[清水量子の解説] 第1章(無料)

この章は、この本全体の概論という感じです。

古典物理学の破綻

破綻には、「原子の安定性」以外に「黒体輻射が紫外域で∞になる」
「比熱の低温での変化」「光電効果」があります。
ラザフォードの実験で、当時主流だった原子の「ぶどうパンモデル」
(ランダム運動する電子の「スープ」に原子が点在しているモデル)
は、否定されましたが、なぜ「ぶどうパンモデル」だったかと言うと
「電子が円運動すると電磁波が放射されエネルギーを失う」
ことがすでに知られていたので、「土星モデル」のような形のものは、
論外だったのだと思います。

電子のスピンの測定

電子のスピンが、もし、コマのような物体であるなら
(わからないだけで)必ず1つの方向を指すことになります。
回転軸の方向を±1とすれば、「+y方向のスピンを持つ」状態では
y方向に+1がでる確率=100% なら、
z方向で+1がでる確率=0%
z方向で-1がでる確率=0%
になるはずです。
上記の結果は、この節にある電子のスピンの測定結果である
y方向に+1がでる確率=100%の時、
z方向で+1がでる確率=50%
z方向で-1がでる確率=50%
と合いません。
仮に、z方向の状態をうまく「混合した状態」して、
z方向で+1がでる確率=50%
z方向で-1がでる確率=50%
にできますが、この時は
y方向で+1がでる確率=0%
y方向で-1がでる確率=0%
なので、この場合でもありません。
種明かしは、
「(わからないだけで)必ず1つの方向を指す」
つまり、
「状態は、+1(1)か -1(0)かの必ずどちらかで
測定結果が確率的なのは、それらが混合した状態だから」
というのが間違いであり、はなから、状態は1つの数値で
表すことが無理なのです。1つでダメなら複数、ということで
状態は、数値を並べたベクトル(一般には行列)で表せば
可能です(詳しくはp36)
今の場合、
z方向の状態は +1(1,0)と -1(0,1)の和 a(1,0) + b(0,1)
とするわけで、これを、
+1状態 と -1状態の重ね合わせ
と言います。

重ね合わせ状態

詳しくは、第2章の「純粋状態」「混合状態」のあと
説明しますが、
「値が(わからないだけで)本当は1つに定まっている状態」
ではありません(それは1つの純粋状態が未測定の場合)
また、どの値か複数の可能性があるが、その間は無関係な状態
でもありません(それは混合状態)
重ね合わせ状態の存在は、原子サイズでは、量子力学が成り立つこと
自体が、その証明ですが、
NTTの実験:
https://www.brl.ntt.co.jp/J/2016/11/latest_topics_201611042223.html
で、原子より非常に大きなサイズの素子でも、
そのリング状の素子を回る電流が、「右回り」と「左回り」が
同時に存在することが実証されました。
(この電流は、普通の検流計で測れるくらいの量なのです!)

実在性とベルの不等式

この本では、物理量が実在するとは「物理量は、各々が各瞬間瞬間で
ひとつずつ定まった値を持ち、測定とはその値を知ることである」
とありますが、アインシュタインらのEPR論文では、
ある物理量を測定して常に同じなら「対応するものが、実在する」
と言っています。これは、
「対応するものが、測定を実行しようがしまいが存在する」
ということで、アインシュタインの逸話:
「君、あの月が見えるかね。あの月が君が見るまで、そこになかった
 という話を信じるかね」
そのものです。

「ベルの不等式の破れ」は、物理量が速度なら、
「測定を実行しようがしまいが原子は、何らかの速度を持つ」
を否定しますし、物理量が位置なら
「測定を実行しようがしまいが原子は、どこかの位置にいる」
を否定します。
また、物理量だけの実在性の否定だけでなく、
量子場の理論にも適用できるので、電子や光子とかの
粒子自体の実在の否定にもなっています。
(この説明は、「第7章 場の量子化」の最後に書きます)

古典物理学をどう拡張しようとも、上記の「実在性」を
満たす限り、「実在論」です。
ニュートンの重力理論は、「素朴な実在論」に含まれ、
電磁気学、相対論は、局所性があるので
「局所実在論」に含まれます(p214局所性と因果律)
「ベルの不等式」とその破れのアスペ実験は、「素朴な実在論」
や「局所実在論」が、自然界では成り立っていないこと
を証明しました。

量子論(量子力学)は論理的必然なのか?

この本では、自然界で成り立つ(自然を記述する)理論は、
「量子論が唯一だとは決定できない(できていない)」
とありますが、現在では、もう少し進んでいて、
「一般確率論から量子力学を導く」努力が行われています。
詳しくは、堀田昌寛「入門/現代の量子力学」の第15章
「なぜ自然は『量子力学』を選んだのだろうか」
をお読みください(一般確率論の説明も載っています)

「一般確率論とは何か」という解説は、↓ が参考になります。
https://twitter.com/Perfect_Insider/status/1020836907092201475

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?