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恩田陸「ユージニア」

※ネタバレあるかも

 3年に3回くらい読んだり読まなかったりしてるから、今回は何回目かの通読なのだけど、この作品は結構何回も読んでいる。
 これは誰の目線からの物語なのか、おそらく雑賀満喜子の兄の友だちの目線で語られていると思うだけど、さてこの人は誰か。
 誰でもいいのか、たぶん物語が主役の物語なのだろう。
 青澤緋沙子が意思を持って事件を起こしたのか、そうなったらいいなと思ってちょっと言ってみた程度の期待が事件になったのか、しかしながら、中盤のさびしいおじいさんの下りは燃やそうという意思があるよな、あれも燃えたらいいなくらいの期待だったのか。
 緋沙子の期待と青年の行動だけでは事件は成り立たず、彼女を取り巻くモブのそれぞれの思惑が事件を成立させた様も描かれている。1人になりたいという希望があって、つまりモブは彼女にとっては個々を認識してもいない群れであり、しかし1人ひとりにも意思があってそれぞれが何かに気づいたり、考えていたりしていてその時に適切に行動していれば(違和感を誰かに伝えていれば)、事件は起こらなかった。緋沙子の期待は周囲の人々のその日の思惑によって成就した。事件の首謀者は青澤緋沙子で実行したのは青年だが、大事件に仕上げたのは周囲の人々と青澤家を取り巻く歴史と環境だったと。
 いうことを、知らん人が聞いて回っている物語。雑賀満喜子も事件については傍観者の立場で関わっているのは2人の兄だ。聞いて回っているのはいずれも事件に関わっていないモブだが雑賀満喜子も語り手もこの事件について青澤緋沙子について全てを知りたい見届けたいという(当事者にとっては)理不尽な欲望を押し通している人物である。
 ワイドショーが好きなあなたやわたしの偶像化ですよね。
 事件を起こしたのは緋沙子と青年で間違いではないのだが、第三者が期待するような、推理小説のような、聡明で大胆な真犯人ではなかった。それで傍観者たち(及び読者)が勝手にガッカリする話。