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『魔道祖師』考察 藍湛の呟き③

日本語版原作第1巻~第4巻を何度も読み返して、いくつかの疑問が浮かび、もやもやをすっきりさせたいと考察+二次創作を書いてみた。
疑問その①藍忘機はどの段階で恋に落ちたのか→『藍湛の呟き』
疑問その②魏無羨にとって藍忘機はどんな存在だったのか→『魏嬰の独り言』
疑問その③夷陵老祖となった魏無羨はなぜあんなに性格が変わってしまったのか→『夷陵老祖零す』と綴ってみた。
創作のヒントになる原作の参照ページを記載。原作と合わせて読むのも面白いかも。

あくまでもいちファンの願望として捉えて頂くと有難い。


兔子

《日本語版原作第一巻  P177上段》
「しばらくは座学に出席するのは控えるように」叔父の言葉の裏にあるのが、魏無羨との関わりを禁じると言うことは明白だ。今まで叔父が築いてきた輝かしい痕跡を悉く破壊し、雲深不知処を堕落者の集まりに変えた事実を彼は決して許さないからだ。
加えて、愛弟子である甥っ子がこともあろうに心を乱されて清書を間違い、夜も眠れず、懲罰までうけることになろうとは、ほとほと気の休まる時間がないのであろう。
しゅに交わればあかく為ることを身をもって証明してしまったのだから。いま、藍忘機は途方に暮れるばかりだ。ぴょんぴょんと膝に乗ってくる二羽のうさぎ。

あれは座学を離れて数日たったある朝のこと。相変わらず清書に掛かろうとした時、不意にあの澄んだ笑い声が聞こえた。
白芙蓉の木陰の窓から覗くと、魏無羨が江澄と懐桑と林道を歩いてきた。
(魏嬰……)ぼんやりと見つめていると懐桑さんがこちらを指差して何やら叫んでいる。魏無羨がつられてこちらを見た。咄嗟に身を引く藍忘機。なぜか、後ろめたい。
ふぅっと溜め息をつくと、静かに首を振る。
ざわつく気持ちを追い払い机に向かった。やがて夕焼けに空が染まり出し、漸く一日分のノルマを終えて書物を片付けようとした時、ゴトリと窓が開いた。
「藍湛!会いたかったか⁉️」
(…!魏嬰!)
そこには、魏無羨がニカッとわらって立っていた。
そうだ、私はこの笑顔に会いたかったのだ。言い当てられた恥ずかしさで、プイっと目を反らし、何事もなかったように無言で片付けを続ける。
「なんだよ、すなおじゃないなぁ~。見ろよ、これ」
そういって懐から丸いふわふわした塊を差し出した。それは二羽のウサギだった。
薄紅色の鼻をヒクヒクさせて、一匹は手足をダランと力なく足らし、一匹はどうにかこの手から逃げ出そうとジタバタと足で宙を蹴っている

「ほら、可愛いいだろ?要るか⁉️」
「いらない」
「えー?どうしてだよ。わかった、なら絞めて食っちゃうからさ。」
「…?何と言った?雲深不知処での殺生は禁止だ」
「いいさ、外で絞めて焼くから。」ぷらぷらと二羽のウサギを振り回した。
まさか、食べるために捕まえてきたと言うのか?
こんなに無抵抗な弱い生き物を?何と言う野蛮な男だ。仮にもこんな男の事を私は…?
「もらう」
魏無羨はパッと顔をあげると
「ほうら、そういうと思ったよ。ほんとにお前って奴は欲しいものを欲しいって言えないんだよな!うわっ」
すばしこい方のウサギが殺気を感じたのか魏無羨の手をすり抜け飛び出した。とたんにまだ墨の残った硯の上にはまり、黒い滴があちこちに飛び散った。
「あ、足跡が!」竹の敷物に続く黒い点々に呆然とする藍忘機に魏無羨が叫ぶ。
「見ろよ!藍湛、こいつら重なってなんかやってるぞ」
見ればふたつの雪だるまは互いに絡まりあい、上に下になりながらジャレあっている。
「もしかして、こいつら!」
「バカを言え!二羽とも雄だぞ!」
「え?そうなのか」ウサギを持ち上げて確かめるとニタッと口角をあげて囁いた。「お前、良くみてるな!すみにおけないな」意味ありげに覗き込んでくる魏無羨を思い切り窓から押し出した!
「アハハハハハハハハ!」けたたましい笑い声がいつまでも頭から離れなかった。

乖離


《日本語版原作第一巻 P180下段》

座学から距離をおいて一月あまり。足元でじゃれあう二羽のウサギを抱き上げて、藍忘機は溜め息を付いた。
しばらく平穏だった雲深不知処がにわかにざわついている。魏無羨が殴り合いのケンカをしたと言うのだ。相手は蘭陵金氏の嫡男の金子軒ジンズーシェンだ。何があった?少なくとも藍忘機の記憶の中の魏無羨は売られたケンカは受けるがそれでも一旦はあの得意の愛想笑いで受け流すのが常だ。自分から手を出すことはない。何か抗えない理由があったのだろうか?
ふと顔を上げると藍曦臣が微笑んで立っていた。
「その子たちはすっかり、お前になついてしまったようだね」
「兄上…」
「解っている。寒室の竜胆りんどう畑なら誰にも見つからないから、そこで世話をしなさい」
「感謝します」
「ところで…悲しい報せがある。」
「……」藍忘機の瞳をまっすぐに見つめて藍曦臣は続けた。
「江の第一弟子の彼が…」
「知っています」つと目を伏せる藍忘機の様子に兄は黙って首を横にふる。
「行かなくて良いのか?蓮花塢に帰ってしまうぞ。」
「何があったと言うのです」
おもむろに藍忘機は兄の顔を見つめた。
「彼に直接聞いてみれば良い。今ならまだ、祠堂の庭にいる」そう言って藍曦臣は蘭室の方へと去った。
祠堂へと向かう途中、数人の修士たちが立ち話をしていた。
「魏無羨もバカだよな、何も蘭室で殴りかからなくても。懲罰は免れないのに」
「あいつは江厭離ジャンイェンリーの事になると箍が外れるらしい。あの時のヤツの目付きは尋常じゃなかった」
「確かに、姉と言えども血は繋がってないんだから本心はわからない。」
「けど、魏無羨は家僕の身だ。いくら横恋慕しても手の届かない存在だからな。所詮、届かぬ花だ。」
チリッと胸が痛んだ。江厭離ジャンイェンリーは江澄の姉で金子軒の許嫁でもある。親同士が決めた縁談を金子軒が厭がっていることは誰もが知っている。その事で手を出すというなら江厭離ジャンイェンリーは金子軒を好きなのだろうか?彼女の気持ちを知っているから金子軒が赦せなかったのか。

そもそも、江厭離ジャンイェンリーは魏無羨にとってどのような存在なのか?
「俺は師姉の背中に居る時が一番安心出来るって、その時思ったんだ」
蔵書閣で寝転びながら、幼い頃の話をしていたのを思い出した。
両親を早くに失くし夷陵の街で残飯を漁って生き延びていた魏無羨は父の主君だった江楓眠に引き取られた。江氏が彼を探しだしてくれなければ、今の魏無羨はなかったと言った。「俺は今頃ゴロツキで、其処らじゅうの家からスイカをくすねてただろうな、ハハハ…」あっけらかんと笑いながらも、その瞳の奥には江氏一族への感謝と恩義がはっきりと見てとれた。

「藍湛、俺たち同類だな!親なんていなくったって自分の路は自分で拓く!だよな?」そう言って、覗きこんでくる無邪気な笑顔が浮かんでは消えた。
「魏嬰…」

渡り廊下から踞る人影が見えた。
祠堂の庭の白砂の上に座って魏無羨はうつむき、肩を揺らしていた。

(まさか…泣いている?)
じっと見つめる藍忘機の気配に気づいたのか魏無羨がくるりと振り返った。
「あ!藍湛じゃないか!見てみろよこのありんこ❗️」
ニカッと笑いながら棒切れに無数にまとわりついている蟻をみせにくる。
わなわなと拳がふるえた。
「……!くだらない‼️」
大股で歩き去る藍忘機の背中にいつものかん高い笑い声が響いた。
だがその後、藍忘機は彼の幻影に苦しむことになる。

つづく___

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