『光る雨』
日光浴とか森林浴という言葉がある。
しかし、千川さんの友人の多田さんは『光る雨』を浴びているというのだ。
雨男として仲間内からも有名な多田さん。
彼と行動を共にするといつも雨が降るのだそうだ。
千川さんは、そんな多田さんにある日、家に招かれたのだという。
『最近、良い健康法を見つけたのだ』と嬉々として多田さんにこんな話をした。
あるパワースポットで知られる山に行ったのだという。
鬱屈とした毎日から逃れるためにたまには緑に囲まれてみるのも悪くはないと、一人出掛けた。
迷うような山ではないはずだし、それほど奥地でもないはずなのに、
慣れたはずの山で、迷ってしまったのだという。
同じところをぐるぐる回り、疲れ果てぐったりとして木陰に身を寄せる。
季節がら幸い凍死などをするような心配はない。
持ってきた毛布にくるまると、いつの間にか眠ってしまう。
ふと、目が覚める。周りがやけに明るい。
夜の闇の中に、しとしとと光る雨のようなものを見たのだという。
ただし、その雨は空から降っているわけではなく、まるで中空から水が出現して、真下へと落ちているようなとでもいえばいいのか、
たいへん不思議な降り方をしていたのだという。
しかも、その雨は肌にあたっても温度はなく、感触すらもない。そして濡れることもないのだという。
あの雨に降られてからなぜか体が軽い。
また、来月あたり、その山にあの光る雨を見に行くので一緒に行かないかと誘われたが、千川さんは多田さんの話を信じてあげることができず断ったのだという。
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