[清水量子の解説 ] その他 補足説明

p102 射影仮説(仮説ではなく定理)

清水先生の「新版 量子論の基礎」が出た時には、射影仮説は「理論の要請」≒公理 でしたが、小澤正直先生により「ボルンの確率規則」や他の基本的な公理から導出されました。
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/172051
    詳しくは、堀田昌寛「入門/現代の量子力学」p100~102
これで、射影仮説は、仮説でなく「量子力学の定理」になり、
コペンハーゲン解釈の一部ではなく、量子力学本来の理論に
含まれたわけです。
清水明「新版量子論の基礎」の「射影仮説の要請」
も不要になったわけで、「ボルンの確率規則」と統合すると
[要請3と5]
   状態|ψ>について、物理量Aの理想測定を行った時、
   ( |ψ>は、固有ベクトルの重ね合わせ状態)
   測定値は、Aの固有値のどれか1つになる。
   どの固有値になるかは、一般には測定毎にバラつき
   (測定値はどれも対等)
   固有値 a になる確率は、固有ベクトルへの射影の
   大きさの2乗=||a><a|ψ> |^2 =||a>ψ(a) |^2 = |ψ(a) |^2
   で与えられる。
   (ここまでが、ボルンの確率規則。以下が射影仮説)
   測定値(=固有値)が a になったとすると、それに伴い、
   測定後の状態ベクトルは:
   |ψ_after> =|a><a|ψ>
   で与えられる固有ベクトルただ1つになる。
と書けます。

p103 測定の反作用(本の説明は誤解を招く)

この本の射影仮説での「測定の反作用」のp103の説明:
(測定前の状態を |ψ>、測定後の固有状態を |a>とすると)
|ψ>≠|a>であったなら、「測定の反作用」がある
|ψ>=|a>であったなら、「測定の反作用」はない。
とあります。
一見すると |ψ>=A1|a1>+A2|a2>+A3|a3>+、、、
であったなら、射影仮説による「波動関数(状態)の収縮」で
どれか1つの|a_n>になることで「測定の反作用」が生じる
と思ってしまいます。
でも、「波動関数(状態)の収縮」は、観測者の脳の意識で
生じます(フォンノイマン流のコペンハーゲン解釈)
脳やその意識が測定結果に「何らかの作用」をするとしたら、
これは、スピリチュアルな=荒唐無稽な説です。

例えば、電子のスピンsを、測定器dで測定した場合、
測定器を含めた合成系の状態は
|↑_s>|↑_d> + |↓_s>|↓_d>
であり、sやdの部分系の状態は干渉のない混合状態です。
このままでも、「測定器dにとって」対象系sの状態は
↑・↓どっちか1つの固有状態になっている=「収縮」している
と言えます。
また、測定器dには、「ボルンの確率規則」が適用されますから
同時に上記の「射影仮説」定理も適用されるはずで、
測定器を含めた合成系の状態は、「観測者にとって」
↑・↓どっちか1つの固有状態になっている=「収縮」している
と言えます。
いずれにせよ、「測定の反作用」は、この時生じ、
脳やその意識は、測定結果には何の作用もしません。

p22 純粋状態の説明(言葉ではわからりにくい)

「原理的に許される最大限のところまで状態を指定しつくした状態」

これは、状態ベクトルと密度行列を比べないと、わからないと思います。
スピンの↑・↓で説明すると、純粋状態|↑>を縦ベクトル(1, 0)
純粋状態|↑>+|↓>を縦ベクトル(1, 1)/√2 とすると
① |↑>の密度行列(純粋状態):
$$
\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}
$$
②  ↑か↓ かの密度行列(混合状態):
$$
{ \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} }\over {2}
$$
③ |↑>+|↓>の密度行列(純粋状態):
$$
{ \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & 1 \end{pmatrix} }\over {2}
$$
②は③と比べて、非対角項を指定し尽くしていない。
②は①と比べて、余計な項があるとも言える。

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