春日聡監督『ブーンミの島』を観る

 日曜日、三軒茶屋のキャロットタワー5Fで春日聡『ブーンミの島』。春日さんとは、細川周平さんのプロジェクトでご一緒したことがある。映画は宮古島の苧麻文化を映したものだという。この夏、初めて宮古島の調査に行ったわたしには、行かない手はなかった。
 とはいうものの、わたしは、そもそも、苧麻も知らなければ、糸というものがどうやって作られるかも知らなかった。紡績、ということばは知っていたが、「績」という字を「うむ」と訓読みすることすら知らなかった。

 苧麻、もしくは「ブー」から糸を績むことを、「ブーンミ」という。
 ブーンミはいくつかの工程からできている。まずブーの表皮を裂いて細い繊維にするブーサキ。ミミガイの殻を当てて何度もこするうちに繊維がほぐれてくる。次に細い繊維をつなぐブーンー。つながれた糸のもとをンミュと呼ぶ。そのンミュをツングヤマという糸車で撚りかける。撚り終わったものをティーカシギ(手経木)と呼ばれるH型のかし木にかしかける。
 映画は、この、ブーンミの時間を丹念に折っていく。ツングヤマが回り、糸が指と指の間をするすると滑っていく。その感触をずっと感じ続けるうちに、いつしか「糸と話ができる」のだという。糸が指を滑るその時間から糸が紡がれるとともに糸の声がきこえるのだと思って見ているうちに、ツングヤマの回転する時間が、どこか魔術めいてくる。ティーカシギを反転させて綛(かせ)あげをしていくその所作は、世界の見え方をひょいと裏返す。これらの作業の繰り返しを見入るうちに、こちらの身体が少し浮き上がってくるようだ。
 映画の冒頭では、御嶽での儀式が映されるものの、それ以外にこれといった宗教的行事が取り上げられるわけではない。音楽はなく、劇的なできごとが起こるわけでもない。にもかかわらず、糸績みの時間自体が、どこかこの世ならぬ時間に見えてくる。

 あるとき、綛あげをしていた女性が、かしかけがうまくいかなかったのか、糸をカシギから巻き取って、やり直し始めた。そのやり直しにかかる時間はどんなに長いだろう。それでも、女性はかしかけた糸を淡々と巻き取っていく。その態度を見て、気持ちが改まるようだった。

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