放送大学「量子物理学」第2回の解説

第2回 量子力学の基礎概念
もし、私が講義したら、、、という記事です。

1.まず教科書の補足

p27 下段
  ・ディラックの提案した記法
   ブラ・ケット記法のことで、
   例えば、<b|a> は、数学ではエルミート内積(a,b*)
   と書きます。結果は1つの複素数。
   また、|b><a| は直積のことで、結果は行列です。
p28 中段
  ・線形ヒルベルト空間の「要素」
   数学で言う「元」のこと
p30 下段
  ・足がつく行列
  行列(テンソル)の添字のことを「足」と表現する
  (足の個数は行列(テンソル)の階数である)
p31 上段
  ・物理量が行列で表される
  ・物理量が関数でもなく微分演算子でもなく、行列で表される
p31 2.11式
   積分に dx が抜けています
p33 下段
  ・2つの共役量
  2つの正準共役量

2.ディラックの変換理論

現代の視点で大雑把に言えば、行列力学に対し、
式を「状態ベクトル」に左から掛けたものと見做し、
一方、波動力学に対しては、波動関数ψ(x) を、状態ベクトル|ψ>の
「位置演算子x の固有空間」への射影:ψ(x) |x> = |x><x |ψ>
と定義すれば、微分演算子は無限次元行列と同等なので
同じであることが言えます。
(具体的には 清水明「新版量子論の基礎」p189~193)

3.2.9式と2.11式の関係(統合する)

2.11式の右辺第一項は、波動関数がある範囲内に
「束縛状態」された飛び飛びの場合で、
第2項は、波動関数が無限に広がった「自由粒子状態」
の場合で、連続関数です。
電子のスピンとかの場合は、第一項のみ
ポテンシャルが一定値の場合は、第2項のみです。

2.9式:$${ |\psi> = \sum_n \psi_n |n> }$$ は、
|ψ>を、|n>に射影し、それを全て足し合わせれば、元の|ψ>
だから、n への射影演算子は|n><n|なので、
$${ |\psi> = \sum_n |n>\lt n | \psi> =\sum_n \psi(n) |n> }$$
ということであり、ψ(n) の値は、nの確率になります。
$${ \sum_n |n>\lt n| =1 }$$とも言え、これを完全性関係といいます。
|n>が「連続な」ベクトルa なら(例えば |x>の集合は、連続)
$${ |\psi> = \sum_m |a_m>\lt a_m | \psi> ={\int}\psi(a) |a>da }$$
です。ψ(a)は、a空間の波動関数であり、a表示の波動関数と呼ばれます。
その値は、確率密度になります。
(下記のように、ψ(n) も波動関数に含めた方がすっきりします)

2.11式の右辺、第1項と第2項は、全く異なるように見えますが
|n>が、ある物理量a' の固有空間の基底ベクトルになって
いるとすると、
第1項 |ψ1>=$${\sum_m \psi(a'_m) |a'_m>}$$
これを a空間(-∞~+∞)に射影すると
$${ ={\int da} \sum_{a'} |a>\lt a |a'>\lt a' |\psi>}$$
<a|a'>は、δ(a-a') なので
第1項=$${ {\int da} \sum_{a'} \delta(a-a')\psi(a') |a>}$$

また、第2項 |ψ2>もa空間(-∞~+∞)に射影すると
$${ |\psi_2>={\int dx} |x>\lt x |\psi>={\int\int da dx} |a><a |x>\lt x |\psi>}$$
$${ ={\int da} |a>\lt a |\psi>={\int da} \psi(a)|a>}$$
δ(a-a') もaの関数とすれば、第1項と第2項は統合できて
2.11式=$${ |\psi>= |\psi_1>+ |\psi_2> ={\int da} \psi(a)|a>}$$

4.重ね合わせの状態と期待値

一般に、ある状態|ψ>は、それが物理量oの固有状態
になろうがなるまいが、oに射影でき、その射影の合計は
元の|ψ>なので、
$${ |\psi>=\sum_o |o><o |\psi>=\sum_n \psi(o_n) |o_n> }$$
したがって、
$${<\psi|o|\psi>=\sum_o <\psi|o>o\lt o |\psi>=\sum_n \psi_n^{*}\psi_n o_n}$$
= 2.13式 である。これでは、右端のo_nがよくわからないが
2.13式を$${ =\sum_n |\psi(o_n)|^2 o_n }$$と書くと、
確率分布で期待値<o>を表す式:$${ \sum_n P_{(o_n)}o_n }$$
であることが分かる。

交換関係と量子化

p33 の下段に「同時測定できない」とあり、
2.15式:$${ \Delta x \Delta p_x > \hbar/2 }$$
とありますが、これは正確ではなく、本当に同時測定
した場合の式は $${ \Delta x \Delta p_x > \hbar }$$であり
2.15式は、同じ状態の対象系の集団を測定した場合です。
(清水明「新版 量子論の基礎」p86)
また、ハイゼンベルクの「不確定性原理」は、あいまいなので
通常は、p34で定義されるΔx、Δpを使って不確定性関係と
呼びます。
それから、エルミートな物理量は、誤差のない(誤差が無視できる)
測定が可能です。これを射影測定といいます。
不確定性関係があっても、可能であることに注意して下さい。

シュレーディンガ表示・ハイゼンベルク表示

このテキストでは「表示」と書いてありますが、波動関数の「表示」
と紛らわしいので、ハイゼンベルクやシュレーディンガ「表示」は
他の本に倣い「描像」、波動関数の「x表示」は「x空間の波動関数」
と、私の記事では書くことにします。
これらの描像は、ハミルトニアンから出てくる関係を
表します。いわば、力学的関係です。
逆に、ハミルトニアンに関係しない「正準交換関係」や他の公理から
出てくる関係
例えば、x空間の波動関数とp空間の波動関数がフーリエ変換になるとか、ベルの定理、コピー禁止定理とか
も重要です。

相互作用表示(相互作用描像)

今は意味がわかれば十分です。p37の最下段の式は分からなくていいです
興味があれば、「新版 量子論の基礎」のp188の式の説明を見て下さい

定常状態

2.33式:$${ \psi(t)= e^{-iEt/ \hbar} }$$ より、$${ \psi^{*}(t)\psi(t) }$$=一定
なので、波形の時間変化はない。つまり、電子の電荷の時間変動はない。
したがって「電磁波は放射されない」=電子が原子核に落ち込むことはない
ことが言えます。

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