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『厄捨て場』

不破さんの地元には、厄や災いを捨てる場所がある。
神社でもなくましてや寺でもないが、友人は神様だと謂う。
ただ、知る人ぞ知るといった場所で自分も友人に教えてもらった。
それは、山の中にある枯れ井戸だという。
その井戸の底には無数の厄が捨てられている。
厄と一口に言っても物であったり、思い出であったりその形は様々だ。
兎に角、自分の厄となる物をその井戸に捨てればその厄とは縁を切れるらしい。
井戸には、靴や、衣類、から手紙のようなもの、指輪など厄となる物が無数に捨てられているという。
自分も、厄を捨てようとその井戸に行き、井戸を覗き込むように、
ある女性の名前を何度も呟く。
『ひろみ』というのが不破さんの彼女。
あまり、良くない別れかたをしたので縁を絶つ意味で厄捨てに来たのだという。
顔を埋め、井戸を覗き込んだとき、
びっくりした。
井戸の底にたくさんの人の姿が見えた。
その人たちは、まるで入り乱れるようにひとつの塊となりそこにある。
これは、見てはいけないものだ。
そう思い、逃げ帰る。
あの厄捨ての井戸はまだあるのかは、わからない。
ただ、もう二度とはいかない。
あの井戸の底には、自分の厄も捨てられているからだ。
ひろみは、もう何十年も自分に憑いていたが、厄捨て場に行った日から、自分の元には現れなくなった。
それは、厄が落ちたからだろう。
ただし、いい気はしない。
なぜなら、縁を切る方法としては、けっして正しいやり方ではないからだ。

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