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『会社を綴る人』文庫版が発売されました!

2018年に単行本で刊行された『会社を綴る人』の文庫版が発売されました。

会社は膨大な数の文書でできている。
そんな会社を変えることができるのは、社内文書を書く能力"だけ"は高い主人公か? それとも、社内の問題を社外に訴える能力がある匿名ブロガー社員? 文章を武器にして生きたい人たちの仕事小説。

今日あたりから書店に並ぶと思います。よろしくお願いします!

デビューしてしばらく、会社員ものを書く機会がなかったことは、いろんなところで言ってきました。

スティーブン・キングは「君が配管工でSF作家になったなら宇宙船で働く配管工の話を書け」と言っています。たしか言ってた。それがもっとも強いのだと。つまり私が書いて強いのは、会社員か、小説家ですね。

でも会社員ものは「よほどおもしろくないと」と言われます。ホワイトカラーで、デスクワークで仕事が進んでいく、普通の会社員の話はエンタメにはならないのだと。たとえ私と現役会社員の読者の間で「おもしろい」と意気投合できても、普通の会社員ではないエンタメ業界の人たちに「おもしろい」と思ってもらえないと企画が通らない。通っても、なんとなく低いテンションで扱われがち。

これが私が元医師だったら……元弁護士だったら……元警察官だったら……企画はあっさり通るんじゃないの……どうなの……?
そういう暗い情念が、会社員小説家にはつきもの。でもこれは多くの人に物語を届けるために乗り越えなければならない壁でもあります。会社員と出版業界の意気投合ポイントだけでも探してみようじゃないか。そう考えた結果、テキストではないかと思ったのです。つまり文章。

会社員時代、ものすごい量の文章を書いてきました。
新人時代は議事録、マーケターになるとリサーチの調査報告書。「最も多い」「比較的多い」「やや多い」という言葉の使い方がよくないと叱られ、上司が口頭で伝えてくるふわふわすかすかなヴィジョンを文字に起こし、帰りの電車ではスマホを開き「いやアレほとんど書いてるの私なんだけどね?」と友達しか見てないブログに書き殴り、あのころ書いていた文字量は今より膨大かもしれない。転職して総務パーソンになれば契約書の文章の書き方を覚え、採用担当になれば「ごめんよごめんよ」と心で叫びながらお祈りメールを書き、広報パーソンになれば異物混入による商品回収の謝罪文の言葉遣いがおかしいと定年退職した方(商品は買ってないそう)から戒めの電話をいただき、帰りの電車の中で「むこうの日本語の方が間違ってたんだけどね!?」と友人へのメッセージに書き殴り……。

会社には編集者や校閲者もいません。ちょっとでもミスをしたら会社のイメージを損なったり、他の社員の仕事の邪魔をすることになる。そして「広報会議」によれば、今は企業がメディア化し、コンテンツ記事を発信する時代。リモートワークの普及によってテキストベースの仕事も増えました。

装画は単行本と同じく、丹地陽子さんが描いてくださいました。ビジネスパーソンって、同じスーツでも業界ごとに着こなしが違うじゃないですか。正社員になったばかりの紙屋は白シャツとネクタイという無難なスタイリング、先輩社員でブロガーの榮倉さんはややカジュアルよりの、でも知性がほの見えるスタイリング。とてもふたりらしいです。

本作は台湾でも翻訳出版されています。

台湾の読者のレビューをち載せておきますね。(Google翻訳の助けを借りました)

小説を読むこと、小説を書くことをこよなく愛する者として、この作品に共鳴した。「無欲ではない。文章を褒められたいという欲は人一倍ある。だから怖いのだ」という一文に泣かされた。書くことは好きだけど、自分に自信がない人の心の旅をこの作品は書いている。

https://readmoo.com/books/remark/single/210162256000101/19782

本日発売です。よろしくお願いします!