【感想】イリス『理想のリリィ』pixiv

1. 紹介

 初見の方はぜひ。

2. 語句

イリス先生の作品はやや難解な語句が多い。
それが味であり、正直意味を知らなくても問題ないのだが、後学のため一応ググってみた。あくまで参考程度に

  • 剣戟(けんげき)・・・刀で切り合う戦い。

  • 懼れ(おそれ)・・・「恐れ」に同じ。 怖がる、危惧する、といった意味を表す語。

  • 胡乱げ(うろんげ)・・・どうも胡散臭い様子だ、胡乱な気配がする、などを意味する語。 「胡乱」に、そういう様子・気配があることを示す「げ」がついた表現。

  • 戦闘教義-ドクトリン-・・・戦いで使用される「型」「戦法」のこと。

  • 朴念仁(ぼくねんじん)・・・無口で愛想の無い人。頑固でものわかりの悪い人。わからずや。

  • 裸絞(はだかじめ)・・・自分の両手を組み合わせて、二の腕で相手の咽喉を圧迫する絞め技。

  • 静謐(せいひつ)・・・静かで安らかなこと。世の中が穏やかに治まること。太平。

  • 下段の霞(かだんのかすみ)・・・霞の構えとは剣先を向かって左側に開き、右足ではなく左足を前に出す構えのこと。

  • 湛然不動(たんぜんふどう)・・・「湛然」は、静かで安らかなようす。「不動」は、揺るがないこと。

  • 数舜(すうしゅん)・・・一瞬よりもやや長い時間のこと。

  • 翳り(かげり)・・・表情などの、どことなく影がさし、暗くなったような感じ。

  • カーテシー・・・ヨーロッパおよびアメリカでの西洋文化的あいさつ法。 17世紀以降、女性のみが行う礼法として発達した。 目上の相手に対し、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたままあいさつをする。

  • 緞帳(どんちょう)・・・舞台にある幕のひとつで、客席から舞台を隠すための幕である。

3. 感想

 水前寺悠というキャラクターを学ぶためには、欠かせないストーリーの一つである。

 最初にイリス先生の作品を読んだのは、一柳隊結成をメインに描いたアニメおよび舞台を視聴した後だ。(正確な年月は覚えていないが)知り合いの葉飛四先生がドハマりしており、重い腰を上げて読んだ。実用書以外で、活字に触れるのは久しぶりだった。

 千秋と冬子視点からはじまるバトルシーンは、煌びやかなアサルトリリィの作風とは程遠い、泥臭く、殺伐とした雰囲気を醸し出している。もとよりアサルトリリィの世界は重くて暗い設定が多く、これが本来の形なのだと私は勝手に考えている。それを中和するが如く、千秋、冬子、水前寺悠のコミカルな掛け合いは、原作にある百合要素からは少々外れているが微笑ましいものがある。

 特に訓練シーンは見応えがある。CHARMという武器は可変式の銃剣という特殊なものであり、リアリティを出すためには広い知識を要求される。少なくとも私は、水前寺悠の指導に説得力を感じた。こんな先輩がいたらいいなぁと素直に思ったが、現実はそう上手くいかないものである。

 そう、この物語でさえも。

 私がイリス先生の作品で最初に読んだ話は「基地の街」。水前寺悠が芦屋少年工科学校へ転校する話だった。そこで描かれている水前寺悠は、ベースの性格こそ変わらないが、本作のような柔らかさはほとんど感じることができなかった。それだけ「大きな出来事」があったのだと、この作品を読み始める前から確信していた。二人の後輩と関係を深める過程はまさに「儚くも美しい」と言えるものだった。

 冬子の最後のシーンを見たときには自然と涙が溢れていた。CHARMはどうして動くのか――最悪で、物語としては最高な伏線回収だ。

 生き延びた悠はその後(明言されてはいないが)一柳隊に出会う。おそらく小説版アサルトリリィで梨璃たちが鶴紗を救いに行くシーンと思われる。

 余談だが、アサルトリリィは媒体によって設定が微妙に違うので、まだ読んだことのない人はぜひ読んで欲しい。私は藤沢市にふるさと納税して手に入れた。

 アサルトリリィの花形ともいえるノインヴェルト戦術。実際はツッコミどころ満載の戦術だが、ここまで皮肉たっぷりに書けるのはまぁイリス先生ぐらいだろう。うん。

――理想のリリィ

 本作の読者の誰もが水前寺悠のことを指す言葉だと思っていたに違いない。水前寺悠の怨嗟の声をトリガーに、私もいくつか苦い過去を思い出した。喉に何かが詰まったように苦しくなる。腹の底で渦巻くこの感情を、人は共感と呼ぶのだろう。しばらく物理的に動けなかったのは言うまでもない。

 そして水前寺悠は百合ヶ丘を離れることになる。千秋が叫んだ疑似姉妹の契りの申し出も虚しく。

 実は、百合ヶ丘女学院を中心としたストーリーで、シュッツエンゲルになる過程が細かく描かれている話はそう多くない。それが見たいならシュベスター制度があるルドビコ女学院の舞台をおすすめする。

 話を戻すが、疑似姉妹の契りはしばしば断られることもあるが、この二人ほどつらいものを私は知らない。

 たとえ、愛する者を喪ったとしても、自分自身に失望したとしても、戦うことを決めた水前寺悠。その選択は彼女の異常さを物語っていた。

 少女にどうか救いを、と願わずにはいられない。

2023年4月17日 独彩かがり
 


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