【読書感想】『1932年の大日本帝国:あるフランス人記者の記録』
グーテンターク!皆さまこんにちは。フランクフルトのYokoです。
今日は読書感想です。
年末読書のつもりが別の本に手間取り今年に入ってから読みました。
今から90年前の1932年、元号では昭和7年の日本を見つめたルポタージュです。満洲事変の翌年、日本を取材するために来日し、わずか3ヶ月の取材期間で書き上げています。当時の仏独の緊張感、どん底ドイツとナチスの台頭。。。それを感じるジャーナリストは日本をどう見たのか、気になり読み始めました。
ちょうど2022年は森鴎外が亡くなって100年ということもあり、鴎外が亡くなって間もないこの時代が気になっていたときに引き寄せられて買っておいた本です。鴎外が憂いた急ごしらえの近代日本。そのハリボテ感をこのヴィオリスも敏感に嗅ぎ取っていました。
元は小説家ということで文章力と描写力がルポタージュとして遺憾なく発揮されています。また質問力というかインタビュアーとしての力量もあると思います。
外国人しかできないこんな質問も。
上記質問は流石に答えは出てこなかったようですが、ヴィオリスは果敢に別の質問もしていますし、女性らしく周囲も隈なく観察しています。
取材は発言内容だけではなく、風貌や振る舞いも描写されているので「エライ人」に関してはインターネット上で写真を見比べながら読みました。
いわゆるエライ人の発言よりヴィオリスは側近、若い将校の他、市井の人々の反応により熱心に書いている印象です。当時の社会状況、日本の風景描写もあり、ー彼女の目を通してみた当時の日本は新鮮でした。
訳者による最後の解説でフランス語原文で読んだからこそのヴィオリスの偏見フィルターが補正されている点もよかったです。訳者の推論だけではなく、ヴィオリスをフランスで研究している方ともやりとりしコメントを得ておりバランスをとっているところに好感を持ちます。
ヴィオリスが取材した人の中で一番私が好きなのは「スイス人実業家のハンス・ミューラー」さんです。鋭い観察と分析をするミューラーさんに訳者の大橋さんも好印象を持っておられます。しかし私はこの人物は実在せず、何名かの取材人物を組み合わせたのではと想像します。
まずハンス ミューラーはどちらも共に鈴木太郎くらいよくあるドイツの名前です。ありすぎるくらい一般的な名前の組み合わせがちょっと怪しい。笑 さらに昭和7年当時の日本の不況の理由を説明するのに統計データを使いながら話をしています。経営者というより官僚の説明。商工省の課長何人かに話を聞いたのでは。とても一般人が読む新聞を読んだだけで組み立てられません。日本の事情通としてミューラーさんのモデルになる人はいたのかもしれませんが、官僚何名か取材して組み合わせて一人のを作り出した。取材者の秘匿のため外国人の設定にしたと考えるほうが自然に思えます。
例えば日本経済不況の原因については。。。
まだまだ分析は続き、さらに細かい数字が出てくるのですが引用はここまでにします。しかしこんな話を極東で出会ったばかりのフランス人ジャーナリストにスイス人経営者がペラペラ話すことある?と気になって仕方がないものの、内容は日本の追い込まれつつある状況が浮き彫りにされており、日本の軍事行動の背景や遠因として見られることもありました。
その他様々な階級、職業の人物、都市、地方の風景、当時の日本の雰囲気を3ヶ月滞在でよくここまで書けるものだなあと感心。全て彼女の書きぶりに共感したわけではないですが、私の知らない1932年の日本を垣間見ることができました。
もしご興味のある方がいらしたら是非ご一読ください!
最後は取材を始めたばかりのヴィオリスさんに送ったミューラーさんの言葉を引用して終わります。
それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました!Bis dann! Tschüss! ビスダン、チュース!(ではまた〜)😊
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