「ネットと文芸 新たな荒波に挑む令和の戯作者たち」/時事通信に取材していただきました

電子出版の市場が広がっています。

2020年紙+電子出版市場は1兆6168億円で2年連続プラス成長 ~ 出版科学研究所調べ

公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所が1月25日に2020年の出版市場規模を発表したのですが、電子出版市場(推定販売金額)は、前年比28.0%増とのこと。紙が1.0%減なのに対して28.0%増とはすごいですね。コロナ禍で娯楽が限られていたとか、鬼滅のヒットしたとか、様々な要因も絡んではいるのですが、電子出版のおかげで、10年くらい前から「もう終わりだ」「斜陽産業だ」「アベノミクスにも乗れてない」「業界地図の中で出版だけ大雨」と散々言われ続けていた出版市場が息を吹き返したわけです。
世の中、どうなるかわからないですね。

小説家の売り上げは、連載などの原稿料や、単行本や文庫の刊行による印税で支えられているます。ただ最近は、電子書籍の印税も売り上げに大きな割合を占め始めたという小説家が増えているのではないでしょうか。

これまで出版界では著者に実売数を知らせないのが慣例でした。紙の本を3500部刷ったとして、そのうちの何冊が売れたのか著者は知らない。私はメンタルが鋼と思われたのか(なぜ!)わりと教えられましたが、わりとショックな数字だったりします。ただし最近では、印刷機の進化によって、小ロットの増刷が可能になりました。「1000部増刷です」「400部増刷です」と、そ細かく刻まれ始めたので「実売数はこのくらいなんだな」とわかってしまうことが増えました。

一方、電子書籍の場合は、何冊ダウンロードされましたという明細が届きます。つまり、実売数が著者に知らされるわけです。そのデータを出版社が実施した販促案と併せて分析すれば、マーケティングプランが見えてくるのでは……と考えたこともあるのですが、「そんなことより遅れている原稿をなんとかしろ」と言われると思ってやっていません。でもいつかやってみたい。
とにかく、そうやって届くデータを見ていると、電子書籍の実売数が伸びていくのがわかります。私は遅筆なので2年新刊を出さないということもあるのですが、電子書籍の印税がその間の生活に潤いを与えてくれたりします。

電子書籍には「場所や時間の制約なく、衝動読みができる」というメリットがあります。Twitterでとある漫画の話題を目にした時、そこがベッドだろうが電車の中だろうが、電子ならすぐ買って読んで話題に乗れます。「鬼滅の刃」の最終巻だって、紙での入手は難しくても、電子なら発売日の日付が変わった瞬間に読める。ネタバレが怖くて一週間Twitterを開けないということもないのです。
私は「鬼滅」最終巻を電子で読んで、子供に読ませるために紙でも買いました。結局二冊分お金を払ってるじゃないか…と思いつつ、読みたいときに読めたので満足しました。

話題になっているから読みたいけど、紙で買うほどではないかも、という本も電子で買ってる気がします。新書なんかそうですね。「わた定」も、部下が読んでいるから、と買ってくださった人がいました。だけど本来、本ってそんなものだと思うのですよね。「たまに本を読む」人たちにとって電子は本を身近に感じるツールになっていくと思います。

Amazonのkindle unlimitedのように、読書のサブスク化も進んでいます。「わたし、定時で帰ります。」の一作目もkindle unlimitedに入れてもらったのですが、おかげで新しい読者に出会えました。二作目も電子で買ってくれる、三作目を書店に買いに行ってくれた人もいました。

出版社が電子書籍のサイトで「作家フェア」「お仕事小説フェア」などを開くことも増えました。紙の本は割引して売れない制度になっているので、セールができるのも電子書籍のメリットです。このようなフェアやセールは、事前に著者に許可を取るものですが、大手出版社だ手間が膨大になります。そのため「どの作品をいつセールにするかを任せる」という同意書を著者と交わしたりします。
こうしたデジタルコンテンツ事業は、出版社志望の就活生にも魅力に映るらしく、出版社の説明会を見学させてもらった時は、デジタル関連の部署のブースが満員になっていました。デジタルネイティブの若者よ、ようこそ出版社へ…と社員でもないのに心の中で呼びかけてしまいました。(売り手市場が続いていて、出版社でも新卒確保が大変なんです)

文芸誌もつぎつぎに電子化しています。ちょうど私が連載をはじめた頃、「yomyom」も電子雑誌へと移行しました。こういう場合、著者へ届く雑誌も電子になります。今年度からは小説サイトへと移行するようで、そうなると広告も掲載できます。どうすればターゲット読者に届くか、収益を上げられるか、の模索が続いています。
一方で、全ての文芸誌が電子化に向かっているわけではなく、例えば河出書房の「文藝」は永久保存版にしたい企画や、部屋に置きたい表紙デザインを武器に、書店でものすごい存在感を放って売れています。文芸誌では異例と言われる重版もされています。

「これは紙で売ろう」「これは電子の方が売れそう」などと戦略を組み立てていく時代になるのかもしれませんね。

前置きが長くなりました。
このような時代に、小説家はどんな風に適合しているのかを取材したいとノンフィクションライターの加賀直樹さんにおっしゃっていただいて、取材を受けました。掲載媒体は時事通信です。

「ネットと文芸 新たな荒波に挑む令和の戯作者たち」

ウェブ投稿サイト「カクヨム」からデビューした浅原ナオトさん、直木賞作家の佐々木譲さんも登場されます。

よろしかったらぜひ。