みなさんは余命一年とわかったら何を買いますか?
なんとなんと光栄なことに、吉川トリコさんの『余命一年、男をかう』文庫版の解説をまかせていただきました。
文芸誌に掲載された時点で一気読みしてしまったのですが、島清恋愛文学賞を受賞した他、山本周五郎賞にノミネートされたこの小説の解説を書かせてもらえるなんて!
「お前わかってるんだろうな? ちゃんと書けよ?」という、この作品を応援している講談社の人たちの顔がちらつきましたが、でも「私のために書かれたんじゃないか?」ってくらい好きな小説なのでがんばりました。
本作品は、新自由主義の内面化が進んでいる「私たち」の物語であると思う。それをポップでユーモラスに語れてしまうのが本当にすごい。
できるだけ多くの人に読んでもらいたいので、長めに解説を引用しておきますので、ネタバレ絶許な人は先に本編を読んでくださいね。
がんばった結果、史上最高の解説が書けてしまった気がします。
本編を読まれた後に、私の解説もぜひお読みください。
ここからは余談なのですが……
労働であったり資本主義であったりがテーマで書く人はじわじわと増えています。若い作家さんほど多いです。労働について考え、資本主義について考え、そうしなければならないほど、追い詰められている人が増えているということかもしれません。にもかかわらず、これは山本周五郎評の批判なのですが、選評を読む限り、この小説が何を描こうとしたのかを理解していると思われる選考委員がいませんでした。あくまで選評を読む限りですが、経済強者であるであろうベストセラー作家さんたちは、もはや同じ社会では生きていないのではないか、という気さえしました。
そもそも労働や資本主義がテーマの作品の評を書ける人が出版業界には少ないのです。高等遊民気質の人たちが集まっている業界だからというのが大きいですが、一般社会に暮らす人たちとの意識乖離が大きくなり過ぎている。みんなほんとにリアルな毎日に苦しんでいるのに、そこに寄り添ってくれるのがビジネス書や自己啓発本しかないという現状がつらい。
そして、自分の書いているものに正当な評価をもらえないというのはサイレントお祈りをされながら就活するようなものです。むしろ読者の方が「どう評価すればいいのか」を知っていて教えてくれるくらいです。
吉川トリコさんに「朱野さんのような小説の書き方をするから書ける解説だとも思いました」とお褒めいただいたので、できればこれからは労働や資本主義について書かれた現代小説をできるだけ紹介していきたいです。
「これ読んで!」ってものがありましたら、国内外構わずお薦めいただけたらありがたいです。
書評や解説のご依頼もお待ちしてます…!