


 
 無事、星(候補者)を見つけた私。時刻は2時30分過ぎ。

 15時の出陣式までの30分に、もう一人の候補者さとうひろき候補の事務所にもお邪魔したい。大通りを大師前駅まで戻り、そのまま西へ進む。
 さとう候補の事務所があるという和田商店へ行くため、駅前を通る環奈通りを右に曲がる。すると、車が多く通行する環奈通りとは打って変わって、修学旅行で行った浅草の仲見世通りを彷彿とさせるような通りに入った。目の前にはなんだかでっかい門がある。
 あぁ、これこそ選挙漫遊の醍醐味。選挙が行われている場所の観光地を巡りながら候補者にも会っていく。漫遊感ある。

 後で調べたところ、この門は西新井大師という通称で知られる寺院の山門で、江戸時代に建てられた。門を抜けた先には、大日如来像や弁天堂などがあり、重要文化財や国宝なども所蔵されているらしい。

 だが、そんなことはつゆ知らず。門を見ただけで漫遊気分を味わった私は門を後にし、さっそく近くのさとうひろき候補の事務所を訪れた。
 事務所と銘打たれた場所は一見するとただの商店にしか見えないが、さとう候補の名前入りののぼりが立っており、そこが事務所であることを教えてくれていた。
 中に入ると人はおらず、奥のほうに事務所らしき部屋があった。
 そーっと中をのぞいて声をかけると、奥から女性が出てきて私を迎えてくれた。
「あの、私、足立区議会議員選挙に立候補している方を回っていて、さとうさんって、いまどこにいるかとかわかりますかね。」
そう聞くと
「あら、そうなの。お昼ごろまではいたんだけど、今は街頭演説に出ていて…」
 そう答えた彼女はさとう候補の母親だった。選挙演説の様子を撮影したい旨話すと、本人に電話をかけてくださった。
 電話のコール音が鳴る中、近くに置かれた机を見ると、ビラが何束も置かれていた。どうやら、ビラに証紙を貼る作業中らしい。
 電話がつながると
「もしもし、今ね、静岡から記者の方がきていてね」
ん?いや、私は記者ではなく趣味で選挙漫遊をしているのだが…。訂正するタイミングを失っていると、私に電話を替わってくれるという。
「あ、こんにちは林と申します。」
 そう言って、街頭演説の予定など、電話越しにお話をさせてもらった。まさか、携帯をお借りしてご本人と話せるとは思っておらず、動揺していて話した内容をほとんど覚えていない。たぶん、その日の演説予定地と、明日の予定はまだ決まっていないことを話してもらっていたのだと思う。
 電話が終わると、さとう候補の母親である女性が
「すみませんねぇ。あっちで演説やっているみたいで」
「あ、いえ。わざわざ電話してくださってありがとうございます。」「今はさとうさんの選挙のお手伝いされてる感じですか?」
「そう。」
そういって、ビラを手に取り、
「このビラもこうやって証紙っていうの貼らないといけないって知らなくって」

 選挙には様々なルールがある。街頭演説をしてよい時間帯や、期間の制限。ビラに証紙を貼らなければ配布してはいけないというのも、そういったルールのうちの一つだ。
(ちなみに、インターネット選挙の解禁に伴ってウェブサイトに文書図面を掲載することができるようになったが、その文書図面を紙に印刷して頒布することは禁じられている。)
 私も、こうやって候補者をめぐったり、あとから色々調べてみたりすると、知らないことが山のように出てくる。

 さとう候補の母親も、私と同じようにわからないながら、できることをやっているという。
「(商店の)受付をやっている彼も、(さとう候補の)同級生で手伝ってくれてるんです。」
 選挙はたくさんの人の篤志によって成り立っている。そんなことを思い、なんだか別れを惜しむ気持ちになりながら
「じゃあ、次の候補者の方に会いに行くので」
と言って、事務所を後にした。
 
 

「ユーチューバー?」


 
 さとう候補の事務所では、候補の母親である女性とお話ししたり、電話をしたりしていたため、3時まであと10分もない。
 急いで環奈通りに戻り西方向に走っていく。トヨタモビリティを目印に右折。ここからまっすぐ行けば、わたなべ竜二候補の出陣式の場所に当たるはず。
 出陣式開催場所の大森工務店を発見すると、青いジャージを着た人たちが店の前に立っていた。その中の一人に声をかける。
「あの、私、足立区議会議員選挙で候補者の方々を回ってて、わたなべさんの出陣式の様子を動画で撮影してYouTubeに投稿したいんですけど…」
「あ、ちょっと待っててくださいね。…ほかの陣営の方とかではなく…」
「ではなく、個人的にやっていて…」
「YouTubeのチャンネルとか、名刺とかってありますか?」
「えっと、YouTubeはアカウントを作っただけで、動画はまだないんですけど、名刺は…」
そう言って、私はメモ帳を取り出し自分の名前と連絡先を書いていった。

 実はこんなこともあろうかと、名刺を作ろうかとも思っていたのだが、何人の候補者に会えるのかもはっきりしていないなか、名刺づくりにコストをかけるのは賢明でないと考えて、名刺は持っていなかった。

 メモ書きを受け取った女性は
「あ、じゃあ連絡先交換して、そこに後で、動画を送ってもらえますか。」
と言いラインのQRコードを差し出した。
「すいません。あっ、スタンプ送ってもらえますか?…ありがとうございます」
 そんなやり取りをしてライン交換したのち、私は会場に迎えてもらった。
 出陣式は始まっており、私は出席している方の邪魔にならないよう後ろ側で撮影しようと立ち止まりかけた。すると、先ほどの女性が背中を押してくれ、前のほうに行き撮影を開始することができた。
 わたなべ候補への応援演説、候補者自身の演説、頑張ろうコールなどを終え、最後に街宣車の出発式が行われた。
 先ほどの女性が
「ウグイス嬢は90歳の女性がやってるんで、それは映えると思います」
と話してくれ、撮影も前のほうで行わせてもらった。
 そして、いよいよ車が出発。
「わたなべりゅうじ、しゅっぱついたしまぁす」
 聞こえてきたのは、90歳とは思えない高い声。昔のドラえもんに似ていなくもない声を、スタッフの女性は
「まさかのアニメ声っていうね」
と形容していた。
 選挙カーが出発して、候補者の写真は撮り損なったものの、動画はしっかり撮れたので、お礼を言って会場を後にした。

 とはいえ、この選挙漫遊を通して思ったのだが、私は方向音痴らしい。そのため、現在地を確認し、どこに行くべきか、会場から少し離れたところで思案していた。

 そんなことをしていると、あたりを周回したらしいわたなべ竜二候補の街宣車が戻ってきた。これは写真を撮るチャンスと思い、もう一度、先ほどの女性スタッフに話しかける。彼女は候補者を呼ぶため、
「ユーチューバーの人が‐…」
と候補者のほうへ向かって声をかける。私はユーチューバーではないし、そもそもまだ一本も動画を投稿していない。周りの視線から身の置き所がない思いでいると、女性の言葉に反応して、彼女のお子さんなのだろうか、男の子が
「ユーチューバー?」
と元気な声で聞き返した。いや、あの違うんですけど、という訂正は入れられず、出てきてくれた候補者と応援演説をされた方のツーショット写真を撮影させていただき、今度こそその場を後にした。

「手荷物検査をしていますので」


 
 近くにあった公園のベンチにいったん座り、予定を見てみる。当初は17時のせぬま剛候補の街頭演説まで、駅を経由して街頭演説が行われていないか見ながら、散策しようと思っていた。
 だが午前中に、くぼた美幸候補が16時35分から街頭演説を竹ノ塚駅で行うという情報を私は得ていた。しかも、その演説には山口那津男議員が応援演説に来るという。
 18時35分からの石毛かずあき候補の街頭演説にも山口議員が来ることはわかっていたのだが、どうせ行けるのならどっちも見たい。そう思って私は竹ノ塚駅を目指し始めた。

 16時過ぎ、竹ノ塚駅に私が到着した時、あたりは物々しい雰囲気に包まれていた。黒いスーツを羽織り、前ボタンを開けた男性たちが駅周辺に鋭い目を光らせている。SPだ。ざっと見ただけでも20人以上はいるのではないかと目測する。それに加え警官たちも数十人いる。
 応援演説に来るのは、与党・公明党の代表を務める山口那津男議員。なるほど、警備がこんなにも増えるわけか。
 駅前には井前せいら候補もおり、私は近くにいた彼女のスタッフに
「街頭演説されるんですか」
と聞いてみた。すると、
「うーん…これから、あっちで演説が始まるみたいだからねぇ…」
厳戒態勢が敷かれているくぼた候補の演説予定地を見て、苦笑交じりにスタッフの男性はそう言った。
 それほどに雰囲気は物々しく、演説撮影の許可が取れるかどうかも怪しかった。(もっとも、公道で行われる演説は全て撮影を許可されて然るものなのだが。)
 私は、井前候補陣営の男性スタッフにお礼を言い、そこから、SPと思われる恰幅の良い男性のもとへ近づき話しかけた。
「あの、街頭演説の関係者の方ですか?」
「はい。」
「私、演説の様子を撮影してYouTubeにあげることを考えているんですけど、それって大丈夫ですかね。」
「あぁ…」
男性は、隣にいたもう一人のSPと顔を見合わせ
「ちょっと聞いてきますね」
と言い選挙カーが停めてあるところへ歩いて行った。緊張する。
 演説が行われる駅前広場を眺め、改めて、演説襲撃事件の影響を思い知らされる。ニュースで見聞きしただけで実感はなかったが、なんだか、きな臭い世の中になってきているのかもしれない。
男性が戻ってくると
「なんか、いいらしいですよ」
と撮影許可をくれた。
「ありがとうございました。」
と言って、演説が行われる広場に行く。広場の中央はコーンで区切られており、周りにSPと警察が待機していた。
「あの、街頭演説の動画を撮影したいんですけど」
そう私がコーンで区切られた広場に入ろうと声をかけると、これまた別のSPの男性が
「えっと…」
ときたので、
「あそこの方に許可をいただいて…」
男性は私が指した方向に目をやり
「では、手荷物検査をしていますので」
と言いバッグの中身を見せるように促された。手荷物検査なんて、海外渡航をした時以来だ。 
 私がどうすれば良いのか戸惑っていると、女性のSPがこちらに来て
「すいません、こんなご時世なので…。」
と声をかけてきた。
『なるほど、女性には女性SPが検査をするのか。』
 そんなことを思いながらバッグを開ける。彼女は、あまりがっつくような様子は見せず、だが、入念にバッグの中を覗き込み、検査を始めていった。彼女は、私のバッグの中からあるものをみつけて
「これは…」
と黒い棒状のもの手に取り私に問いかけた。
「あ、それは自撮り棒?ですね。」
「あ、なるほど…」
 黒く細長いフォルム。確かにSPの目には怪しいものに見えたのだろう。(ちなみに自撮り棒は、この日一度も使っていなかった。次から次へと候補者に会って移動しており、わざわざバッグから自撮り棒を取り出して装着する手間をかけるのが惜しまれたのだ。だが、それなら何のために2280円かけて買ったのだろう。楽天市場から段ボール箱が届いた時は、即開封。棒を最大限に伸ばし、ブルートゥース機能があるボタンで、無駄に写真を撮りまくっていたというのに。)
 ポーチの中も開けるように言われ、チャックを開ける。バッグについているポケットも検査するようでバックルをカチッと開ける。中に入っているファイルの中身を見せようとしたが、その前に
「あ、大丈夫です。ありがとうございました。」
と言われ、コーンの中へ入場した。

 ファイルの中には選挙漫遊のために作ったスタンプ帳や候補者らの連絡先名簿、今日ゲットした候補者たちのビラが入っていたのに。ちょっと自慢したかったが、まぁ、良いか。

 広場の中には、ご年配の女性たちがおり、後方のベンチのようなところに腰を掛けて団らんしていた。目の前はがら空き。
 私は広場の一番前、ど真ん中に中座で座り込み、撮影場所を確保した。
 中に入って周りを見回してみると、やはり数十人のSPや警官たちが、あたりを見回しながら歩いていたり立ち止まっていたりする。警官の腰のホルダーには拳銃が装備されているのが見える。駅前や周辺を通る人たちは、
いったいこれから何が始まるのだろうと彼らを一瞥して不安そうな顔を浮かべているように見えた。
 また、右手に見える竹ノ塚駅の屋上にはSPと思われる男性が二人立っており、彼らの前には三脚付きカメラが私のほうを向いて置かれていた。
 なるほど、高い位置からも映像を撮って、何か起きたときのために備えているのか。私はカメラをじっと見て、それから選挙カーがおかれている演説場所に向き直った。

 予定開始時刻の35分になると、いつの間にか私の周りには人がたくさん押し寄せてきていた。私は座り込んでいるがほかの人たちは立って演説を待っている。後ろに座っていた方たちは、候補者が見えるのだろうか。
 5分、10分経っても候補者たちは現れない。もしかしたら警備上の理由から、聴衆に伝えていた時間より少し遅らせて候補者らが到着するようにしているのだろうか。
 そんなことを考えていると、16時50分、山口議員とくぼた候補が現れた。
「なっちゃーん!なっちゃーーん!!」
 響くマダムたちからのなっちゃんコール。

『あれは本当だったのか。』
そう思ったのは、私がよく聞くラジオで以前、澤田大樹記者という方が
「山口代表は、『なっちゃーん』ってマダムたちから呼ばれていて人気なんですよね」
と話しており、生なっちゃんコールを聞くのを楽しみにしていたからだ。
 コールに答えて山口代表はくぼた候補とともに手を振る。そして選挙カーに上り、演説がスタートした。

 演説を聞いている最中、ずっと足を立てて、中腰体勢でいたので足がしびれてきて、正座に体勢を切り替えた。
 十五分ほどで演説が終わり、私は会場にごった返す人の間を縫い駅のほうへ向かった。人ごみの中で、午前中に二度(くぼた候補が演説をしていた団地と、一ツ家センター近くで)お会いした女性に声をかけられた。私の姿を覚えていてくれたらしい。どうもとあいさつを交わし、私は駅へ向かった。
 

 東(口)奔西(口)走、なんのその


 
 竹ノ塚駅の改札口に駆け込み西新井駅へと急ぐ。
 竹ノ塚駅の演説が予定より15分ぐらい遅れて始まったので、時刻は5時10分。せぬま剛さんの街頭演説開始時刻の17時にはぎりぎり間に合うか、間に合わないかといったところ。

 竹ノ塚駅から一駅、西新井駅に着くと私は東口に出た。
 せぬま候補の予定は、事務所に電話で連絡した時に教えてもらっていた。西新井駅で、17時から交番前でやるということだった。交番があるのは西新井駅西口。だが、メモ帳にそのことを書き忘れていた私は、東口に出ていた。

 するとそこには、街頭演説を終えた様子のきたがわ秀和候補がいた。
 とりあえず、駆け寄って、写真をお願いすると街宣車の前で撮影させてくれた。きたがわ候補はそれからすぐに移動するということで、街宣車に乗って去っていった。残った私は、きたがわ候補のスタッフと思われる男性に話しかけられた。
「きたがわ秀和サポーターズっていうツイッターで演説情報を発信しているのでよかったら、フォローしてみてください。」
 私が、先ほどきたがわ候補の演説日程を尋ねていたのを聞いて、声をかけてくれたのだ。
「あっ、これですね。」
「はい。このアカウント、ほとんど僕がツイートしているので、もしツイッター上で(筆者と)つながれたらフォローしますね。」
「あ、ありがとうございます!」
 選挙漫遊では、こうやってスタッフの方ともお話しすることを通して、間接的にではあるが、候補者のことを知れる。醍醐味の一つだ。

 男性と別れ、今度は西口に向かう。西口を出て真正面で、高橋まゆみ候補が演説をしている。せぬま候補とは会えていないが、この時の私の頭は
「とにかく、会えた人の映像を撮る」
ということでいっぱい。
 高橋候補の選挙スタッフに撮影して良いか聞くと。
「全然いいですよ。」
と快諾してくださり、候補者のほうへ小走りで行く。高橋候補の横には衆議院議員のくしぶち万里議員が立ち、応援演説をしていた。
 録画を開始するが、聴衆が2,30人いて場所取りができない。前のほうに行き、立っていた女性に
「あの、ここでしゃがんで撮影しても大丈夫ですか?」
と聞く。
「あ、どうぞ」
「ありがとうございます。」
許可をもらい、女性の前で片膝をつきカメラを構える。

 高橋候補は、れいわ新選組公認の新人候補。少し言葉に詰まることがありながらも、手ぶりを使って演説をしていく。私が言うのはとてもおこがましいのだが、それを承知で言うと、高橋候補からは初々しさが感じられる。
 だが、話している政策の中の一つである、オムツ定期便というアイデアにはとても説得力があった。それは、0歳家庭の見守り訪問をオムツ定期便と兼ねて行うというもの。見守り訪問だけでは、子育てする親のガードが固くなる。でも、オムツを持って毎月訪問すれば、だんだんと打ち解けて、育児をする上での悩みを相談しやすくなったり、虐待も発見しやすくなったりする。

 髙橋候補の演説が終わると、各地から駆けつけた、れいわ新選組の地方議員たちが応援演説を順番に始めた。その中には、先ほど場所を譲ってくださった女性もいた。
 笑いと熱が混じった各議員の応援演説が終わり、高橋候補がもう一度政策を主張して、演説は終わった。
 高橋候補に写真をお願いすると、高橋候補の写真、そして、スタッフの方がツーショット写真も撮ってくれた。

 それから数分後、同じ場所に今度は緑色のジャケットを着た人たちが流れてきた。
「維新だ。」
 日本維新の会の新人候補野沢てつや候補。選挙カーが停車し、スタッフの人たちが準備を始める。スタッフらしき女性にYouTubeに投稿する動画の撮影をして良いかたずねると、あっさり
「いいですよ」
と笑顔で許可を出してくださった。一般の方がなるべく映らず、通行人の方たちの邪魔にならないよう、候補者のすぐ横で撮影を開始。
 最初は、多摩市議会議員の藤條たかゆき議員の応援演説。藤條議員が応援する横で、野沢候補が、通っていく人たちに手を振っている。

 途中救急車の音が聞こえると、藤條議員は演説をいったん止めた。そこで、私のことをちらっと見ると、野沢候補になにやら話しかけている。と思ったら、こちらに近づいてきた。皆さん撮影のことは了承済みだと思っていた私は、若干焦りながらも、
「あ、えっと…動画取る許可いただいて…あ、今大丈夫ですか…?」
「あ、いや、全然全然」「今、撮影していただいてるんですか?」
「あ、そうですね」
「ライブ配信?」
「ではなくって、あとで、編集して…テロップとか名前を入れて」
「ちなみに、どちらの方…?」
「個人でやっていて、この選挙で撮影許可取れた人の(動画を)あげようかなみたいな」
そう言うと、警戒がとけたのか
「あ、なるほど、ユーチューバーさん!」
「や、まだ全然やってないですけど…(笑)」
「じゃ、私顔にぼかし入れといて、ボランティアなんで(笑)」
と冗談を言いながら演説に戻っていった。
「はい、緊急車両通過につき、いったんマイクを控えさせていただきました。」
 元の調子で演説が再開され、私は気を取り直して演説撮影に戻った。
藤條議員は演説を終えると、もう一人の議員(先ほど撮影許可をくれた女性)が演説を始める。その最中、藤條議員が私に話しかけてきた。どうやら、演説の動画を後で送ってほしいとのこと。
「全部は長いから、最初のほうだけで大丈夫なんで!」
といって名刺をくれた。

 それにしても、応援演説が長い。私は候補者が話している様子を撮りたいので、応援演説が終わるまでじっと待っていた。
 二人目の応援演説が終わり、そろそろかと思ったら、衆議院議員の小野たいすけ議員が来ていて演説を始めた。撮影開始からは30分が経っている。
 そして、極めつけにもう一人、衆議院議員の阿部司議員が応援演説を始めた。(実は4人の応援演説者がいたことに気づいたのは、これを書くために動画を見返したときが初めて。私は、人が変わったことに気がつかないぐらい、ぼーっとしていたらしい。)

 阿部議員の演説途中、
「野沢候補の、ご健闘お祈り申し上げます。ともに頑張ってまいりましょう」
という長沢こうすけ候補のウグイス嬢からアナウンスが入った。
 それを一瞥した阿部議員は
「うるさいな」
とボソッとつぶやき、その直後マイクを通して
「長沢ー候補のご健闘お祈り申し上げますー」
と棒読みで言いあげた。

 ここ、西新井駅は、人通りも多く候補者が多く集まるようで、度々街宣車が通過していくのが目についた。
 駅では、演説場所の取り合いがあるというのは畠山さんが話していた。
 私が電話をかけて連絡を取った候補者の中にも
「駅でやると思うけど、だれかと被るかもしれない。そしたら意味ないから、場所は確定していないんですよ。」
と話す方がいた。
 確かに、音が被ると誰が何を言っているかわからない。だけど、「うるさいな」という言葉は、少し怖くて身構えてしまった。

 街頭演説が始まってから一時間が経ったところで、なにやらスタッフの方たちが
「止めないと、いつまでも話し続けちゃうから…」
と話している声が聞こえた。
 そう!もう一時間も経っているのに、肝心の立候補者はマイクを握っては一言も話していない!それに、日が暮れ寒くなってきて、私の体力と気力も限界に近い。
 『早く!野沢候補にマイクを渡してくれ!』

 そしてその数分後、ようやく野沢候補の演説が始まった。野沢候補は20年以上前に事故に遭い、車椅子で生活している。今回の選挙戦も車椅子に乗って活動を行っていた。
 そういえば、応援演説をする人たちが、車椅子に絡め野沢候補のことを「困難を乗り越えてきた」というように形容していた。
 野沢候補自身も
「車椅子だからこそわかったことがあり、まあ、ほんとにこう、よかった…よかったというのもあれですけど」
と演説中に言っていた。
 そうして、野沢候補の動画を十分ほど撮って区切りをつけ、私は撮影終了ボタンを押した。

 お礼の会釈をし、野沢候補の街頭演説中にちらちら見かけていた候補者たちを探しに歩き出した。

 すると案の定、そこから100メートルほど離れたバス停近くでへんみ圭二候補が演説をしていた。野沢候補の演説を聞いていた時、へんみ候補の演説は私には全く聞こえなかったから、音量を抑えめで演説をしていたのかもしれない。
 スタッフの方に撮影許可をいただき、撮影。
 20、30代くらいの若い候補かと思ったが、もらったビラを見ると「42歳」との文字。めちゃくちゃ若く見える。

 街頭演説が終わり、写真を撮影して良いか聞くと
「なんか、緊張するな」
と言いながら笑顔で撮影に応じてくれた。ツーショット写真もちゃっかり撮ってもらった。

 「ここは穴場だ。」
 と狙いをつけた私は、維新の緑色のジャケットを横目に、西口から東口へと向かう。

 「いるいる」
 西新井駅4人目の候補者は、名取てつろう候補。街宣車近くのスタッフの方に撮影許可を取ると、OKが出たがもうすぐ終わってしまうかもとのこと。
 名取候補が街宣車を停め演説をしている道路の反対車線へ回り込み、撮影を始めると、一分も経たないうちに演説が終わってしまった。車に乗り込み立ち去ろうとする名取候補の写真だけでもしっかり撮影しようと、もう一度街宣車のほうに近づく。
 写真撮影をして良いか尋ねると
「あ、もう全然どうぞどうぞ」
と言ってくださり、首を少し傾げピースサインをした一枚をいただいた。そして、握手をしてのツーショット写真も撮ってもらった。

 それから5分もしないうちにお次は、さの智恵子候補の街宣車が来た。
 撮影許可をもらえるか本人に聞くと、少し考え込んでいたので(さの候補が公明党公認候補ということもあり)
「公明党のほかの候補者の方の撮影もさせてもらったんですけど」
と聞く。
「どの候補者の…」
「くぼた美幸候補とか…」
そう私が答えると、街宣車のほうに戻って何やら話したのち、さの候補が
「あ、演説は公のものなので撮影は問題ありません」
と許可をくれた。
 公のもので撮影OKなら、なにを話しに行ったのか疑問が残るやりとりではあったが、なにはともあれ許可は取れた。

 さの候補の演説を聞いているとき、前を通り過ぎる人には、演説の邪魔にならないように頭を下げて足早に通る人もいれば、「うるせぇ」とボソッとつぶやいていく人もいた。

 確かに、街頭演説のスピーカーの音はうるさい。
 私も中学生の頃は、家の近くで選挙運動を行う候補者や選挙カーにイライラしていた。
「演説って何時に終わんの?」
と半ばキレ気味で母に聞いた記憶もある。

 今回の選挙戦で選挙カーを使わない選挙活動を行うと言っている候補も何人か見かけた。
 先ほど東口で演説をしていたへんみ候補も、
「コロナ禍でリモートワークをする人も多くなってきています。そういう方々のご自宅の前で選挙カーで大騒ぎをするというのは、これからの令和の時代には変えていくべきではないかと思います。」
と言って、選挙カーを使わない選挙活動をしていた。

 テレワーク中の方々や、子供の寝かしつけをしている方たち、家で静かに過ごしたい人たちに、選挙カーや演説の音は迷惑なだけなのかもしれない。
 だが、かつて選挙活動のスピーカー音に切れていた私は、選挙漫遊を知ってからというもの、ウグイス嬢の声に興奮して幻聴を聞くまでになっていた。(ウグイス嬢の幻聴が聞こえる 参照)
 音を頼りに、選挙カーを走って追いかけたこともある。だから、選挙カーが全くなくなってしまうのは悲しい。
 ただ、子育て世帯や、テレワーク・勉強をする人たち、HSPで音に敏感な方たちなどへの配慮の仕方は考えなくてはいけないと思う。   
 それと同時に、余裕がある人は選挙のことを知って候補者に会いに行ってみてほしい。そうすることで、選挙活動に対して少しだけ意識が変わることもあるのではないか。

 さの候補の演説が終わり、写真撮影を終えると7時30分過ぎ。8時まであと30分弱。私はもう一度西口に行き、まだ見ぬ候補者がいないか探していた。

日蓮大聖人の御遺命に背けば「入阿鼻獄」


 
 西口に到着するも、未確認候補者はおらず、代わりに私は何かのビラを配る女性2人に目を留めた。何かの広報誌だろうか。

 時刻は19時40分と、選挙活動ができる20時まではあと少し。彼女らのことは気にせず、今日はもう帰ろうかと思ったが、駅前にて笑顔で積極的にビラ配りをする維新のスタッフ(野沢候補らが、その時も駅前で演説を続けていた。)と、壁際の暗い場所でかなり控えめにビラを配る二人の対比がおもしろいと考えた私。
 話のネタになると思って女性の一人に声をかけた。声をかけると、女性は先ほどとは打って変わって積極的に話し出した。
 聞いてみると、どうやら宗教の勧誘のようだ。
 
 そういえば、前回の選挙で候補者を巡った時にも似たようなことがあった。
 候補者ポスターの掲示板の横に、女性が何かを持って立っていたから選挙スタッフかと思い話しかけた。すると「幸せのしくみ」と書かれた赤い表紙の本を渡され
「絶対読んでください」
と言われたのだった。
 「絶対読んで」という圧がすごければすごいほど、意地でも読まないぞと天邪鬼になる性格なのだが、表紙の
「頭をとる」
という言葉がなんとも不気味でそそられる。
「…読むか」

 表紙をめくって読み始める。どうやらその本(「幸せのしくみー頭をとる。悩みをとる。」木村正次郎 著)によると、現代人は理屈や思い込みで頭がいっぱいになっている。その頭を「とる」ことによって、宇宙エネルギーを体内に取り込むことができる。その宇宙エネルギーには「天行力(てんぎょうりき)」という天の意志により人間に届けられる高次元の宇宙エネルギーがあり、それを十分に受け取ることができるようになると、身体を構成する陽子や中性子の歪みがとれる。そうすると喜びが湧き大自然と一体になれる。要約するとそういうことらしい。

 途中、「陽子や中性子の歪み」と書かれているところがあったが、物理を学んだことがない私の頭にはクエスチョンマークがいっぱいである。
 そういえば、原子力発電の解説書をその時読んでいて、その中に「陽子崩壊」という言葉が出てきたからそれと関連しているのだろうか。いや、それとも前にYouTubeの動画で見た「トンネル効果」という量子力学の現象につながるものがあるのだろうか。ウィキペディアをみてみると、「トンネル効果は、原子核崩壊や核融合など、いくつかの物理現象において欠かせない役割を果たしている。」と書いてある。(ウィキペディア トンネル効果
 
そんなことを調べていたら、「陽子や中性子の歪み」という文の意味が余計にわからなくなってくる。
 読解には相当な時間がかかりそうな雰囲気が漂ってきたので、このへんで「幸せのしくみ」の話はいったん止めることにする。

 ていうか、何の話をしていたんだっけ。
 えーっと、そうだ。選挙漫遊をしていたら、宗教勧誘の女性に声をかけられたっていう話だった。

『あぁ、デジャブ。』
 以前の候補者巡りでもらった本のことを思い出しながら、女性に聞かれるがまま静岡在住で、2,3日足立区に滞在して候補者を巡る予定だということを話す。女性はそのことに少し戸惑いながらも
「よかったら、連絡先とか」
と聞いてきた。
『ど、どうしよう。』
どんな団体かわからないのに連絡先を教えるのは、さすがにまずい気がする。私は
「あ、ちょっと候補者の方に会いにいかないといけないので」
と言って、その場を立ち去ろうとする。
「あ、でも今日も滞在されるんですよね。時間ができたら、ここに連絡してください。」
そう女性は言って、連絡先を記した「顕性新聞」なるものを渡してくれた。
 
 選挙漫遊後、新聞を見てみると一面の見出しには
「日蓮大聖人の御遺命に背けば「入阿鼻獄」 早く六百万創価学会員を救わん!」
と大きく書かれていた。
「ん?創価学会?…創価学会と言えば、そうだ!公明党の支持母体じゃないか。」

 創価学会と公明党のつながりはなんとなく知ってはいたが、創価学会が仏教系の宗教法人だったことは初耳だった。
 『公明党の素朴な疑問』という公明党の公式ホームページにも
「公明党は、1964年11月17日に、池田大作創価学会会長(当時)の発意によって結成された政党です。以来、創価学会の仏法の理念に基づき、「個人の幸福と社会の繁栄が一致する、大衆福祉の実現」「人間性の尊重を基調とした民主主義をつくり、大衆とともに前進する大衆政党の建設」を目指してきました。」
と書かれている。

 また、顕正新聞(令和5年5月5日 第1613号 1面)には
「学会「王城会」の一幹部が誤送信してきた学会員あてのメールを紹介。その内容は、会長・原田稔をはじめ学会執行部・公明党を痛烈に批判したもので、いま学会組織に想像以上の内部分裂が起きている実態を赤裸々に報告した。」
という文章も書かれている。内部分裂。なにやら興味深い。
 あの時、新聞の内容に少しでも目を通していたら、この内部分裂云々につ
いて女性に質問ができたかもしれない…。

 そんな後悔をするとはいざ知らず、足立区議会議員選挙の初日はそこで、候補者巡りを終え、宿泊場所へむかうことにした。
 
 

何人も、不当な差別的取扱いをしてはならない


 
 宿泊場所選びには苦労した。なにせ予算が少ない。少しでも安く、でも安全な場所。

 最初に目を付けたのは1980円ホテル。一泊2000円少しで鍵付きカプセルルームに泊まれ、シャワーも利用可能。

 そんな1980円ホテルだが、ホームページのコンセプトを読むと、このホテルをプロデュースしたのは盧恩恵さんという韓国人の方ということがわかった。
 盧さんは数年前の日本での留学の経験から、若者が他国を知るためには、実際に現地に赴き、現地の人と話して自分の頭で判断する必要性があることを実感したという。そんな若者たちが、できる限り安価で宿泊できるようにこのホテルをプロデュースしたのだそうだ。(一泊1980円ホテル Tokyo HP
 
 昨今は日韓関係の悪化が叫ばれており、今年3月に行われた韓国首相とのシャトル外交は12年ぶり。関係改善の兆しも報じられたが、まだまだ課題は多い。
 日本の在日コリアンへのヘイトスピーチもその課題の一つだろう。

 私は、足立区議会議員選挙の下調べのため、足立区にある条例のことを調べていた。そんな中で、神奈川県の川崎市で2020年の7月から差別を禁止する条例が施行されたことを知った。
 その川崎市の東部に位置する桜本区は、在日コリアンの集住地区として知られている。 
 区内には、彼らが営む焼肉店や惣菜店が立ち並び、また、差別のない共生社会を創造していくために市が設置した「ふれあい館」という統合施設もある。
(川崎市の条例設置までの経緯をたどるため、ここから一段落、差別用語が含まれる文章が入ります。体調が悪くなってしまう恐れがある方は無理をなさらず、一段落読みとばしてください。次の段落を読まなくても話の内容がわからなくなるようなことはないので大丈夫です。)
 
 だが、その一方で、在日コリアンに対して「死ね」と叫ぶデモ隊や、「謹賀新年 在日朝鮮人をこの世から抹殺しよう。生き残りがいたら、残酷に殺していこう。」と書かれた年賀はがきがふれあい館に送られたこと、街頭で行われるヘイトスピーチなどにより、在日コリアンたちは恐怖を感じてきた。
 
 そうした差別の背景があり設けられたのが、川崎市のヘイト禁止条例だった。条例には
「何人も、人種、国籍、民族、信条、年齢、性別、性的指向、性自認、 出身、障害その他の事由を理由とする不当な差別的取扱いをしてはならない。」
との条文が記され、全国で初めて、差別的言動に対する罰則も設けられた。
 だが、条例制定後も町ではヘイトスピーチを含む街頭演説が行われるなど、ヘイト解消までの道は長い。
 
 と、1980円ホテルから、川崎市の条例について書いたところで、宿泊場所の話に戻る。

 1980円ホテルのコンセプト「現地に赴き自分で判断する」には選挙漫遊にも通じるところがある。
 なんだか、この話の流れだと1980円ホテルに宿泊することになった感半端ないが、予約状況を確認してみると、14日に部屋は全て埋まっていた。やはり、安価で設備が整っていることから人気があるのだろう。

 そういうことで次に目につけたのは、快活クラブ。鍵付き個室のある漫画喫茶で、シャワーも利用できる。だが、9時間滞在で4000円ちょっと。一万円はいかないが、やはり高い。

 そうやって「4000円かぁ」と頭を悩ませていると、母があるシェアハウスを見つけてきてくれた。
 それは「シェアラブ」という東京のシェアハウスで、家賃は1カ月2万円からだが、1週間からの滞在もできると謳われている。
「1カ月2万円なら、1週間5000円で滞在できるのか?」
 もしかしたら、告示日前入りをして投開票まで滞在できるかもしれない。急いでメールを送って14日から1週間滞在できるか、詳しい情報を待った。  だが、シェアラブの存在に気づいたのは、告示日3日前。さすがに直近すぎたのか、告示日1日前になってもシェアラブからの返信はなかった。
 
 「どうしよう。やはり快活クラブで少々値が張っても、安全に宿泊しろということか…。」

 そういえば、前にチラッと10時間、2000円ぐらいで泊まれるネットカフェがあることを発見していた。でも、もう一度そのカフェのページを探そうとしても見つけられなかった。
 「…なんとか、そこを見つけたい。」
 私は、自分の記憶とグーグルの検索履歴の記録を頼りに、その格安カフェを探し始めた。
 そうして、なんとか発見。カフェの名前は「カスタマカフェ」。
 鍵付き完全個室で、24時間営業。夜20時からはナイトパックの受付もしていて、11時間2000円で泊まれる。店内には無料のカレーがあり、何杯でも食べられるようだ。しかも、十時間以上のパックを利用する人にはシャワー無料。ここだ。
 足立区には店舗がないが、いちばん近いところだと赤羽に店舗がある。

あれ?ここ風俗店では?


 
 そんなこんなで、20時を過ぎたころ、私は西日暮里駅に預けた荷物を回収して、赤羽に向かっていた。

 それにしても、今日は疲れた。予定では最高で9人の候補者にしか会えないはずだったが、14人もの候補者に会うことができた。
 片山議員をはじめとした国会議員の演説も聞くことができ、かなり充実した一日だったように思う。

 赤羽駅に到着し東口を出る。駅から徒歩5分もしないところにカスタマカフェはあるらしい。が、なんだか、飲み屋といかがわしめのお店が目につく。
「…これ迷ったらまずいかもしれない。」
いつもより入念にグーグルマップを確認し場所を確かめる。
「あっちか…いや、そっちか…。」
場所に目処をつけて気合を入れる。
「きょろきょろしない、危険を感じたら叫びながら全力ダッシュ。…よし。」
 駅から歩き出し、飲み屋がある路地に入っていく。真っ暗ではないが、人通りも少なく、少し怖い。
 ここか!と看板を発見し店舗があるビルに入ろうとする。
 …ん?
 そこには屈強そうなお兄さん二人が立っていた。
『あれ?え?ここ風俗店では?』
 私を見たであろう二人も「ん?」と思って私を見ていたのだと思う。
 …いや、確かに看板にカスタマカフェと書いてある。このビルの中だ。
少しの勇気を振り絞り、ビルの中に入り階段を上る。

「あっ!やっぱりここだ。よかったぁ。」
 上った先にはカスタマカフェの明るい店内。受付前には3、4人が並ぶ列があり、私もその列に並んで順番を待った。
 前の人の受付が終わると、愛想の良さそうな男性の受付の方が対応をしてくれた。12時間2200円のナイトパックを頼み、支払いを済ませる。鍵のついたクリップボード、タオルとブランケットを受け取り、指定された部屋まで階段を上った。
 一階分上がった3階にはたくさんの部屋に通じるドアが所狭しと並んでいる。廊下は狭く、すれ違うのに苦労しそうだ。
 私の部屋はいちばん端。
 鍵を差し込んでノブを回す。
 ガッ。
 開かない。
『あれ?鍵はかかってなかったのか?』
そう思いもう一度鍵を差しノブを回す。開かない。
ノブは回さず、引くのか?
 ガッ。
 開かない。
「いや、この廊下の狭さ、押すのか。押すんだな」
 ガッ。
 開かない。
 開かない。
「いや、そもそも、最初から鍵が開いてたら、どこの部屋にも入り放題になってしまうではないか。鍵は最初閉まっていたはずだから、もう一度鍵を差して開けないと。」
そうして、もう一度鍵を差す。ノブを回す。
 引く。
 開かない。
 押す。
 開かない。
 …ノブをもとの位置に戻して、もう一度押してみる。
 開かない。
 引く。
 ガチャ。
『開いたぁ!』
『ノブは回さず引くのね!』

 やっと開いた部屋の中に荷物を投げ込む。電気をつけて、靴を脱ぎ、マットレスに倒れこむ。
『つ、つかれたぁ。』
 部屋の中からノブを見てみると、なるほど
ノブを回すことでロックがかかるようになっている。
 私が指定したのは、全面マットレス。広さは一畳半くらいだが、思っていたより広い。室内には小さなテレビに大画面のパソコン、コンセントの差込口が二つ。ドアのすぐ横には鏡があり、壁には二つハンガーがかかっている。

 とりあえず、シャワーを浴びたい。
 この日、一日中使っていたスマホと、スマホの充電バッテリーをコンセントに差し、シャワー室へと向かった。
 女性専用と書かれたドアを開け、シャワー室の扉を見ると
「使用の際は受付にお問い合わせください」
というような文言が書かれていた。どうやらシャワーは受付で、使用許可を得てから使えるらしい。
 受付に行き、「どうされましたか」という先ほどの男性店員に「シャワーを使いたい」ことを言うと
「では、3階の1番お使いください」
とすんなり許可をもらった。

 シャワー室に入ると、中は結構広い、というまでではないかもしれないが、快適に使えるスペースが確保されている。脱衣所の角には棚が設置されてあり、バスケットとドライヤーが置かれている。シャワー室の中にはシャンプー、リンス、ボディソープの3点がそろっており、結構至れり尽くせりな感じだ。
 今日一日の汗を洗い流し、さっぱりして部屋に戻った。

 『さぁ、寝よう』
 と目を閉じたいところだが、明日に向けての下調べや準備をしないことには眠りにつけない。
 今日撮った動画と写真を、スマホから、持ってきていたノートパソコンに移さないと、データがいっぱいで明日は撮影をすることができなくなるだろうし、候補者の街頭演説の予定もほとんどわかっていない。
 ラインや、メール、ツイッターをチェックして、街頭演説の予定をつかむ。そして、演説場所から、何時に、どの場所に行って、そこからどうやって次の場所へ行くかというルートも考えなくてはいけない。
 やることは山のようにあるが、明日の体力を持たせるために、最低5時間は寝たい。時計を見ると9時30分。早速作業を始める。
 が、その前に腹ごしらえだ。
 一杯無料のドリンク券を持って受付がある2階に行く。2階には、漫画がずらっと並んでいて、その一角には「蜜蜂と遠雷」などの書籍もある。
 机や椅子なども設置されていて、ゆっくり読書が楽しめそうだ。(私も時間があれば、東京喰種とか進撃の巨人とかストロボエッジもなつかしいし、特攻サ…以下略)
 十数種類のドリンクが並ぶ販売機、そして、カレーバーも置かれている。
カレーは2種類あって、こくまろマイルドカレーと極カレーの二つが用意されていた。ご飯も大きな炊飯器に入っている。
 私はマイルドカレーのほうを選び、お盆に載せて部屋に戻った。
 最初に、ドリンク販売機で選んだ桃ジュースをごくごくと飲む。
「うまぁ。うまぁ。」
そして、カレーをスプーンですくう。いつも家で食べるカレーと違って、スープのようにさらさらしている。一口食べる。
「うまっ。」
普通においしい。食べ放題のカレーだから、味はまぁまぁなのかなとか思っていたけど、おいしい。5分もせずに食べ終わって、食器を返却し、いよいよ作業を開始した。

 SNSや送ってもらったメールの情報を基に、エクセルの候補者スタンプ帳に、演説場所を打ち込んでいく。
 予定がわかった候補者は6人。
 少ない。やはり当日に決定して告知するのだろうか、情報が少ない。
 それでも、その6人の演説場所から回る順番を考えていく。メモ帳にそれを書き込み、空いている時間に演説場所から近くにある候補者の事務所も書き入れていく。
 そうして、スケジュール立てと撮影データの移行を行っていたら、すでに1時を過ぎていた。とりあえずの区切はつき、さすがに寝るかと電気を消して、5時30分にアラームをセットした。
 
 「…寒い。」
 いや、待て、寒くって寝られない。ブランケットはあるにはあるが、うっすい一枚だけだし、ぎゅっと背中と足を丸めても全身が覆われない。おまけについさっきまで、空調が効いていて、やっと、どうやって止めるかわかって止めたが体はしっかり冷やされていた。
 なんとか寒さをしのがねば。靴下を履き、上着を着る。うーん、寒い。体は疲れているはずなのに眠れない。
 意識をほかのことにそらさなければ。

 『…候補者がひとり、候補者がふたり、候補者がさんにん、候補者がよんにん、候補者が……』
 

赤27



 朝、目を覚ましたのは5時。
 最初の演説は北千住駅で8時からなので、7時30分にここを出れば十分間に合う。まだ眠っていても大丈夫なのだが、目が覚めてしまった。

 とりあえず、身支度を整えて朝ご飯を済ませる。昨日と同じカレーをほおばりながら、天気をチェックする。予報は雨。
『やっぱりか…。』
そう思い、持参していた河童を取り出した。
 土曜日にチェックした予報でもこの日は雨予報。折り畳み傘では、片手が使えず撮影に手間取る。そう思って河童を用意していた。
 ご飯を食べ終わり、追加の候補者リサーチを始める。すると、7時から8時まで西の原えみ子候補が梅島駅で辻立ちをすることが分かった。
 梅島駅。梅島駅から北千住駅までは電車で6分。候補者を撮影する時間に10分は欲しい。
 ということは、梅島駅には7時30分から40分ごろに着きたい。
 グーグルマップで調べると、赤羽駅からは「赤27」を使えば220円で西新井駅を経由して梅島駅まで行ける。出発時刻は6時40分。現在時刻は6時28分。
『…いけるか…、いや、ちょっと無理じゃないか。歯磨きとか、荷物整理もできていないし。次のは…58分。それならいける。』

 6時58分発の「赤27」に間に合うように、急いで支度を始める。昨日立てた予定より30分早い出発に焦りながら準備をする。
 歯を磨き、荷物を詰め込み、忘れ物がないか確認して部屋を出る。受付に鍵を返却してビルの階段を駆け下りた。

『ザーー』
雨。雨。
「…こんなに降っていたのか」
 雨は大降りとまではいかないが、ザーザーと降っている。
 私はてっきり小雨程度だと思っていたから、駅まで走り出す寸前だった。  これは、いけるか?いや、このまま出たら荷物がびしょ濡れ。服を濡らして体温を奪われるのも避けておきたい。
 時計を確認して
「急がば回れ」
と思いなおし、河童に身を包む。
 5年以上前に買ったこの雨具。使うのは何気にこの日が初めてだった。
ボタンを留めて走り出す。さっそく水たまりをおもいっきり踏んで靴を濡らす。だが、かまっている暇などない。駅に駆け込み「赤27」の文字を探す。
「赤27、赤27……ない!」
出発時刻数分前。改札口はここで間違いないし、グーグルマップには確かに赤羽駅東口と書いてある。ここが東口。
『ん?これ…』
グーグルマップに目を凝らす。
「バスか…?」
 よく見ると、乗り物アイコンのフロントガラスが二つに割れていない。電車のアイコンはフロントガラスが2分割式で、バスは分割されていない。
 ということは、バス乗り場。
 『赤27赤27、…あった!』
 バスの中ドアから、一歩足を踏み入れる。途端、乗客の目が私に向けられる。何事かと思い左右を見るとICカードリーダーがない。
 いったん引き下がり、様子を見る。よく見ると、バスの横には列ができている。並んで待っている人たちがいたのか。いちばん前にいる女性に話しかける。
「あの、並んでる感じですか?」
女性はイヤホンをはずしスマホから顔を上げると
「はい」
と答えた。
 そうか、並んでいたのか。私は列の最後尾に着こうとしたが、
「いや、でもこのバス赤27だし…西新井駅に行くバスだからこれに乗らないと。…なんで、ドアが開いているのに並んで待っているんだ?」
 私はもう一度女性に話しかける。
「あの、西新井駅行のバスを待っている感じですか?」
女性は先ほどと同じようにイヤホンをはずし、答える。
「はい」
「このバスも西新井駅行ですよね、これは乗れない…?」
「いや、私は次のを待っていて。」
「あ、なるほど」
 なんかよくわからないが、女性が並ぶ列は次のバス待ちらしい。それならば、やはり、このバスに乗ればよいのか。
 私は前のドアから乗り込むとパスモを取り出した。ピッと当てようとしたとき
『パスモって使えるのか?』

そう思ったのは、昨日一日乗車券をパスモにチャージしようとしたときICカードではスイカしか使用できないと表示されていたからだ。
『ここでもスイカしか使えないかも。』

「あの、パスモって使えますか?」
そう運転士の男性に聞くと、すこし戸惑ったようなそぶりを見せながら、どうぞと手をICカードリーダに向けた。
『大丈夫なのか。』
安心してカードをピッと当て、混雑した車内の前方で足の内側に着替えなどが入ったなバッグを挟み置く。
 学生らしき男性が入ってきた直後、バスは出発した。

 このバスに乗る人はみんな西新井駅まで行くのかなと思っていたら、5,6回停留所を経由したあたりで車内はかなり空いてきた。  
 空席ができたので、そこに座っていると、あることに気づいた。
 みんな、降りるときにカードをICリーダーにあてていないようなのだ。
「え?みんなどうやって支払いを済ませているんだ?」
 そう思って、前に身を乗り出して降車の様子を見るが、やっぱり降りる人は何もしていない。
『どういうことだろう。』
とバス前方を見ると、そこには紙が貼ってあり、それによるとどうやら運賃は一律220円らしい。
 なるほど。乗車した時に支払いは済ませていたのか。

 調べてみると、バスの乗り降りの方法には地域ごとに違いがあるらしい。
 均一運賃が原則の都営バスと23区エリアのバスは前乗り(前方のドアから乗車する)先払い。
 私が住んでいる静岡のバスは後乗り(中ドアから乗車する)後払い。選挙漫遊をしていると、こんな地域間の違いにも気づける。(バスの降車方法の違いが分かることが何になるんだと言われると、まぁ、そんな発見をするのって、楽しいでしょ…?としか言えないのだが。)

 西新井駅に到着して、梅島駅までここからは電車を使う。
 改札に向かおうとすると、バスを出た先で候補者2名が辻立ちをしている。
 一人はぬかが和子候補、もう一人はさとうひろき候補だ。

 ぬかが候補は駅前を通り行く人にお辞儀をしていた。その周りにはぬかが候補が所属する共産党のスタッフと思われる人が数人いて、そのうちの一人はマイクを持って演説をしている。ぬかが候補とは11時にまた会えるはずなので通過し、さとう候補に歩み寄る。
 スタッフらしき人に声をかけ、撮影許可をもらう。さとう候補に近づくと。
「昨日はどうも」
と挨拶をして、撮影を始めた。
 通行人に向かい「おはようございます」と言っている様子を撮ることができれば良いと思っていたが、撮影を始めるとカメラ目線で
「さとうひろきと申します。おはようございます」
と一言言ってくれた。私は、チャンスだと思い
「自己紹介とか、何か言いたいことあれば」
と促した。すると、さとう候補は時計を見て
「8時前で、選挙違反になっちゃうので」
と言った。
『そうか、選挙運動は8時から20時まで。それまでは、あいさつしかしてはいけないのだったか。』
 選挙漫遊で候補者の予定や連絡先を調べるのに時間をとっていた私は、選挙に関する原則や法律について勉強をしていなかった。
 「帰ったらいろいろ調べよう。」と自戒しながら、さとう候補の辻立ちを一分ぐらい撮影して、駅に戻った。
 
 

七つのゼロ!達成したのはなんとゼロ!


 
 駅に戻ると、構内には人がいっぱい。
「そうか、今日平日だもんな。今は通勤ラッシュの時間帯か…」
 選挙漫遊に夢中になり曜日感覚を失っていた私に、東京の電車は容赦ない。車内に入ると熱気で若干息苦しい。これを毎朝やっている会社員や学生の方々に敬意を表さずにはいられない。

 満員電車と言えば、2016年7月に行われた都知事選で現都知事の小池百合子都知事が「満員電車ゼロ」を掲げていた。小池都知事は「満員電車ゼロ」以外にも、「待機児童ゼロ」「介護離職ゼロ」「残業ゼロ」「都道電柱ゼロ」「多摩格差ゼロ」「ペット殺処分ゼロ」という計七つのゼロを達成することを公約にしていた。
 そんな七つのゼロを切り札に都知事に当選した小池知事だが、その4年後に達成していた公約は七分のゼロ。(小池知事は2019年4月5日、ペットの殺処分数ゼロを達成したと定例会見で発表した。ただ「殺処分ゼロ」に含まれない、衰弱や病気・かみ癖があり獣医師らが譲渡できないと判断して殺処分された動物は約150匹いた。(「犬や猫、150匹処分したのに「殺処分ゼロ」? その訳は…」))

「小池知事が公約にしたのは七つのゼロ!達成したのはなんとゼロ!」
 というのは私の鉄板ネタで、中学3年生の妹の笑いをとることができる。(皆さんもぜひ飲み会の席などで無茶ぶりをされたときにはこのネタを使ってみてほしい。*大いにスベった場合の責任は取りかねますのでその点ご
留意ください。) 

 そんなふうに、静岡にいればネタにして笑えるだけなのだが、実際に東京の満員電車に乗ると、他人事のようには笑えなくなる。
 私が乗っていた5月でこの熱気なら、夏場はもっと蒸し暑くなるだろうし、また体調が悪くなっても、身動きできず我慢するしかないという人もいるのではないだろうか。小池知事には引き続き満員電車ゼロ達成のため頑張ってほしい。


ビラを求めて


 
 梅島駅に着くと「ふっ」と息をついて、改札に向かう。
 改札を出た駅前で、西の原ゆま候補が挨拶をしていた。こう言っては失礼なのかもしれないが、どこか少女のような親しみやすい雰囲気が感じられる。
 撮影許可を取り、一分ほどの撮影をして、ビラをもらえるか聞いてみる。 

 ちなみに、私が求めた選挙運動用の証紙ビラ、これについても電話で足立区の選管職員の方に質問をしたとき、詳しく説明してもらった。 

 その方によると、ビラを配る方法は4つ。新聞への折り込み、事務所での配布、個人演説会での配布、そして街頭演説での配布。街頭演説で配布を行う場合は、街頭演説を行って良い8時から20時までに時間が制限されるのだという。

 このことに関して、2019年5月17日衆議院の内閣委員会に立憲民主党の初鹿明博議員(当時。初鹿議員は2020年12月に強制わいせつ容疑で書類送検され、その後議員辞職した。)が質問主意書を提出していた。
 内容は、2019年3月から地方議員選挙においてもビラの配布が解禁されたが、まだまだ有権者がビラを受け取る機会は少なく不十分。街頭演説ができる8時からのビラ配りでは、8時前に通勤する方たちはビラを受け取ることができず、投票に必要な情報の取得に格差が生じる、というものだった。
 そもそもこの制限は「当該ビラの無秩序な頒布による弊害等に係る国会における議論や同法(筆者註・公職選挙法)第百三十八条第一項の規定による戸別訪問の禁止等を踏まえたもの」(衆議院議員初鹿明博君提出地方議員選挙における選挙運動用ビラの頒布方法、枚数、時間に関する質問に対する答弁書)らしい。

 確かに、公職選挙法が公布された昭和25年5月前後の国会議事録をみてみると
「至るところへ演説のビラを貼る(ー中略―)ということになつては、選挙が非常に金の要ることになるから、これに或る程度の制限を加えたいということが強く衆議院側の今議論しておるところなんです。」(第七回国会・参議院 選挙法改正に関する徳罰委員会 昭和25年2月11日 小串清一)

という費用の問題や

「東京都内で多少何か投票所の近くでビラなどを撒いた者もあるかのようでありますが、直ちに取締りの方でそれぞれの手配をいたしましたように報告あつた次第でりあます(筆者註・原文ママ)」(第七回国会・参議
院 地方行政委員会 昭和25年6月5日 海野晋吉)

といった選挙での騒ぎを報告する発言があった。

 だが、令和5年5月15日に話を戻して、梅島駅で西の原候補の辻立ちに間に合った私はそんなことはもちろん知らない。一知半解で、8時前だがビラを求めて突っ込んでいってしまった。それに対して 
「実は、まだ印刷が終わってなくて…これなら政策がわかるかな」
と西の原候補は2枚のビラを渡してくれた。
 このビラは証紙ビラではなく、また私から要求して渡したものなのでセーフということになるのだろうか。
 ともかく、私はビラのお礼と写真撮影を終えて梅島駅を後にした。
 

「ほ、豊作じゃないか(にやけ)」


 
 梅島駅から北千住駅に着き、西口を目指す。コインロッカーに荷物を預けてから撮影に入りたかったが、もう8時を過ぎている。

 西口から外に出ると候補者たちがいた。目視で1,2,3人。
「ほ、豊作じゃないか」
にやけがとまらない。
 まずは、駅西口を出てすぐ、右にいいくら昭二候補。左に渡辺ひであき候補。そして下には小林ともよ候補。
 ふふふ、腕が鳴る。

 最初に声をかけたのは渡辺ひであき候補。渡辺候補に連なって10人ぐらいがずらっと並んでいる。演説許可をすんなり取って、一分くらいの動画を撮影。
 写真撮影も大丈夫か聞くと
 「あ、どうぞどうぞ」
と渡辺候補。やっぱりスタッフの方がツーショット写真も撮影してくれて、次の候補者へ。

 10メートルも離れていないところで、同じように立っていたのはいいくら昭二候補。
 渡辺候補の大名行列的な雰囲気とは打って変わって、いいくら候補とスタッフと思われる女性の二人だけがいた。撮影しても良いか本人に聞くと、
「撮影のほうは党本部に確認をとってもらって」
と言われる。いいくら候補は公明党の公認候補者だったので、
「ほかの公明党の方は撮影させてもらったんですけど」
と聞き返すが、
「本部のほうに確認をとってもらって」
と返される。

 『…これがいわゆる「テープレコーダーのように」ってやつか。』

 くぼた美幸候補や、さの智恵子候補は撮影許可を出してくれたのだから、党が一律に撮影について指示を出しているわけではないだろう。
 また、候補者の街頭演説の撮影は公開して行われたものでその内容が政治上の演説である場合には無制限に使用できることになっている。(著作権法第40条第一項)駅前は公開の場だろうし、タスキをかけて選挙活動をしていたのだから政治上のものであることは間違いない。

 だが私自身が撮影に関して、そういったことをしっかり把握しておらず、また、小林候補の演説を逃すのもためらわれたので私は食い下がることができなかった。

 仕方なしにその場を立ち去り、ペデストリアンデッキから下方をみる。すると小林候補のほかに、もう二人候補者がいる。
 エスカレータ―を降りたところに、一人、はしもとまごみ候補。駅前のいきなりステーキの店の前にもう一人、工藤てつや候補。

 一人目のはしもと候補はツイッターで辻立ちの様子を投稿していた。どうやら、今年の1月1日から100日以上やっているようだ。ツイッターで見た写真と同じように挨拶をしているはしもと候補に声をかける。
「あの、はしもと候補が挨拶している様子を撮影したいんですけど」
そう言っている私に自分が持っている傘をそっと差しだし
「良いですよ」
と許可をくれた。
 名刺もいただいて、一分ほどの撮影をこなす。

 小林候補がまだ演説を開始していないのを確認して、2人目、工藤てつや候補のもとに駆け寄る。
 工藤候補は土田しん衆議院議員と一緒におり、そこに声をかける。
「あの、わたし足立区議会議員選挙の候補者の方を回っていて、写真を撮らせてもらいたいんですけど」
 街宣車に乗って立ち去ろうとしている様子だった二人にそう言うと、ガッツポーズで撮影に応じてくれた。
「いろんな人を回ってるんですか」
と聞かれ
「そうですね。」
と答えると、土田議員が
「ぜひ、清き一票を」
というのですかさず
「あ、私有権者ではないんですけど、静岡からきて」
と訂正。
「あ、それはそれですごいな(笑)」
という土田議員に苦笑で応じ、工藤候補から選挙ビラももらって、ようやく予定通り小林候補の街頭演説へ。

 黄色いジャンパーを着ている女性スタッフの方に撮影してYouTubeに投稿しても良いか聞くと、小林候補のところへ行って確認をしに行ってくれる。  何やら話した後、小林候補が近寄ってきて、少し心配そうな顔で
「撮影して投稿したら、動画を送ってもらえますか。」
と話しかけてきた。
「どこに送れば…」
「じゃあ、ラインに…」
そうしたやり取りを経てから撮影を開始。
 10分ほどの演説を撮り、やっと、コインロッカーに荷物を預けに行く。

 重いバックから解放されたところで、もう一度ペデストリアンデッキに上り周囲を見回す。すると、緑のジャケットが目に入る。維新の…野沢候補だ。
 昨日十分すぎるほど野沢候補の横でカメラを回していたので、さすがにいいかと思い、そこには向かわなかった。
 先ほど撮った小林候補までの7人分のツイートをすると、時計は9時を差そうとしていた。
 

いや電車使え、電車!


 
 次に向かうのは北綾瀬駅、はたの昭彦候補の演説だ。
 千代田線に乗り、空いている車内の椅子に腰かける。
 北綾瀬駅に着くまで、候補者名簿にチェックを入れていく。すっかりその作業に夢中になっていたところで、はっと顔を上げる。
『…乗り過ごし…てはないよな。北綾瀬のアナウンスは聞こえなかったし…。』
 電車が停車し駅の表示は「亀有」。亀有は葛飾区だ。
『あ、やばくね?』
 とりあえず列車から降りる。
 グーグルマップを見てみると、北千住駅から千代田線に乗り、綾瀬駅でいったん降りる。数分後に来る同じく千代田線の電車に乗り換えをして一駅行くと北綾瀬駅に到着すると表示されている。
 さっき見たときは千代田線で北千住駅から綾瀬駅に直接行くルートが表示されていたはずだ。そういえば、一本早い電車に乗ったが、まさかそれで亀有駅に来てしまったのか?

 状況をつかみあぐねていた私に解説すると、まず、千代田線と常磐線は直通運転しているらしく、私が乗った8時52分発の電車は綾瀬駅から常磐線の電車になり、亀有に行ってしまった。だから、綾瀬駅で一回降りて千代田線に乗り換えなければいけなかった。
 一方、9時6分発の電車なら千代田線のまま直通で北綾瀬駅に行けたらしい。
 なんだか解説するといったものの、よくわかんない。まぁ、何はともあれ、乗り間違えて亀有駅に来てしまったのだ。

 グーグルマップで北綾瀬駅に行くルートを検索してみる。電車だと10分。徒歩だと30分。
 それを見て何を血迷ったのか私は、徒歩で行こうと歩き出したのだ。
 「いや電車使え、電車!」
と、北綾瀬駅までの持久走を経験した今なら言うのだが、
「まだ9時過ぎだし、演説は45分から。交通費節約のためにも歩いていこう」
と能天気に考えていた私にその言葉が届くはずもない。

 途中までは順調だった。

 駅を出て、建物を目印に歩いて行く。だが、途中から雨が降ってきて、手元のスマホにしずくが落ち、そのせいか、マップを拡大すると、画面は逆に縮小する。画面をふいても、なかなかうまくいかない。

 そんなことをやりながらのろのろ歩いていると、時間の経過とは早いもので9時20分を過ぎている。そこでようやく
『やばいかも…』
そう気づいた私は、走り出した。
 拡大したら縮小するグーグルマップのせいで道がわからないので、交差点でママチャリに子供を乗せた男性に声をかける。
「すみません、あの北綾瀬駅ってあっちのほうですかね」
縮小された地図を頼りにつかんだ方向をさして、尋ねると
「そうですね、ここを、もっと、歩道橋のほうまで行って、あっちの…」
「あ、あっちですね。ありがとうございます。」
 信号が変わり、男性が自転車を走らせぐんぐん前へ行く。
 自転車さえあれば。
 デジャブを感じながら、走る。走るしかない。

 歩道橋が見え、すかさずそこを右に曲がる。ここをまっすぐ行けば駅に着くはず。相変わらず、スマホは私の拡大の指示に縮小をして答えてくる。
 前方を見ると、工事の交通整理をしている男性が見えてくる。近づいて
「すいません、北綾瀬駅ってあっちですかね」
と前方を指して聞く。
「すみません、越してきたばかりでわからなくて」
「あ、そうですか、すみません、ありがとうございました」
 男性にお礼を言って、走る。とにかく、今走っている方向があっていることを確認したい。
 信号を2つほどいったところ、信号待ちをしていると、目の前のバス停でバスを待っている年配の男性が見える。あの人だ。
 信号が青に変わり、その男性のもとまで走り出す。
「すみません、北綾瀬駅ってあっちですか」
息を整えながらそう聞くと
「そう、公園をこえてって。」「あれが路線だから」
そう言って右手にある路線を指し示してくれた。
本当だ、路線が見える。いい目印をゲットした。
「あ、なるほど。ありがとうございました。」
すぐさま走り出す。

 線路沿いに少しずれて走っていくと、公園の中に入った。
 グーグルマップを見ると、北綾瀬駅のすぐ近くに「しょうぶ沼公園」がある。『ここが、しょうぶ沼公園か?』
 案内板を探して見てみると「都立東綾瀬公園案内図」の文字
『ちーがうぅ…。』
 ここは、男性が「公園をこえてって」と言っていた公園だ。こえる公園だ。
 走る。走る。
『はぁ、はぁ、見えてこない。まさか、通り過ぎた?』
 作業服を着た男性を発見し『また、聞くのか…』とためらいながらも声をかける。
「北綾瀬駅って、あっちですかね」
「あ、そうですね、そこをまっすぐ行って」
「ありがとうございます。」
 たぶんあともう一息だ。走る。

 そうして行くと、駅の案内表示が前方に見えてきた。左手には公園。9時45分ギリギリ。はたの候補の街宣車は到着しており、スタッフの方に撮影許可を取る。
 肩を上下させながら、撮影を開始した。雨はいつの間にか止んでいた。
 私の横には、地域の見守りボランティアの方なのか、パトロールベストを着た男性がはたの候補の演説に耳を傾けていた。
 演説が終わるとはたの候補はその男性や、遠くのベンチで聞いていた人のもとへ駆け寄りビラを渡し挨拶をしていた。
 その後私のほうにも来て、写真撮影をさせてくれた。
 
 なんとか間に合い一段落。私は公園の中を少し散策することにした。
 少し歩くと、なにやら稲のようなものが植えてある場所に突き当たった。そこには一列ごとに「白鷹」「花錦」「駒留桜」「邪馬台国」といった立札がさしてある。その時は「駒留桜」という文字を見て、桜の苗かなと思ったが、後で調べてみると、これらはハナショウブの品種らしい。そういえば、この公園の名前は「しょうぶ沼公園」だった。
 足立区のホームページによると、しょうぶ沼公園は「土地区画整理事業に伴」い作られた公園で「昔の地名を残したいとの地元の方々の願いから、旧地名である菖蒲沼耕地にちなんで」その名がつけられたのだという。
足立区HP しょうぶ沼公園) 

 近くの看板を見ると、「咲き終わり」という文字の横にチェックマークがしてあり、開花しているものは見られなかった。それでも、様々な品種名を記した看板とともに整然と並ぶショウブの苗を見ていると、涼やかな気持ちになった。
 開花状況を知らせる札の横には、
「長時間一定の場所に立ち止まらないでください」
という感染対策のための札もかけられていた。所々が汚れたその札は、新型コロナウイルスの感染が始まった2020年からの時間の経過を感じさせた。

西新井大師西駅へ


 公園を出たのは10時過ぎ。次は11時から、西新井大師西駅前でぬかが和子候補の演説だ。

 メモ帳を見ると、北綾瀬駅から西新井大師西駅まで、赤いボールペンで矢印がひかれ、『30分』の文字が書かれている。グーグルマップで確認すると、確かに「王30」というバスを使って30分で到着するらしい。
 バス停を見つけて10時24分発のバスを待つ。

 雨具入れの中に入れておいたペットボトルを取り出すと、白い泡が上部にたまっている。
 一体、どうしてこうなったのだろうか…。
 ぼーっと空を仰いで、泡交じりのお茶を飲む。
 バス停近くのベンチに雨で濡れていない場所を見つけ、そこにちょこんと座る。行き交う車を眺め、何気なく左を向く。
『北綾瀬駅のほうに行って、候補者がいないか探そうか…』
という考えが一瞬よぎるが、すぐに前に向き直り、また、ぼーっと、前に流れる景色に目を戻した。
 バスが到着し、空席をみつけて腰掛ける。西新井大師西駅近くの「江北陸橋下」というアナウンスを聞き逃さないようにだけ気を付け、バスに揺られる。
 途中、近くを通っているらしい選挙カーからのウグイス嬢の声に車窓を覗き込みながら、江北陸橋下に到着。

 予定より少し遅め、11時数分前に着いたため、やはりここでも演説場所まで走ることになる。日暮里舎人ラインが上を通っているので、迷うことなく、そこに沿って西新井大師西駅まで進む。
 と、数メートル走ったところで、心臓にぎゅっと痛みが走る。反射的に足を止め、歩を緩める。
「び、びっくりした…。なんだ…?…あれか、人間、無理に走りすぎるとこうなるのか…?とりあえず間に合いそうだし歩いてくか…」
 心臓は一瞬傷んだだけで、その後は呼吸も整い、11時ちょうどに駅に着いた。選挙カーの姿はまだない。
 私が今いる西口側か、道路を挟んだ東口側、どちらでやるんだろうと思っていると、ウグイスの声が聞こえてくる。声のほうに顔を向けると、選挙カーは東口側に車を停めた。 
「…やっぱり、こうなるのか」
 半ば(悪い)予想通りという感じで、駅構内に入り階段を駆け上る。道路をまたぐ通路を走り、雨で濡れている階段を慎重に降りる。  
 選挙カー横のスタッフの方に撮影許可をもらって撮影開始。

 雨が降り始めるが、両手でスマホを構えているから河童を着られない。『小雨程度だからまぁ大丈夫』と言い聞かせ、約10分間撮影を続けた。
 演説が終わると、ぬかが候補は「ありがとうございます」と私にお礼を言いに来て、写真を撮らせてくれた。
 
 

初めて見るよっ!


 
 選挙カーに手を振ってお別れすると、すぐさまグーグルマップで足立区役所への行き方を調べる。

 この後、実は和田あいこ候補の五反野駅からの練り歩きが始まる16時まで、演説の情報は入手できていなかった。
 そのため、足立区役所と、その近くに事務所があることをSNSでつかんだ佐藤あい候補、そしてそこからかなり離れることにはなるが、足立小台に店を構える杉浦俊介候補の「BRUCKE coffee」に行くつもりだった。

 足立区役所には選挙公報入手のため、佐藤候補は数日前インスタをチェックしていた時に生後5か月(2023年4月17日時点)の子供がいると知り興味を持っていたこと、そして杉浦候補はツイッターで
「店舗を事務所にしていいのかを選管に聞いてみよう。回答が全然オッケーですならやってみてちょっとわからないということなら事務所はなし」
と投稿していたことが頭に残っており、それゆえのチョイスだった。

 距離や移動時間を考えると、なるべく早く行ったほうが良い。
そう考えて、先ほどの江北陸橋下のバス停のほうへ向かう。バスは10分後に到着するから、あまり焦る必要はない。高架線沿いに道を歩いていく。周りの景色を見ながら、「こっちだな」と進んでいく。

「うん、こんなスーパーを見た気がする。」

 見た気はするのに陸橋は見えてこない。

「…いや、行きは走っていたから、もう少し歩いたら見えてくるはず!」

 見えてこない。
 というか、行きは走っていたなら、周りを見ることなどせず一目散に西新井大師西駅に向かっていたのでは?

 かっぱ寿司が前方に見えたところで
「……いや、かっぱ寿司は見てないぞ…」

 グーグルマップを開く。
「かっぱ寿司…かっぱ寿司…は、…反対方向じゃねぇかッ!」

あーやった、やらかした、やらかすと思ってた。何が
「このスーパーは見た気がする」
だ。見てねーよっ‼初めて見るよっ!

 すぐさま迂回し、スーパー横目に走り出す。雨脚が強くなるが、バス発車まであと五分もない。河童を出す暇もなく、走る。
 走る、が、足が、動かない。かなり疲れ始めているようで、バスの発車時刻になってししまう。
 しかたなしに次のバスに乗ることにして歩き出す。
 バス停に着いたところでようやく河童を着て、バスの時刻表を確認する。
「11時49分足立区役所行。」
 10分以上待つことにはなるが、仕方あるまい。
 ほとんど泡だけになったお茶を飲み干し、空のボトルを河童が入っていた袋に入れる。
 前かがみになったり背伸びをしたりして、足を伸ばしながらバスを待つ。

 時間の流れは驚くほどゆっくりになり、さっきまでは滑るように針を進めていた腕時計も眠ってしまったかのようだ。
 足立区役所行のバスより先に、別方面へ向かうバスが来る。私のそばでバスを待っていた女性が
「乗りますか?」
と聞いてくれる。
「あ、いえ」
と答えてバスを見送った数分後に、区役所行のバスが到着した。

このバスは終点が足立区役所だから、アナウンスに神経を研ぎ澄ませる必要はない。
 足立区役所までもう少しかなというところで、バスは停留所に停まった。 バス前方の電光掲示板を見ると、「足立区役所」という文字が目に入る。
「あ、ここか」
周りを見渡す。だが、中の乗客は降りるそぶりを見せない
「…そうか、出口に近い私が先に降りる感じか」
そう思ってバスを降りる。
 ピーっという音でドアが閉まりバスが発車する。降りたのは私と数人の乗客。
「えっと、区役所はどれだろう?」
 だが、周りに立ち並ぶ建物で区役所らしきものはない。
「…ちょっと待てよ。あのバスの電光掲示板の表示「足立区役所『行」」ってなってなかったか?てことは、ここは足立区役所前じゃない?」

 ご名答。ここは足立区役所から270メートル、区役所のバス停からひとつ手前のバス停、小右衛門町。

 「……ふーーー…。」
 長めのため息を吐いて、河童を着ながら歩き出す。
 どうしてこうなるのだろう。いや、まじで。

 足立区役所に着くと、停車していたバスからはもう乗客が降り、各々が目的地に向かっているところだった。
 

64人目


 
 区役所に入ると、期日前投票のための会場が設けられており、案内の職員の方たちも数人いた。
 自分の住む町の役所とは違い、大きく賑やかな役所に感嘆する。投票会場の近くには、カフェのような店もあり、数人が近くの椅子で食事をしていた。
 選管のスタッフらしき、女性に選挙公報がないか聞くと
「あー、ちょうど今日集まって、印刷していて、明日には届くと思います。すいません。」
と親切に事情を教えてくれた。
「あ、そうなんですね。ありがとうございます。」

 役所での用事は済んだので、チラシスタンドから選挙啓発のためのビラを一枚いただき、佐藤候補の事務所に向かおうとした。
 そのとき、そういえば妹からお土産を頼まれていたことを思い出す。
 先ほど見たカフェにいくと、何やら持ち帰りできそうな食べ物が売っている。
 その中に、あだち菜パスタ・うどんという商品があった。見ると、3袋で1000円・パッケージ入りの箱に詰めてくれるという。緑色の麺という珍しさと、パッケージに印刷された江戸絵画が気に入り購入した。
 50センチほど高さがある箱を河童入れに詰め込もうとするが、空のペットボトルが邪魔して入らない。いったんペットボトルを出して、箱を入れ、それからペットボトルを突っ込む。購入早々箱にへこみができるが仕方がない。

 外へ出て、区役所前にあった候補者(64人分の)58人のポスターが貼られたポスター掲示板を見つけ、写真を撮る。そこに、私が見たことのなかった候補者がいた。
『佐藤のぶえ』
 急いで近づき彼女のポスターの写真を撮る。これで、全64候補者の情報をとりあえずゲットした。
 ツイッターで選挙前から発信はしていたようだが、私は主に選挙ドットコムを見て候補者リサーチをしていたので、そこに登録していなかった佐藤候補に気づくのが遅れてしまっていたのだ。

拡大!縮小。拡大!縮小。


 
 区役所を後にして、私は佐藤あい候補の事務所に向かった。
 佐藤候補の事務所は、足立区役所から日光街道を北に行き、セブンイレブンがあるところを曲がれば着く。
 道は複雑じゃないので、今度こそスムーズに行けそうだ。

 事務所へ向かう途中デニーズの駐車場に街宣車が止めてあるのが目に入る。駆け寄ってみると、銀川ゆいこ候補の街宣車だった。本人はいないようなので、スタッフの男性に演説予定を聞く。
「今日は竹ノ塚駅で18時からですね」
 お礼を言って、メモ帳の18時の欄に「竹ノ塚駅 銀川ゆいこ」と記す。

 5分ほど歩くと、セブンイレブンを確認し、右折して路地に入っていく。 右手にあるはずだからそちら側に注意しながら歩いていく。  
 すると、ある家の駐車場に段ボール箱が置かれているのが見えた。
「あ、あれは選挙7つ道具⁉」と思ったが、どうやら違う。事務所の表札はなく一般の方の自宅のようだ。
「また、通り過ぎちゃったのかな…。それとも、一つ向こうの路地?」
 そう思って、きょろきょろとあたりを見回しながら引き返す。
 一つ向こうの路地に入っていくが、やっぱり見つからない。
 グーグルマップを使って建物や路地の配置を見ればすぐわかるのだが、やっぱり雨のせいか、私の拡大に縮小で答えてきやがる。

 番地はメモ帳に書いてあるので、今度はそれを頼りに探してみる。セブンイレブン横に番地が記された地図を偶然発見して目を凝らす。目的の事務所は1丁目8番地だ。
 だが、その地図を見る限り周りには24や23という20番台や2なんていう桁も出てくる。
「え、番地ってどういうしくみ?」
と思いながら途方に暮れる。

 やっぱりここはグーグル先生を頼るしかない。 スマホを最大限顔に近づけて、雨に濡れないようにする。持っていた眼鏡吹きで画面を拭き、拡大!
縮小。拡大!縮小。もう一回、拡大!拡大。きた!
 見ると、左手側に学校があり、その学校を過ぎ、信号を渡って少し行ったところにある。
 私が引き返してきたのは、ちょうど信号の前。迷うのを恐れてしり込みしすぎた。
 拡大された地図をしっかり見て、事務所がある通りに出ると佐藤あい事務所の看板が見えた。
 事務所前まで来てすりガラスの扉に手をかける。中に入ると男性のスタッフと思われる人がいて、出迎えてくれた。
 いろんな候補者を回っていて、佐藤さんにも会いたいということを伝えると、
「あ、雨の中ありがとうございます」
ととても腰を低くされて、椅子に座るよう促された。
 思ったより深かったアウトドアチェアに少し体勢を崩されながら、濡れているメモ帳を目の前の机においても良いものか迷っていると、男性スタッフは
「あ、どうぞどうぞ」
と濡れたものを拭くティッシュを持ってきてくれた。
さらに、今街宣をしているらしい佐藤さんに電話もかけてくれた。
「どうやら14時前ぐらいに戻るらしいんですけど…」
「あ、わかりました。14時前ですね。」
「すいません。わざわざ来ていただいたのに。ほかの候補者の方とか回られますか?」
「はい。そうします。」
 とても申し訳なさそうにされる男性を見て、なんだかこっちも少し申し訳ない気持ちになる。
 メモ帳に書いた「14時」の文字の横に「佐藤あい」と書き込み、事務所を出た。
 

「私はまだ、新人なんでね」


 
 時刻は13時過ぎ。ここから杉浦候補の事務所までは片道40分。
『さすがに、いけないか。もし事務所に行けたとしても、杉浦候補は自転車で選挙ポスター貼りに行っているから、いない可能性もある。とりあえず梅島駅に行って、そこからほかの候補者の事務所にでも行くか。』

 梅島駅の近くには杉本ゆう候補や銀川ゆいこ候補の事務所があることがわかっていた。
 だがその前に、梅島駅に着いて、まずはゴミ箱を探す。いい加減、この空のペットボトルを捨てたい。 
 高架下に一つゴミ箱があったが、中身が溢れていて、そこに置くのは憚られた。だが、少し行ったところのコンビニの前にリサイクルボックスがあり、そこにボトルを入れる。やっとあだち菜への圧迫が解けて
「さて、どちらの事務所に行こうか」
と考えていると、名取てつろう候補がやってきた。どうやらこれから練り歩きをするらしい。
 名取候補は昨日街頭演説に立ち会ったが、1分もせずに終わってしまった。梅島駅からの練り歩きなら、時間が来たらすぐ、佐藤あい候補の事務所に向かえる。

 名取候補に撮影許可をとって、練り歩きにくる関係者を待つ。
 待っている最中に名取候補が
 「私はまだ、新人なんでね」
と話しかけてきてくれた。
「あ、今回が初めてなんですか…?」
「いや、そうではないんですけど」
 名取候補は2011年から2015年、2019年と3回足立区議会議員選挙に立候補してきたが落選を続けていた。
「あと少しっていうところが難しいんですよね」
 59歳になり、今回が4度目の挑戦となる名取候補のその言葉には重みが感じられた。

 人が集まり練り歩きが始まると、名取候補はスピーカーなどの拡声器は使わず、地声で
「こんにちは!名取てつろうです!」
と声を出し、住宅街に入っていく。よく通る声だ。
 前方に通行人の姿が見えると、そこへ向かって駆け寄っていき、お辞儀をして挨拶をしビラを渡す。
 しばらくして、そろそろ、佐藤候補の事務所へ向かわなければと思い
「あ、この辺で失礼します」
というと、スタッフの方と一緒に名取候補は
「ありがとうございました」
とお辞儀をして言った。私もお礼を言ってその場を立ち去る。
 名取候補は撮影中、ずっと笑顔で挨拶を続けていた。
 
 

佐藤あい候補 インタビュー


 
 佐藤候補の事務所に戻ると、先ほどの男性が迎えてくれた。
 私の河童をハンガーにかけてくださり、
「帰るとき忘れないように」
と笑顔で声をかけてくれる。
 佐藤候補はもうすぐ帰って来るらしく、待っていると
「静岡県には縁があって、お墓を立てる代わりに、家の中に遺骨を保管できるようなケースとかを作っている会社が静岡にあるんですよ。骨を砕いて小さな箱に入れられるようにして。その会社に、私も仕事で訪問していて。」
と、私が静岡出身だということで、話してくれた。

 私の祖父二人の遺骨は、お墓に納骨されている。どちらの墓も、私の家から10分ぐらいのところにあって、ジョギングをしに近くを立ち寄った時などは手を合わせるようにしている。
 でも、私のようにお墓が近くになく、歩いて行くのが大変な場所にある人には、そういった納骨の選択肢もあるのかもしれない。

 そんなことを思って話に感心していると、別のスタッフの女性と男性が事務所に入ってきた。どうやら、午後からのウグイス嬢と、運転手の方らしい。
 その二人が来て少しすると、お骨の話をしてくれた男性は
「あ、じゃあ僕これで失礼します。」
と帰っていった。

 男性が帰った後は、ウグイスをするという女性スタッフの方とお話をした。
 どうやらその方は、政党を問わずいろいろな候補者の選挙の手伝いをしてきたらしい。
「昔の選挙は泥臭く、選挙カーで街を回ったり、街頭に立って挨拶をしたりとかしかできなかったけど、今はインターネットが使えるようになって選挙って変わってきたからね」
と話す女性に
「ご自身は出馬されたいと思ったことないんですか」
と聞いてみる。
「いや、やっぱり大変だからね」
これまで手伝いをしてきた経験からか、女性はそう即答して言った。
 それから私が政治に興味を持った理由である映画「センキョナンデス」を紹介するなどして話しているうちに佐藤候補が事務所に帰ってきた。
 私も、スタッフの方も席を立って迎えると「あ、どうぞどうぞ」
と座るよう促してくれた。
 雨の中選挙運動を続け、お昼もまだらしい。
 一緒に帰ってきたスタッフの方々も一緒になって、午後の演説などを含む予定の打ち合わせをしている。スタッフの方にてきぱきと指示を出しながらも、物腰は低く親しみやすい感じがある。

 一通り打ち合わせが終わったところで、私のほうに向きなおり、話を聞いてくれた。私が街頭演説か、もしよければインタビューをさせていただきたいというと
「街頭演説は16時ぐらいから五反野駅でやる予定だけど、そっちのほうが良いですか」
と街頭演説の予定を教えてくれた。
だが、せっかく事務所で佐藤候補と会えたこのチャンス
「…今インタビュー撮影でも大丈夫ですか」
というと快く応じてくれた。

 インタビュー後に
「佐藤さんのお子さん、まだ、1歳にもなってないって、インスタみて知ったんですけど、子育てしながら選挙って大変じゃないですか」
と撮影時に聞き忘れたことを聞くと
「大変です!でも、大変な思いをして育児をしてらっしゃる方はたくさんいると思うので」
と自分のことはさしおき、子育てをする女性の助けになりたいという気持ちを話してくれた。
「佐藤さん、いま素晴らしいこと言ってたので撮影しとけばよかったです(笑)」
と私が言うと、佐藤候補は
「カメラ回ってると緊張しちゃって」
と笑って答えた。
 撮影していた私には、佐藤候補はとてもはきはき話していて緊張されているようには見えなかった。
 インタビューの後、佐藤候補と、別の区から佐藤候補の応援に来ていた男性議員の話にしばらく耳を傾けて、最後に写真撮影をして事務所を後にした。

梅島駅



 雨が上がった2時半過ぎ。
 とりあえず駅に戻って行き先を決めようと梅島駅に着くと、中島こういちろう候補がいた。
 候補者巡りをしていて、中島候補の写真を撮影させていただきたいというと、快く応じてくれた。
 中島候補といると、杉本ゆう候補の街宣車が通りすぎた。
「杉本さんのとこ行かないの?」
と聞く中島候補に
「あ、えっと…」
と返す。ここで留まって中島候補の話をきこうかどうか迷う。
 だが、杉本候補が近くに車を止め演説をしようとしているのを確認し、走ってそこに向かった。

 杉本候補に撮影してよいか聞くと
「ほかに、どんな人撮っているんですか」
と聞かれる。よくぞ聞いてくれた。
 杉本候補にあった時点でTwitterには、21人の候補者の写真を投稿していた。(会ったのは25人でうち二人は撮影許可が下りなかったため何人目ということと名前のみツイート。先ほど会ったばかりの佐藤候補と中島候補の写真はまだ投稿できていなかった。)
 自分のアカウントの画面をスクロールしていって、名取候補の写真が映ったところで
「あ、名取さん」
と杉本候補は笑って呟いた。同じ自民党公認候補同士、関わり合いがあるのだろうか。
「5分くらいですけど、大丈夫ですか」
と聞かれ、大丈夫だと言って撮影を始める。
 何人かの候補者の街頭演説を撮影するにつれ、一般の方が映らないような画角を見つけたり、通行の邪魔にならないようにすぐ動けたりするようになってくる。
 撮影前に言われた通り5分ほどの動画撮影を終え杉本候補の写真を撮り、梅島駅にまた戻る。
 

「生まれたときからハズレくじ」


 
 15時過ぎ。
 五反野駅で行われる、16時からの佐藤あい候補の演説と16時半からの和田あいこ候補の練り歩きにはまだ早い。

 私は梅島駅の改札を抜けて、駅構内にあるコインロッカーの横に立ち、松丸まこと候補というみんなの党所属の議員に電話をかけることにした。
 松丸候補には告示日前にも連絡が取れていた。
 電話に出た松丸候補に、いろいろな候補の街頭演説の様子を撮影してYouTubeに投稿するということを考えていると話すと
「あーユーチューバーだね、僕もユーチューブやってるんですよ」
と気さくに話してくれた。
「僕、LGBTに反対していて警察とか呼ばれることがあるから演説予定は告知しないんです。」
 おうふ。さらっと発された「LGBT反対していて」という言葉に失笑してしまう。

 私は、前回の候補者巡りをしているときに、お会いした候補者の方に
「静岡県でパートナーシップ制度がはじまったが、その制度についてどう思うか。」
という質問を当てていた。
 
「ゲイの方から(制度を)やめてほしいとの声もあるからじっくりやっていく必要がある。」
「(LGBTの方への)支援は必要。同じ人間なので平等にするべき」
「性的少数者とくくることが差別。そうではなく皆平等にするべき」
「周辺の市町をみながら考えていくべきだと思う」
「賛成だが、議員個人の考えを押し付けないように生の声を聞きたい」
「賛成で、自由にやれば良いと思う。身近にLGBTの方がいないから誰もが生きやすい世の中にするために何を望んでいるのか聞きたい」
「良いことだと思う。子供などは知らず知らずのうちに差別をすることもあるから、教育の場における取組が大事」 
 
 賛成という人もいれば、LGBTの方への支援が逆差別であるという人、自分の考えを明確に表明しない人など、様々な答えを聞いた。
 私自身は、人が誰かを好きになること、結婚をして一緒に暮らしていくことは、その人の自由で権利だと思う。
 だから、その人が好きになる人が同姓だとか、その人がゲイやレズということで、その権利が侵害されてはならない。誰もが平等にその権利を有しているべきだ。
 そんなことを考えてはいたものの、自分は当事者だという方に会ったことはなかった。
 そうして、候補者たちに質問をしていた時、ある候補者の方に同じ質問をすると、
「実は僕が立候補した一番のきっかけ・政治を志した理由が教え子とのLGBTの活動。」
そう言って、選挙活動をしているスタッフの一人に目を向けた。
 そのスタッフの方は、私が候補者にインタビューをして良いか聞いて、許可をくれた方だった。
「その教え子の『俺の人生は生まれたときからハズレくじ』という言葉が原点にある。」
 候補者と話した後、その教え子である方と私は少し話をした。
「最終日は忙しいものなんですか(その日投票日前日の選挙運動ができる最終日だった)」
と聞くと
「いや、まぁ、いつも通り、できることをやっていってってかんじですね」
そう言うと、自身のことについても話してくれた。
「こうやって、(ポケットに手を突っ込んで、顎を少し上げ足を肩幅に開いて立つそぶりをする)いれば、普通にみえるけど…」
 そう笑いながら言ったこの方、今は当事者としてLGBTの啓発のため講演なども行っているのだという。
 自分が生活してきた中で、LGBTの人は周りにいたのかもしれない。だが、「自分は当事者だ」という方に初めて話を聞かせてもらったとき、私は戸惑っていてうまく受け答えできなかった。

 そんな出来事のあと、迎えた統一地方選挙投票日。
 夜遅くにNHKの開票速報を見ていると、画面右下に候補者アンケートの結果が流れてくる。
 候補者の顔と、質問、答えがセットになったテロップが数秒ごとに映し出される。見ていると、『同性婚について』という質問に「反対」の2文字が表示される。
 それを見た瞬間
「生まれたときからハズレくじ」
という言葉が浮かぶ。思わず
「どうしてこんな、同性婚に反対とか言えるのか、わかんないんだけど!」
とテレビに向かってそんな言葉を投げかける。
 誰が何を返してくれるでもないリビングで、眉間にしわを寄せため息を吐いた。
 
 話を足立区議会議員選挙に戻す。街頭演説の予定がわからないと言った、松丸候補は
「土曜日(5月13日)には決まるから、林さんの名前伝えておくんで、また電話してくれる?それか、場所言ってくれたら、宣車で行って、なんなら乗せてくから」

『街宣車に乗せてくれるのか⁉』

「あ、ありがとうございます(笑)」
そんなやり取りをしており、実は昨日14日も電話をかけたのだが繋がらなかった。16時頃だったから、選挙活動に出ていて事務所には誰もいなかったのかもしれない。
 そして、この日15日も、梅島駅で電話をかける前に1回電話をかけていた。
 それは、ぬかが候補の演説が終わった後の西新井大師西駅構内。数回のコールの後、繋がったらしいが周りがうるさくてよく聞こえない。
「もしもし?もしもし」
と声をかける。壁際に寄り、スピーカーにしてもう一度声をかける
「もしもし、すみません、聞こえますか」
と問うと
「あ、もしもし。ごめんなさいね耳が遠くて」
 そういった声の主は松丸候補ではなさそうだ。
「あの私、林と言いますが、松丸候補の今日の演説予定って知っていますか」
「あ、ちょっとわからないんですよね。お昼には決まると思うんで、その後ならわかると思います」
「あ、わかりました。お昼ですね。じゃあまた電話させていただきます」
「すいませんね」
「いえ、ありがとうございます。」
そんなやり取りをしていたのだった。

 そして、その約4時間後。15時過ぎの梅島駅で二度目の電話をかける。
 今度は女性が電話に出た。
「あ、私、林といいますが、松丸さんの演説予定を聞きたいんですが、決まっていますかね」
「あ、ちょっと決まっていなくって」
「あ、そうですか…」
「人が集まる場所で、竹ノ塚駅とか五反野駅とかでやるかもしれないです。」
「竹ノ塚駅と五反野駅ですね。ありがとうございます」

 五反野駅はこれから演説があるとわかっている場所。だったら、早めに行っておこう。運が良ければ、松丸候補にも会うことができるかもしれない。

候補者はタイ焼きに勝る


 
 梅島駅から一駅、電車に乗りわずか1分で五反野駅に着く。駅にはまだ誰もいない。
 候補者らの写真のツイート、連絡名簿に出会った候補者がわかるようマークを付ける。
 まだ、15時15分。
『腹ごしらえでもするか。』
 昨日はお昼抜きになってしまったので、今日は食べられる時間に食べておこうと思い歩き出す。

 まず目に入ったのはファミリーマート。そういえば、飲み物を今持っていなかった。お茶を買ってひとまずファミマを出る。
 次に目に入ったのはたい焼き。甘くておいしそうだが、胃がもたれるかもしれない。
 たい焼き屋を通り過ぎ、そこから少し行ったところに、スーパーが見えた。スーパーならお安くお惣菜が買えるかもしれないと思い、そこに向かおうとしたが
「いや、駅からあまり離れすぎると候補者が来たときにすぐ気付けない。」
と思いUターン。通り過ぎたタイ焼き屋に目をやる。うまそう。
 胃が持たれるかもしれないという心配より、甘いものが食べたいという食欲が勝った。

 たい焼き屋の前に立ち、メニューを見る。冷やしたい焼き、あんこ、抹茶、チョコ…どれにしよう…。
 「うーん」とメニューをなめるように見て
 「あの、冷やしタイ焼きのチョコバナナってありますか」
そう言うと、店員の方は冷蔵庫から一つ袋を出してきてくれる。
「180円です」
お代を払って冷やしたい焼きを受け取る。

 駅の向かい、高架を支える大きな柱を背にたい焼きを一口。ぱくっ。
『んっ!めっちゃもちっとしている!ひんやりしていておいしい。』
二口目、パリッと音がしたのは板チョコ。バナナと一緒にほおばる。あまい。うまい。3口目、4口目を食べようとしたとき
『富田けんたろう」という文字を掲げて、街宣車が駅から100メートルもない五反野駅前交番横に停まる。
 それが目に入った瞬間、たい焼き片手に私は走り出す。
 口の中に入っていたたい焼きを飲み込んで、車から降りてきた富田候補に話しかける。
「あの、今から演説されるかんじですか」
「はい、ほかの候補者が来るまで少しですけど」
「私、足立区議会議員選挙でいろんな候補者の方回っていて、富田さんの演説の様子を撮影してYouTubeにあげることを考えているんですけど」
「あ、もしかして、ツイッターでメッセージくれた方かな?」
「あ、そうですね、メッセージ送ったかもしれません。」
 富田候補にはツイッターでダイレクトメッセージを送り、返信ももらっていた。返信内容は
「告示日からの期間で撮影するということか、ほかの候補者の演説も撮影するのか、YouTubeのアカウントを教えてほしい」
という旨だった。それぞれに答えるメッセージを送ったのだが、それから返信がきていなかった。
 どうやら、忙しくて返信できていなかったようだ。
 演説の撮影は構わないということだが、後ほど映像を送ってほしいということで連絡先が記された名刺をいただいた。
 演説の準備をする富田候補とスタッフを横目に、たい焼きを一気にほおばる。撮影開始までに食べ終えて、両手を空けなければ。
 もう少しゆっくり堪能したかったのだが、候補者はタイ焼きに勝る。

 「あんまり、うまくないんですけど…」
 演説が始まる前に、そう私に言った富田候補。
 だが演説が始まると、はきはきとテンポよくしゃべりだす。スタッフから、ビラを受け取った人がいると、近づいて、その人の目線に合わせるように少しかがみ、話をしに行く。
 これは、畠山さんが言っていたやつだ!
 維新の候補者の選挙取材もしていた畠山さん曰く、維新の選挙はとにかく動く。
 各所にスタッフが散らばり候補者のビラを配る。受け取った人がいれば、スタッフは候補者に合図を送り、候補者もそれを見逃さない。すぐに駆け付け握手をする。また別の場所でビラを受け取る人がいれば、そこに駆け寄っていく。
 富田候補もまさに、それをやっている。
『本当にやっているんだな』
と感心しながら、富田候補をカメラ越しに追いかける。
 そうして、一人と話し終わると、横断歩道を渡って反対車線へ行った。駅前から出てくる人たち、入ってくる人たちが行き交う中、体の向きを変え、歩きながら話していく。演説中、止まっていた時間はほとんどなかった。

 演説が終わった富田候補に写真を一枚お願いする。親指を立てるポーズをして、一枚撮ると、髪が崩れているのが気になったようで、少し整えてから、もう一枚撮らせてくれた。 
 お礼を言って、富田候補のもとを離れ写真をツイッターに投稿する。その時、富田候補の1枚目と2枚目を見比べてみる。
 違いがわからない。わからないが、2枚目の写真を投稿しておいた。

 すると間もなく佐藤あい候補が到着した。
 駅前に着くと、先ほど私がお話をした女性スタッフの方たちと準備を始めた。佐藤候補は準備の途中私に気づき笑顔で会釈をしてくれた。
 先ほど私がタイ焼きを食べていた場所で佐藤候補は演説を始めた。柱を背にして演説を始めた佐藤候補を、同じ柱の陰から撮影する。 
 ちょっと盗撮しているみたいな画角だ。それに、柱が画面の8割を占めている。私は少し引いてなんとか「柱」対「佐藤候補」が1対1になる場所を見つけた。
 私が撮影をしていると、先ほどの女性スタッフも、スマホを手に佐藤候補を撮影している。佐藤候補の前にはスマホカメラ2台が構えられて演説の様子を映していた。
 演説の最後に佐藤候補は
「投票所に行かれましたら名前のほうは、左から、3番目、いちばん上」
と自分の名前がある場所を伝えていた。

 そういえば、事務所にお邪魔した時男性スタッフの方が、
「じゃあ俺、今から期日前投票行って、名前の場所確認してくるから」
と言っていた。なるほど。そういった情報も大切なのか。

 確かに、今回の選挙は候補者が64人。投票するにも、候補者の名前を見つけるのに一苦労するだろうことは容易に想像できる。
 それに、佐藤あい候補の苗字「佐藤」は日本で一番ポピュラーな苗字。
 投票者がようやく「佐藤」という名前を見つけても、他の「佐藤(さとう)」の苗字を持つ候補者、佐藤隆候補、佐藤のぶえ候補、さとうひろき候補(届け出順)ということがあるかもしれない。
 佐藤姓を持つ4人のなかには漢字をすべてひらいて、ひらがな表記にしている候補者もいる。文字の印象も、得票のための大事な要素の一つということでそうしたのかもしれない。

 佐藤候補の演説が終わり、時刻は4時20分。駅前で和田候補の到着を待っていると、一人の女性に話しかけられた。
「和田さんを待っているんですか?」
「あ、はい。」
 選挙関係者かと思ったが、服装を見る限り仕事帰りの一般の方のようだ。
「和田さんの練り歩きを待っているんですか?」
「はい。でも、佐藤さんと和田さんと迷ってて」
そう言って、演説の片づけをしている佐藤候補に目を向けて女性は言った。
「いつも、演説見に来て決めてるんですか?」
と聞くと
「いえ、今日はたまたま」
と笑って話してくれた。
 私と同じように候補者の演説を見にきた人と出会い、なんだか嬉しい気分になる。

 そんなやり取りをしていると、和田候補が駅前に現れた。すかさず歩み寄り、動画の撮影許可と写真撮影をお願いする。
「動画撮ってくれるんだって」
と言った和田候補に、応援にきていた吉田はるみ衆議院議員が近づいてきて、名刺を私にくれた。なんと点字付きだ。はじめて点字付きの名刺をもらった。
 動画撮影を許可してもらうと、写真撮影のために、スタッフの方が私のカメラを持ってくれる。和田候補と吉田議員が私を挟んでカメラに視線を向ける。まさかのスリーショットだ。
 でも、私が欲しいのはそれじゃない。
 スリーショットをとると、先ほどの女性やスタッフの方と和田候補は話しに行き、見事にワンショットを撮るタイミングを失った。
 3人が写った画像を切り取れば、和田候補一人の写真ができて、まぁ、大丈夫は大丈夫なのだが、やっぱり、一枚絵が欲しい。
 練り歩きが始まろうというところで、隙をついて和田候補に近づき、無事、一枚写真を撮らせてもらった。

 練り歩きを始めるとマイクは吉田議員が持ち、和田候補は手を振って周りを見ながらビラを配っていく。
 反対車線を走る自転車から、女子高生が手を振っているのを見つけると、和田候補はすぐに駆け寄り、ビラを渡して話をする。それを終えるとすぐ近くを通った人にも声をかけビラを渡す。
 時にはお店前に駆け寄り、中にいる店員の方に話しかけに行く。(撮影した動画を見返すと、どうやら、スタッフの方が合図をし、それに気づいた和田候補が近づいて店の前まで駆け寄っていったようだ。あれ、こう書いていくと、富田候補と似ている。)
 五分ほど練り歩きを撮影すると、もう17時少し前。
 17時からは、きたがわ秀和候補、17時15分からはただ太郎候補の演説が綾瀬駅である。

 撮影を止め、急いで五反野駅に戻る。電車に乗り込み、10分。綾瀬駅に着いて東口に出ると、街宣車が1台、2台、3台、4台!
 

合同演説会in綾瀬駅


 
 駅向かい、左側に街宣車を停めてある長谷川たかこ候補が、演説を開始するようだ。
 急いで長谷川候補のスタッフに撮影許可を取る。
 撮影場所は長谷川候補のすぐ近く、歩道の端で比較的通行人の邪魔になりにくい良い位置取り。 
   
 冒頭長谷川候補は
「本日4人の候補者でこの綾瀬にてお訴えをさせていただいております」
と言った。なるほど、合同演説会というわけか。
 長谷川候補はそう言って4人(長谷川たかこ候補・きたがわ秀和候補・ただ太郎候補・土屋のりこ候補)の紹介をしてから訴えに入った。

 終盤になると、長谷川候補の選挙スタッフがなにやら長谷川候補に合図を送っている。
 どうやら一人当たりの持ち時間が決まっているらしく、残り時間の合図のようだ。
 残り1分になると、そのスタッフは長谷川候補の前で0.01秒まで表示される時計を構え終了時間を知らせていた。
 そうして演説を終えた長谷川候補の写真を撮り、2ショット写真を撮影してもらうと、お次はただ太郎候補の演説。

 一緒に土田しん衆議院議員もいる。今日の朝以来、2度目だ。(初日最初のしぶや竜二候補の出陣式にも出席していたので、合計3回会っている。)
 土田議員と一緒にいた、ただ候補に声をかけ撮影して良いか聞くと
「あ、朝の」
と土田議員が気づいてくれ、撮影許可もくれた。
 始めに自民党の朝日健太郎議員、次に土田しん議員と、応援演説が続いていく。

 この後は18時から銀川ゆいこ候補の街頭演説が竹ノ塚駅で予定されていた。綾瀬駅から竹ノ塚駅までは電車で30分。

 17時30分を過ぎた頃、土田議員の演説が終わったらただ候補の演説になるだろうと思っていた矢先。後ろからスーツを着た男性が近づいてきた。
 ただ候補のスタッフと話しているところを盗み聞くと、どうやら議員の方らしい。
「演説してってくださいよ」
とその議員に向かい誰かが言う。それを聞いた私は、
『ちょっと待った!』
と心の中で待ったをかけた。
『いや、演説していいんだけど、していいんだけどさ、ちょっと時間がないんですよ、私。あの、まずただ候補の演説をして、それから、やってもらえれば、ぎりぎりまで撮影するので!』   
      
 候補者本人の話しているところをなるべく長く映像に収めたく、また、銀川候補の演説にも遅れたくない。そんな私は身勝手なことを考えながら後ろの話を聞いていた。
 だが、私の願いが通じるはずもなく、北区議会の渡辺かつひろ議員の演説が始まる。
 途中、大きな看板を持ったスタッフが現れ、その横で話す渡辺議員の姿が全く見えなくなる。ガードレールから、上半身だけ右にずらし、なんとか渡辺議員が映る。(補足・私が身を乗り出したガードレール横にはただ候補の街宣車が停車していたため、通過する車にぶつかりそうになるということはありませんでした。自戒も込めて書くと、撮影をするときには画面に目が行き、視野が狭くなるので周りの通行人の方の邪魔になっていないか、車の走行の妨げになっていないかなどしっかり気を付けて撮影したいですね。)

 そうして、渡辺議員が3分ほどの短い演説を終えると
「それでは、皆様お待たせしました。足立区議会議員選挙、立候補しております、ただ太郎候補者がご挨拶申し上げます。」
と司会のアナウンスが入った。
 待ってました、ただ候補!
 すでに時間は17時30分を過ぎている。
 40分、40分までなら粘れる。
 そう決めて、時計をチラ見しながらただ候補の演説を聞く。
 だが、演説が始まって5分もしないうちに、時計は40を差す。即座に撮影を止めて、横断歩道を渡って駅の改札に向かおうとするが、信号が赤になっていた。
 青に変わるまで撮影しようと再びカメラを回す。そうして30秒足らずの動画を撮影し、信号が青になる。
 演説中のただ候補には声をかけづらく、近くにいた土田議員にお礼を言って、横断歩道を急いで渡る。ただ候補の演説を背に、駅前でビラをもらって改札を抜けた。

「足立区は滅んでしまう」


 
 電車に乗って竹ノ塚駅の東口に着くと、銀川候補らが演説の準備をしていた。どうやら演説前に間に合ったようだ。
 撮影許可を取って、東口すぐそばの工事区画を仕切る壁の横に立ち、カメラを構える。
 最初は、立憲民主党の元衆議院議員・松尾あきひろ氏の応援演説だ。
 松尾氏が応援演説をしている間、銀川候補は流れてくる人波のなかへ向かいビラを配っていく。受け取ってくれる人はほとんどいない。それでも、銀川候補はビラ配りを続け、10分ほど経ったところで松尾氏からマイクを引き継ぐ。
 銀川候補が演説を始めると、5分くらい経ったところで、だれかの街宣車が近くを通る。
 街宣車の音に気づき銀川候補は話すのを止める。近くにいスタッフの男性は、
「喋って」
と銀川候補に話を促す。
「はい」
と銀川候補が答える。少し躊躇ってから、演説を再開するが数十秒後、街宣車からまた音が届き
「銀川候補を応援します。白石正輝でございます」
と声が聞こえた。

 そう言った、白石正輝という名前には聞き覚えがあった。

 「白石…白石正輝…あっ、あの白石正輝候補か!」

 白石正輝候補は当選回数11回の、いわゆるベテラン議員だ。だが、私がこの候補者の名前を聞いて思い出したのは、その当選回数の多さではなく、白石候補が2年前にしたLGBT差別発言だ。

 私がこのことを最初に知ったのは、各候補者のツイッターアカウントを探していた時だった。
 検索バーに名前を入れて、ヒットした候補者をフォローしていく。
 そんな中「白石正輝」と入力したとき検索結果に出てきたのは「足立・性的少数者と友・家族の会」だった。
 自己紹介欄には
「白石正輝足立区議会議員による差別発言に抗議するために発足したアカウントです」
とアカウントの説明が書かれていた。その時は、メモ用紙に書かれた白石候補の名前の横に「差別?」とだけ書いて次の候補者リサーチに移った。

 次に白石候補のことを知ったのは、「足立区議会議員」とYouTubeで検索した時だった。候補者の動画があれば見ようと思い、スクロールしていくと
「LGBT差別発言の足立区議 委員会で何を語る?」
という動画がTOKYO MXのチャンネルから投稿されていた。
 
 白石候補は2020年9月25日の足立区議会・本会議での一般質問で、少子化問題の対策について話す中で
「LだってGだって法律で守られているじゃないかというような話になったのでは足立区は滅んでしまう」
と発言した。この発言が問題視され、白石候補は謝罪・撤回をすることになったのだ。

 実際の議事録を見てみようと足立区議会のホームページで調べてみる。
 議事録を見つけ読んでいくと、問題とされている差別発言の前にも、これは問題発言だろうと思われる話が繰り出されている。少し長いが引用する。
 
「国会議員の中に「子どもを少しでもたくさん産んで欲しい」「最低3人は産んで欲しい」、こういう発言をした国会議員がいると、「女性蔑視だ」「国が産むか産まないかまで関与するのか」「子どもを産むか産まないかは女性の権利なのだ」とめちゃくちゃにたたかれてしまって、もうそれ以降、誰も子どもを産んでくれと言わなくなってしまいました。   
その結果がどうなったか、皆さん方、十分にお考えをいただきたいのです。最近は(筆者註・日本の合計特殊出生率が)1.45でも(筆者註・日本人の人口が)ゼロになるんですよ、1000年すると。」
 
 まず、子供を産むか産まないか決めるのは女性の権利だ。
 そして、少子化の原因は様々なことが挙げられるが、女性の社会進出に伴い晩婚化が進んだこと、結婚観がなどの価値観が多様化し非婚化も進んだことがあるとされている。

 また、白石候補が
「1989年、平成元年の年に出生率が1.57になった。1.57というのは、丙午の年よりも更に下がった。このときはさすがに政治家もマスコミも社会も、このままいったら日本はどうなってしまうだろう、そういう危惧を抱いて日本の国立の社会保障・人口問題研究所が、このままもし1.45の出生率でずっと続いたら日本はどうなってしまうかという数値を示しました。
 この数値を見て、いわゆる1.57ショック、日本人が大変なショックを受けた。」
 
と話していた中に出てきた「国立社会保障・人口問題研究所」は出生動向基本調査の中で、理想の子供数を持たない理由を聞いており、そのいちばんの理由として次のことを挙げている。
「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」
 これは、全体の56.3%ともっとも大きい割合を占めている。(2015年第15回出生動向基本調査より。2021年の第16回調査でも、理想の子供数を持たない理由としてお金がかかりすぎるという理由が52.6%と、変わらずもっとも大きい割合を占めていた。)
 つまり、少子化が進んだ理由には経済的な理由もあるということだ。
これらの資料に少し目を通せば、「誰も子供を産んでくれと言わなくなってしまった」結果、少子化が進行したわけではないことがすぐにわかる。

 ここまで読んだだけで、アウトを超えているのだが、もう少し独自の解釈で話は続く。 
(全文読みたい方は、足立区議会のホームページから会議録が読めるので読んでみてほしい。)

 そうして白石候補の言葉を追っていくと、突如
「(259文字削除)」
という文字が目に入ってきた。
 もう少しスクロールすると今度は

「もう一つ、これは教育長にお伺いしたいのですが、(217文字削除)性の多様性とか性を尊重する、そのことはわかります。そのことはわかりますけれども、これを学校教育の中で取上げたときには、(3文字削除)結婚をして、(3文字削除)子どもを産んで(3文字削除)子どもを育てることがいかに人間にとって大切なことであるか。」

と議事録が削除されていて、発言が読めなくなっている。

 私は、差別発言をしたら謝罪することは絶対必要だと思うが、撤回や議事録の削除をするのは、どうなのだろうと思う。
 発言者が撤回をしても、一度発された言葉は消えることはないし、その発言をしたという事実が変わるわけでもない。
 だからこそ、その言葉で傷ついたり、不快な気持ちになったりする人がいないように、私たちは日々考えながら言葉を編んでゆく。  
 特に、政治家というのは言葉で仕事をする人たちだ。言葉を使って自分の思いを伝え、また、有権者の思いを代弁し、世の中のしくみを変えていく。
 その代議士たる議員が、問題発言をしたとき、撤回をして早々に事なきを得ようとするのはいかがなものだろうか。
 また、議事録は、その代議士たちがしっかり国民のために働いているかをチェックするための大切な公文書である。その公文書には失言や差別発言であってもそのまま記録しておくべきではないだろうか。

 議事録が読めないということで、私は白石候補の質疑が行われた本会議録画のアーカイブを見た。
 議事録で削除されていた部分で白石候補は
 
「加えて性の多様化だとかLGBTと言われて性の自由を尊重しようという地方自治体があちこちに今生まれつつある。私は、人間の生き方ですから本人の生き方に対して干渉しようとは思いません。LであろうとGであろうと本人の生き方に干渉しようとは思いませんけれども、考えてください。
こんなことはありえないことですけれども、日本人が全部L、日本人が、男は全部G、次の世代生まれますか。一人も生まれないんですよ。千年とか200年じゃない。次の世代を担う子供たちが一人も産まれない。本当にこんなことでいいんだろうか。」
 
と話していた。
 問題になった「日本人が全部L、全部G」というところで、白石候補は「こんなことはありえないことですけれども」と前置きをしている。
 そう、ありえないのだ。ありえないことを例に出して、無理やり少子化問題と結びつけ、差別発言をしている。

 今回、白石候補は差別発言をした1か月後に謝罪をしているが、その言い方は
「私の一般質問において、議員として差別的な発言と受け止められる表現があり、不快な思いをされた方々、傷つけた全ての皆様に対しまして、この場をお借りしてお詫びを申し上げます。まことに申し訳ございませんでした。」
という、問題発言をした政治家が使うお決まりのレトリック
「私は差別をするつもりはありませんでしたけど、差別をしたと受け取った方がいたのなら謝ります。」
という、発言の受け手側に責任をなすりつけるような謝罪だった。

 その白石候補が、銀川候補の近くを街宣車で立ち寄ったのだ。
「銀川候補を応援します。白石正輝でございます」
そう言った白石候補に対し、
「白石候補…」
と声がかぶさらないように次の言葉まで間を開ける銀川候補。すかさず男性スタッフが
「ご健闘をお祈りいたします」
と言葉を促す。
「ご健闘をお祈りいたします」
と銀川候補は言い、演説を続けようとするが、白石候補のアナウンスが続く。
「すごくお世話になっている人なので、ちょっとなんか…」
と言う銀川候補。それを聞き、思わず
『お、お世話になっているのか。』
と驚く。
 
 これまで、演説などを見聞きしているときに白石候補の批判を聞くこともあり、白石候補が所属している自民党内ではともかく、他党間ではバチバチなのかと思っていた。
 それに「お世話になっている」と言った銀川候補は、自民党とはよく対立している立憲民主党の公認候補で、なにより働く女性だ。
 「女性にやさしいまちづくり」なども政策に掲げているそんな彼女が、「女性に優しくない」発言をした白石候補にお世話になっていると聞き、私は驚いていたのであった。

 選挙漫遊というのは興味深いもので、党派やその人の政策といった表に出されている情報からはわかりにくい、政治家同士の関係性や人間性がみえてくる。

 そんなことでぽかんと口を開けていたら、白石候補の声は遠ざかっており、銀川候補は演説を再開していた。
 そうして演説を終えた銀川候補に写真撮影をさせてもらい、銀川候補のもとを離れた。
 

「後援会に止められていて」


 
 竹ノ塚駅には、ほかの候補者の街宣車も停まっており、しばらくそうした候補者を探すことにした。

 ロータリーには、山中ちえ子候補の街宣車があるが、周りに山中候補の姿は見えない。
 また、少し行ったところには久保田候補がスタッフと二人でならび、マイクも使わずこぢんまりと道行く人に挨拶をしていた。

 竹ノ塚駅ロータリー周辺をそうした候補者を見ながら、ぐるぐる回っていると、また候補者が現れた。

『あの、オレンジ色、しぶや竜一候補だ!』
 そう気づいた私は、近づいて声をかける。
 しぶや候補の撮影は、初日許可されなかったが、最終的には会ってその都度候補者本人に確認してくれと言われていた。
 「あ、林さん」
と私の名前を憶えていてくれていたしぶや候補。ちょっと嬉しい。
 どうやらこれから練り歩きを始めるようだ。同行して撮影して良いか聞くと
「撮影は、ちょっとだめで…」
「あ、どうして駄目なのか伺っても良いですか?」
「自分は良いんですけど、後援会の方に止められていて」
「その理由っていうのは…」
「理由はわからない」
『わからないんかいっ!』
思わず心の中で突っ込みを入れる。
 後援会って字面を見ると、後ろから支援するって書く。後ろから支援する団体が候補者より前に出てきているのって、これはいったいどういうことだろう。そんなことを思っている私に
「でも、ありがとうございます」
と、しぶや候補は声をかけ、スタッフとともに街へ繰り出していった。

「若者向けの政策を」 



 しぶや候補を見送って、もう一度、駅周辺を見渡す。
 すると、ロータリーから外れ飲食店が並ぶ路地に入っていったところに、山中候補がいた。
 路地を入っていき、スタッフの方に撮影許可をもらう。すると、それに山中候補が気づいて、
「じゃあマイク持って、若者向けの政策を…」
と言い、応援演説が行われていたが、山中候補が演説を始める。私の年齢に合わせて若者向けの政策を話してくれるようだ。
 私は、通路の反対側から撮影し始める。
「もっと前行く?」
と言ってくれたスタッフの方に促され、山中候補のもとに近づく。そして、演説の邪魔にならないようにしゃがみこんで片膝をついた。 
地面は濡れているが、良いアングルを見つけ、そのまま撮影を続ける。
 そうして、3分ほどの演説をしてくれた山中候補。
 両手で親指を立てるグッとポーズをした写真も撮らせてもらい、竹ノ塚駅を後にした。
 
 

西新井駅


 
 そうしてこの日、最後に向かったのは西新井駅。
 西新井駅では、おぐら修平候補が18時から19時半まで演説をするという情報をメールで事前にもらっていたので、それを目指して駅に向かった。

 駅に着くと最初に目にしたのは、かねだ正候補。
 だが、演説が終わって帰ろうとしている。そこに、おぐら候補も来てなにやら話をしている。
「これからあっちで(演説)やるんです」
とおぐら候補
「後で、ここで演説するから、ちょっとスピーカーここに置いていくよ」
と金田候補が話す声が聞こえてくる。
 どうやら、おぐら候補は、昨日へんみ候補が街頭演説をしていたバス停付近で演説をやり、かねだ候補はいったんどこかへ行き、あとでまた西新井駅に戻って街頭演説をするらしい。
 それならば、とまずは駐車場に向かいここを立ち去ろうとするかねだ候補に声をかける。  
 街頭演説を撮影してYouTubeにあげたいのだが、と話すと
「あ、いいよ。」
とすんなり承諾。
「何時ぐらいにやりますかね」
「19時半に戻ってきてここでやるよ」
と予定時刻を教えてもらった。
 かねだ候補の演説時刻を聞き、すぐさま、おぐら候補のもとへ向かう。

 近づいて行くと、もう演説が始まっている。
 おぐら候補の演説予定は事務所のスタッフの方と何度か連絡を取り情報を得ていた。そのスタッフの方がいれば話が早く済むだろうし、連絡をしてくれたお礼も言えると思い、近くでビラ配りをしていたスタッフに声をかける。
「あの、私、おぐら候補の街頭演説を撮影したいんですけど」
そう言われ、少し戸惑った女性スタッフに
「おぐら候補の事務所の○○さんと連絡を取って、撮影許可いただいたんですけど」
と話す。どうやら、私にメールをくれたスタッフの方は来ていないらしい。
「ちょっと、メールを見せていただけますか」
とその女性に言われ文面を見せる。そうすると、どうやら安心したようで、
「あ、じゃあ、どうぞ」
とおぐら候補のほうへ向けて手を差し出した。
 おぐら候補に近づくと
「あ、こんにちは」
と挨拶をしてくれた。
「こんにちは」
と返し、すかさず、目の前にしゃがみ込む。
 おぐら候補とどんより曇る蒼い空。通行人の姿も映らない。良い!

 演説をするおぐら候補の横には女性が立っており、おぐら候補が何か言うたびに、
「すごーい」「よっ」「そう」「うーん」
と相槌を入れていく。ちょくちょく入るその合いの手が小気味よく、なんだか楽しくなってくる。

 5分ほどの演説を終えると、おぐら候補は私に話しかけてくれ、私が政治に興味を持ったきっかけなどを聞いてくれた。
「僕は三重県出身なんですけど、東京へ来て」「大学時代に泉さん(立憲民主党代表の泉健太議員)と知り合って、それがなかったら、こうやって政治に関わることはなかった
「やっぱり若い人に政治に関心持ってもらうのが大事ですよね」
とおぐら候補自身のことも話してくれた。最後に写真を一枚撮って失礼した。
 
 そうして時刻は19時。
 あっという間に時間は経って、選挙運動ができる20時まではあと一時間。
 かねだ候補の19時半からの演説を駅前で待ちながら、和田候補からおぐら候補までの写真をツイッターに投稿し、名簿にチェックを入れていく。
     
 それを終えるとスマホを取り出し、私は帰りの電車を調べ始めた。
 
 当初、足立区には数日間・2,3日泊まることも考えていたが、昨日泊まったカスタマカフェで眠っていた時の寒さが記憶に残り、また泊まる気にはなれなかった。足にも疲労が蓄積している。帰って布団にもぐりぐっすり眠りたかった。
 また、予定を立てた段階では10数人にしか会えないと思っていた候補者たちには、33人も会うことができていた。
 足立区議会議員選挙の立候補者数は64人だから、それを考えるとまだまだなのだが、1回目の統一地方選挙前半戦では2人、後半戦で8人、そして今回は33人と記録は大幅に更新している。
 そういうことで、私は乗り換え案内を見ながら帰りの予定を立てていた。
 19時半になると、バス停近くから駅前に場所を移し演説をしていたおぐら候補のもとに、かねだ候補が近づいてきた。
 親しそうに話す両陣営。おぐら候補の演説の司会者は
「次は、かねだ候補の演説です」
とつなぎの言葉も入れている。

 おぐら候補は立憲民主党、かねだ候補は自民党公認の候補者だ。ここでも、候補者たちの意外な関係性を垣間見ているようで、私は少し離れた位置から、その様子を眺めていた。

 おぐら候補からかねだ候補にバトンタッチしたところで、私はかねだ候補に近づいていき、挨拶をして、近くにしゃがみ込む。
 もう、なんの躊躇いもなく濡れている歩道に足をついて撮影を開始する。

 15分ほどの演説を終えると、かねだ候補はこちらを振り向いて
「1セット15分なんで」
と笑って言った。
「あ、なるほど。」と演説にもセット数があるのかと思い、一区切りついたここで、写真をお願いした。
 選挙スタッフの女性が、カメラを持ってツーショットを撮影しようと構えると
「いや」
と私の意図を与してワンショット写真を撮らせてくれた。
 お礼を言ってかねだ候補と別れると、西口の階段を駆け上がる。
 そのまま改札に入ってしまおうかとも思ったが、ダメ押しに東口へ降りる。すると案の定、街頭演説終わりの候補者がいる。

 そこにいたのは区議会議員候補ではなく、区長候補の一人、西山ちえこ候補。
 実は区長候補の2人にも会おうと思っていたのだが、区議会議員候補のリサーチでいっぱいいっぱいになり予定を掴むことができていなかった。
 偶然会えた西山候補に写真撮影を頼む。一枚撮影させてもらい、お礼を言って、今度こそ改札に入り帰りの電車へ急ぐ。

帰るまでが選挙漫遊


 
 西新井駅から、北千住駅に寄って預けていたバッグを回収し、そこから千代田線の電車に乗り込み一段落つく。
 一段落つく、といっても車内には空席がなく、私は疲れと足の疲労から、頭を垂れてゾンビのようにだらーんと手を伸ばして立っていた。
 いつもなら、人目を気にしてそんな恰好はしないのだが、なにせ2日間の過密スケジュールで頭が働かない。なんなら、この2日間で34候補者に会えたという歓喜なのか、狂喜なのかから
「ウォーーーーーーッ‼」
と叫びだしそうだった。
 かろうじて、叫ばずにいる理性を保ち、電車に揺られる。
 車内にいる人たちに、
「私選挙漫遊してて、ツイッターでこうやって投稿してるんですけど、フォローしませんか?」
と声をかけまくるくらいならいいかなとも思ったが、それもなんだか、ちょっと変かな?と思い、おとなしくゾンビ立ちをして電車の揺れに身を任せる。
 千代田線から小田急線に乗り換え、車内が空いてくると、席に座る。しばらく寝ようかなぁと思うが、なぜか目が冴えている。
 やることも思いつかず、手で蛙の顔を作ってしばらくにらめっこをしたり、車内広告をジーっと見たり、目元の周りのツボを押して顔のマッサージをしたり、なんだか今思い出すと、奇怪な行動をしていた気がするし、人目も気にせずよくそんなことができていたなとも思う。

 でも、それぐらいに、ちょっとおかしくなるほどの2日間だった気もする。

 候補者に会うため走りまくり、道に迷って走りまくり、予定を組むため調べまくり、撮影許可を取りまくり、動画・写真も撮りまくり…。

 降車駅があと少しというところで、急激に瞼が重くなる。
『待て、あとちょっとで着くから…』
と、なんとか目をぱちくりさせながら、生きながらえようとする。
 寝過ごして知らない駅で野宿なんてことになったら万事休すだ。
 帰るまでが選挙漫遊。
 『もう少し頑張れ』と眠気に抗う。

 そうしてなんとか意識を保ち続け、目的の駅で降りる。
 足が痛くて普通に歩けない。つま先立ちをしながらなんとか、駅のロータリーまで出ると、夜遅くにもかかわらず迎えに来てくれた母の車があった。
ゴールテープが見えたような気がして、不格好な走り方で駆けていく。ドアを開けて、車に入る。
 
「ただいまぁ」
 
こうして私の二日間の選挙漫遊は、一幕を閉じたのだった。
 

開票 -ブラックボックスを開ける鍵-


  
 帰宅してから十分に睡眠をとった後、火曜日から投票日前日までの5日間は、また寝不足になりながら撮影した動画を編集しYouTubeにアップロードしていった。
 そうして土曜日に全ての動画をアップロードし終え、日曜日はこの文章の下書きを書きながら、開票結果を待っていた。

 月曜日、深夜0時30分開票結果を見ると、ホームページでは、開票状況が確定していた。11時30分に出ていた各候補者の開票状況もチェックしてみる。
 その結果をみて、愕然とした。

 全候補者に会っていないながらも、ビラに目を通し『この人は演説が良かった』『この人は話を聞いていて、いちばん惹かれた』『この人のこの政策は少し引っかかるけれど、当選したらこっちの分野には力を入れてくれそう』『この人は保守系の党に入っているけれど、かなりリベラルなかんじがするな』
といろいろなことを考えていた。
 投票権はないけれど、自分が投票するとしたら誰に入れるかを考え、今までの選挙で、いちばんじっくり真剣に、でも楽しんで吟味していた。

 だけど、自分が理想とした結果とは隔たりがある開票結果が目の前の画面に映し出される。それはとても当たり前のことだ。自分が好感をもった候補者に、他人が同じように好感を持つわけではない。だが、その当たり前の大前提に愕然とする。
 どうしてだろう。なぜだろう。34人の候補者と直接会っていても、そんな疑問が空しく積もる。
 選挙のことがわかってきた、楽しくなってきたと思っていても、投票数の後ろにいる「みんな」との隔たりにぽっかり心に穴があく。
 どうしてこの「結果」になったのか、その明確な答えを私は知らなかった。きっと、誰一人知ることはできないからこそ、その隔たりは大きくのしかかる。

 足立区議会議員選挙を数週間の準備をして歩いてきたのは、ただ楽しむためだけではなかった。
 前回、前々回の候補者巡りで、党派に縛られそれだけで候補者を判断していた私の偏見を、いろいろな方たちがほぐしてくれた。
 「いろいろな方たち」にはもちろん候補者本人も含まれるし、それ以外のスタッフやボランティアの方も含んでいる。
 そうやって知らないことを知る、いままでの価値観が変わっていく感覚が、私にはとても心地よかった。

 今回の選挙でも、候補者に会い話を聞けば、誰にでも何かしらの魅力があることを見つけた。ふれあい、接しあえばそれだけ多くの発見があった。

 だが、その発見から変化していく自分の価値観でみても、開票結果はまさに開けてびっくり玉手箱。
 それに開封済みの玉手箱に加えて、また別のブラックボックスがいくつも降ってきて途方に暮れる。
 知れば知るほど、わからなくなるという矛盾。

 今、一度冷静になって考えてみると、開票結果をみて虚ろになったり疑問が募ったりしたのは、多くの候補者の魅力を知ったことで、それが自分以外の人に伝わっていないというもどかしさが大きくなったから。
 そう考えると納得がいくのだが、開票直後の私は
 『たった2日間、34人の候補者にしか会っていない。短い期間で多くの人数を回ったから、接する時間も長短があり、一人一人に真剣に向き合えていなかった。』
という後悔と反省でいっぱいになっていた。
 
 でも、そんな後ろ向きな気持ちだけではない、もう一つの思いも芽生えていた。
 『もっと、知りたい。もっと話を聞きたい。』
 告示から開票結果まで、納得できる選挙漫遊をする。
 「私」と「みんな」の隔たりを納得できる選挙。「みんな」を知ることができる選挙。
 
『全候補者に会ってできる限りたくさんの時間接することができば、』『候補者の演説にもっと興味を持って、しっかり聴けば、』『選挙制度に関する知識がもっとあれば、』『選挙スタッフの方の動きに注目すれば、』『候補者の話に耳を傾ける聴衆にも目を向ければ、』
 
 知ることができるのではないか。この隔たりからつながる方法を。

 自分の考え方と、それに真っ向から対立する、他者の考え方。候補者と会っていくうちに見つけたたくさんの魅力は、この「隔たりのブラックボックス」を開ける鍵になる。

 私が会った候補者の方は、それぞれに違いはあったが親切に対応してくれる人がたくさんいた。それでも、自分と相性が合わない人たちはいる。そういった候補者たちも「みんな」により選ばれていく。
 その時、自分が好意を持った候補者以外の、他の候補者たちのことを何も知らなければ、「みんな」とのつながりは途切れ、怒り、嘲り、分断が始まる。
 目の前に落ちてくるブラックボックスは、どんどんどんどん山積していき、やがて周りが見えなくなる。暗闇に包まれて、孤独に支配される。
 でも、選挙を歩いて、自分の目で見て、話して、候補者たちを知ることで、それは「鍵」になってブラックボックスを開ける道具になる。

 この鍵を手に入れる努力が、探し続ける努力が、私たちの持つ権利なら。
 私は探し続けたい。そして、たくさんの人に気づいてもらいたい。
 描いた理想が実現するのが、どんなにゆっくりだろうとも。変化がほんの少しだとしても。誰もが持てるこの鍵を。種々とりどりのこの権利を。
 
 
 
 
 



#創作大賞2023

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