「何聴いてるの?」 - 2023年2月新譜新曲日記

先月の新譜新曲日記。レビューって難しいね、練習あるのみ。唸りながらじゃないと書けないのは早く辞めたい。3月内にギリギリ出せて良かったです。5つぐらいに絞ってます。決して10作品書くことから逃げたわけじゃありません。決して…。
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1. FULL OF LOVE / FULL OF LOVE (新譜)

「今、ラブラブラブ」…、そんな歌い出しだけで泣けてしまうから、やはり小山田壮平の声はずるい。FULL OF LOVEなんて照れ臭くなってしまうプロジェクト名も、彼が謳うのだから素直に受け入れられる。そんな小山田壮平を中心に始まったFULL OF LOVEがセルフタイトルを冠した1stEPをリリース。固定メンバーのいない流動的なプロジェクトということもあり、今作は彼が旅先で出会った面々と作り上げた作品。聴いているだけで行ったことのない場所を思い浮かべては、楽しくもどこか少し寂しくなる、まるで旅のようだ。

冒頭でもあげた「今、ラブラブラブ」はM4「FULL OF LOVE」の歌い出し。旅をするたびに「ここにはもう2度と来ることはないんだろうな」と感じたり、2度と会うことは出来ない人に出会ったりする。人生も同じか。もう自分の歩んでいる道に登場することはなくとも遠くから祈っているよ、と歌ってここまでスッと受け入れられるのは小山田壮平という人の魅力だなと思う。そしてそれぐらい優しくなれたらと思わせてくれる音楽。固固レビューはmusitにて書きました。ガイドラインとしてどうぞ。


2. 戦略的生存 / ポップしなないで (新譜)

「セカイ系おしゃべりJ-POP」ポップしなないで、待望のメジャー・デビュー作。自分が10代を過ごした10年代の時にサブカルと言われてたものは消えた。少なくとも下北沢はもう渋谷の延長線だし、マイノリティーのものだったサブカルは、マジョリティーのものに変わった。だけどポップしなないでの音楽は、あの頃の空気がそのまま真空パックになっているように感じる。

セカイ系の定義としてもある「きみ」と「ぼく」がメインの12曲。成功するはずだった打ち上げM2「衛星十七号」、きっともう会えなくなる人との別れM7「初夏それから」、聞こえてくるピアノで繋がる2人M9「不登校少年少女のエチュード」など、その曲中に展開される世界がどれもみずみずしくきらりと光る。インタビューにて「自分たちの言いたいことを伝えるために考えた結果ストーリーが生まれている」と話していた。しかしだからこそどの曲の世界も自分ごとのように感じられるのかもしれない。

それにしても、かめがいあやこ(Key / Vo)の声はうたのおねえさんのような安心感があるなと思っていたら「月の踊り子」がNHK「みんなのうた」に選ばれていた。なるほど。


3. 1096 / Cody・Lee(李) (新曲)

俺はCody・Lee(李)が嫌い。理由は羨ましいから。バンド名も、曲名も、メロディーも、歌詞も、聴くたびにケッと思う自分がいるが、気づけば何度も聴いている。昨年リリースしたメジャー・デビューアルバム『心拍数とラヴレター、それと優しさ』は悔しいけど、本当にいい作品だった。10年後も聴いているんだなと自然と思ってしまった。近くにあるものを丁寧に音楽に変えられることって本当に凄い技術だと思う。彼らの良さはその身近さ。

「1096」自体は高校時代に作られた曲らしい。引きちぎれるようなギターソロを聴いて、どうしても10代の頃のどうにもならなかった後悔を思い出してしまった。雪国出身ならではの、別れの季節になってもまだ春が遠い様子を描いた歌詞もとても素敵なものだった。今でこそ、写真や動画でその街の様子は簡単に分かるけども、温度を持ってその情景を描けるのはやはり歌だと実感した。行ったこともない岩手の街に想いを馳せる。やはり高橋響(Gt / Vo)は今一番、良い歌詞を書く人だと思う。10代の僕にとってフジファブリックの志村正彦がいたのなら、今の10代にはCody・Lee(李)の高橋響がいる。


4. 花降る空に不滅の歌を / a flood of circle (新譜)

あ〜、もう一生この感じでいて。佐々木亮介(Gt / Vo)のアカペラで始まるM1「月夜の道を俺が行く」からずっと泥臭い。何も変われないことの代名詞に自身の名前を入れ込むほどの歌詞に「俺が死んでも変わることのない世界 知ってるよ もう救いようがない」と吐き捨てる。これが12作目のアルバムとなり、もはやベテランの域に入りかけても奢りなく出来てしまうのが佐々木という男なのかもしれない。

M4「如何様氏のバラード」にはafocのメンバーがファンを公言しているお笑い芸人の金属バットも出演。昨年のM-1にてラストイヤーでの出場ながら惜しくも決勝進出の敵わなかった彼らの生き様とバンドをどこかで重ね合わせてしまった。華やかな運命に選ばれないからこそM5「本気で生きているのなら」のようなバラードが静かに響く。彼らの十八番、キメと裏打ちの応酬、M9「Party Monster Bop」から来る夏が恋しくなるM10「花火を見に行こう」でアルバムは大団円。最後の一音までひたすらに挑戦者だった。良い意味で何も変わらない安心感と、どこまでも泥水をすすりながらギラギラ睨みつけてくる彼らの姿勢に痺れる38分。


5. あのち / GEZAN With Million Wish Collective (新譜)

GEZANの新譜が出た。改めて「音楽を聴く」という行為がカロリーを消費する、血の通った行為なのだと実感させてくれる。正直、聴くことが辛い。消化に長い時間がかかるからだ。しかし音楽は本来そういうものだったはずだ。新譜は総勢15名のコーラス隊、Million Wish Collectiveとの共作。声の嵐のような作品。声は音楽の原始的体系、誰もが持っている音が洪水のように暴れ、言葉と音の輪郭を映し出していく。激しい怒りが多数の声によって描き出されるM2「誅犬」、M3「もう俺らは我慢できない」。様々な台詞の群像劇M6「TOKYO DUB STORY」から繋がれるM7「萃点」で音の洪水は、海に辿り着いたような広がりを見せる。怒りから祈りへ。いつか終わりが来る理想的な共同体の表したようなM13「リンダリリンダ」。その夜限りの祭りの空気感に包まれアルバムは終わる。また新しい日が始まる。

GEZANの音楽を聴くたび、未来に歯を食いしばるエネルギーが溢れ出るのはなぜなのか。彼らが常々歌う「壊れた未来」。絶望ではなく希望を見たくなってしまう、まさに生きるということを実感するための音楽がそこにある。

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2月に聴いた新譜・新曲リスト

2/1
リバーサイド / 美遊
十二次元 / 女王蜂
知りたい / 知らない / the quiet room
海になりたい part.3 / Base Ball Bear
パレードが続くなら / YUKI
あのち / GEZAN, Million Wish Corrective
あいについて / 帝国喫茶
FULL OF LOVE / FULL OF LOVE
1096 / Cody・Lee(李)

2/3
My 21st Century Blues / RAYE
Starting At The Sun / Not Scientist

2/10
ドレミ / ドレスコーズ
Raven / Kelela

2/14
Glue Song / beabadoobee
Desire, I Want To Turn Into You / Caroline Polachek

2/15
花降る空に不滅の歌を / a flood of circle
in the wall / lobby

2/17
Old Fashioned / 春ねむり
Cuts & Bruises / Inhaler
For You, Now / Winkler
Mourning Due / Nappy Nina

2/22
戦略的生存 / ポップしなないで
優游涵泳回遊録 / フレデリック

2/24
HUMAN / age
Food for Worms / shame

2/27
Pah! / Los Bitchos

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