ため息ばかり(短歌集)


ため息

ごめんねと吐き出すようにつぶやいた相手はこんなぼろぼろの僕

隣人に聞かせる声で泣けるなら胸の淀みは吐き出せるのか

何もなく悲しいことも嬉しくもなにもないのに涙は流る

昔話

花の色は移りにけりと嘆きつつ写真の中は褪せることなく

口にすれば終わる二人は薄氷を踏み抜くことを愛だと言い張る

恋仲と歩いた道を遡れ遠い記憶を踏んで消すには

イヤホンを忘れた日には耳の奥響く歌声愛を説く君

片恋

片恋の君がわたしとおなじこと思ってるって思いたくない

並び歩く11センチの間柄笑顔の君と破れぬ平穏

窓越しに映るあなたの顔ならばきっと一生見続けられる

いつもどおりの君の姿がいつもとは違う心のわたしにさせる

「またあした」無邪気な別れがまたあした君と触れ合う約束になれ

片恋2

「君の紡ぐ言葉が好き」という君は私の言葉で幸せになるの?

君に宛て流れる川に恋文をそっと置いたら届くかしらん

わたしには似合う幸せなんてない頬杖をつく君とため息

片恋ほど気楽なものはなかりけり心のなかに君を飼うだけ

独り占めしたい誰にも触らせない心の中の君は籠鳥

最初から何も言わなきゃいいものをどうせ叶わぬ恋と知りつつ
(注。万葉集私訳:なかなかに黙もあらまし何すとか相見そめけむ遂げざらまくに)

ため息2

いまどきは不言実行などということばはなくてただ言うだけよ

一日がはやく終わってほしいとだけ思い続けて人生は終わる

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