俺の妹がこの中に居るなんて信じられないんだが?②
【注意】
①本作は、カバー株式会社ならびにホロライブグループの持つコンテンツを利用した二次創作です。
②登場人物に関する介錯違いはご容赦願えると幸いです。
アイデア元動画
☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆
ソファに寝転びながらスマートフォンを弄っていると、ふと、そういえば今日から六月一日ということに気が付いた。
だからといって、なにか自分の意識に変革がもたらされるということはなく、せめて周囲の環境くらいは変えてやろうと、壁にかけてあるカレンダーをめくった。
そんな昼下がり。
再びソファにごろ寝をしていると、階下で玄関の扉の開く音に気が付いた。
父さんは仕事だし、母さんは夕方まで帰ってこないと言っていた。だとすれば、残る候補はひとりなのだが……。
軽やかな足取りが階段を上がってきて、部屋の前を通り過ぎようとしたところで、
「おい、スバル」
扉越しに声をかけると、ぴたりと足音は止み、怪訝そうに扉が、すこしずつ開かれていく。
「にーちゃん? 大学は?」
「俺は火曜日は全休にしてんだよ。お前こそ学校は」
「今日は創立記念日だから休みって昨日言ったじゃん! それで、午前中は部活だったから行ってきて、いま帰ってきたところッス!」
「じゃあ、部活サボって帰ってきたのか」
「ちーがーうー! 午後からサッカー部の練習試合だからお昼までなの!」
大空スバル。我が愚妹にして、今年で高校一年生になった。
俺が高校生の時に、ハンドボールの国体選手として三年間を過ごしていた俺に影響されてか、ハンドボール部のマネージャーになったらしい。
「ふーん」
「そっちから聞いてきたのに興味なしじゃん!」
「兄ちゃんはいまイベント周回に忙しいの」
「もー! 休みだからってだらけすぎッスよ? ていうか、部屋汚すぎでしょ!!」
言われて、部屋をぐるりと見渡す。
投げ出されたカバン、クシャクシャのまま床に落ちた掛け布団、講義のプリント、雑誌、エトセトラ……。
確かに、お世辞にも綺麗とは言えないが、他所様に見せる訳でもないし、致命的に散らかっている訳でもない。
「にーちゃん、マジでしっかりしろよなぁ」
そう言いながら、ズカズカ入ってきたスバルは、俺がスマートフォンを操作する横で、てきぱきと片付けを始めてくれる。
本は本棚へ、洗濯物はまとめて、食べかけのお菓子はゴミ箱へ。
「いやぁ、出来た妹を持って幸せだわ」
「そんなんだから、いつまで経っても彼女できないんだスよ」
「彼女、ねぇ」
スバルのお小言を聞き流しながら、しかしふと指が止まる。そのままなんとなく視線を横に持っていくと、ちょうどゴミ袋の口をしばっているスバルと目が合った。
「なぁスバル」
「なにー 」
「もし兄ちゃんに彼女ができたらどうする」
「うーん」
そこでスバルも作業をする手を止めて、すこし考える素振りをした後、
「後悔してない? って聞くッス」
「しばくぞ」
…………
……
…
「う~ん……これ、どうするんだ?」
土曜日の夕方、玄関に届けられた巨大な荷物を前に、俺は腕組みしいしい唸っていた。
目の前には、小脇に抱えられそうなくらいの段ボール箱。その中身は、いわゆる少女趣味のテディベアだ。
なぜこんなものが我が家に届けられたのか。その発端は、数日前に見ていたVtuberの生配信まで遡る。
暇を持て余していた俺は、ベッドの上でゴロゴロしながらネットサーフィンをしたり、動画を観たりして時間を潰していた。その内、とあるVtuberのライブ配信に行き当たり、そこでは企業案件としてネット上でプレイ可能なUFOキャッチャーを紹介していた。
今時こんなものまであるのかと興味深くその配信を見ていたが、そのVtuberが下手なのか、あるいはアームの設定がシビアなのか、なかなか取れずにいた。そのプライズがこれ。
結局、時間の都合上獲得を諦めたのだが、その後、あとすこしで取れそうだなぁと思ってなんとなくプレイしてしまったのが運の尽き。
5000円の出費と小一時間の浪費の末、愛らしいテディベアが、玄関に鎮座まします訳だ。
手に余る、というのが正直な感想だ。ぬいぐるみを集めるような趣味もないし、そもそも俺の部屋に飾っておいても、いつの間にかベッドに下に転がっているのがオチだ。
テディベアを取り出し、五分ほどにらめっこしてみるも良案は思い浮かばない。もったいないが、いっそ捨ててしまうか、という考えが頭をよぎったところで、
「ただいまー!」
「おかえり、スバル」
部活帰りの服装のまま元気よく玄関の扉を開けたスバルは、玄関に立ち尽くす俺を見つけて、訝しそうに眉をひそめる。
「なにしてんのにーちゃん、そんなとこで」
「いや、まぁ、なんというか、その、だな」
とっさにぬいぐるみを背中に隠す。こんな少女趣味、スバルに見つかってしまっては、なにを言われたもんか分かったもんじゃない。
「なんか宅配便でも来てた。あ、もしかして、えっちなの買ったでしょ!」
目ざとくも足元に転がった段ボール箱を見咎めて、にやにやした表情で回りこもうとしてくるスバル。それはそれで風評被害堪らないから、観念してテディベアを見せたところ、
「かぁわいい――――!!」
と、ちょっと予想外な反応が返ってくる。
「あれ、お前こういうの好きだったのか?」
「う……そりゃスバルだって女の子ッスから……」
しかも、へどもどして言葉を濁すもんだから、妹の珍しい一面を見つけて、思わず頬が緩む。
「じゃ、それやるよ。どうせ持て余してたから」
「ほ、ほんとッスか? ありがと、お兄ちゃん!」
テディベアを手渡してやると、大事そうに抱えたスバルの頭をくしゃりと撫でてやると、嬉しそうに笑ったのだった。
………
……
…
「それじゃ俺、ここで乗り換えだから」
「うん、またね。俺君」
改札を出たところで、ゼミの同期生と別れを告げる。
いままで話したこともなかったが、論文発表の際にたまたま帰る方向が同じということを知り、それからたまたまタイミングが合ったので、同じ電車に乗ってきた次第だ。
「あ、俺君ちょっと待って。そういえば――」
彼女に呼び止められ、振り返る。そして彼女の方を見ようとしたところで、その背後に見知った顔があって、
「あれ、にーちゃん?」
体操着姿で、学校指定のスポーツ鞄を提げたスバルと目が合った。
「学校帰りか?」
「ッス!」
「そか。だったら一緒に帰るか」
「ッス!」
俺もスバルもほとんど毎日この駅を利用している訳だが、大学生と高校生とで帰宅時間が重なることはほとんどない。思いがけない偶然に喜んでいると、間に挟まれてた彼女が困ったように笑っているのに気が付いて、慌てて水を向ける。
「ごめんごめん。えっと、なんだっけ」
「ううん、大したことじゃないんだけど……もしかして、妹さん?」
「そうそう」
俺と彼女のふたりの視線に気が付いたスバルが、いちど鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くして、それから、ニッと笑いながら、
「ちわーっす! 幌生第二高校一年、大空スバルッス! いつも、にーちゃんがお世話になってるッス!」
元気よく挨拶、そしてお辞儀。いかにも体育会系の自己紹介は清々しい。
「こんにちは。私は、お兄さんと同じ大学なの。よろしくね、スバルちゃん」
「ッス!」
我が妹ながら、初対面の人にも気後れせずに接することができるのは、スバルの美徳のひとつだ。
いわゆる陽キャという部類。見習いたいくらいだ。
「ああ、それでなんだっけ。なんか言おうとしてたけど」
「ううん。大したことじゃなかったから。またね、俺君」
ひらひらと手を振って立ち去っていく彼女を見送って、どちらともなく歩き出す。
乗換のための改札をくぐったところで、不意にスバルが足を停めて、
「にーちゃん……」
「なんだ?」
珍しく言い淀むような、もじもじしたように話しかけてくるスバルが気になって、俺も立ち止まる。
「あの人、もしかして彼女?」
なんともいえない玉虫色の表情を浮かべつつ、うかがうような様子のスバル。
「あー、あの人はなぁ……」
もしここで、「そうだ」と言ったら、スバルはどんな顔をするだろうか。そんないたずら心が鎌首をもたげてきて、返答をもったいぶってみる。
まじまじと俺の方を見て、不安そうに眉を八の字に曲げている。唇の動きひとつ見逃すまいと、じぃっとこちらを注視しているもんだから、お返しとばかりに、俺も見詰め返してみる。
ホームから、電車の接近を知らせるアナウンスが聞こえてくる。
窓口では、外国人と車掌さんがなにやら話し込んでいる。
帰路を急ぐ人々が俺たちの隣を通り過ぎていく。
そして、スバルがごくりと生唾を飲んだ。
「ぷっ」
そんなスバルの様子が、あまりにも情けなくって、傑作で、ついつい噴き出してしまった。
あっけに取られたスバルが、口を半開きにしたまま首を傾げるもんだから、その様もまたおかしくって、ついついスバルの頭に手が伸びた。
「ただの大学の同級生だよ。おら、なに止まってんだ。さっさと帰って晩飯食うぞ」
わしゃわしゃと撫で、先んじて歩き出す。すこし遅れてスバルが動き出す気配がして、駆け足で隣に並んでくる。
「そりゃそーッスよね! だってお兄ちゃんは、スバルがいないと部屋の片付けもできないッスもんね!」
「うるせぇ」
電車も来ていないのに、スバルがホームに向かって走り出す。階段を降りたところで、くるりとこちらに向き直って、
「にーちゃん、早くー!」
「はいはい」
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