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急売れ本にいただいた、たくさんのご感想①出版業界編

5月20日に出した同人誌『急な「売れ」に備える作家のためのサバイバル読本』おかげさまでたくさんの方にご購入いただき、読んでいただくことができました。ありがとうございます!

オンラインマーケットで「電子+紙」選んでいただいた方には誤字などを直した第二版が届きます。初めての同人誌にしてはなかなかの大増刷で、銀行で印刷費の振り込みをするときドキドキしてしまいました。

「技術書典」は6月4日で終了し、「電子+紙」では買えなくなってしまったのですが「電子版」は引き続きお買い求めいただけます。

またBOOTHでの販売を開始しました。こちらでは「電子+紙」と「ダウンロード(つまり電子)版」と両方をお買い求めいただけます。
紙の本が買えるのは現在はBOOTHだけです。

kindleでも発売されました!Amazonで購入できます。

刊行と同時にたくさんのご感想をいただきました。ご感想のなかには新たな知見も含まれており、私一人で「いいね」と押してとっておくのにはもったいないものもありましたので、全部ではないのですがいくつかシェアしておこうと思います。

まずは出版業界の人たちの感想から。

文学賞にノミネートされたり受賞したりするのも「急売れ」現象

まずは『余命一年、男をかう』が第35回山本周五郎賞に、『あわのまにまに』が第36回山本周五郎賞にと、二度もノミネートされている吉川トリコさんから。『余命一年、男をかう』は第28回島清恋愛文学賞も受賞しています。

『戦場のコックたち』『ベルリンは晴れているか』『スタッフロール』で直木賞にノミネートされている深緑野分さんからもこんなご感想いただきました。

大きな賞にノミネートされたり、受賞したりすると大きなプロモーション効果が生まれます。わたしも最近「芥川賞直木賞全部読む」とやってますが、読者としてもフェス感があって楽しいのですよね。ですが、ノミネートされた作家の背負うプレッシャーたるや、メディアミックス化とはまた違う重さがあるに違いありません。

ちょうどそんなとき、『しろがねの葉』で第168回直木賞を受賞したばかりの千早茜さんのエッセイが公開されました。直木賞は”「受賞直後の一週間の記憶が飛ぶ」とか「受賞すると必ず体を壊す」とか、まことしやかに恐怖の忙しさが語られてきた”と千早さんは書かれています。受賞後に自宅に届けられるお祝いの花の対応が大変だという話も書かれています。

そして、お祝いの花を受け取るが大変問題は昔から言われていたことみたいです。

出産のお祝いも最近では受け取りが大変なものは避けて、Amazonギフト券など郵便受けにポストインできるものを送ったりしますよね。もし私が賞を受賞したときのお祝いもアマギフがいいな! 業界全体に還元できるという意味では図書カードもいいですね。(何様)

そして千早茜さんのエッセイを読んだ吉村萬壱さんの反応も興味深かったです。吉村さんは「ハリガネムシ」で第129回芥川賞を受賞されています。

そして、吉川トリコさんとともに第36回山本周五郎賞にノミネートされた岩井圭也さんからも。

ノーベル文学賞の発表があるたびに、「すわ受賞か」と騒がれる村上春樹も大変だろうなと思います。『村上春樹はノーベル賞をとれるのか?』っていう新書まで書かれてるし。村上春樹は「わりに迷惑です」と言ってるそうですが、そりゃそうです。

そして、『元彼の遺言状』『競争の番人』とデビューしてすぐに立て続けにドラマ化がされている新川帆立さんからもご感想いただきました。

いやー、私なんかよりもさらに大変ですよね。新川さん、なんとこのnoteを読んでくださっているそうで、恐縮です…。

幻冬舎で連載中のエッセイ『帆立の詫び状』でも、急売れ本をとり上げてくださいました。ありがとうございます! このエッセイ、「わかる!わかる!」の連続すぎるので別に感想noteを書きたいと思いました。

そして、『三千円の使いかた』『一橋桐子 (76) の犯罪日記』がドラマ化された原田ひ香さんから。

そういえば昨年あたりに、子供たちの運動会に行ったら近所に住む人から「さいきん『三千円の使いかた』を読んでからというものの、原田さんの小説ばかり読んでます。知ってます? 原田ひ香さん」と問われて「面白いですよね!」と盛り上がりました。他の作家さんが売れてるなと思うことってこういうときなんですよね。

そして、経済史や商取引などを題材にして話題になったライトノベルシリーズ『狼と香辛料』の作者である支倉凍砂さんからはこんなご感想が。アニメ化ってわたしは未体験ですが、実写ドラマ化とは別の苦労がありそう。

本は売れてないけど依頼は多い!という種類の「売れ」がある

そして吉川トリコさんがこんな指摘をしてくださってました。

これは私も経験あります。というか、急売れ現象がおさまった今まさにこの状態に戻りつつあります。ベストセラーを出しているわけではないけど仕事を大量にこなさないと生活できない。なかなか新商品開発に時間をかけられないし、どんどん疲弊していくスパイラルが今の作家業界にあるのです。

この問題に直面しているのが、出版不況以降にデビューした新人作家さんたちで……。

「出版社の不良債権になってる」とか「早く売れないと迷惑をかけてしまう」とか思わなくていいんですよ……。出版バブルだったころは出す新刊すべて初版止まりで、それでも十年以上書かせてもらった作家もたくさんいました。今より初版部数も印税もずっと多かったおかげで長い売れない時代を経て、出版業界を支える大ベストセラーになった人もいます。新人でいきなり売れるのも大変ですし、売れない時代が長い(あるいは作家以外の職業をしていた期間が長い)作家の方が、売れた後の準備ができているいうか、いい感じに老獪になっていて、結果的に作家生命が長くなっているように私には思えます。

私もそうですが一度売れると既得権益のようなものができます。変な話、それほど面白い企画を出さなくても連載がとれてしまったりするし(もちろん通らない場合もありますが)、ドラマ化が再放送されれば新たな著作権料が入ります。エッセイなどの仕事もどしどしきます。新人時代はそういう売れている作家に食わしてもらっていいと思うんですよね。出版不況なのはこの業界に長くいる人たちにこそ責任があります。責任など感じなくていいし、上の世代よりも圧倒的に不利な状況で善戦している自分を褒めてあげてほしいです。

漫画家もイラストレーターさんも「売れ」がきたら同じことになる、らしい

漫画家さんからもたくさんご感想いただきました。「こんな漫画家さんに感想もらったのですが知ってますか?」と編集者に自慢したら「知ってるも何も私が激推ししている漫画家さんじゃないですか」と怒られたりもして、自分が漫画業界詳しくなさすぎることを実感したので、お一人一人を的確に紹介できる自信がなく、ツイートだけの紹介になってしまって恐縮です。
でも小説と漫画というジャンルを超えて読んでいただけてとてもとても嬉しい。

イラストレーターさんも売れたら大変!という知見もいただきました。

「売れ」がきてなくても身につけなければいけない技術はある

売れている売れていないに関わらず、作家が身につけるべき技術はたくさんあるというご感想もいただきました。

ありがとうございます、個人的に江藤俊司さんの『どうする家康』実況が大好きです…。これからも楽しみにしています。

『広報会議』読みます!というご感想はどちらかというと作家さんよりも出版社にお勤めの方からけっこういただきました。

フリーランスとしてサスティナブルにやっていくための技術がほしい

フリーランス全般に共通する話でもあるというご感想もいただきました。そうなんですよね。作家である前に私たちはフリーランス(個人事業主)で、小説を書く以外の技術もたくさん必要なんです。

三宅さんのnoteのマガジン「読書ゼミ|書評家の読書日記」でも急売れ本を取り上げてくださってました。編集者との関わり方について書かれていて「いやほんとそれよ…」と思いました。

「売れ」がきてなくても書けなくなることは作家にはよくあること

書けなくなる(ライターズブロック)に着目したご感想もいただきました。プライベートでつらいことがあったときも書けなくなる症状は出るそうです。

評価されると傷つくのはみんな同じ

「人は評価されると傷つく」という言葉に共感くださった作家さんも多かったです。

人間としてではなく機能として評価されることを「疎外」という

売れた後に「期待に応じる機械」になってしまったというくだりには、逸木裕さんからこんなご指摘をいただきました。

「読者のことを思いだそう」というのは青木祐子さんからのアドバイスなのですが、読者は作家を人間として扱ってくれるからなんですね。

急な「売れ」は他者と協力しないと乗り越えらない

「はじめに」で対象読者の中に、作家をサポートする立場の人、を入れておいたのですが、まさにそういう立場の人に読んで欲しいという声も聞かれました。『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』や『バンギャルちゃんの老後 オタクのための(こわくない!)老後計画を考えてみた』が話題のライターで作家の藤谷千明さんがこんなブログを書いてくださいました。(少しだけ引用しますのでもっと読みたくなった方は記事を読んでみて!)

「あの人、ずっと頑張ってて結果が出てよかったな、でもなんか機嫌悪そう」というとき、「忙しい」以外の理由が想像できないけど、なんか心配だなという人とか。みんながみんなこの本と同じということはないと思うけれど、「売れ」が来て生まれる摩擦は、作家ではなくても、結構似ているのではないかと予想します。

『急な「売れ」に備える作家のためのサバイバル読本』(朱野帰子さん・著)の感想/fjtn_cの日

本には書かなかったのですが、「売れ」がきている最中、「親戚からお褒めのお言葉をいただく」というイベントがしばしば発生するのも地味に大変でした。親戚だけでなく親戚の友人とか、どんどん範囲が広がっていくのもじわじわ大変。

相手は年長者だし、親の顔も立てないといけないしで、なぜか仕事よりも優先して対応してしなければならなかったりします。ペンネームで活動しているのに「身内が有名になった」という喜びから「私の身内です」とFacebookに書かれてしまったり、友達申請を送ってくる場合もあると思います。私の場合は、顔出ししているから仕方ないとは思いますが、顔出ししていない場合は「ビジネスとわりきってやっているのに身内にいいねされまくったら身バレしてしまうのではないか」と悩みますよね。家族関係が良くない作家さんの場合の精神的苦痛はさらに計り知れないと思います。

そういう問題の交通整理をしてくれる親族が一人いて、「今は忙しいみたいだから、私が代わりに伝えておくよ」を言ってくれたり、送られてきたお祝い品への返礼などをやってくれるとすごく助かるというのはあると思います。(昔なら作家の妻がその役を担っていたのでしょうけど)

友人からのお祝いメッセージは私は嬉しかったですが、自分のSNSで「友人の小説がドラマ化されることに!私まで嬉しい!」っていうふうに投稿してくれるのが一番助かるかもしれません。「いいね」を押すだけでありがとうを伝えられるし、余裕があるときにリプできるし。

あと個人的に思うことですが、「売れ」がおさまって、周りから人がザザーっと引いていくタイミングがいつもあるんですよ。心も体もボロボロで、「ああ消費されたんだな」と思ってるときに「本読みました」って熱い感想をくれた人のことは忘れられません。売れてるからではなく、その作家さんが好きだから一緒に仕事をしたい、と思っている編集者さんたちがいたらぜひそのタイミングを狙ってほしいです。

そして、作家にインタビューする側からのご意見もいただきました。タレントさんから作家まで幅広い職種の人たちにインタビューをされている小沢あやさんから。

作家にとってインタビューしてもらって記事になるということはとても嬉しいことです。そしてインタビューして記事にするのはとても大変な作業です。互いにいい記事を作っていきたいですよね。

重版だけ定期的にするのがいちばんいい

地方在住だともみくちゃにされにくいというご意見もいただきました。近藤史恵さんから。たしかに東京に住んでいるとアクセスしやすすぎるというのはあるかもしれません。私も子育てが忙しかったころは編集者さんと気軽に飲みに行くことすら不可能だったし、会う相手を選ばざるを得なかったのでいたのですよね。業界と適度な距離を保つことも大事ですね。

それが理想ですよね…。

急な「売れ」は出版社で働く人にもある

作家を支える側である出版社の人たちからも「編集者にも売れで疲弊することがあるんだよ」とご感想をいただきました。売れた作家のケアをし続けてダウンしてしまう編集者さんもいるわけです。支える側の苦労ももっとオープンになってほしいなと思います。

出版営業のお仕事について発信してくれているれなさんからこんなお話も。広告宣伝を仕掛けて重版を作ってくれる出版営業の人たちは毎日のように「売れ」のプレッシャーの中にいるわけで…。

同人誌を書いている人にも急な「売れ」はある

同人誌を書かれている作家さんたちからも「心当たりがある」というご感想もいただきました。出版社という守ってくれる存在がいない分、同人作家さんの方がセルフマネジメント能力を求められるかもしれません。

あと売れている同人作家さんに偉そうな態度を取る編集者がけっこういるという話もけっこう聞きました。「出版してやる」という態度で接し、出版に際しての条件を尋ねると激昂されることもあるとか。大手の看板が自分の実力と勘違いしている人はどの業界にもいるものですが、時代錯誤だからやめてほしい。

会社員でも同じことは起きる

個人的に意外で嬉しかったのはフリーランスではない、組織で働く人たちからのご感想でした。もともとは会社員の人たちが積み上げた労働のための知見に学んで書いた本なので、当然といえば当然なのですが。


業種を超えて健やかに働くための技術をシェアしていけるといいですよね。
そしてこんなご感想も。

そう、窓は大事ですよ(笑)

売れる前の作家のための技術がほしいという声も

これについてはすでに企画があるので(私が出すとは言ってない)お待ちいただければと思います。

この本を読んでもなお急に売れたい

わりと多かったご感想です(笑)
みんな売れてほしい。ただし健やかに。どっちも手に入れてウハウハになってほしいというのが私の願いです。

なんか文学的に終わった……!


「面白そうな本だな」と思われた方がいらっしゃったら、「技術書典」か「BOOTH」にてお買い求めください…!

本が売れて原資ができたら次の本も出せるかも。

個人的に存じ上げている方のプロフィール紹介しかできなかったのが申し訳ないですし、全てのご感想を紹介できなかったのが残念ですが、どの感想もありがたく拝読しております。エゴサの鬼なので……。

また、このnoteに掲載されたツイートの方で「掲載しないでほしい」という方がいらっしゃいましたらリンクを貼るのをやめますので、お手数ですがおっしゃっていただけましたら幸いです。

以上、いろんな方からの知見をお受け取りいただけましたら幸いです。