🎩BLワールド備忘録🔫コミック編📖

『BANANA FISH』
吉田秋生
1985年～1995年別冊少女コミック
（画像amazonprime）

この壮大なドラマを簡単に言い著すことなんてできない。
ここに生きる彼らが漫画という創造の世界の中にしか存在しないということを認めたくない。

そう思ってしまうほどに読み終えた後の空虚感、もう彼らに会えない喪失感に打ちのめされた。
しばらくは読み終えた本を積み上げた場所に近づけなかった。
それは
そこにアッシュが佇んでいる気がしたから。
英二と笑いあう声が聞こえてきそうだったから。
彼らの壮絶な生き方をもう一度読み返すには、もうしばらく時間が要ると思う。

1973年、ベトナム。米軍兵士グリフは突如錯乱、同僚を射殺して廃人と化した彼は呟く…バナナフィッシュ。そして、1985年ニューヨーク暗黒街、非常と暴力が支配するこの街で、ストリート・キッズを束ねる少年がいた。アッシュ・リンクス17才。IQ200の知性と超一級の戦闘能力をあわせ持つ。彼はマフィアのボス、ディノ・ゴルツィネの支配から抜け出そうとしていた。そんな時、日本から来た少年、奥村英二と出会う。
時を同じくして、アッシュは路地裏でバナナフィッシュ…と呟いて息耐えた男と出くわす。その手に残された小さなカプセルの正体とは？やがて、大きな陰謀の渦へとふたりを巻き込んでいく。（小学舘文庫より一部抜粋）

サラサラとなびくブロンドの髪、吸い込まれるようなグリーンアイズ、長い手足、流れるような身のこなし、IQ200の知性と教養。

ニューヨークのストリートギャングに君臨するアッシュ・リンクスは完璧な容姿で英二の前に座っていた。「何が聞きたい？」カウンターに肩肘をつきフッと笑った。その眼差しは敵を威嚇するいつもの鋭いものではなかった。

カメラマンの伊部のアシスタントとしてニューヨークにやってきた奥村英二は取材に応じてくれたアッシュになんの気負いもなく話しかけた。
「ねえ、その銃本物？ちょっと持たせてくれない？」
ニューヨークのダウンタウン、それもストリートギャングの巣くうアジトで他人の銃に触れる…⁉️
普通ならそのまま、ぶっぱなされてあの世行きだ。
物怖じしない無邪気さで目を輝かす英二をアッシュは じっと見つめたまま「…いいよ」と言って銃を渡した。

この瞬間、英二は『ボスに認められた初めてのジャパニーズ』の座をギャングたちに認知させてしまったのだ。もちろん英二にとっては好奇心と、初対面の友人への社交事例だったに過ぎないが。

この物語の真髄となる【アッシュと英二の関係性】はさまざまな形で論じられてきた。
これは同性愛なのか？友情なのか？

圧倒的な存在感のアッシュと素朴で無垢な英二。
強くて隙がなく、強靭な精神力を持つアッシュと他人の痛みに共感しすぐに涙を流す英二。
こんなにも対比したふたりがなぜ？と。

吉田氏はあるインタビュー記事で「英二をそのまま女性に置き換えても成り立つ話ではあるけれど、それじゃなんか、恋愛で終わってしまうのもちがう気がした」
と話している。

【対比】なんの役にも立たない不甲斐ない自分を情けないと思う気持ちが、成長のバネになり、日本にいたら手に入れられなかった強さを身につけていく英二。棒高跳びで挫折して日本を飛び出してしまった中途半端な自分に区切りをつけたいと言う気持ちを持てたのは、ほかならぬアッシュの存在だ。
自分に無いものを全て持っているアッシュを尊敬し、反面彼の奥にある孤独に共感して心惹かれていく。そこには同性であるからこそ一途に追い求める羨望。だからこそ英二は男でなければならないのだ。

一方、アッシュにとっての英二とはなんだろう？初めて手にする武器に震え、無防備なほど弱さを隠さない。そのままの自分をさらけ出す英二に心を癒されていくアッシュ。
英二の前では、いつも張り巡らしているバリヤは不要だ。カボチャが何より怖い本音をホロリと証してしまうほどに。
「そばにいてほしい…」英二の膝にすがるアッシュ。
そこには、彼なりの愛があった。幼い頃から愛されたことの無い彼が手探りで手繰り寄せたもの。
それをどう表現すれば良いかなんてアッシュにわかるはずがない。
いままで彼の肩に置かれた手は支配か蔑みの意味しかなかったから。

【憧憬】そして、もうひとつ。
なぜアッシュがあれほどまでに英二に心酔していたのかを物語るエピソードがある。

マフィアのボス、ゴルツィネの罠にはまりスキッパーとアッシュ、英二の3人は路地の袋小路に追い詰められてしまう。
このままでは、3人ともゴルツィネの手に…その時、英二は水道管を引き剥がし助走をつけて走り出した‼️
「英二、無茶はやめろ❗️」叫ぶアッシュの目に飛び込んだのは空高く舞う英二の姿だった。それはまるで自由を手に入れた美しい鳥のように。

Fly  boy, in the sky…

この場面は、ANOTHER STORYに収録されている、同名の短編にて、伊部が初めて英二の棒高跳びを目の前で観た瞬間の場面とぴったり重なる。

英二の飛ぶ姿は伊部だけではなく、アッシュをも釘付けにしてしまったのだ。

自分には手にすることのできない自由を英二は自らの行動で見せつけたのだ。

一瞬の輝きはあらゆるマイナスをプラスに変える。

どんなに醜くても【ここ】が良ければ全て良しなのだ。

ここで、余談だが、実のところコミック編のこの場面は私は納得していない。
英二が飛び、空をバックに半透明になる重要なシーンなのにコマとしてはたったの1コマで終わっている。もっと、アッシュの表情や心の声を入れるべきではなかったか？
だから、コミックの最終回までなんとなくモヤモヤした気分だった。が、実質的には12巻にあたるANOTHER STORYの最後に収録された
『Fly boy in the sky』をよんで一気に納得できた❗️
まだカメラマンとしてやっていくことに迷っていた伊部が、島根の田舎の高校で棒高跳びの選手としての英二をモデルにさまざまな表情を切り取っていく。
その中で伊部は英二の家族への思いやりとアスリートとしての葛藤を読み取る。
物語の終盤、英二が高さ4メートルのバーをひらりと飛んだ瞬間の解放感溢れるその表情に魅せられる。（阿部はこのワンシーンでカメラマンとしての一歩を踏み出すことになる）ここだ❗️このシーンこそ、アッシュが観たシーンなんだ‼️だからアッシュは英二に羨望を抱いたんだ❗️と納得できたのである。

2018年『BANANA FISH』は満を持してアニメ化された。
アニメでのこのシーンは、まさしくあの『Fly boy in the sky』とぴったり重なって見えた😃
アッシュの瞳の中に舞いあがる英二。心憎い演出に胸が熱くなった。
アニメでは、時代背景を現代に置き換えたり、キャラクターをスタイリッシュに描かれていたり、原作を重視するファンからはキビシイ意見も出ていたみたいだけど、物語そのものはほぼ忠実に再現されていたし、原作ではわかりにくかった部分がクリアになっていたので、違和感なく楽しめた。
オープニングの曲もカッコいい❤️ぜひ、あわせて観てほしい❗️

【普遍の愛】BLというカテゴリーに入るのかどうかはさておき、同性であれ異性であれアッシュと英二のように【互いに唯一無二の存在に巡り合うことの奇跡】は存在するのか？
どんなに離れていてもその気持ちに変わることのない普遍の愛。

現実にはそうそうあり得ないことを読者は知っていて、あり得ないからこそ漫画の中の彼らに共感してしまう。
そして、それは簡単には手に入れられないからこそ美しいのである。

【それぞれの愛】
では、彼らを取り巻く人物はどうか？
アッシュは孤独とされているけど、彼ほど登場人物のほぼ全てから愛されたキャラはないんじゃない？
一番の親友だったショーター
片腕だったスキッパー
彼が取りまとめていたストリート・キッズたち
ジャーナリストのマックス
警部ジェンキンス
警部補チヤーリー
チャイナキッズのボス、シン
チャイナマフィアの月龍ユエルン
最大の敵ディノ・ゴルツィネ
師匠ブランカ

それぞれがアッシュにたいして何らかの【愛】を感じていたのは間違いない。果たしてどんな愛なのかを比べて見るのも面白いかも。

個人的には月龍ユエルンの感情に一番共鳴してしまった💕
アジア系のロン毛にめっぽう弱い❤️

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