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茶道に導かれて、私はどこへ運ばれるのか……

 茶道を習い始めて二年の月日が経とうとしている。日常生活で茶道がどのように役に立つのかなんて、全く想像ができなかった。ところが意識もしていなかったのに、茶道の知識が大きな効果を発揮する場面が、偶然、向こうから訪れた。茶道を習っていたおかけで、面目躍如という場面である。
 先々週の土曜日のこと。知り合ってまだ日が浅い彼女と二人で、銀座の日本料理店に入った。
 店内はなかなか落ち着いた作りだった。店内の奥の壁は石垣を連想させるような大きな石の組み合わせで作られている。石の形はそれぞれに違っている。その石垣の中央にある大きな石に金箔が貼られていた。もう一方の壁の中央の石には銀箔が貼られている。バランスが取れていないと野暮ったくなってしまうところであるが、その金箔と銀箔の貼られた石組みの壁が無機質な石の中に、ある種の「しっとり感」を醸し出していた。そのことが気になって、お店の女性スタッフに尋ねた。
「あの石組みの中に金箔の貼られた石がありますが、なんともいい雰囲気を醸し出してますね。それに、こちらの石組みの銀箔の石も」
「わかりますか。この内装のデザインは大樋焼の第十一代当主の年雄さんのデザインなんです。大樋焼はご存知ですか」
「知っています。金沢の陶芸の窯元ですよね。確か、江戸時代初期に千仙叟宗室に同行して金沢で釜を開かれた方です。大樋焼は大樋村の土を使ったことから大樋焼と名付けられた、と。確か、飴色のお茶碗ですよね」
「よくご存知ですね」
「年雄さんには、奈良宗久さんという弟さんがいますよね」
「それは、存じませんでした」
「奈良宗久さんは、裏千家の業躰をなさっているお方ですよね」
「そうですか。存じませんでした。あの壁の焼き物も、あちらの焼き物も年雄さんの焼き物です。お店で使われている器にも年雄さんの作品が使われています」
「それは面白そうですね」
 私とお店の女性スタッフの会話を聞いていた彼女は、二人の会話が終わったあと、改めて私の顔を見た。
「よく知ってるんですね。なかなかいませんよね、あなたみたいな人」
「たまたまね。茶道で大樋焼のことは知っていたからですよ」
 茶道を習って二年足らずの私ですが、大いに面目躍如の場面だった。
 茶道は私をどこへ導こうとしているのか、楽しみだ。


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