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『願掛け』

和田さんの家は閑静な住宅街の中にあるアパート。
そのアパートの傍にはごみ袋を入れる網目状のネットがついたカゴが設置されている。
ゴミ出しに行くと、カゴの中に、ひとつ小さな鳥居があった。
本物の神社と同じく、社があり、
ちゃんと賽銭箱と紐で吊るされた本坪鈴がある。
誰かが作った模型のようである。
もっとも鈴は、ささやかな小さなものだが、その出来映えに思わず持ち帰ってしまった。
ただ、置き場がなく押入れにしまった。
一日に一度、ミニチュアの神社に、お参りをする。
それこそ毎日、
手を合わせお参りをする。
何かいいことが起きるわけでもなく、期待もしていなかったが、
ある日、気づいてしまう。
 
押入れには、実家から持ってきた荷物が入っていて、
余計なものを置くスペースなどなかった。
押入れを開く。
びっくりした。
荷物がびっしり入っていて、あのミニチュアの神社は消え失せている。
ただ、開けた瞬間に、
なにかが落ちた。
どこかに挟まっていたのか、
それは、あのミニチュアの神社の本坪鈴だった。
紐が千切れている。
和田さんは、幻を見たのだと自分に言い聞かせたが、
あのミニチュアの神社に自分が何を願っていたのかだけは、いつまでも思い出せないのだという。

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