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参議院選挙2022に寄せて

はじめに

 参議院選挙の終盤となりました。今回は多数の国政政党・政治団体が各地で候補者を擁立しています。久々の投稿となる今回は、投票するしないに関係なく、これだけは留意してほしいことを書きたいと思います。

これだけは留意してほしいこと

憲法改正

 選挙戦終盤となり、メディアでは改憲勢力が優勢という報道が出てきました。法律の上にある憲法を変える流れがあるわけですが、ここでは、以下のサイトを参照しながら、具体的にどの部分を変えようとしているのか、私たちの生活への影響について、触れてみたいと思います。国政政党ではない政治団体については、各団体の公式サイトを参照しています。

 記事を進める前に、自身の考えを明示しておきたいと思います。現行憲法には、時代に合わない点や問題点もあるということは承知しております。国民の生活がより良いものになるのであれば、憲法改正自主憲法制定帝国憲法復活、護憲など全て含めて国民の中で議論が必要だと思います。

 しかし、問題は中身です。生活に悪影響を及ぼすものであれば、反対の声を大きく広げていかないといけなくなります。何が具体的に変わり、私たちの生活はどのように変わるのかを知る必要があります。改憲に前のめりになりつつある今、情報を頭に入れた上で、「改正したほうが良い」、「改正はやめたほうが良い」を判断していただきたいです。

※憲法の各論・立場に関しては、詳しい方がいますので、譲ります。各論を
知りたい方は、ご自身で調べるなり、問い合わせをしてみるのも良いかと思います。この記事では各論や価値観には触れません。

参考:NHK みんなとわたしの憲法

参考:自民党「改憲4項目」とはそもそも何か。

各政党・政治団体が提示している改正要件

自由民主党(改憲)
・自衛隊の明記
・緊急事態条項の創設
・合区の解消(参議院)
・教育無償化の明記

公明党(加憲)
・憲法施行時には無かった新しい理念や課題があれば、追加を検討(加憲)
・憲法9条の維持。自衛隊の明記は引き続き検討
・緊急事態の国会維持のため、議員任期の延長は引き続き議論すべき

立憲民主党(論憲)
・現行憲法の理念と立憲主義に基づく論憲を進める
・自民案の9条に自衛隊明記は、9条2項の法的拘束力が失われるため反対
・衆議院解散の制約、政府の情報公開義務などの議論を進める

日本維新の会(改憲)
・教育無償化(幼児教育から大学院まで)
・統治機構改革(都構想・道州制を含む)
・憲法裁判所の設置(法令などが憲法に適合しているかを審査)
・緊急事態条項の創設

国民民主党(改憲)
・憲法9条の改正(9条2項との関係を中心に改正)
・緊急事態条項の創設(議員任期特例延長を設置)
・人権保障(データ基本権・同性婚を含む新しい人権保障)

日本共産党(護憲)
・日本国憲法の全条項を守る
・憲法9条改正反対
・緊急事態条項の創設反対

れいわ新選組(護憲)
・自民党の改正4要件は、憲法改正の必要性が無い(法律で対応可能)
・現行憲法25条の生存権の実現
・緊急事態条項の創設反対

社会民主党(護憲)
・護憲平和。改憲阻止
・現行憲法25条の生存権が守られていない。変えるべきはこの現状

NHK党(改正議論の催促・改憲)
・憲法改正の発議は、国民にとって貴重な政治参加の機会
・現行憲法53条の臨時国会召集の規定を改正
・緊急事態条項の創設を検討すべき

参政党(自主憲法制定)
・自民党改憲案に反対(97条削除・緊急事態条項の創設反対)
・自主憲法の制定

日本第一党(自主憲法制定)
・自主憲法制定
・国軍保持、国防の義務化の明記

新党くにもり(自主憲法制定)
・日本国憲法の破棄と自主憲法制定
・国防軍創設、国防予算倍増、核武装

幸福実現党(自主憲法制定)
・憲法9条の抜本的改正と国防軍創設
・防衛面における米国との作戦一体化
・非核三原則撤廃、米国による核の持ち込み容認、自前の核装備の検討

 以上13党・政治団体の憲法改正に関わる要件を羅列してみました。ここでよく見て欲しい部分は、立憲民主党と公明党です。
 立憲民主党は論憲公明党は加憲となっています。公明党は、平和の党を看板としています。様々ある安全保障の中でも、軍事に関する部分は自民党と距離があります。立憲民主党は、党の歴史を振り返ってみると、元々護憲派が力を持っていたように思います。いつの間にか論憲という立場に変わり、議論を進める方向になりました。旧社会党系派閥の力は弱くなったのでしょうか?野党は反対ばかりと言われるのが辛くなったのでしょうか?かつてのように党内でドンパチやる姿を最近見ません。立憲民主党と公明党は、日本国憲法を変えますよという意思表示をしているといえます。論憲は議論を進める意思表示加憲は付け加えるという意思表示です。
 維新の会と国民民主党は与党よりも踏み込んだ主張、共産党・れいわ新選組・社民党は護憲、新興勢力の政治団体は、改正ではなく自主憲法制定です。どのような内容を盛り込んだ自主憲法草案を作ろうとしているのか、党内でどのような過程を経て作るのかは、わかりません。

 選挙情勢や組織票の強さを見る限り、自民党は巨大与党を維持すると思います。そうなると、議会制民主主義ですから、改憲発議の際に自民党の力が強く出てきます。自民党は憲法改正について、上記4要件を「優先的な改憲項目」と位置付けて、叩き台として他党と議論を進めるようですが、自民党憲法改正実現本部のサイトにある、改正草案はご覧になったことはありますか?草案だけ見ると文字が細かいため、Q&Aもご覧ください。PDFになっています。

 改正草案とQ&AのPDFをご覧いただくとわかると思いますが、4要件以外にもたくさんの改正項目があります。4要件を叩き台にしますと言いながらも、ホームページに改正草案を残しているわけです。この改正草案が今後隠し玉として出てくる可能性もあると思います。議論するのは4要件だけという絶対は無いと思って用心をした方が良いです。自民党改憲案が嫌だから他の改憲政党に投票したとしても、自民党が巨大与党を維持する以上、改憲発議が出来るのは自民党です。他党に入れても、自民党主導で進みます。以下のサイトに、自民党の改憲草案によって憲法はどのように変わるのか解説がまとめられています。

 非常に多くの項目で問題点が指摘されています。97条に定められている基本的人権の全文削除はもちろん大問題ですが、今回の記事では、このうち、特に危険性の高い財政健全化の義務化と緊急事態条項の創設についてまとめます。この2つは97条と並んで、現代社会において、生まれてから亡くなるまで、国内であれば場所を問わず毎日の生活に関わる問題だからです。生きるという行為自体に関わります。

【83条の2(新設)】財政健全化の義務化

(財政の基本原則)
第八十三条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて行使しな
 ければならない。
  財政の健全性は、法律の定めるところにより、確保されなければなら
   ない。

自由民主党憲法改正実現本部:日本国憲法改正草案原文
https://constitution.jimin.jp/document/draft/

Q:財政に対して、どのような規定を置いたのですか?

A:83条に新しく2項を加えて、「財政の健全性は、法律の定めるところにより、確保されなければならない」とし、財政の健全性を初めて憲法上の価値として規定しました。具体的な健全性の基準は、わが党がかつて提出した「財政健全化責任法案」のような法律で規定することになります。

自由民主党憲法改正実現本部:日本国憲法改正草案Q&A(P.27)
https://constitution.jimin.jp/document/faq/

 平成の長期デフレによる失われた30年に続き、新型コロナウイルスの流行、ロシアのウクライナ侵攻が加わり、国民の生活は物価上昇に苦しめられています。各企業の努力で何とか踏ん張っている面もあるかと思いますが、企業側も消費者側もキツいと思います。日本の労働者は、給与が上がらず、保険料・年金・税金をゴッソリ天引きされ、消費税の2回増税も加わり、貧困化が加速。今、日本経済はスタグフレーションの状態になっています。社会の総貧困化が進んだ結果、一部の高所得者層とその他の層への2極化が進みました。この状況にもかかわらず、日本の政治家は、コロナ禍で諸外国が相次いで実施した減税をしていません。与党は消費税減税はしないと明言し、消費税増税には含みを持たせています。
 
 この状態を日本の政治家が続けるのは、財政健全化目標(プライマリーバランス黒字化目標)を掲げているからです。そして、この財政健全化を自民党は、憲法で義務付けようとしています。

 ここで財政健全化が義務化されると、財政が健全になっていなければ憲法違反になります。常にプライマリーバランスは黒字でなければならないということです。PB黒字化を維持するために、今まで日本の政治家は何をしてきたでしょうか?緊縮財政を進めてきました。緊縮財政による間違った経済政策を続けてきた結果が今の日本の姿です。憲法で義務化されると緊縮財政が恒久的なものになります。国民に対して財政支出を抑える、財政支出をしない、過剰な自助努力を強いるようになると考えられます。

 仮に大地震などの自然災害で財政出動が必要になったとします。憲法にはPB黒字化が存在するため、財政出動に制限がかかります。そうなった場合、財源として政治家は増税を突き付けてくるでしょう。消費税は確実に増税されると思います。社会保障は減らされる可能性があります。

 PB黒字化の義務化は、財政健全化の義務が盛り込まれた憲法案で改正された瞬間に、即時施行になります。法律と異なり、元に戻すハードルはとてつもなく高いものになります。何年かかるかわかりません。いや、元に戻せないかもしれません。

【98条、99条(新設)】緊急事態条項

第九十八条(緊急事態の宣言)
 1 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
 2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
 3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
 4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。

第九十九条(緊急事態の宣言の効果)
 1 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
 2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
 3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
 4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。

自由民主党憲法改正実現本部:日本国憲法改正草案原文https://constitution.jimin.jp/document/draft/

 新型コロナウイルスのパンデミックが発生した当時、政府は緊急事態宣言を発令しました。全国の学校は一斉休校となり、エッセンシャルワーカーや職務上外出が必要な方々を除いて、多くの国民が外出を控えることとなりました。当時の緊急事態宣言と、憲法で定めようとしている緊急事態条項が同じようなものだと思われている方がいます。全く違います。緊急事態条項を盛り込むべきと積極的に主張している政党は、自民党・維新の会・国民民主党です。具体的な中身を出しているのは自民党のみなので、自民党の案を見ていきます。

 緊急事態条項は、第98条と99条に新たに盛り込まれます。第98条は、宣言の要件と手続きについて定めています。「法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる」、「事前又は事後に国会の承認を得なければならない」となっています。これは、緊急事態条項を発動するに至る事象を、法律で決めるという曖昧なものになっており、恣意的に濫用される危険性があります。何を以て緊急事態条項を発動するのか定めがないからです。

 また、閣議で決定し、国会の承認は事後でも構わないとなっています。中学校社会科と高等学校公民の授業で三権分立を学ばれたかと思います。国会・内閣・裁判所がバランスを維持して、権力の濫用を防ぎ、国民の権利と自由を保障するのが三権分立です。この三権分立が壊れます。理由は、内閣が国会と裁判所よりも、強い権限を持つようになるからです。自民党はQ&AのP.33で、有事の際は、国会承認は事後になることもあり得るからこれで良いと書いていますが、このままでは内閣の思うがままにできてしまいます。内閣にいる政治家も人間です。自分たちを守るために何をするかわかりません。

 第99条は、緊急事態宣言の効果についてです。「内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」、「内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行う」、「地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる」とあります。これは、国会の十分な議論を経ずに、内閣が勝手に国民の権利を制限したり、法律を自在に変えることができてしまうことになります。また、内閣総理大臣は、予算の審議無しに、財政を自由自在に制御できてしまいます。さらに、地方自治体の長に対してどんな指示を出すことも可能に。気に入らない発言をした首長がいたら、内閣が勝手に辞職させることもできてしまいます。

 緊急事態条項の発動中は、基本的人権に関する規定は「保障」ではなく、「尊重」になっています。国は基本的人権を保障しませんということです。人権侵害に該当することであっても、解釈を加えてしまえば人権侵害を行使できるということです。自民改憲案では、97条の基本的人権が完全削除され、公益及び公の秩序が優先されます。人権侵害に該当することであっても、公益になるのであれば、実行しても良いとなります。北朝鮮のような独裁国家、ナチスドイツのホロコースト、カンボジアのクメールルージュをイメージしてみてください。

 コロナ禍の緊急事態宣言と違うところは、国民の生活が内閣の制御下に置かれるということです。ガッツリと内閣に手足を握られます。司法や国会が憲法違反だと主張したくても、内閣が閣議で決定するため、介入できません。国民には罰則規定付きの服従義務が付きます。決して緩いものではありません。大体、草案やQ&Aで緊急事態条項ではなく、緊急事態宣言と書いて放置しているところが、国民を欺いています。

 Wikipediaの国家緊急権のページには、世界各国の国家緊急権の定めについてまとめられています。東京大学社会科学研究所のケネス・盛・マッケルウェイン教授の研究によれば、緊急事態条項は、1789年から2013年までに世界で制定された約900の憲法のうち、93.2%の憲法に存在するそうです。このうち、自民党改憲案のように、緊急事態条項を発動できる状況を法律で定めるとしている憲法は10%未満。緊急事態条項を憲法で定めている殆どの国では、発動条件を明確に限定しています。発動条件の厳格化は国際標準というわけです。

 具体例を挙げると、ドイツ連邦共和国憲法では、連邦政府に緊急命令権限を与えず、連邦政府の措置をできる限り議会及び連邦憲法裁判所の統制の下に置くとしています。さらに、緊急事態の程度と性格に応じて区分を設け、段階的な対応をとることが、予め憲法に明記されています。また、ドイツは、基本法20条4項に、政府が憲法と国民に背いて、暴走して歯止めが効かなくなった場合、国民は抵抗権を発動できると定められています。これを戦う民主主義と言います。

 日本では、大規模災害時には、災害対策基本法や国民生活安定措置法などの多くの法律を組み合わせることで対応できるようになっています。感染症についても感染症法によって疾病の重篤性に応じた区分がなされています。各法律を上手く運用できているかについての善し悪しは、様々な意見があることは承知していますが、平時から備えとしての法律は既に存在するわけです。柔軟に組み合わせて対応する方が、憲法で定めるよりも効果的に運用できるのではないでしょうか?もちろん誰が運用するのかによると思いますが。緊急事態条項を入れるというのであれば、ドイツのように厳格なものにするのが当たり前で、自民党改憲案では、権力を縛る憲法が国民を縛る憲法に化けてしまいます。
 
 以上、財政健全化の義務化と緊急事態条項の創設についてまとめました。この2つだけを見ても、自民党の改憲案は憲法と呼べるものではなく、現行憲法と比較して劣化したものだといえます。憲法改正と聞くと、9条の改正に目が行きがちになり、他の改正項目を見落としがちです。憲法に明記せずとも、既存の法律でカバーできるものは多々あります。肝心の中身が国民に伝わらないまま改正へ持っていくのはとても危険だと思います。例えば、「憲法ってどういうものなの?」、「日本国憲法ってどうやって成立したの?」、「大日本帝国憲法との違いは?」、「憲法が無かった時代はどうしてたの?」、「そもそも日本には西洋型の政治システムって合うの?」、「海外と比較してみて日本に相応しい憲法って何?」など、根本的なところから話し合う必要があると思います。喧嘩ではなく話し合いです。

 今回は憲法改正の話に加えて、自由貿易協定の話を書く予定でいましたが、憲法の話だけでお腹いっぱいになりました。今回の選挙は改憲が大きな話題となっていますので、この機会に自民改憲案の話が広まってほしいと思い、書きました。

 自由貿易協定の脱退については、どこの政党・政治団体も具体的にはっきりとした言及をしていません。自由貿易協定の存在を知らないのか、わかっていてあえて触れないのか、金儲けして自分たちの権力を維持したいのか。一通り見た感じでは、れいわ新選組が食料安全保障の部分で、行き過ぎた自由貿易協定の見直しを書いていることは見つけました。他党で言及しているという情報があれば教えていただきたいと思います。はっきりと脱退を公約に掲げているところはあるでしょうか?日本は入り過ぎなんです。

 選挙ギリギリのタイミングですが、自民党改憲案について知った上で、投票を決めてほしいと思います。読んだ上でどのような判断をするかは、皆さん次第です。長くなりましたが、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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