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ショーツとパンティについて調べてみた

男性がポルノ小説を書く時、女性の下半身を覆う下着をどう表現するのか。ショーツなのか、パンティなのか、あるいはパンツなのか。地の文ではどう表現すべきなのか。ポルノ作家の一人として、下着の呼称について少し調べてみた。

『日本国語大辞典第二版』(小学館)では

パンツの用例……1934年
パンティの用例……1954年
ショーツの用例……1974年

日本国語大辞典では「なるべく初出」のものが用例として選ばれているので、以上3つについては初出の可能性が高い

ちなみに『下着のひみつ』(学研)によると、パンティストッキングという言葉が発明されたのは1967年だそうだ。マイナーなポジションにある服飾用語を新製品の名前に組み込むというのは考えがたいので――新製品に組み込むとすれば、今流通している一番手の用語になるので――この時期(1960年代)にパンティが公式ではメインのポジションだったという証拠になる。

さらに用例を探ってみる。

1985年の『おもしろ下着学日本一』(KKベストセラーズ)では、すべて「ショーツ」で統一されている。著者は、当時のワコール中央研究所所長・中野広なので、1985年の時点で下着会社としてはショーツを公式に使っていたということだろう。なお、『おもしろ下着学日本一』の中で、唯一パンティと記されている箇所がある。娘のショーツを見た父親が驚いて妻に尋ねる場面である。その時に父親のセリフとして「パンティ」という言葉が使われている。奥さんの方はショーツという言葉を使っているので、パンティは昭和のオッサン用語だった可能性が非常に高い。

1997年発売の『龍流下着の手ほどき』(龍多美子、文化出版局)でも、使われているのは「ショーツ」。パンツもパンティも使われていない。90年代でも、下半身の下着を表す文章語の表現は「ショーツ」のようだ。

現在の通販サイトでも、「ショーツ」。

以上を踏まえると、

パンツ(1930年代~50年代?)→パンティ(1950年代~80年代?)→ショーツ(1980年代から今)

という変遷をたどってきたのではないか、と推測できる。ただし、1930年代~40年代にかけて、女性の下着のメインがパンツだった(女性は主にパンツを穿いていた)と考えるのは早計だ。1940年代を描いた富島健夫『女人追憶』では、ズロースが使われていた。実は、ショーツが発明されたのはスカートの丈が短くなったことである。1940年代当時の日本では、丈の短いスカートを穿く女性は非常に少なかったと思われるので、ズロースの方が主流だっただろう。日本でパンツを穿いていた女性は少なかったはずだ。日本で丈の短いスカート――ミニスカート――が流行するきっかけとなったのは、1967年のツィッギーの来日。ミニスカートの流行は、ズロースからショーツ(当時はパンティ)への移行をさぞかし後押ししただろう。ミニスカートの流行の先に、「丸善ガソリン100ダッシュ」のCM――小川ローザのミニスカートがめくれて「Ohモーレツ!」というセリフが流れる――と、『ハレンチ学園』のモーレツごっこ、そして両者の帰結としての、スカートめくりの全国的な流行がある。ショーツ(当時はパンティ)が主流となっていなければ、スカートめくりは流行らなかっただろう。

さて、ショーツの変遷の話に戻る。
1976年発売の『増補版 服装大百科事典』(文化出版局)には、

「ショーツにはブリーフあるいはドロワーズなどの短い下着類の意味があるが,今日ではショーツといった場合には,短いズボンのことを指すのが普通

という記述がある。ここで言う「今日」とは69~76年だろう。つまり、ショーツは、言葉としては1970年代には存在していたが、1970年代ではまだメジャー(一番のポジション)にはなっていなかったということだ。しかし、恐らく80年代にショーツはメインの用語へと昇格し、公式な用語(文章語)としてはショーツ一択の状況になっている。

ただ、文章語の世界ではなく口語の世界――女性の間――では「パンツ」も使われている模様だ。ズボンを表すパンツと下着を表すパンツは、イントネーションで使い分けされている様子。ぱんちゅという言葉は、恐らくあまり使われていない(笑)。娘がいる男性は「パンツを穿きなさい」と娘に指示を出したりしているようなので、パンツは今もなお、男女問わず口語では使われている様子だ。

服飾用語はよく変わるものだが、パンティを使うと昭和臭が漂うことは避けられない。

昭和育ちが読者の黒本(フランス書院文庫)なら、地の文でパンティーは許容されるだろうが、エロラノベの地の文ならショーツを使うのがよいように感じる。ただ、会話においては「パンツ、穿いてきてないの」みたいに「パンツ」を使うことは充分に可能だ。

ちなみに昭和の頃に使われた「ホットパンツ」という言葉は、今は誰も使わない。地の文でも会話でも、使うと洩れなく昭和臭が漂う。今ではショートパンツとか、もっと短いマイクロミニショートパンツとかが使われている模様。

ファッション業界では知られていることだけれど、服飾用語は変化する。大人(だいたい30歳以上)になってポルノ小説を書く時、思春期に覚えた衣服の名称を使うと古臭くなることがあるので、要注意。

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