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トキアンナイト イミテーション・ラバーズ

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52枚の人間スケッチ。男女の葛藤は、果てしなく続く旅路。 簡単に、どっちが悪くて、どっちが可哀想なんて、言えそうにない。 あなたは、幸せになれそうですか。
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2018年11月の記事一覧

ガールズ・トーク2 ファイル名=「猿」

《トキアンナイト 第29話》  クリスマスの、“イブ・イブ”の夜、繁華街で3人の女性がタクシーに乗った。 「私って、身持ちの硬い人じゃない」  入り口のドア側に座った、3人の中で一番酔いが廻っている女性が言った。 「そうなの?」  中央に座った遊び人風の女性が“あなたのプライベートは、よくわからないけど”という雰囲気で、答えた。 「そうそう。だからそれを、開けてみて」  もう一人の、タクシー・ドライバーの後ろに座った女性は、流れて行く車外のビルの明かりに視線を泳がせながら、

翼の折れたキャビン・アテンダント

《トキアンナイト 第30話》  冬の季節、日の落ちるのが早い。とっぷりと日の暮れた山手通り。中目黒を過ぎたあたりのマンションの前で、一人の女性が手を上げ、タクシーを止めた。 「渋谷の駅まで」  と、その女性は言った。タクシーをスタートさせると程なくして彼女は、携帯電話を使い始めた。相手は誰だかわからないが、仕事を探してるというようなことを話している。 「月に一度出向いて、報告をすればいいんでしょ」  ひとしきり話をして、最後に、 「パソコンじゃなくて、携帯の方にメールをくだ

博多弁の女

《トキアンナイト 第31話》   夜も午後10時をまわったころ、中野坂上の交差点で一組の男女が手を上げ、タクシーを止めた。美人とイケメンのカップル。年齢は男は24歳くらい、女は23歳くらい。二人がタクシーに乗り込んで来たときの雰囲気から、タクシー・ドライバーは、男女、どちらかのアパートに向かうんだろうと予想した。 タクシーは、山手通りから環七へ向かい、さらに道幅の狭い商店街を抜けて住宅街へと入って行った。しばらく行くと、女が一人で降りた。 「じゃあ、また明日ね。遅れなかよ

雪の京都へ

《トキアンナイト 第31話》  その人は、湯島の天神下交差点で、手を挙げた。タクシーは、静かに彼女の側へと寄って行った。乗車した彼女は、キャリーバックを足元に置き、行き先を告げた。 「東京駅の日本橋口へ」  少し、関西なまりのある口調で、タクシー・ドライバーへ告げた。「東京駅の日本橋口」は、比較的新しい東京駅の入り口である。駅の利用客の中でも新幹線を多く利用する客の間で、人気が出て来ている。新幹線の改札口まで一番近いということが、一番の理由だ。  神田駅界隈の外堀通りを走り

ロンドンから中野坂上へ

《トキアンナイト 第33話》 「ロンドンのどのあたりに住んでたの?」  女性が男性に語りかけた。 「……」  男性の声は、寒いのに酔い覚ましで開けた窓からの騒音で、聞こえにくい。 「そう。じゃあ、結構、近かったんだ。私の住んでたフラットには、今も私の友達が住んでる」 「……」 「インターネットの回線の料金、まだ、私が払ってるの」 「……」 「ロンドンは、会社の経費で留学してたんだ、いいなあ?」 「……」 「生活費の全部を会社持ち? すごい! 今住んでる所も会社持ち?」 「…

あんたの面倒を見られるのは、アタシしかいないよ

《トキアンナイト 第34話》  多少のアルコールも手伝って客は、タクシー・ドライバーに語りかけた。年齢は25、6歳くらい。短髪だ。 「今、一緒に暮らしている彼女と、結婚しようかと思ってるんです」 「おめでとうございます」 「実は彼女に、“あんたの面倒を見れる人は、アタシしかいないよ”っていわれて、ぐっときて……」 「いいですね。“この人のためなら、どんな苦労も耐えてみせる”っていう、そんな女の決意が伝わって来ますよ」 「そうなんです。実はオレ、彼女と暮らす前は6人と同棲して

「あのおじちゃんは誰なの? ママ」

《トキアンナイト 第35話》  その人は、都営大江戸線「西新宿五丁目」の地上の出入り口の近くで、手を挙げた。ドアを開けたタクシーに乗り込むなり行き先を告げると彼女は、後部座席に倒れこむようにして横になった。行き先は、「落合南長崎」。タクシーは方南通りから山手通りを右折した。 「すみません、運転手さん。ちょっと一ヵ所、寄りたい所があるので、そこを左折してください」  そういわれてタクシー・ドライバーは、ハンドルを左に切った。 「その路地を入ってください。その先に保育園があるの

ナンパ

《トキアンナイト 第36話》  震災から一ヶ月ほどたったころ、東京も表面的には幾分、落ち着きを取り戻したよう見えたが、その傷の深みのほどは、わからない。ただ、人々の“活気を取り戻そう!”という気持ちは、みな同じだった。  日曜日の午前10時ころだった。明治通りから斜め左に新宿のホテル街へと入って行く路地に、タクシーが入った。一本目の路地を越えたころ、カップルの男性が手を上げ、タクシーを止めた。  男性の指示にしたがって、まず、女性が乗り込んだ。そして、男性もその後に続くのか

女の変身セット、一式

《トキアンナイト 第37話》  東日本大震災から1ヶ月ほどたったころのことである。平日の夕方、25歳くらいの女性がタクシーを利用した。タクシーは、夕方の混雑し始めた幹線道路を、目的地へと急いでいた。そんな時、女性がタクシー・ドライバーに質問した。 「最近、夜の銀座で“震災特需”が、もう始まっているんです。それで、お客さんが多いと、私がタクシーの手配をしなくちゃいけなくなるんですけど。先日、それで困って。私、普段は地味なOLをしてて、夜だけ銀座でホステスしてて」 「そうですか

アクティブな女とイケメン

《トキアンナイト 第47話》 「ねえ、泊まってるホテルに帰らないと、ダメ?」 「まあ……」 「荷物とか置いてあるから?」 「うーん」 「ちょっとだけでも、寄ってかない? 大丈夫よ。最悪、明日の朝イチでホテルに戻ればいいんだし」 「そう……」  時間は、深夜の1時をまわっていた。会社の懇親会で知り合った二人のようだが。 「君ほどアクティブな女に出会ったのは、久しぶりかも……」  男は、なかなかのイケ面で、仕事もできそうだ。女はというと、ちょっと小悪魔っぽくて、男をそそる。普通

あなたは、変わった

《トキアンナイト 第39話》  男は、道路わきでタクシーを止めた。タクシーのドアが開いた。 「すみません。N大前駅まで、いくらかかりますか。5000円以内で行きますか?」  タクシードライバーは、ドアを開けたまま、カーナビで距離を見た。 「大丈夫です。大体、〇〇円です」 「そうですか、ちょっと待っていてくれますか?」 「はい」  タクシードライバーが、そう答えると男はいったん、マンションの中へ消えた。程なくして男が戻ってきた。 「お願いします」  タクシーがスタートした。タ

メルカレ

《トキアンナイト 第41話》  3人の女性が、タクシーに乗り込んだ。座席に着きタクシーが走りだすと、すぐに会話が弾んだ。 「マサル君って、どうだった?」 「あんまり話せなかったから……。それより、ルミは、どうだったの? 結構、話、弾んでたみたいだったじゃない!」 「なんていうか、それなりというか……」  と、どうやら、合コンの成果発表のようだ。話は、“イマカレ”の話へと、移行していった。 “しかし、イマカレがいても、女は合コンに行っちゃうのか。男も女も、変わらないね。変わっ

投げやりな彼女、適当な彼

《トキアンナイト 第42話》  午後8時半頃。山手通りの初台坂上を過ぎたあたりで、女が一人、手を挙げた。このあたりは工事中の箇所が断続的につながり、夜は薄暗く、通りに面して人が手を挙げても、見つけにくい。そんな通りで、黒っぽい服装をした女が手を挙げた。その夜は季節はずれの台風のように、雨風が強かった。女はタクシーに乗車してしばらくすると、ポツリと話始めた。 「本当は行きたくないんだけど、こんな天候じゃ……。家で寝ていたいんだけど」  タクシー・ドライバーは、聞くとはなしに、

女の幸せ

《トキアンナイト 第43話》  どんなことがきっかけで、そんな話になったのか、そのタクシー・ドライバーは覚えていない。 「私は夫に先立たれて、2人の息子を一人で育てたんです」  よくある話だ。 「主人は早稲田の政経の出身で、前の奥さんも同じ早稲田の文学部の出身の方でした」 「じゃあ、お子さんは前の奥さんの連れ子ですか?」 「前の奥さんは仕事が忙しくて、その上、お酒も好きで酒乱で。そんなですから、長男が小学生の頃から学校が終わると、保育園へ弟を迎えに行ってたくらいなんです」