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「行政不服審査 答申・裁決事例集」を読む意味

 以前、note で書いた入管業務と通訳に関する記事の続きを書こうと思って下書きしていましたが、「いや、これどうなんだろう?」と悩み、深みにはまってしまったので、今回は別の記事を上げます。

 私が一部執筆させて頂きました、「行政不服審査 答申・裁決事例集」(行政手続研究会・著 日本法令)が刊行されて早1ヵ月以上が経過しました。
 お陰様で“行政不服審査ワールド”ではご好評をいただいているようで、苦労して書いた甲斐がありました。

 私が担当させていただいたのは、「旅館業法」、「旅行業法」、「消防法」、「畜産経営の安定に関する法律」そして「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(GI法)」です。
 これらの事例では行政処分、行政指導などの問題が争点となっています。そこで、行政書士がこのような事例集を読む意味について、私見を述べさせて頂こうと思います。

 一定の研修を受けて考査をクリアした特定行政書士であれば、行政不服審査の代理人となることができます。特定行政書士が代理人となるケースあれば、過去の事例(答申・裁決)や判例を参照することは当然です。

 他方、そうでない一般的な許認可業務を行う行政書士からすると、「許可を取ることが仕事だから、行政不服審査の事例を知ったところで意味は無い」と思われる方もいるかもしれません。
 しかし、それは大きな誤解です。

 行政書士が審査請求の事例を読む意味。それは、わかりやすく一言で言うと、「過去のトラブルから学ぶ」です。

 この事例集を読んでいただくとわかりますが、「そりゃ当たり前にそうなるよね」というケースもあれば、「役所の担当者に言われたとおりにやったのに、いきなりはしごを外された。さすがに酷すぎじゃね?」と言いたくなるようなケースもあります。

 どんなに行政との協議を経て許可されたとしても、窓口の担当者の指導や許可処分が法的に間違っていることもあります。「担当者の言われたとおりにやった」としても、あるいは「許可が取れた」としても、後に許可が取り消されたり、申請拒否処分をされたようなケースを見ると、法的根拠、許可要件やリスクの把握が非常に重要であることを認識させられます。

 そこで、あらかじめ過去のトラブルを知っておけば、どこに「落とし穴」があるかを予測し、対策することができるでしょう。
 許認可絡みの紛争は、莫大な投資をしたのに許可が取れなくて事業ができない(あるいは修正対応に莫大なお金がかかる)など、かなり致命的な結果が待っています。

 申請は時間との闘いという面もあり、受任した業務のあらゆる法令(関係法令、通知通達を含む)を知悉して申請することはそう簡単ではないでしょうから(うかうかしていると (行政書士)「待ってて下さい!この法律難しくて・・・」 (依頼者)「そんなことより早く書類出してよ。オープン日決まってるんだけど・・・」と言われるかもしれません)、実際には時間と業務精度の兼ね合いで進めることになるでしょうが、できる限り法令を知り、実務運用を知り、過去の行政争訟(審査請求、裁判)の事例を知ることが、自分だけでなく、依頼者を守ることにも繋がります。

 ちなみに、行政書士は行政の担当者と「ケンカ」するべきではないという考えから、法的根拠を持ち出すこと自体を避ける方もいます。
 たしかに、窓口で暴言を吐いたり、単なる感情論で「なんとかしろ」なんて言うのは論外です。相手も人間ですし、ほとんどは真面目な行政官の方々です。
 しかし、我々は依頼者からお金を頂いて業務を遂行する以上、漫然と不合理な行政指導、誤解を放置するのは、善管注意義務違反ではないかとすら思います。
 なので、依頼者の意向を伺いながら、粛々とやりとりをすればよいですし、それがかえって行政の担当者の方との信頼を得ることにもなります。
(行政機関の内部の法令の適用に関しては「自治体現場の法適用 あいまいな法はいかに実施されるか」(平田彩子・著 東京大学出版会)が参考になります。)

 ということで、この「行政不服審査 答申・裁決事例集」は、行政書士の方全員におすすめしますので、まだお持ちでない方はぜひご購入ください。


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