[2020.9.21-26]「積極的な読者」の立場に立つこと(1)

現在、『トトノイ人』次号SESSION 007の編集作業が進行中だ。編集作業は朝の日課の一つとして取り組んでおり、土日祝関係なく毎朝だいたい決まった時間に20分ほどずつ作業をする。以前も書いたが、人が話した内容を編集しているうちにその人の人生が自分の中に入ってくる感覚がある。

自分以外の誰かの主語を借りて言葉を組み立てながら、中間的な主体性とでも言うべきか、やや変性意識的な状態になって世界を眺めている気がする。私はもともと言葉に影響を受けやすいところがあるのだが、編集作業が習慣化した結果、実際の行動にも少しずつその対象の影響が出はじめた。

昨年から韓国語の翻訳スクールを受講しており、今年5月開講の授業ではキム・エランの短編小説に取り組んだ。キム・エランの短編集『바깥은 여름(外は夏)』は、昨年日本語版も出版されて話題になった。来日時のトークイベントで作家が語った「積極的な読者」の話が印象に残っている。

キム・エラン「翻訳者というのは、その言語の最初の読者であり、最も積極的な読者であり、最も繊細な読者であるとも考えています。自分の書いた思い、テクストが、翻訳者の体を通過して作品としてこの世に産まれてきたものなので、格別な相手です。」
(※『外は夏』日本語版刊行記念イベントでの発言。イベントの模様は『ちぇっく』Vol.6に収録)

人の話を編集して未来の読者に伝えようとする行為にも、翻訳と共通する部分があると感じる。誰かが喋った音声を単純に文字に起こしただけでは、よっぽどのことがない限り「話している感じ」に読むことができない。そういうテクストを作るためには、「積極的な読者」の立場が必要になる。

(※今週は平日のうち4日家を離れていたため、なかなか書き進められませんでした。ここまでにして、残りは来週の更新に譲ります)

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毎週末に1記事ずつ追加されます。その週に考えたことを、浮かんだ順に書いていきます。 ※扱うトピック(予定):言語、生活習慣、認知行動、サウ…

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