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姉弟子と妹弟子

「次客争いね」
 と、着物姿の女性アシスタントに言われた。
 おっしょさんが、
「正客は、〇〇さん。次客は〇〇さん」
 と指示をだした。私はてっきり次客を指示されたと思った。正客だと亭主と問答をしなくてはならない。私は次客の席に着こうとした。すると50絡みの女性が、
「私が次客と言われました」
 と。そこで私は、どちらが習い始めて日が浅いかを問うた。
「私は、ちょうど一年です。あなたは?」
「私は、一年と少し」
「なら、あなたが正客ですね」
「先生からは、私が次客だと指示されました。なら、先生に確認しましょう」
 と、先生の言葉を待った。結果、彼女が次客の席についた。まっ、いいか。
 正客の席に着いて亭主のお点前を、見ていた。亭主を務めるのは、これまた着物姿が板についた50絡みの女性。私より少し後から茶道を始めた。入門の日、彼女は友人に付き添われてお茶室に入ってきた。その光景を、うっすらとではあるが覚えている。
 着物姿とは裏腹に、お点前の方は板についていない。お茶碗を持つ手も柄杓を持つ手も、微かに震えている。まあ、私のお点前も、はたから見れば似たようなモノだろう。12、13歳の少女よりも、少女っぽいお点前である。
 お点前は進んで、問答になった。
「お棗の、形は?」
「中棗に、ございます」
「お塗りは?」
「中村宗哲に、ございます」
「お茶杓の作は?」
「坐忘斎、お家元にございます」
「ご銘は?」
 たいてい、ここでお弟子さんたちは言葉に詰まる。そうこうしている内に、次客争いの姉弟子は、準備のために席を立った。とりあえず、稽古を終えた。
 お稽古終りの挨拶。先生に、
「お月謝分だけ、何かを得て帰ってくださいね」
 と言われて私は、
「お月謝以上のことを、学ばせてもらっています」
 と、答えた。50絡みの少女みたいに緊張していた妹弟子も、同じ質問を受けた。
「私も、同じようにお月謝以上の、沢山の事を学ばせてもらっています」

 そう続けた妹弟子は50絡みの女性だが、心が揺れた。ちなみに、女優の斎藤由貴も50絡み。彼女がデビューしたての頃、女性誌の記者として大勢の報道陣の前で質問をしたことがある。しかも、名前を間違えて、先輩記者に助け舟を出してもらった。

 そんな事を思い出しながら、ぼんやり妹弟子を眺めていた。茶道を始めて一年。習い始めた頃は自分の事で一杯いっぱいだったが、少しづつ周りが見え始めた。


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