俺の妹がこの中に居るなんて信じられないんだが? ①
【注意】
①本作は、カバー株式会社ならびにホロライブグループの持つコンテンツを利用した二次創作です。
②登場人物に関する介錯違いはご容赦願えると幸いです。
アイデア元動画
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真冬の空気は、太陽が南中している昼間にも関わらず肌を刺すように冷たい。マスクの中で反芻した呼気で唇を温め、手を擦り合わせながら家路を急ぐ。
「ただいまー。ふー、さぶさぶ」
しんとした家の中に放った挨拶は、しかし虚ろに木霊するばかりで、返ってくることはない。
「って言ってもこんな昼間に帰ってきても誰もいないんだけどさ」
寂しさを紛らわせるためにひとりごちて、マスクと帽子を脱ぎ捨て、かじかんだ手を温めがてら手洗いとうがいを済ますと、急ぎ足で階段を上る。
「さっさとコタツ入って、録り溜めしてたアニメでも見ながらまったりと――」
自室の扉を開けようとしたところで、部屋の中の異変に気が付く。家を出る前には消した電気がついている。そして、隙間から漏れ出る暖かい空気。
「……ったく、こいつは。勝手に俺の部屋に入り浸りやがって」
部屋のど真ん中、コタツに足を突っ込みながら、ヘッドホンをしてコントローラー握る、まるで部屋の主のような風格の少女は、湊あくあ。俺の妹であり、世間ではゲーマーとでも呼ばれるくらいのゲーム好きだ。
ヘッドホンをしてゲームに集中しているせいか、俺の入室に気が付かないあくあ。背後から忍び寄って、驚かしてやろうとも考えたが、ともすれば本気の怒りを買いかねないので、ベッドの上でしばらく待機する。
「あーっ! もう! 別チじゃん!」
怒り心頭、と言った様子で叫ぶあくあ。画面に目をやると部隊全滅の文字。そのタイミングで、背後からヘッドホンを外してやる
「きゃっ! ……って、なんだお兄ちゃんか」
「なんだとはなんだ。お前、学校は」
「……休んだ」
はぁとため息ひとつ。もう数ヶ月もすれば高校三年生になるというのにこの体たらく。
「お前なぁ。また母さん心配するだろうが」
「お兄ちゃんこそ大学じゃないの」
「俺は三限休講になったから、そのまま帰ってきたんだよ。ていうか、なに勝手に俺のゲームやってんだよ」
「いーじゃん。どーせお兄ちゃん最近ソシャゲしかやってないじゃん」
「それはそうだけどさ」
実際、最近はめっきり家庭用ゲームをする機会は減った。なんだったらあくあにぜんぶあげてもいいんだが、だからといって勝手に遊ばれていると釈然としないのも事実。
「まぁ、いいや。ちょっと足どけろ。ていうか、コタツか暖房のどっちかにしろよ。電気代もったいないだろ」
「ちょっと! いまあたしが入ってんだから、入ってこないでよ!」
「俺の部屋のコタツだろーが。はー、ぬくぬく」
「足! 当たってるし!」
「行儀悪いけど靴下も脱いじゃお。ふーー」
「つめたっ! もー、最悪なんですけど!」
とは言いつつも、あくあはそれっきり文句を垂れることもなく、再びゲームの世界へ没頭した。時々、あー、だの、うー、だの、よっしゃだの、声を上げるばかりで、もはや俺のことはほとんど目に入っていない。我が妹ながら、末恐ろしい集中力である。
「それにしても、ほんとゲーム上手いよな。そのゲーム、俺より上手いんじゃないか?」
試合中、問いかけるわけでもなくこぼした俺の呟きに、
「だってお兄ちゃんいない間にけっこーやってたし」
と、画面を見つめたまま、バツが悪そうに答えるあくあ。
「だから学校行けっての」
俺の知っている限りでも、あくあは週に一回程度は学校を休んで、こうやって俺の部屋でゲームに熱中している。
ゲームをすること自体は悪くないし、むしろ没頭できる趣味があるのはいいことだが、だからといって学校を休みがちなのは、家族全員の悩みの種だ。
「だって、あたしコミュ障だし…学校行っても友達いないし…勉強も分かんないし……」
友達を作るために、勉強をするために学校に行くんだろう、という言葉はいったん飲み込んでおく。画面から一瞬目を反らして呟いたあくあの表情が、あまりにも切なそうだったから。
「それに、別にお兄ちゃんと一緒だったら……」
「すまん、最後なんて言った? 聞こえなかった」
「うるさい、馬鹿! あーもう! お兄ちゃんがうるさいから、負けちゃったじゃん!!」
またしてもディスプレイには部隊全滅の文字。原因はお前が画面から目を切ったからだろう、という正論は、本当に逆鱗に触れかねないので、お口にチャック・ノリス。
「理不尽すぎる……」
「罰として、下行ってレッドブル取ってきて」
「それくらい自分で行けっての」
既に机の上に置かれていた空き缶をゴミ箱に捨てながら答える。
「次のマッチ始まっちゃったから、もう手離せないし!」
「へいへい」
…………
……
…
目が覚めた時、顔に温かいカーペットの感触があって、自分がうたた寝してしまっていたらしいことに気が付く。
あくびひとつ噛み殺しながら、体を起こそうとして、
「なんか足が重たい……って、あくあも寝てんのかよ。おい、俺の足は抱き枕じゃないぞ」
「スゥスゥ……」
あくあが絡みつけてくる足をやや乱暴に振りほどくも、むずがゆい寝息を立てるばかりで目覚める気配はない。
「あーあー、よだれまで垂らして」
疲れ果てるまでゲームできて満足したのか、あくあの表情は本当に幸せそうなものだった。生意気で不登校気味で、家族全員の悩みの種だとしても、そんな寝顔を見せられては起こすのも気が引けるというものだ。
「かといって、コタツで寝かせとくのも体に良くないしな。ベッドまで運んでやるか……よっと」
なるべく揺らさないようにあくあを抱える。同年代の女子に比べて頭ひとつ小さいあくあは、その見た目の通り、簡単に持ち上がる。
「んん…お兄ちゃん……」
ベットに寝かそうとしたところで、あくあが小さく呻いた。起こしてしまったか。
「ん、なんだ?」
「レットブル、取ってきてぇ……」
「寝言でなに言ってんだか」
ベッドの上にあくあを横たえ、掛け布団をかけてやる。
それから暖房を消そうか悩んで、しかしそのままリモコンを置いた。
「お兄ちゃん、また今度……」
小さく聞こえたあくあの寝言を聞きながら、コタツ布団をかぶり、俺も目を閉じたのだった。
…………
……
…
朝、目が覚める時の気持ちは白々しいと書いた作家は誰だったか。そんなことをぼんやり頭の中に考えながら目を擦り、下半身の生暖かさに違和感を覚える。
「ああ、そうか。昨日コタツで寝ちゃったのか」
なかなか浮上しない意識のまま、携帯でいまの時刻を確認すると、土曜日の午前七時。どうやら半日近く眠ってしまっていたようだ。
「そういえば」
と、上半身だけを起こしたままベットの上に視線を向けると、そこにはくちゃくちゃになったシーツと布団があるばかり。
いつの間にか起き出して、自分の部屋に戻ってまた寝直したのだろう。
「ふぁ……腹減ったな」
大きなあくびを漏らし、コタツから這い出て階下を目指す。この時間帯ならば、もう母さんが朝食を作り出している時間だろう。
昨日は晩御飯も食べずに眠ってしまったから、お腹はペコペコだ。
リビングの扉に手をかけたところで、出汁と味噌の匂いが鼻腔をくすぐり、腹の虫がくぅと鳴いた。
「おはよー。って、あれ」
台所に立つ後ろ姿が、ずいぶん小さいことに首を傾げる。こちらに気づくこともなく、右往左往しながら調理を続けるのを見て、合点がいく。
「おはよ、あくあ」
「お、お、おはよ!? お兄ちゃん! ちょ、ちょちょちょっと待ってね!」
いままでは食事はすべてお母さんが用意してくれていたが、土日の朝は祖父母の家へ顔を出さねばならなくなった。
休日の朝くらい食事抜きでもなんとかなるだろうと思っていたところ、なんとあくあが自ら担当したいと挙手し、家族一同目が飛び出るくらいに驚いた。
そして今朝がその第一日目。
「えっと、玉子焼きはこのフライパン使って……。えーっと、お兄ちゃんは砂糖入りのが好きだから……」
あんちょこを見ながら、たどたどしい手際で朝ごはんの支度をするあくあは心配以外の何物でもない。しかしそんな思いとうらはらに、ついつい口元がにやけてしまう。
「あくあ、ゆっくりでいいぞ」
「う、うん! あ、お兄ちゃんは、そこでテレビでも見ててくれたらいいから!」
食器を出すのくらいは手伝おうと立ち上がろうとしたところ、機先を制される。ならばお言葉に甘えて、椅子に座り、小さな体がふりふり動く様を楽しむとしよう。
「お、お待たせ! お母さんみたいにはできなかったけど、なんとか、できた……」
それから10分ほど待って、食卓に並んだのはザ・日本の朝食。白いご飯にお味噌汁、玉子焼きと昨日の夕飯の残りの肉じゃがといったお品書き。
率直に言ってしまえば、なにも難しいことはない献立だが、疲労困憊した様子でエプロンを脱ぐあくあを見たら、そんな言葉もどこへやら。
「えらいえらい。さて、お味の方は……」
箸を持った瞬間、食卓を挟んだ向こうであくあが緊張するのが分かって、たまらず苦笑する。
そしてそのまま湯気を立てる玉子焼きに箸を立て、口へと運ぶ。……
「うん、うまい」
ぱぁっと、花が開くみたいに破顔するあくあ。緩みそうになる口元を誤魔化すために、白飯をかっこんむ。
「よかった……肉じゃがもちゃんと温まってる。お味噌汁も…うん、辛くない」
自分で作った料理をひとつひとつ点検していくように食べていく。そんなあくあに、どうして土日の朝ごはん当番を進み出たのか、と尋ねるのは野暮というものだろう。
「「ごちそうさまでした」」
あくあ初の料理は無事成功に終わり、ほっとした様子であくあが食器をシンクへ運んでいく様をぼんやりと眺める。
と、その途中で、あくあが不意にこちらに向き直り、
「ね、今日はなんのゲームする?」
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