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夜は好きな短編を書くことにした

この二年間、スランプだった。
いや、ライジングの連載をしてたし、単行本も出してたじゃないか、と言われるかもしれないが、わた定シリーズは目をつぶっても書けるのだ。東山結衣という登場人物が、自分で言うのもなんだが、よく動くキャラクターなので、必ずなんとかしてくれる。でもこの三年間、他の作品は難航していた。

ドラマ放送中に、連載二つが始まったが、一つはうまく書けなくなり、書き下ろしに変えてもらった。もう一つは最後まで続けたが、全面改稿している。もともと書くのが遅いのだが、それにしても遅い。遅いだけでなく、気力が湧いてこない。高校生の時から休みなく働き、十七歳で過労まで経験した、労働意欲の塊のような私が……。自己模倣してしまうのが怖いのか。それとも年齢のせいか。ただ考えるだけでなく、もがいてもみた。いろんなジャンルの小説を読んだり、美術館を見に行ったり、毎日逃げずに原稿に向かい合った。書いているテーマについて勉強もした。でも書けない。書いても、私の小説じゃない、と思って消してしまう。

断っておくと、今から書くことは事実そのままではない。なぜ書けないのかと苦しむ私の脳内で二年間に起きた事実を時系列をバラバラにして散文にしたものである。同じ人が言ったことが、別の人が言ったことになっていたりする。その言葉もその人が言ったままではなく、私がこう受け取ったという内容になっている。誇張されている部分もあると思うし、私の一方的な言い分でもある。半分フィクションとして読んでもらえると助かる。

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