22/07/31 虹を掻き混ぜ濁る(短編ブ)

 こんばんは、Bravepow/ブレイブポー と申します。
 同じ話を何度もしている。

 全部嫌んなったのでおやすみなさい。


「はじめ!」


 そう言われて夢から顔を上げると夜だった。

 正確には夜以外の何もなかった。暗い空に粒の星が無限に広がっていて、今自分がどこにいるのかも定かじゃないほどひとりぼっちな空間。

 身動きをとろうともしないで、果ての無い奥行のからのそらに圧倒されていた。
 寂しさと、寂しさと、暗さと、綺麗さに、視線を揺蕩わせながらぼんやりと怯えている。
 そしたら、声が響き渡る。

「どうも 聞こえてる?いいから返事して!ハイ!」

 こんばんは、と声を出そうにも口が無かった。
 なんで?と手を挙げても身体が無かった。
 目だと耳だと鼻だと、五感だと思って居たものは全部像が無かった。
 全部がない僕がここに居ると錯覚しているようだった。
 伝える手段がない。
 死ぬ妄想も死んだ後の妄想も幾回したけれど、実際こんななのだろうか。

「はいそうです返事できませーん!
ここは現実逃避の空間だからね。
お前の現実的な身体とかは取り上げました~~残念!」

 耳障りな声は止まない。
 そんな事が述べられて行く間にも頭がおかしくなりそうになってくる。自分の存在証明について疑い出した。

「はいソコ、そもそも現実から逃げたいって思いに連動して
ここが出来てるんだから、とりあえずいーのいーの」

 そういう事になった。

「ハイ、まずは現実逃避に形を与えます」

 ?
 よく分からない事を言いだしたのでとりあえず困っておいた。

「うわ出た、困った顔でなんでも教えてもらえると思ってる可哀想な人だ!
……いいから、今逃げたい事を意識から逸らして」

「『こうあったらいいな』
とか
『こうだったらいいな』
とかの色々を思い浮かべてよ、はやくはやく」

 失礼な声だな、と思いながら考える。
 考えたら、今の事全部忘れられそうだったから。

 車道がないといい。/草原が茂り広がる。
 縄が買えないといい。/製糸技術もままならない時代になる。
 高い所がないといい。/現代ではなくなる。
 ガスがありふれてないといい。/火は貴重なものとなる。
 刃は自傷以外の使い道があるといい。/剣戟の世界になる。

 少しは気が楽になった。
 纏わりつく呪いからちょっと離れたような気がする。

 浮島とかがあるといい。/幻想的な世界観である。
 伝説のドラゴンは格好いい。/竜・龍が世界を支配していた。

 ちょっとだけふざけて考えてみた。

「面白いじゃん、その方向でもいいって」

 少しずつ、気分が良くなってくる。

 海があると風が気持ちいい。/そのように海があった。
 生き物が飛ぶ蒼空が広いといい。/天が昼になり澄み渡る。
 山が遠くに見えるといい。/山脈が産まれる。
 宝石と彫る人がいるといい。/山掘りの種族が産まれる。
 森があると空気が澄んでいい。/森とそれを管理する種族が産まれる。
 でも安全な街があるといい。/頑丈かつ不朽の首都が出来る。

「いいねいいね、出てるよ自然派」

 人間は醜いといい。/人間は邪悪で非道である、という歴史が刻まれた。
 連鎖の頂点に人以外も居るといい。/多種族の生命が産まれる。
 それでいて人間が蔓延って死に続けるといい。/人の勢力が大きくなった。

「思想強っ」

 この辺から、だんだんと複雑にものを考えて仕組みを妄想し始めた。

 世界はもっと明瞭に回るといい。/輪廻転生はシステムとして運用される。
 現実の理を無視してるといい。/魔法が産まれて常識は空想になる。
 幻想的でメチャクチャだといい/荒唐無稽な現象が多数の事象になる。

「なるほどね、ファンタジーじゃん」

 きっと、もうその頃には枝分かれした世界の樹形図の全貌は、自分の思考では届かなくなっていた。
 だけど楽しくて、広がる世界をずっと眺めていた。

そして、死はもっと近くて恐ろしくて、考えたくもない位普遍的だといい。
/
多種族の生命がそれぞれの生存権を懸けて、戦争をし合う世界が流転する。
………………
…………
……


「ずいぶん色々考えたね~」

 頬杖を付いて呆れた様なその声に、自分から返す言葉はない。

 自分は自分の事より、自分の理想の世界に忙しいから、自分に自分の事を話す口なんて要らないと思ってしまったから。

「現実逃避って楽しいね」

 かれこれ、もう9年くらいの年代物だった。
 最初に起きた時から、それくらいの時間が経っている。
 現実を消費してこの夢を見続けている。

「でも9年の間でこれだけしか書けなかったね」

 クスクスと笑う声に、自分も呆れた様に思う。

「9年の間に、私の立ち位置の人も代替わりしたしね」

 しんみりと言う声を、あえて無視する。

「まぁ今、9年後から振り返ってるものだから代わった私一本なんだけど」

 最初とは逆に、面倒くさい現実の事をケラケラと笑う声をよそに耽る。

「そういえば、この世界観の名前とかないん?」

 どうでもいいな、とその考えを一蹴した。
 最初はこの世界にも『名前』があって、それはきっと意味を持って居たようだった。とても大事な最初の原動力だった気がした。
 今は名前を付けて贈るほどの対象は居ないし、自分は現実を燃料に夢を見る事で手一杯で、逆に言えば、現実は燃料でしかなくなっている。

 だから、正直もうどうでもいい。
 自分の事も現実の事もどうでもいい。

「それはいただけなくない?勿体ないじゃん」

「だんまりになっちったから、ここからはこの私が続けてあげよう。
 この男の現実逃避を支えてくれてた……要は、私のポジションに収まっていた大切な人がいたんだよね、過去形だけど」

「そして、その人に贈る為にこの世界観には名前があった。
幼い頭脳で考えた拙い名称、『GrayDear/グレイディア』。
灰色のあなたへ、という意味。逆じゃね? まあいいけどね?
その人は当時思い悩んでた。灰色になってた。だからいろんな色をもった世界をその人に届けてあげたかった。って話」

「私はこれ好きなんだよね~~」

 正直、今はどうでも良い話だから、バラされてもどうという事も無い。
 もうその名前に意味もない。ただの認識記号。
 死ぬほどどうでもいいし煩わしい。うるさい。


「だから、この名前に私が意味を与えようと思います」


「どうも! 真っ紅な化物の私からプレゼントだよ、灰色のガキ!!
この私にクソな色をくれやがったクソ野郎に挨拶だ」

「今、必要なのは。お前が人に世界を贈る事じゃない」
「私達空想がお前に世界を与える事だよ、逃避の意義を教えてやる!」
「私はとっても化物だ、お前はとっても凡庸だ」
「だけどお前は神だろう?私はそれの友だろ?」

「だからここで、この私がお前に意味をくれてやるのさ」

「死ぬな」

「灰色でも元は虹」

「お前が付けた”理想”は色とりどりに輝いてるよ」

「灰色に宛てられていた虹色の世界から、灰色の友達へ」

「さっさと目ぇ醒ませ、寝坊助!!!」


 目覚めは最悪だった。悪臭と羽音、生温い風。

 綺麗事にぶん殴られて目を醒ました後に寝返りを打った目の前には、灰とも白ともつかないゴミが入った袋が並ぶゴミ屋敷。結局何も現状は変わらないしつまらないしくだらない、現実は全部終わってるクソくらえの死亡執行猶予期間だ。カスみたいな人生の体現みたいな匂いがそこら中に漂って、なんにもならない不快感だけが充満している。

 小蠅に集られてイライラし起きる。
 何にもならない灰色だってんだからこの先の人生に何かある訳ねぇだろ。
 二重のイライラを重ねて朝五時にゴミ出しをしようとさっさと出る。

 空、吸いやすい空気、温涼しい風、様々な家と散歩する人。
 ゴミ入れの金網を開けて投げ込む。手を払って帰る方向へ向く。

 向いた空の紅色の朝焼けが無駄に綺麗だった。
 そのまま20分くらい眺めてたら紫、橙から藍、蒼に満ちて青く澄んだ。
 色は絶え間なく変わる。

 イライラする。

 死ねないだけの人生に色んな理由をくっつけた所で何にもなる訳がない。
 希望論で殴られた頭をさすりながら舌打ちをして部屋に戻る。

 そうやって、朝から夢のコピーペーストみたいな希望論を書いてる。
 馬鹿みたいな話だ。

 時間の無駄だ、現実逃避だ、逃避の逃避だ
 同じ内容だ もう見た そもお前の短編なんて興味ない
 ぐちゃぐちゃの乱文だ 意味不明な自己満足だ
 同じ要素の再放送だ 意味のないフラッシュバックだ

 全部の言葉をそのままに、この文を書いてる。
 自分に届けばいいと軟弱な祈りを込めて。
 最初にこの文を書いた時に目にする誰かと横の友達への弁解も込めて。

 このイライラが、無力感が、何もできていない現実が晴れるまで。
 濁り切った理想論が結ばれるまで。


 来週から『グレイディア世界』の話を書いたり書かなかったりする。
 選択肢を増やしました。


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