【小説】【企画参加】リアル

 俺は夏の心霊特集だったり、心霊スポットをまとめた動画などを見るのが好きだ。それは『幽霊の正体見たり枯れ尾花』という言葉が存在しているように、怖いと思うから幽霊がいるような気がしているだけだと思っており、安全圏から見ているという安心感があったからに他ならない。だから俺はその日、大きく人生観を変えられることになったのだ。

 それは大学4年生の夏休み。就職前の最後の夏休みを楽しもうということでゼミの同期達と海沿いのホステルを借りて遊びに来ていた時のことだった。1週間の滞在予定で初めの方こそ、中々来れない夏の海にはしゃいでいたが、3日目の夜ともなると何をして遊ぶかというネタもなくなってきていた。次の日に何をして遊ぶかメンバー全員で話していた時に、ゼミの女の子が突然大きな声を上げた。「このアプリめっちゃ面白そうじゃない?」と目を輝かせてスマホの画面を見せてきた。そこには幽霊ARなるアプリが紹介されているHPの画面が出ていた。彼女はオカルト好きであることをみんな知っていたので、いつものことかと思いつつも暇を持て余していた俺たちは彼女の話を聞くことにした。なんでも、そのアプリを使うと幽霊をARで表示させてくれるというのだ。しかもご丁寧に幽霊の説明付きだとか。それだけではなく、本物の幽霊が映りこんだというレビューもあったのが俺たちに灯をつけた。俺たちは止まっているホステルの近くに廃屋があったことを思い出して、次の日行くことにした。
 

 そして次の日の夜。俺たちはその場にいた4人全員アプリをインストールして、その廃屋に向かった。噂の廃屋の近くに行くと献花されていた。地元の商店街で買い物をした際に廃屋のことを聞いたら、25年前に事件があったようだがその頃には既に住人がおらず、事件も相まって買い手がつかずに放置されていたとのことだった。雰囲気も十分ある中、俺たちは面白半分にアプリを起動させると、人型の幽霊から動物霊まで様々な幽霊のARが現れた。現れた犬のARをタッチしてみると、老衰と表示されるなどシンプルな説明ばかりが並んだ。少し飽き始めた頃、メンバーの1人が「なんかメッチャ説明が出てくるARがあるんだけど」と言い始めた。すると、言い出しっぺの女の子も「私も出たよ。女の人のARでしょ」と言った。最初こそ女のARで盛り上がっていたが、2人が急に黙り込んで廃屋から反対方向に走り出した。慌てて俺らも追いかけて、ホステルが見えるところまできて、走るのを辞めた。
 ホステルについて落ち着きを取り戻したころ2人が口を開いた。「あれは恐らくホンモノ。万が一があるといけないから急いで逃げた。」と2人は言った。はじめは所詮ARと思っていたのだが、話しているうちに外見の特徴やARで確認できた説明が一致していることに気付いた。同じアプリを使っているとはいえ、それこそ所詮はアプリ。使うスマホが違えば同じ場所を見ていても違うものが映される筈だし、アプリのクオリティ的に説明が詳細に書かれすぎていることに違和感を感じて逃げたというのだ。決め手はその女性の説明に25年間成仏できていない、と書かれていたことだったという。そう。商店街で聞いた事件の情報と2人が見ていた説明が一致していたのだ。
 状況証拠はそろっていたものの、俺ともう1人の同期はARを見ていなかったこともあり、何もなかったのだから良かったということにして、早く寝てしまおう、と言った。ARで女を見た2人も興奮気味だったが、2時を過ぎるころには寝息を立てているのを見届けて俺も寝た。そして夢の中で知らない女が夢に出てきたのだが、同期の話していた特徴と一致していたことから事件の被害者の女性だと分かった。女は「あなたたちを驚かせてごめん。そしてありがとう。ようやく『とおる』を見つけることが出来た。」と言いながら不敵な笑みを浮かべたと思ったところで目が覚めた。他の3人も同じ夢を見たようだが、全員不思議と恐怖は感じていなかった。

 そして後日譚。どうやらその事件は大学の卒業生が犯人だったようで、同じ大学に通っていた俺たちが彼女の目に適ってしまったようだった。何故それが分かったかというと、彼女がつぶやいていた「とおる」という名前のOBが数日後、変死体となって発見されたと全国報道されたからである。大学にも卒業生として何度か講演に来ていたので、俺も覚えていたのだった。スマホが普及して簡単にいろんな人とつながれるようになったことを利用し、彼女は25年越しの復讐を果たした。そんな彼女は此岸から旅立つことが出来たのか誰も知る由はなかった。今回はターゲットがたまたま見つかったから難を逃れたのかもしれないと思うとぞっとした。仮想現実の中に「いけないもの」が混ざっていたとしても、気付かないふりをしてやり過ごすことを強くお勧めして、俺の体験談を締めとさせていただこう。

#2000字のホラー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?