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「柳の下にいつも泥鰌はいない」とはよく言うが、私は雨の日に柳の木を見つけると、いつもその根方を探してしまう。あの子はもういないと分かりきっているのに。 あれは私が小学校に入学して幾ばくもない頃のことだ。その日は下校してすぐに病院に行くため、母に車で迎えに来てもらう約束をしていた。ただ、学校の駐車場では空調関係の工事が行われており、一時的に教職員以外の駐車が禁じられている。代わりに近くのスーパーで待機してもらい、私がそこへ向かうことになっていた。 私は絶えず垂れてくる
ぬかるんだ草むらを這っていると、体の上半分、頭から尻尾にかけて温かさが沁みていった。数日ぶりのお天道さんとのお目見えらしい。 晴れた日が続くのも困りものだが、先程までの堰を切ったような、息をするのもやっとの雨も迷惑だ。知り合いも獲物も皆引きこもってしまうので面白くない。 いつも通る道が塞がっていないか、池はどれくらい嵩が増したか等々。周囲の被害を確認しながらしばらくぶらついていると、木の陰から声が聞こえた。樹皮の隙間に隠れられるくらいの小さい虫のようだ。 「やーっと晴
1か月前に消えたぼくの友達は、蜘蛛になって帰ってきた。 「よう、元気?」 「いや何してんだよ、ここぼくの家なんだけど」 部屋の天井の隅に何か黒い点が蠢いていると思ったら、彼だと分かって文字通り腰を抜かした。糸の端を天井に張り付けて、呑気にぶら下がっていたのだ。 「ここに置いてくれよ。世話してくれなんて言わないし、金もかからないしさ。この間みたいな大雨を、また命からがら生き延びるなんてごめんだね」 「……まあいいけど。きみの家族に伝えなくていいの?」 彼が失踪して多くの