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専業主婦の年収はどのように換算すべきか?~主婦は大変論に対抗するために~

専業主婦の労働を年収で換算するのはなぜ?

この記事を読んでいる皆さんは「専業主婦を年収換算するといくら?」という記事やタイトルを読んだことはないでしょうか.私は毎日どこかのニュースサイトをサーフィンしていますが,大体1年ごとくらいにこの手の記事が目に入ります.実際に検索してみると、でるわでるわ,大量にありました.

これらの記事ではそもそもなぜ年収換算するのでしょうか.また,何を根拠に計算し,計算した結果をどのように解釈すればよいのでしょうか?

本記事では年収換算することの意味と,その結果計算される年収をどのように解釈すればよいのかについて考察した内容を,可能な限り合理的な内容で考察したいと思います.

なお,本記事では便宜上「専業主婦」としていますが,ここでいう主婦とは「主婦業」つまり家事全般を主にこなしている方を指すこととし,専業であるとか女性であることにはこだわらないとします.いわゆる「兼業主夫」なども含むことをご留意ください.また,私は経済等の専門家ではありません.

主婦は「職業」ではない

さて,最初に念のため書いておきますが,専業主婦のやっていることを年収換算することは本来ナンセンスなことです.なぜなら「主婦」は「職業」または「仕事」ではないからです.このように書くと気分を害される主婦の方もいるかもしれませんが,しかしこれはれっきとした事実です.

考えてみましょう.そもそも人間は仕事以外にも生きていくためにはやらねばならぬことがたくさんあります.家事はもちろん,歩いたり動いたり,行政手続きをしたり,もちろん呼吸をしなくてはいけません.これらの行動は負担が小さいとはいえ,れっきとした「生きていくために必要なこと」であり,その意味では家事と同じです.家事の場合はせいぜい「文化的に」が最初につくだけでしょう.

これらの「生きていくために必要なこと」をしても,誰からも賃金をもらったりすることはできません.これはなぜかというと「自己責任」だからという他ありません.つまり,「自分がやりたいことをやっただけだから,他人が感謝したりお願いしたりすることではない」ために,誰もお金をくれないわけです.
これは典型的な例として,「専業主婦と仕事しかしない夫の夫婦」などに対しても当てはまります.その場合,責任の所在が「自分」から「家族」に変わるだけであり,家族がやりたいことをやっているだけだから,他の人なり家族なりがお金を払おうとしないわけです.
専業主婦を職業と認めてしまうと,人間の活動のありとあらゆる行動が仕事とされてしまいます.売れない画家がいつまでも貧乏なように,人気の職業は買い叩かれて賃金が低いように,主婦はお金を払おうとする人がいないから賃金は発生しません.

それでも年収を計算する根拠

一方で,冒頭に書いたように年収を換算する動きはあります.これらは何を根拠にどのように計算したのでしょうか?もちろん時給数千円や24時間365日労働といった無茶苦茶な計算をしている場合を除くとします.
上で書いたように主婦は本来賃金をもらえる対象ではないですから,上に載せたサイト等ではこれらを計算する場合,同じ家事を①「家事代行や保育士に依頼する場合に支払うべき料金」や②「家事代行として働く場合にもらえる賃金」などを通じて換算されているようです.しかし,これらは本来の「年収」の意味とは大きく違います.

まず①「家事代行や保育士に依頼する場合に支払うべき料金」では計算できないことを示しましょう.
例えば,あなたが1時間タクシーに乗ったらどの程度料金を取られるでしょうか.それはそれはきっと結構な料金になります.恐らく,同じ1時間だけだけ働いてもその料金だけ稼げる人はほんのひとにぎりだと思われます.そんなに運賃をとるんですからタクシーの運転手はさぞかし儲けているのでしょうか.もちろん違います.

タクシーを運営する方は,働いたら働いただけ稼げるわけではありません.客のいそうな場所に赴き,客が入るまで待って,客を送り届けたらまたいそうな場所まで移動しなければなりません.したがって乗客を乗せている時間だけで時給換算することは非常にナンセンスであり,これらすべての時間をを分母として時給換算する必要があります.
これと同じように,家事代行業者だって,事務所を作り,従業員を募集したり雇用したりし,研修教育をし,宣伝をし,電話対応をし,現場に移動するなど,見かけ上賃金が発生しない時間帯が大量にあります.これらすべての時間を分母にとって時給を換算すれば,その時給は得た料金の何分の1かになることは明白です.
もちろんこれらは普通の時給が発生するアルバイトでも当てはまることですが、この場合ではこれらの準備時間等がほとんどなく、移動時間などを除いて賃金が発生するからこそ成り立つ職種とも言えるでしょう。

これは次の②「家事代行等でもらえる賃金」でも似たことが言えます.
時給が発生している時間以外の費用も勘定しなければいけないことはもちろん,自宅から移動する必要がなく,研修もいらず,万が一事故などが発生しても賠償する必要もなく、自分しか満足しないような作業でも許される家事業とは違い,家事代行業はこれらすべてを満足する必要があります.専門性という意味でも,準備や空白時間という意味でも,自宅で行う家事と,家事代行業の賃金の間には雲泥の差があることは明白です.

では主婦業は低賃金な仕事なの?

このように、いわゆる主婦の年収をなんとか考えたとしても、参考になる家事代行業との比較では年収は単純には計算できないことを示しました。無理やり換算したとしても,少なくとも保育士や家事代行業の数分の一程度の収入にしかなりません.
一方で,それなら家事業はもし仕事だったとしても低賃金しか稼げない,陳腐な職業なのでしょうか?もちろん違います.基本的に全人類がしなければいけない仕事であり,需要はこの上なくある素晴らしい業種です.このように家事業が計算上低賃金に換算されてしまうのは,次に示すように現在の社会構造ゆえなのです.

もし主婦が「職業」になったら

前述したように,主婦業は本来「職業」「仕事」ではなく人間の活動の一環で,これを(無理やり)職業に仕立て上げると人間のほとんどの活動が職業になります.したがって,主婦業を職業として認め,年収換算をなりたせるためには例えば「人間が自分がやるべきことを他人に任せる場合必ず賃金を支給するべき」といったような文化の醸成が必要です.

年収換算するためには,経済そのものを換算する必要がある

まだまだ問題はあります.
人間は生まれてからかなり暫くの間,親を始めとした様々な大人の世話になります.これは本来自分がやるべき家事などの業務を他人にやってもらっているわけですから,この文化に従うと大人になるまでにかなりの借金を負うことになります.親は大人になってからこの借金を返すことになるので,換算された年収は相殺されると考えることもできます.
なお,「子供をもうけたのは親なのだから親ががやるべき家事」と考えた場合,それは「自分がやるべき家事」とみなされるので,年収換算がなおのことナンセンスになります.いずれにしても親は実質的に賃金が発生しません.

子供ではなく,例えば本来夫がやるべき家事を妻が負担した場合にも当てはまります.夫婦が生計をともにしていた場合,その間で賃金をやりとりすることは意味不明ですし,生計を別にしていた場合,専業主婦にはいわゆる「生活費」として収入を主とする夫から賃金に相当するものをもらっているはずです.これが(換算年収と比較して)多いとか少ないとかは,専業主婦の業績評価の問題ですので,年収換算することとは意図が異なります.

さらに面倒な問題として,これらの経済活動が発生した場合納税や社会保険料等の問題があります.上のように専業主婦に対する年収を考慮する場合,当然そこにも所得税といった税の納税義務が生じます.主婦業は全人類がこなす必要のある仕事ですから,考慮する場合税収が爆増することは間違いありません.すなわち,(政府が正常であれば)減税する働きが強く生じて,実質的に全人類の年収が増加し,主婦の年収の価値が相対的が現象します.
つまり極端な例をあげると,「主婦は年収換算すると1000万円だぞ!」と聞くと主婦はすごい働きをしているように聞こえるかもしれませんが,「主婦が1000万円稼ぐようになった世界では年収中央値は2000万円くらいあるから大して高収入ではない」というようなことになりかねません.
主婦という大規模な年収を換算するためには,現在の経済そのものをそれに合わせて見直す必要があるのです.

「主婦は大変なんだぞ!」論に対抗するために

まとめです.
結局のところ専業主婦の年収換算には

  • 意味がない

  • できない

  • しても解釈が難しい

の3点セットがつきまとうというのが私の持論です.
専業主婦の方が自分の仕事(家事)にわかりやすい価値をつけたい気持ちはわかりますが,だからといって安直にお金に換算してしまうのはいかがなものでしょうか.
もちろん,こうでもしないと主婦業を軽視する輩がある程度いることは理解しています.しかし,主文でも述べた通り社会的に主婦業の存在価値が貶められているとは到底思えません.すなわち,そのような蔑視をする人は,特定の職業(水商売や肉体労働者など)をを蔑視する人と同じで個人の問題であり,広く社会に向けてアピールする必要は一切ないように思えます.

私のチャンネルではこのように社会に関するオリジナルの持論を多数掲載する予定です.なにか感じていただける人がいた場合は,気軽にコメント等していただけると喜びます.

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