ラジオドラマ脚本:運命のイタズラでも僕は生きる

登場人物
榊原 翔(さかきばら しょう) 男
主人公、21歳。事故に巻き込まれ、生と死の狭間の世界で天使と死神と出会う

審判を下す者
天使 女
人間に生の審判を下す者

死神 男
人間に死の審判を下す者。背の高い、黒い服と大鎌を携えている。

日向ルカ(ひゅうが るか) 女
翔の幼馴染。同じく事故に巻き込まれてしまう

高岡 俊樹(たかおか としき) 男
病院に勤める医師

名取 修也(なとり しゅうや) 男
病院で働く看護師

榊原 映二(さかきばら えいじ) 男
翔の父親

榊原 友美(さかきばら ともみ) 女
翔の母親

佐倉 荘史(さくら そうし) 男
翔とルカの友人

医者1 男

医者2 男

本編
医者1:なぁ、あの2人の患者、まだ意識回復しないのか?
医者2:あぁ・・・男のほうは頭部にかなり大きいダメージを受けてたからな。高岡さんが言うには、脳挫傷の一歩手前らしい。女性のほうは男性に比べたら、まだまだ軽いほうだが・・・
医者1:確か、2日前だったよな、この病院に担ぎ込まれたのは
医者2:せめてどちらかは、助かってほしいが・・・
医者1:これからが楽しい時だってのに、なんだか可哀想だな・・・

翔(M):・・・此処は何処だろう?とても、暗い。何も見えない。ふらふらとした感覚。自分が今どんな状態なのかさえ、分からない

死神:この若者の死期はもうすぐです。そういう事ですので、彼の魂は私が預かりましょう。その方が手っ取り早いですよ?
天使:何言ってるの!この人が死ぬにはまだ若いし、そもそも死ぬほどの生命力じゃないじゃない!

翔(M):・・・誰かが言い争っている。とりあえず、目を開けよう。いつまでも真っ暗なところにはいられない

天使:どうしてあなたはいつもいつもーーー
翔:あの・・・
死神:おや?やっと気がつきましたか。あなたが目覚めるのをずっと待っていたんですよ
天使:あぁ、良かった、起きてくれて。これで一安心だわ
翔:起きたというか・・・起こされたというか・・・・・・えっと、これは夢?
翔(M):女の人の背中に白い羽が生えてる・・・こっちの男の人には黒い服に大きな鎌・・・)
天使:どうしたの?あたしたちの顔に何かついてる?
翔:あ、あの・・・お2人ってもしかして
天使:もしかしなくても私は天使。んで、こっちが死神よ
翔:天使と死神・・・ってじゃあ僕死んだ!?
天使:大丈夫、まだ死んではいないわ、此処は生と死の狭間の世界よ。あなたの肉体はボロボロだけど・・・ちゃんと生きてるから、安心して
翔:そ、そうなんだ・・・
死神:まだ信じられないような顔をしてますね・・・まぁ、それも仕方のないことですが
天使:あんな事故に巻き込まれたんですもの・・・無理もないわ
死神:あなた、工事現場の鉄柱落下事故に巻き込まれて病院に担ぎ込まれたんですよ。一緒に居た女性も一緒に
翔:一緒に居た女性・・・そうだルカは!?彼女は無事なんですか!?
天使:落ち着いて!彼女は先に意識を取り戻したの。だから無事よ。ほら、そこに泉があるでしょ。見てみて
翔:・・・これは?
天使:私とこの人はこの泉を通じて、あなたたちが住む世界を見ることが出来るの。ルカさん・・・でいいのかしら。ほら、ちゃんと起きてるでしょ
翔:・・・本当だ、良かった・・・
死神:全く、こんな状況でも他人を思いやれるとは・・・人間もなかなか大したものですな
天使:だから言ったでしょ?死ぬにはまだ早いって
翔:ていうか、さっきから何なんです?僕が死ぬとか死なないとか。とにかく、ちゃんと生きてるのなら元の世界に返してください!
天使:・・・出来ることならそうしたいけど
死神:残念ながら、そういう訳にはいかないのです
翔:・・・何故?
天使:これはね・・・審判なのよ
死神:我々にとっても、あなたにとっても、ね

ルカ(M):私が目を覚ました時、最初に映った景色は白い天井だった。わずかにエタノール消毒液の匂いが鼻につく。腕には点滴が繋がれている。ぼんやりとする頭でいろいろ考えてみたけれど、私がどうして此処に居るのか分からなかった。

(SE:カートの動く音、だんだん近づいてくる)
名取:あ、日向さん、気がつかれたんですね。意識が回復してくれて良かった
ルカ:・・・あの・・・此処は・・・?
名取:此処は病院です。2日前に担ぎ込まれたんですよ。すぐに先生を呼んできますね
ルカ:・・・・・・・・・
(SE:足音、近づいてくる)
高岡:名取さん、意識が戻られたんですね。ご自身の名前、言えますか?
ルカ:日向、ルカです。あの、先生
高岡:なんだい?
ルカ:私、どうして病院に・・・?
高岡:事故だよ。君の頭部に少しダメージが残ってる。軽い記憶障害を引き起こしてるけど、焦ることはないもう少ししたらさっきの看護師が検温にくるから、安心してね
ルカ:・・・はい
高岡:では、一旦失礼するよ

ルカ(M):体が軋んで痛みが走った。そういえば、翔は何処にいるんだろう?

高岡(M):榊原翔・・・未だ意識回復の兆候は見られず、か・・・
映二:失礼します
高岡:初めまして、高岡です
友美:よろしくお願いします
映二:先生、翔は今、どんな状態なんですか?
高岡:・・・まだ、意識は回復しておりません。今のところ、状態は安定していますが、今はただ回復を待つしかありません
友美:そんな・・・
高岡:今なら息子さんにお会い出来ますよ。ICUへ案内しましょう
友美:は、はい・・・

(SE:高岡、榊原夫婦の足音、近づきつつ止まる)
高岡:こちらです。我々も全力を尽くしましたが・・・
友美:あぁ・・・(泣き出しそうな声で)
映二:先生、息子はまだ21なんです。どうか、息子のことをよろしくお願いいたします

翔(M):天使から教わった泉から病院の中を見ていた。どうやら現実の僕は文字通り、生死の境を彷徨っているらしい
翔:審判って何の?僕が此処で死ぬってこと?
死神:まだ決まったわけではありません。そのことを、これから我々が決めるんです
翔:冗談じゃない、僕はまだ21だ、これからって時に死なれたら困る!
天使:・・・例え、貴方の体に障害が残ったとしても?
翔:・・・え?
死神:あなたの体は特に脳にダメージを一番強く受けています。あの医者が言うにはあなたは脳挫傷らしいじゃないですか
天使:ちょっと、言いすぎ!
翔:僕が・・・脳挫傷・・・?
死神:病名くらい聞いたことがあるでしょう?
翔:ま、まぁ・・・
天使:私たちはあなた・・・えっと名前は?
翔:榊原、翔
天使:翔の生死を決めるだけ。ただ、翔のその後の人生は私たちにもわからない。生死の審判を下すのが私たちの仕事だから
翔:そ、そうなんだ・・・
翔:1つ、聞いてもいいかな?
天使:何?
翔:やっぱり、その審判で死んだ人は居るのか?
死神:もちろん、居ますよ
翔:・・・・・・・・・
翔(M):僕はもう1度泉を覗き見た。

(SE:ドアが開く音)
荘史:よ、ルカ。怪我のほうは大丈夫か?
ルカ:荘史くん・・・まだあちこち痛むけど、なんとか。そういえば、翔は?
荘史:さっき見てきたけど、まだ目を覚ましてはいなかったよ。
ルカ:そう・・・
荘史:ルカが責任を感じることじゃないさ。今は絶対安静。とにかく休め。それからまた翔のとこに会いに往こう
ルカ:・・・うん
荘史:それじゃ、何か欲しいのがあったら連絡して
(SE:遠ざかる足音)
ルカ:翔・・・ごめんね、私のせいで・・・

翔(M):一方、僕たちは・・・
天使:あの子、ずっと泉を見てるわね
死神:どうするんです?このままあの子を現実世界へと返しますか?
天使:それは・・・
死神:このままではあの方の体にも負担は増える一方。仮に戻ったとしても、動けなくなる可能性もなきにしもあらず、ですよ
天使:・・・・・・
天使:とにかく、あの子に話さないと
死神:仕方ありありませんね。・・・では、私は退きましょう
天使:・・・借りは必ず返すわ

翔(M):泉の映像は切れることなく続いている。そこには僕の両親と医者が話をしていた

友美:あの子に・・・障害?
高岡:翔さんには脳挫傷の疑いがあります。仮に意識が回復したとしても、身体に何らかの障害が残る可能性があります。・・・それだけは覚悟していてください
映二:なんということだ・・・
友美:今は祈りましょう。あの子が一日でも早く目覚めるように
映二:・・・あぁ、それが翔のためにあるのなら
映二:翔・・・お前はこんなことで諦めるような子ではないはずだ・・・俺と母さんは待っているぞ・・・
友美:翔も翔で戦っているのよね・・・今はあなたの回復を待つことしか出来ないけれど

天使:ねぇ翔、ちょっといいかしら
翔:ん?
天使:私は翔を生かしたいと思ってる。もちろん、翔も生きたいと思っているのよね?
翔:当たり前さ。俺は早く両親やルカの元へ帰りたい
天使:もう1度言うけど、私は翔を生かすと審判を下すことしか出来ないの。現実世界の翔の体を以前の状態に戻すことや怪我を完全に治すことは出来ない、そこは分かってほしい
翔:あぁ
天使:だから翔が現実世界に戻った時、翔の体がどんなことになっているのかは私たちには分からない・・・だからそこは覚悟して
翔:・・・分かった。神のみぞ知るってやつだろ?
天使:えぇ、そうね
翔:此処に来た時から、実はもう死ぬのかなって思っていたけど、違ったな。お2人に会えてよかったよ。それに、決心もついた
天使:決心?
翔:例え運命のイタズラだとしても、絶対生きてみせるってね
天使:・・・分かったわ
天使:榊原翔、あなたに審判を下す。現実世界に戻り、もう一度生きなさい!
翔:・・・はい!

翔:・・・・・・うぅ
名取:榊原さん?意識が戻った・・・!高岡先生!(呼ぶように)
(SE:駆け出す足音)

高岡:榊原さん、息子さんの意識が戻られました!
映二:本当ですか!良かった・・・
友美:翔・・・よく頑張ったわね・・・
翔:・・・父さん・・・母さん・・・
友美:先生、ありがとうございました!
映二:ありがとう、ございます・・・!

荘史:ルカ、翔の意識が戻ったぞ!
ルカ:そう、良かった!
荘史:車椅子に乗れるか?あいつに会いに行こうぜ
ルカ:うん!

荘史:翔・・・俺だ、荘史だ。分かるか?
翔:あぁ・・・ちゃんと覚えてるよ。荘史。ルカも一緒か・・・
ルカ:翔・・・良かった、意識が戻ってくれて・・・!
荘史:ルカ、ずっと心配してたんたぞ。お前の目が覚めないってさ
翔:そうか・・・心配かけて・・・ごめんな・・・
ルカ:翔が無事なら、それでいい!

天使:・・・これで良かったのよね
死神:こちらは散々でしたよ?・・・もう1度あの青年に会うことがあるとすれば、本来の寿命が尽きた時かも知れませんが
天使:神のみぞ知る・・・って翔は言ってたわね。私は天使だから分からないけど、やっぱりあんたにはそういうの分かるの?
死神:私は死神です。私の仕事は人間の命を冥府へ運ぶだけ・・・少なくとも人間の運命を知っているのはモイラくらいでしょう
天使:モイラ・・・運命を司る女神様ね
死神:では、戻りましょう。またあそこに来る人間たちの審判を下さねばなりませんから
天使:そうね。あ、ちょっと待ってよ!









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