もしHDMIがストラテラを呑んだら

 こんばんは、かがくまでございます。

 二週間ほど冬眠をしておりました。夏じゃん。そうだよ。イレギュラーなんですよ。

 かがくまさんがメンヘラなのは周知の事実かと思いますが、今回の冬眠(長期間のTwitter停止宣言)はいつもの調子の悪さとは全く異なります。実はADHDの疑いでストラテラを処方され、副作用で生ける屍となっておりました。

 以下のシリーズでは、ADHDの疑いでストラテラを呑んだところ大変な目にあったという話をお伝えしていきます。

本記事:ストラテラはなぜ効くのか?自分が服用したらどんなことが起きたかの要旨(無料公開)

次記事:ストラテラ服用体験記(有料)

次々記事:ストラテラの効用はあったのか?(有料)

俺、HDMIかもしれない

 世の中には精神疾患の簡易診断が出回っております。一昔前の流行は「うつかもしれない」でしたが、最近は「ADHDかもしれない」が流行のようです。とにかくいろいろと雑な診断がなされています。これを揶揄する単語として、単に注意力散漫なだけで「はぁ、俺…HDMIかもしれん」と発言した同僚というものがあり、要するに「よくわかんないけどASDだのADHDだのと何となく生きづらい現状も病名がつけば受け入れられる気がする」という受け口が存在するのも確かです。そして私も気持ちはよくわかります。

 また、他人の言動、行動を捉えて悪意をもって勝手に病名を付ける行為も散見されます。まあこんなの小学生のころから「○○菌」っていう病気が流行っているので似たようなものかなとは思うのですが、こと精神科については家族・友人・同僚からの素人診断が無自覚に行われております。中には精神科医でありながら面談せずに伝聞情報だけから診断した上に公共の電波に乗せてしまうプロの素人もいるようです。

 そういうのを真に受けて、気軽にストラテラを呑んだらどうなるか?というのが本シリーズの内容です。私がストラテラを実際に服用し自分の身に起きた数々の出来事から、精神科診断と一筋縄ではいかない投薬の難しさについて掘り起こしていこうかと考えております。

 ストラテラ体験記は数々あるかと思いますが、これは期待通りにならなかった話です。ADHDでの受診を考えていらっしゃる方の一助になればと思います。

覚せい剤で鎮静する子供たち

 現在のADHD治療薬がつくられるきっかけになったのは1937 年。米国の Charles Bradley 医師によって多動(Hに相当する症状)を示す小児患者にアンフェタミンを投与したところ、落ち着きを取り戻したことが観察されたのが始まりとされています。

 ところでこのアンフェタミンですが、身も蓋もない言い方をすれば紛うことなき覚せい剤です。でも覚せい剤を投与された普通の人は気分が高揚するなどの興奮状態になるというのが直感的な作用ですよね。それがADHD患者に対しては鎮静作用を示したのでした。

 これは精神疾患の患者の愚痴だと思っていただければ幸いですが、精神疾患に対する投薬は実験的な要素を含んでいると思います。普通は「細菌感染ですね~抗生物質出しますね~」という診断ー>投薬の流れが自然ですが、精神疾患については「うつっぽい」だけでは本当に何もわからないため、「精神科医の勘が統合失調症と言っているからとりあえずキレのいいリスパダール出して様子見るか」という感じで翌週来てもらって、効いているようだったら「リスパダール効いてるし統合失調症で間違いないやろ!」という診断をしているようです。つまり見立てー>投薬ー>効いたら診断という方策をとるしかない。もし効いてないようならもう一週間様子見、それでも効いてないなら薬を変え、効く薬が出てくるまで実験的投薬を繰り返すのです。その結果、効いているのかどうかわからない薬が残っていき、いつの間にやら多剤大量処方……という時代もありました。いまもそうかも?

 そういうわけで、精神科医は投薬とその効果に対してかなり素直です。たとえアンフェタミンが覚せい剤の一種で、本来的には興奮・過活動作用をもたらすものと了解されていても、多動性に対しては鎮静効果を持つと分かればその現象を素直に受け止め、治療薬としての開発が進みました。

治療のためドーパミンを増やそう

 研究の結果、脳内のドーパミンが関わっているのではないかという仮説が立てられ、それに沿って回りくどい方法でドーパミンを増やす薬が開発されています。(なぜダイレクトに増やしてはいけないのかについてはリタリンでググってください)

 現在ADHDの治療に使われているのはストラテラ、コンサータ、そしてインチュニブです。そのうちストラテラ(アトモキセチン)は、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(Selective NorAdrenalin Reuptake Inhibitors)とよばれるものになります。

 ※SNRIと省略できますが、抗うつ薬として有名なSerotonin Noradrenaline Reuptake Inhibitor(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)とは全く別の物です

 ストラテラという薬は、ノルアドレナリンのトランスポーターを阻害する薬です。ちょっとわかりづらいですね。

どのようにドーパミンを調整しているか?

 前述のとおり、ADHDの原因についてはまだよくわかっていませんが、ドーパミンを増やすとうまくいくらしいという仮説のもとで薬が開発されています。

 精神疾患における症状はこのドーパミン(やそれと構造のにているモノアミン)の濃度が原因ではないか、という説があります(モノアミン仮説)。例えば統合失調症の陽性症状はドーパミンの受け取りすぎという仮説があります。またうつ病はセロトニンの不足が原因とされるのもという説明を目にしたことがあると思います。ADHDに関しては、上記のようにドーパミンの受け取り量が少ないのが原因と推察されています。

 受け取り量が少ないなら、増やせばいい。その方法は二つです。放出量を増やすか、再取り込みを減らすか。前者に相当する薬がコンサータで、後者に相当する薬がストラテラになります。

 仮に健常な人間について、ドーパミンを自己生産することそのものに異常がないとします。本来なら放出されたドーパミンが、然るべき受容体に送られて効果を発揮するものです。しかしすべてのドーパミンが受容体に送られるわけではありません。健常な人間の脳であってもドーパミンの濃度調整をする必要があります。その方法の一つが再取り込み(Reuptake)であり、再取り込みする物質をトランスポーターといいます。

 あれ、ストラテラが阻害するのはノルアドレナリンのトランスポーターでは?と思った方、この記事をよく読んでらっしゃいますね。その通りです。ノルアドレナリントランスポーターは直接的にはノルアドレナリンの量を調整する役割を果たしますが、副業としてドーパミンも再取り込みすることが分かっています。なので、ノルアドレナリン再取り込み阻害剤は、ノルアドレナリントランスポーターを選択的に阻害し、本業の邪魔をされた結果としてノルアドレナリンが増え、副業の邪魔もされたのでドーパミンも増えるという仕組みです。

疲れているのに自発的に掃除をはじめた

 ここまでの話をまとめると

・普通の人に覚せい剤を投与すると興奮するが、ADHDに投与すると鎮静化した
・どうやらADHDの脳内にはドーパミンが足りてないらしい
・ドーパミンを増やすべく、ドーパミンの再取り込みをしている物質を減らそう
・そのために選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤を使おう

 という感じになります。

 さて、私の場合はどうだったのでしょうか。

 ドーパミンという物質は、常識的には増えると興奮作用がある神経伝達物質です。私もストラテラの効果で元気になれるのではないかと期待していましたが、上記の通り効果はその反対に出ました。気分の落ち込みはないのに倦怠感がつよい。一日中布団に横になって、ただ時間がすぎるのを待つのみ。激鬱だった院生時代を思い出しました。
 しかし悪い面ばかりでもなくて、ちょっと倦怠感が薄れたところで、なんと自発的に部屋の掃除を始めたのです。それも、部屋を一気に片付ける!というよりは、何か要らないものができたらそれを速やかにゴミ箱に入れるという形で現れました。これは自分の性格からしてあまりない体験で、確かにADHDの改善という意味では効果があったのかもしれません。
 本当に期待したのは、元気一杯になってやることの順序がたち、メリハリをつけて仕事や趣味にうちこめる、といった生活でした。しかし実際には、やる気元気成分は大幅に切り下げられた上でエネルギー再配分だけうまく行っているという感じでした。これでは生活がままならぬというわけで、たった3日で投薬中止となりました。
 投薬中止から一週間ほどで薬が抜け、こうして元の生活に戻りました。

 次の記事では、投薬に至るまでの経緯と、投薬してからの生活、そして薬が抜けるまでの状況をお伝えしたいと思います。




ここから先は

0字

¥ 300

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

お気に召しましたらちゃりんとお願いします。メッセージ、感想等お待ちしております。